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2019年04月09日

ひらめきの天才の脳A

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ひらめき力

ひらめきの天才の脳A

アインシュタインの天才的な思考を脳の構造から探るー脳梁が厚い
脳梁脳の断面.jpg

脳の表面だけではなく、脳内を撮影した写真からも際立った特徴が発見された。
私たちの大脳は、左半球(左脳)と右半球(右脳)にわかれており、
左半球と右半球では得意とする機能が異なる(4/12紹介予定)。
これら左右の半球は2億以上もの神経細胞から出ている線維(軸索)の束『脳梁』でつながっており、
情報のやり取りが行われている。
脳梁冠状断面.jpg
脳梁の部位と厚さアインシュタイン.jpg

アインシュタインの脳梁と、彼が亡くなった年齢と同世代の健康な男性15人、若い世代の健康な男性52人の脳梁を比べてみた結果、どちらの世代の平均的な厚さと比べてみても、アインシュタインの脳梁はほとんどの部位で厚いことが判明した。
脳梁が厚いということは脳梁を通る神経線維の数が多く、両半球のつながりも強いことを示している。
脳梁は、思考や意思決定に関わる両半球の前頭前野もつなげている。

昨日から紹介してきた、これらの結果から、アインシュタインの天才的なひらめきには、彼の大きな前頭前野や厚い脳梁が関わっていたのかもしれないと考えられている。
ただし、この脳の構造が生まれつきのものか後天的なものかはわからない。
また、この脳の特徴が全ての天才に当てはまるとは言えないだろう。

76歳のアインシュタインの脳梁は若者の脳梁より厚かった

左右の大脳半球をつなぐ神経線維の束が『脳梁』である。
脳梁は、左右の半球間での情報のあり取りに関わっている。
アインシュタインの脳梁の断面の写真から、その厚さが計られた。
さらに厚さは同世代(70〜80歳)の15人の男性、および若い世代(24〜30歳)の52人の男性の脳梁の厚さと比べられた。
その結果、アインシュタインの脳梁のほとんどの領域が、同世代の平均のみならず若い世代の平均の脳梁よりも厚かった。

発展コラム

解剖された、その他の天才の脳
天才の脳といえば、ドイツの数学者カール・ガウス(1777〜1855)、日本の作家、夏目漱石(1867〜1916)、日本の植物学者、民俗学者の南方熊楠(みなかた くまぐす)など、何人かの脳が調べられている。
重さが調べられている脳もあるが、測定方法の信頼性の高さや、死亡時の健康状態などの問題があり、脳の重さと能力との関連についてはっきり言えることはないという。
玉川大学脳科学研究所の坂井克之博士は「脳の重さや体積よりも、情報を統合し、処理し、伝達する神経回路の仕組みの方が、能力の差を語るうえで重要な意味を持ってくるのではないでしょうか。
ただし、どのような神経回路の構成が高い能力と関係しているのかはわかっていません」と語る。

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行

2019年04月08日

ひらめきの天才の脳@

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ひらめき力

ひらめきの天才の脳@

アインシュタインの天才的な思考を脳の構造から探るー大脳皮質はシワが多い

天才の“頭の中”は、私たち凡人とは異なっているのだろうか?

実は、歴代最高峰の天才物理学者と言われるアルバート・アインシュタイン(1879〜1955)の脳が、
彼の死後取り出されていた。

脳は様々な角度から写真を撮られ、その後細かく切り分けられて、数百もの標本が作られた。
これまでに、これらの標本を組織学的に分析した論文などが数回、発表されてきた。
そして2013年には、脳の写真から、彼の脳の構造を詳しく調べた研究結果が、イギリスの神経科学雑誌『Brain』に報告された。
ここからは、その成果を紹介していこう。

アインシュタインを解剖した時の記録によると、取り出された脳の重さは、同じ年齢の男性と同程度であった。
アインシュタインの脳4つの脳回.jpg
しかし、構造には幾つかの大きな特徴が見られた。

人の脳の表面(大脳皮質)を見てみると、いくつもの“シワ”が刻まれているのがわかる。
シワの多い領域は、その分、表面積が大きいと考えられている。

脳の表面で、前方に位置する領域は「前頭葉」と呼ばれる。
そして、この前頭葉の中の全部に位置する「前頭前野」という領域は、何かを計画したり、推理したりといった思考に関わる領域である。

アインシュタインの脳では、この前頭前野にシワが多く、通常の人よりも表面積が大きいと考えられた。
シワによって大きくなった全頭前野は、彼の天才的なひらめきに貢献していたのではないか、
と考えられている。

アインシュタインの脳の写真から、彼の脳の構造を探る試みがなされた
アインシュタインの死後、彼の脳は取り出され、様々な角度から写真が撮られていたが、
最近、彼の脳の写真14枚が新たに見つかった。

アインシュタインの脳の写真や、脳のスライドの多くは、アインシュタインの脳を取り出した
トーマス・ハーベイ氏の資産として、2010年に健康・医学国立博物館に寄付され、管理がなされている。

アインシュタインの全頭前野はシワが多い
アインシュタインの大脳皮質の写真を調べた結果、左右の半球とも、前部に位置する「前頭前野」では、通常の人よりもシワが多かったり、シワが長かったりして入り組んでいることが明らかになった。

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行

2019年04月07日

画像を脳から取り出す技術

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ひらめき力

画像を脳から取り出す技術

脳内の暗号を解読できれば夢さえ読めるはず

今、目の前にあるリンゴを射ている人の脳を分解して、隅々まで調べることができたとしても脳の中に
「リンゴの画像」を見つけることはできない。

目で見たリンゴの情報は電気信号へと変換され、脳へと送られる。

「リンゴの画像」は、脳の中では「特定の神経細胞のネットワーク(神経回路)の活動」として
表現されるのである。

この神経回路の活動を私たちが観測しても、それがリンゴを表すものだとはまずわからないという。

しかし、この「暗号」のような神経細胞の活動が意味するところを「解読」できれば、元のリンゴの画像を取り出せるはずである。

この発想を現実のものとしたのが、ATR脳情報研究所神経情報学研究室神谷之康(かみたに やすゆき)室長だ。

神谷室長は、人がある画像を見ている時の「視覚野」の活動をfMRIを使って計測した。

視覚野とは、後頭部にある、視覚情報が処理される脳の部位である。
fMRIの画像から意味のある情報を取り出せるとは誰も思っていなかった。
神谷室長らは、実験協力者にランダムなドットでできた絵を何枚も見てもらった。
そして、視覚野の領域をいくつかに区切って、脳の活動を「パターン認識アルゴリズム」という手法を用いて分析した。

その結果、見ている画像と脳活動の間に法則性を見出すことに成功した。

そして、その法則性を利用して、ついに今どんな画像を見ているかを、脳から直接“取り出す”ことが
できたのである。

実験では、MRI装置の中で実験協力者が見ている画像が、脳活動の情報から、次々とモニター上に再現された。

神谷室長は2013年には、眠っている間の「夢」の内容を脳から取り出すことに成功している

「将来的には、心や意識、そしてひらめきが生まれる仕組みを理解することにも繋がっていけば良いと思っています」(神谷室長)。

脳から画像を“取り出す”方法

1)脳の活動パターンを予習

脳の活動から見ている画像を取り出すためには、まず“予習”が必要だ。
実験協力者に見てもらうのは、10×10マスの「コントラストパターン」である。
細かいチェックが描かれたマスは、白黒が反転しながら、点滅する。
この方が、単純な白黒画像が反転しながら、点滅する。
この方が、単純な白黒画像よりも脳活動の差を検出しやすいのだという。
点滅するマスがランダムに配置された絵を、実験協力者に次々と見てもらい、その時の「視覚野」の活動パターンをfMRIで計測する。
400枚ほど見てもらうと、点滅するマス目と、視覚野の活動パターンの間に法則性を見出すことができるようになった。

2)視覚野の活動をスキャン
脳画像から視覚像を再構成.jpg

実験協力者に10×10マスの画面に描かれた絵(コントラストパターン)を見てもらい、
視覚野の活動パターンを計測する。
この時見てもらう絵は、予習で使った絵とは異なる。
全く新しい絵だ。

3)見ている絵を再構成

予習で見出した法則性を使い、実験協力者が見ている絵を、視覚野の活動パターンから再構成する。
ちなみに、実験協力者が見ている絵と同じ画像が再構成されるまでに、少なくとも4秒以上の遅れが生じる。
それは脳活動の計測に、脳の血流喧嘩を捉えるfMRIを使っているためだ。
絵を見てから、対応した血流の変化(神経細胞への血液の補給)が現れるまで、4秒ほどかかるのである。

発展コラム

念じて動かす「BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)」
筋肉の動きや言葉を介さずに、脳を通して直接、機械や装置を動かす技術がすでに実現している。
この技術は『BMI』と呼ばれている。
例えば、脳で考えるだけで、車椅子や義手、コンピューター画面上のカーソルやキャラクターなどを動かすことができる。
アメリカでは、脳に電極を刺して脳活動を直接的に読み取る方式(侵襲型)の研究が進んでいる。
一方、日本では、fMRIなど外部からその活動を読み取る方式(非侵襲型)が進んでいる。

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行

2019年04月06日

ひらめき力の実験

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ひらめき力

ひらめき力の実験

睡眠がひらめき力を上げることを示す実験

本当に睡眠をとることで、ひらめき力は上がるのだろうか?

実は、睡眠がひらめき力を上げることを示す研究成果が報告されている。
ドイツ、リューベック大学のウルリッヒ・ワーグナー博士らは、数列を作る問題を使ってこの実験を行った。
実は出題されている数列はどれも、数字の並び方にある共通の法則が隠されており、
この法則に気づいた人は問題を早く解くことができる。

では、睡眠をとった場合ととらなかった場合では、この法則を発見できる確率が変わってくるのだろうか。
ワーグナー博士らはこれを調べるため、被験者たちに数列の練習問題をこなしてもらい、
そのあとで睡眠をとってもらうグループと、起きていてもらうグループに分けた。
その後、彼らに再び数列の問題を複数解いてもらい、法則を発見する割合を比べてみた。

すると、睡眠をとったグループでは、起きていたグループよりも2倍以上高い割合で法則を見つける
ことができた。

そして、睡眠をとる前に練習問題をこなさなかった場合は、
たとえ本番前に睡眠をとっていても、
法則を見つけられる割合が、睡眠をとらなかったグループと変わらなかったのである。

これらの結果からワーグナー博士は、練習問題についての記憶の神経回路が睡眠中に何らかの変化を起こし、

問題の背後にある法則を見つけることができたのではないかと考えている。

レム睡眠がひらめきに影響を与えている?

さらに、睡眠でも特にレム睡眠がひらめきに関係していることを示す実験も行われている。
アメリカ、カリフォルニア大学サンディエゴ校のデニス・カイ博士らは、言葉の問題を使って、これを示した。

カイ博士らは日賢者たちに言葉問題(前半)を解かせた後、後半に出題される予定の問題の答え(単語)を、
下記に示す方法で被験者たちに無意識のうちに記憶させた。
その後、被験者たちの何人かは起きたままで、何人かはレム睡眠を取り、何人かはノンレム睡眠をとって
過ごし、後半の言葉の問題を解いた。

すると、起きていたグループとノンレム睡眠をとっていたグループは前半と変わらない正答率だったが、
レム睡眠をとったグループでは正答率が40%も上がった。
この結果からカイ博士は、睡眠直前に記憶した答えの単語の神経回路が、レム睡眠中に何らかの変化を起こし、他の様々な記憶(知識など)と結びつきやすくなっていたのではないか、と考えている。

レム睡眠がひらめき度を上げることを示す実験

2009年、アメリカ、カリフォルニア大学サンディエゴ校のデニス・カイ博士らは、被験者77人
(18〜35歳)に、出題される三つの単語に共通の関連単語を答える問題(前半)を解いてもらった。
その後、別のタイプの言葉問題を複数とかせ、
被験者を
(1)おきたままくつろぐ、
(2)レム睡眠をとる、
(3)ノンレム睡眠をとる、
と言った三つのグループに分けた。

(2)と(3)は、眠りについた被験者の脳波から見分けられる。
その後再び、三つの単語に共通の関連単語を答える問題(後半)を解いてもらった。
実は、この後半の問題の答えとなる単語の半分は、その前に解いた、別のタイプの言葉問題で
答えさせられていた答えと同じ単語になるように設定されている。
この別のタイプの言葉問題とは、被賢者に、後半の問題の答えとなる単語をそれと知らせず
なんとなく記憶させる(プライミング記憶)ための問題(プライミング問題)であった。
プライミング記憶とは、あらかじめ見聞きさせ、その事柄に関連することを思い浮かべやすく
させるような記憶だ。

実験の結果、(1)起きていたグループ、(3)ノンレム睡眠をとったグループの正答率は、前半の試験時と
変わらなかったが、(2)レム睡眠をとったグループでは、前半の試験から約40%も正答率が上がった。
ちなみに、プライミング問題が行われなかった場合、(2)のグループの正答率は、(1)(3)のグループの正答率とほとんど変わらなかった。
これらの結果から、睡眠直前になんとなく記憶したプライミング記憶(後半の問題の答えとなる単語)の
神経回路が、レム睡眠中に変化をして、その単語と他の言葉との柔軟なつながりを可能にしたという可能性が
考えられる。

(例題)―「プライミング問題」
言葉の問題(前半):ポテトチップスー塩辛い→飴―あ……
答え:あまい
その後、(1)覚醒 (2)レム睡眠 (3)ノンレム睡眠
言葉の問題(後半の問題)
三つの単語「チョコレート」、「しつけ」、「マスク」に共通して使える単語を答えよ。
答えは「あまい」
チョコレートは甘い、しつけが甘い、甘いマスクである。
日本人にわかりやすいよう、実際に研究で使われた問題を変えている。
被験者は事前に、この答えとなる「あまい」という単語をプライミング問題で答えているため、知らず知らずのうちに、この単語を記憶していた。

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行

2019年04月05日

睡眠の種類A

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ひらめき力

睡眠の種類A

睡眠中の脳の活動は、覚醒時と比べてどのように違っているのだろうか?

前日、レム睡眠時とノンレム睡眠で、脳の活動状態が異なることを紹介した。
今日は、眠っている時の脳の状態をもう少し詳しく見ていこう。
まず、脳は、場所によって“眠る脳”“眠らせる脳”に分けられる。
“眠る”のは『大脳』であり、“眠らせる”のは『脳幹』などである。

大脳は、知覚や思考、運動など、ヒトの高度な活動をつかさどる部分だ。
睡眠時の大脳は、全体が一様に休むわけではなく、起きている時によく使った部分ほど活動量が低下することがわかっている。
この現象は『ローカルスリープ(局所睡眠)』と呼ばれている。

脳幹は、呼吸や心臓の働きの管理など、生命維持のための活動をつかさどる部分であり、機能を止めるわけにはいかない。
睡眠(および覚醒)を制御しているのも脳幹だ。
このため、睡眠のことを「脳(=脳幹)による脳(=大脳)のための管理技術」と表現することもある。
脳矢状断面MRI.jpg

昨日、紹介したように、ノンレム睡眠中は、脳の活動が全体的に低下している。
しかし、レム睡眠中はそうではない。
レム睡眠中は脳の多くの場所が、目が覚めている時と同じくらいの活動をするのだ。

ただし、活動パターンは覚醒時とは大きく異なる。
前頭前野の一部など、思考や判断に関わる部分の機能低下がみられ、感覚系からの入力も視床の段階でブロックされている。
感覚系から得た情報を適切に判断して注意を向けるということができない状態であり、ノンレム睡眠時と同様、意識はない。

眠る脳と、眠らせる脳

眠る脳とは、知覚や運動をつかさどる「大脳」のことだ。
眠ると基本的に活動量が低下する。
ただし、レム睡眠のときには大脳の活動は活発で、見えたり聞こえたり、動いたりする感覚が生じることがある。
これが『夢』である。

一方、眠らせる脳の中心は「脳幹」だ。
生命維持を司り、睡眠や覚醒を制御する。

睡眠の種類と脳の活動の変化

ノンレム睡眠中
脳の活動は全体的に低下
レム睡眠中
脳の活動は全体的に覚醒時と同程度。
前頭前野の一部や一次視覚野は活動低下。
逆に資格連合野は活動が活発化。
大脳辺縁系の活動により、夢は情動に富んだものとなる。
レム睡眠中には脳の多くの場所で活動が活発になっている。
この状態で目が覚めると、レム睡眠中の脳の活動が夢として認識される。

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行

2019年04月04日

睡眠の種類@

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ひらめき力

睡眠の種類@

レム睡眠・ノンレム睡眠とは?
眠りのパターン.jpg

前日、夢を見る睡眠の脳内でひらめきが起きる仕組みの仮説について紹介した。
その中で、睡眠には、レム睡眠、ノンレム睡眠という二つの種類があることに触れた。
ここからは少し、この2種類の睡眠について見ていこう。

簡単に言うと、『ノンレム睡眠』は脳の活動が低い睡眠で、
『レム睡眠』は脳の活動が高い睡眠であり、
体に生じる反応は様々な点で異なる。
人が眠りにつくと、まずノンレム睡眠となり、その後はレム睡眠、さらに続いてノンレム睡眠といった具合に、二つの眠りが一晩で4〜5回繰り返される。

レム睡眠のとき、大脳の領域の中には起きている時と同じ程度に活動しているところもあり、このレム睡眠中に私たちは夢を見る。

レム睡眠は、まぶたの下で急速な(Rapid)眼球(Eye)の運動(Movement)が起きることから、その頭文字をとってこう呼ばれている。
睡眠中の急速な眼球運動は、1953年、シカゴ大学の大学院生アゼリンスキーによって発見された。
彼は当時、目の横に貼り付けた電極で睡眠中の眼球運動を記録する実験を行っていた。
時々急速な運動が記録されることを不審に思った彼は、睡眠中の実験協力者の眼球の運動を実際に確認し、
記録装置の故障でないことを確認したそうである。

一方、ノンレム睡眠は、レム睡眠に比べて大脳の活動度が全般的に低い。
二つの睡眠は、脳波を測定することで区別ができる。
レム睡眠ノンレム睡眠表.jpg

睡眠の分類
睡眠は、大きくレム睡眠とノンレム睡眠に分けられる。
睡眠中は、この2種類の睡眠が交互に現れる。
同じ睡眠であっても、大脳や体に生じる反応は全く異なる。
レム睡眠は、睡眠中に閉じた瞼の下で眼球が小刻みに動く現象(Rapid Eye Movement)が観察されることから、その頭文字をとって『REM(レム)』と名付けられた。
なお、ひらめきを生むと考えらえている夢を見るのは、レム睡眠の方である。

『レム睡眠』と『ノンレム睡眠』の違い
レム睡眠とノンレム睡眠の時の脳や体の状態をまとめた(表)。
レム睡眠中、体は動かないのに、脳は部分的に活発に活動している。
そのため、レム睡眠中には『金縛り』が起きることがある。

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行

2019年04月03日

夢とひらめきA

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ひらめき力

夢とひらめきA

睡眠中、記憶が自由自在につながる?

いったい、夢を見ている脳の中ではどんなことが起きているのだろうか?

私たちが得た様々な記憶(知識も含まれる)は、大脳の外側の層である大脳皮質に分散して保存される。
私たちの大脳皮質には実にたくさんの神経細胞がある。
神経細胞はつながりあって、いくつものネットワークを作る。
その中の特定のネットワークに電気信号が流れると、分散して記憶していた大脳皮質の神経細胞が
同時に活動することになり、まとまった一つの記憶として思い出される。

私たちが目覚めて活動している時は、その時々で必要なこと以外に注意が向かないよう、
必要な脳内の神経ネットワークのみが選ばれ、他の不要な情報は意識に上らないように抑えられている。
ところが、夢を見る睡眠(レム睡眠)中では、この抑制が外れ、起きている間には結合が抑えられていた
神経細胞もネットワークに組み込まれてくる可能性があるという。
これらの神経細胞の活動によって、目覚めている間はつながり合うことのなかった記憶どうしがつながり、
通常では考えつかないような記憶の組み合わせが生じて斬新なアイデアが閃くのではないか、
というのである。

「眠る前に集中して考えていたことは、睡眠中に強い記憶となって保存されることが知られています。
あくまでも仮説ですが、天才は非常に集中力があるので、眠る前に集中して考えていたことと
他の記憶との間につながりやすくなるのかもしれません」と、
ひらめきの研究をしている筑波大学人間系の山本三幸(やまもと みゆき)博士は語る。

さらに、東京女子医科大学の岩田誠(いわた まこと)名誉教授はこう語る。
「記憶が様々な組み合わせでつなぎ合わされる現象は天才の脳でも凡人の脳でも起きます。
しかし天才は、並外れた集中力、興味と努力によって、膨大な専門知識や経験、
さらには専門外の分野の知識や経験をも脳内に溜め込んでいます。
つなぎ合せの起きる要素がたくさんあるため、凡人よりはるかに多くの組み合わせができ、
その中で斬新なアイデアも生まれてくると考えらます。

夢を見ている時は、目覚めている時に活動していなかった神経回路が働いて
斬新なアイデアを生む?


覚めている状態から眠りに入る時はまず「ノンレム睡眠」が起こり、そこから「レム睡眠」に入る。
正常では覚めている状態から直接はレム睡眠に入らない。
その意味でレム睡眠の方が深い眠りと言える。
ところが脳波で見るとレム睡眠の方が覚めている時に近く、脳の活動が高い。
このレム睡眠時に夢を見ている。
しかしレム睡眠時には、脳から筋への経路が遮断されているので、
いくら脳が活動しても体は動かない仕組みになっている。
そして、目覚めている時にはつながっていなかった神経細胞のつながりが可能になる。
そのため、一見かけ離れていて、目覚めている時はなかなか結びつかないような記憶どうしが
レム睡眠時に結びつき、斬新な発見、発想になることがあるのではないか、と考えられている。

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行

2019年04月02日

夢とひらめき@

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ひらめき力

夢とひらめき@

あの名画、名作、名発想も夢の産物だった?

歴史に名を残す天才的な芸術家、小説家、科学者たちが、ひらめいた瞬間の時を次のように語る逸話は多い。
彼らが眠っている間に見た夢が、偉大な芸術作品や、常識を変えてしまうような科学の発見・発明に繋がったというのだ。

例えば、名画「記憶の固執」など多くの作品を描いたスペインの天才画家サルバドール・ダリ(1904〜
89)は、夢で見た光景を絵に描いたという。
名作『ジキル博士とハイド氏』を描いたイギリスの作家ロバート・ルイス・スティーブンソン(1850〜
94)は、この小説のテーマとなる二重人格の元になる夢を見たという逸話を残す。
ケクレの記念切手.jpg

科学の世界で言えば、ドイツの化学者アウグスト・ケクレ(1829〜96)は、原子が連なってヘビのような動き、頭の部分が尾の部分に噛み付いた姿を夢に見て、炭素原子6個が六角形状の構造に並ぶベンゼン環を思いついたという。

ケクレは、ヘビの夢からベンゼンの感情構造を思いついた

ベンゼンは、19世紀に普及したガス灯から発見された分子である。
その形は発見からしばらくの間は不明だったが、ドイツの化学者ケクレが明らかにした。
彼は1865年、尾を噛んでいるヘビの夢を見たことをきっかけに、炭素が環を作る構造(6個の炭素が、単結合と二重結合で結びついて環状になっている構造)を思いついたと言われている。

アウグスト・ケクレ(1829〜1896)
ドイツの化学者。
リービッヒの薬学校で学んだ。
1858年に「炭素は四つの手を持つ」という説(構造説)を唱えた。
またケクレは、1860年に世界会議を開催し、ケクレの説が広まるきっかけを作った。
この会議には、のちに周期表を発明するメンデレーエフも参加していた。

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行

2019年04月01日

5章 ひらめき力

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

5章 ひらめき力

難しい問題の答えを思いついたり、芸術作品のアイデアを思いついたりする「ひらめき」。
最近の研究から、眠っている間に見る夢が、このひらめきに大きな影響を与えている可能性が考えられている。
また、ひらめきの天才アインシュタインの脳の構造から、ひらめきを生んだ痕跡が調べられている。

夢とひらめき@〜A
睡眠の種類@〜A
ひらめきの力の実験
画像を脳から取り出す技術
ひらめきの天才の脳@〜A
ブレイクタイム 独創性の違いはどこから生まれる?

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行

2019年03月31日

絵画を“見る目”は脳で養われる?

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ブレイクタイム

絵画を“見る目”は脳で養われる?

画風やガキのことなる作品を見ているときには、脳のことなる領域が働いているようだ

シュールリアリズム、印象派など、有名な絵画には時代や流派を表す画風(作品の特徴)が見られる。
最近の研究から、画風さらには画家のことなる絵画を見ているときには、活発に動く脳内の領域も異なることが示された。
また、絵画の訓練を受けていくほど、この違いはくっきりと現れるようだ。

山本三幸(やまもと みゆき、筑波大学人間系研究員)
神谷之康(かみたに ゆきやす、ATR脳情報研究所神経情報学研究室室長)

私たちは日々、当たり前のように目の前の光景を見て、何が起きているのかを理解している。
しかし、自分の見ているものが、一体何であり、それが自分からどれくらい離れた位置にあり、どんな動きをしているのかといった一連のことを認識する仕組みは実に複雑だ。
視覚野での情報の統合.jpg

目で受け取った視界の情報は、脳の後部にある「一次視覚野」と呼ばれる領域に運ばれる。
その後、色、形、奥行き、動きなどの情報に分かれ、それらを専門に分析する領域にそれぞれ送られる。

当然、目にしたものがどんなものであるのかによって、脳の働き方は変わる。例えば、動いている動物を見ているときは、同じ動物を撮影した写真を見ているときよりも、動きの情報を処理する領域が活発に働くことになる。

空間配置の分析が活発になる画風

では、同じ「絵画」の中でも、見た目の印象、より専門的に言えば画風の異なる芸術作品を鑑賞しているとき、私たちの脳の活動には違いが見られるのだろうか。

筑波大学人間系の山本三幸博士らは、空間配置が特徴的な画風「シュールリアリズム」の絵画を見たときと、空間配置よりは色使いや形が特徴的な画風「印象派」の絵画を見たときに脳内で活発に働く領域を、fMRIという方法を使って調べた。
fMRIとは、脳内の血流を測り、その情報を元に、脳内で活発に働いている場所を特定する方法である。

一口に「絵画」と言っても、その画風によって、脳がより強く捉えて分析する特徴は異なるため、脳内で強く働く領域も異なると思われる。

実験の結果、シュールリアリズムの絵画を見ているときは、空間配置を認識する脳の領域が活発に働いた。
その一方で、印象派の絵画を見ているときは、色や語りを認識する領域が活発に働く傾向が見られた。

ピカソとダリを認識しる領域は別だった

シュールリアリズムを描く画家にはスペインのパブロ・ルイジィ・ピカソ(1881〜1973)や同国のサルバドール・ダリ(1904〜89)がいる。
同じ画風といえども、彼らはそれぞれ個性の強い作品を描く。

山本博士は、脳の活動状況は画風のみならず、画家ごとの作品でも変わるのではないかと考えた。
そして、ATR脳情報研究所神経情報学研究室の神谷之康室長とともに、絵画の訓練を受けた学生と、絵画の訓練を受けていない学生の二つのグループに、ピカソとダリの作品を何度か見せて、その特徴を覚えさせた。
その後、それぞれの画家の作品を新しく見せて、脳内の活動領域を調べてみた。
このとき、活動領域の小さな違いを見分けるために、デコーディングという方法を用いた。
まず、fMRIで取れた画像を小さな立方体に分割して、脳全体にわたってそれぞれの立方体の分布図ができる。
この分布図を読み取ることで、脳が何を見ているかを逆に解読していく方法がある。
視覚野の情報処理の概要.jpg

見る目を養う訓練は脳の活動を変えている

画家の作品ごとに活動分布が異なるなら、逆に活動分布図を第三者が見て、誰の作品を見ているのかを知ることができるのではないか。
こう考えた山本博士と神谷室長は、学生たちから得られた活動分布図から、学生がどちらの絵画を見ているのかを判断できるか調べてみた。

実験の結果、二つのグループのどちらの学生の活動分布図からも、誰の作品を見ているのかを判断することは可能であった。
しかし、普段から絵画の訓練を受けている学生の方が、一般の学生よりも、ピカソとダリの活動分布図の違いがはっきりと分かれ、活動場所も限定される傾向にあった。

「絵画を見る訓練を積めば、画風や画家の作品を特異的に認識する領域がより明確に分かれて、見誤りを起こしにくくなるのかもしれません。
さらに、認識に必要な領域が限定されるようになり、その分少ないエネルギーで効率的に認識が出来るようになるのかもしれません」と山本博士は語る。

参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行
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タナカマツヘイ
総合診療科 医学博士 元外科学会専門医指導医、元消化器外科学会専門医指導医、元消化器外科化学療法認定医、元消化器内視鏡学会専門医、日本医師会産業医、病理学会剖検医
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