2019年03月31日
絵画を“見る目”は脳で養われる?
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
ブレイクタイム
絵画を“見る目”は脳で養われる?
画風やガキのことなる作品を見ているときには、脳のことなる領域が働いているようだ
シュールリアリズム、印象派など、有名な絵画には時代や流派を表す画風(作品の特徴)が見られる。
最近の研究から、画風さらには画家のことなる絵画を見ているときには、活発に動く脳内の領域も異なることが示された。
また、絵画の訓練を受けていくほど、この違いはくっきりと現れるようだ。
山本三幸(やまもと みゆき、筑波大学人間系研究員)
神谷之康(かみたに ゆきやす、ATR脳情報研究所神経情報学研究室室長)
私たちは日々、当たり前のように目の前の光景を見て、何が起きているのかを理解している。
しかし、自分の見ているものが、一体何であり、それが自分からどれくらい離れた位置にあり、どんな動きをしているのかといった一連のことを認識する仕組みは実に複雑だ。
目で受け取った視界の情報は、脳の後部にある「一次視覚野」と呼ばれる領域に運ばれる。
その後、色、形、奥行き、動きなどの情報に分かれ、それらを専門に分析する領域にそれぞれ送られる。
当然、目にしたものがどんなものであるのかによって、脳の働き方は変わる。例えば、動いている動物を見ているときは、同じ動物を撮影した写真を見ているときよりも、動きの情報を処理する領域が活発に働くことになる。
空間配置の分析が活発になる画風
では、同じ「絵画」の中でも、見た目の印象、より専門的に言えば画風の異なる芸術作品を鑑賞しているとき、私たちの脳の活動には違いが見られるのだろうか。
筑波大学人間系の山本三幸博士らは、空間配置が特徴的な画風「シュールリアリズム」の絵画を見たときと、空間配置よりは色使いや形が特徴的な画風「印象派」の絵画を見たときに脳内で活発に働く領域を、fMRIという方法を使って調べた。
fMRIとは、脳内の血流を測り、その情報を元に、脳内で活発に働いている場所を特定する方法である。
一口に「絵画」と言っても、その画風によって、脳がより強く捉えて分析する特徴は異なるため、脳内で強く働く領域も異なると思われる。
実験の結果、シュールリアリズムの絵画を見ているときは、空間配置を認識する脳の領域が活発に働いた。
その一方で、印象派の絵画を見ているときは、色や語りを認識する領域が活発に働く傾向が見られた。
ピカソとダリを認識しる領域は別だった
シュールリアリズムを描く画家にはスペインのパブロ・ルイジィ・ピカソ(1881〜1973)や同国のサルバドール・ダリ(1904〜89)がいる。
同じ画風といえども、彼らはそれぞれ個性の強い作品を描く。
山本博士は、脳の活動状況は画風のみならず、画家ごとの作品でも変わるのではないかと考えた。
そして、ATR脳情報研究所神経情報学研究室の神谷之康室長とともに、絵画の訓練を受けた学生と、絵画の訓練を受けていない学生の二つのグループに、ピカソとダリの作品を何度か見せて、その特徴を覚えさせた。
その後、それぞれの画家の作品を新しく見せて、脳内の活動領域を調べてみた。
このとき、活動領域の小さな違いを見分けるために、デコーディングという方法を用いた。
まず、fMRIで取れた画像を小さな立方体に分割して、脳全体にわたってそれぞれの立方体の分布図ができる。
この分布図を読み取ることで、脳が何を見ているかを逆に解読していく方法がある。
見る目を養う訓練は脳の活動を変えている
画家の作品ごとに活動分布が異なるなら、逆に活動分布図を第三者が見て、誰の作品を見ているのかを知ることができるのではないか。
こう考えた山本博士と神谷室長は、学生たちから得られた活動分布図から、学生がどちらの絵画を見ているのかを判断できるか調べてみた。
実験の結果、二つのグループのどちらの学生の活動分布図からも、誰の作品を見ているのかを判断することは可能であった。
しかし、普段から絵画の訓練を受けている学生の方が、一般の学生よりも、ピカソとダリの活動分布図の違いがはっきりと分かれ、活動場所も限定される傾向にあった。
「絵画を見る訓練を積めば、画風や画家の作品を特異的に認識する領域がより明確に分かれて、見誤りを起こしにくくなるのかもしれません。
さらに、認識に必要な領域が限定されるようになり、その分少ないエネルギーで効率的に認識が出来るようになるのかもしれません」と山本博士は語る。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行
ブレイクタイム
絵画を“見る目”は脳で養われる?
画風やガキのことなる作品を見ているときには、脳のことなる領域が働いているようだ
シュールリアリズム、印象派など、有名な絵画には時代や流派を表す画風(作品の特徴)が見られる。
最近の研究から、画風さらには画家のことなる絵画を見ているときには、活発に動く脳内の領域も異なることが示された。
また、絵画の訓練を受けていくほど、この違いはくっきりと現れるようだ。
山本三幸(やまもと みゆき、筑波大学人間系研究員)
神谷之康(かみたに ゆきやす、ATR脳情報研究所神経情報学研究室室長)
私たちは日々、当たり前のように目の前の光景を見て、何が起きているのかを理解している。
しかし、自分の見ているものが、一体何であり、それが自分からどれくらい離れた位置にあり、どんな動きをしているのかといった一連のことを認識する仕組みは実に複雑だ。
目で受け取った視界の情報は、脳の後部にある「一次視覚野」と呼ばれる領域に運ばれる。
その後、色、形、奥行き、動きなどの情報に分かれ、それらを専門に分析する領域にそれぞれ送られる。
当然、目にしたものがどんなものであるのかによって、脳の働き方は変わる。例えば、動いている動物を見ているときは、同じ動物を撮影した写真を見ているときよりも、動きの情報を処理する領域が活発に働くことになる。
空間配置の分析が活発になる画風
では、同じ「絵画」の中でも、見た目の印象、より専門的に言えば画風の異なる芸術作品を鑑賞しているとき、私たちの脳の活動には違いが見られるのだろうか。
筑波大学人間系の山本三幸博士らは、空間配置が特徴的な画風「シュールリアリズム」の絵画を見たときと、空間配置よりは色使いや形が特徴的な画風「印象派」の絵画を見たときに脳内で活発に働く領域を、fMRIという方法を使って調べた。
fMRIとは、脳内の血流を測り、その情報を元に、脳内で活発に働いている場所を特定する方法である。
一口に「絵画」と言っても、その画風によって、脳がより強く捉えて分析する特徴は異なるため、脳内で強く働く領域も異なると思われる。
実験の結果、シュールリアリズムの絵画を見ているときは、空間配置を認識する脳の領域が活発に働いた。
その一方で、印象派の絵画を見ているときは、色や語りを認識する領域が活発に働く傾向が見られた。
ピカソとダリを認識しる領域は別だった
シュールリアリズムを描く画家にはスペインのパブロ・ルイジィ・ピカソ(1881〜1973)や同国のサルバドール・ダリ(1904〜89)がいる。
同じ画風といえども、彼らはそれぞれ個性の強い作品を描く。
山本博士は、脳の活動状況は画風のみならず、画家ごとの作品でも変わるのではないかと考えた。
そして、ATR脳情報研究所神経情報学研究室の神谷之康室長とともに、絵画の訓練を受けた学生と、絵画の訓練を受けていない学生の二つのグループに、ピカソとダリの作品を何度か見せて、その特徴を覚えさせた。
その後、それぞれの画家の作品を新しく見せて、脳内の活動領域を調べてみた。
このとき、活動領域の小さな違いを見分けるために、デコーディングという方法を用いた。
まず、fMRIで取れた画像を小さな立方体に分割して、脳全体にわたってそれぞれの立方体の分布図ができる。
この分布図を読み取ることで、脳が何を見ているかを逆に解読していく方法がある。
見る目を養う訓練は脳の活動を変えている
画家の作品ごとに活動分布が異なるなら、逆に活動分布図を第三者が見て、誰の作品を見ているのかを知ることができるのではないか。
こう考えた山本博士と神谷室長は、学生たちから得られた活動分布図から、学生がどちらの絵画を見ているのかを判断できるか調べてみた。
実験の結果、二つのグループのどちらの学生の活動分布図からも、誰の作品を見ているのかを判断することは可能であった。
しかし、普段から絵画の訓練を受けている学生の方が、一般の学生よりも、ピカソとダリの活動分布図の違いがはっきりと分かれ、活動場所も限定される傾向にあった。
「絵画を見る訓練を積めば、画風や画家の作品を特異的に認識する領域がより明確に分かれて、見誤りを起こしにくくなるのかもしれません。
さらに、認識に必要な領域が限定されるようになり、その分少ないエネルギーで効率的に認識が出来るようになるのかもしれません」と山本博士は語る。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行
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