2014年06月24日
みんなは知りません
「ほかに特徴はなかったかね」
「さあ。気が付きませんでした。薄汚ない茶色の襟巻をしておりましたが」
「着物は……」
「三人とも長いマントを着ておりましたから解りません」
「下駄を穿いてたかね」
「靴だったようです」
「フーム。元来この店には朝鮮人が来るかね」
「よっぽど金持か何かでないと来ません。留学生はみんな吝ですから……女が居れば別ですけど……」
「さあ。気が付きませんでした。薄汚ない茶色の襟巻をしておりましたが」
「着物は……」
「三人とも長いマントを着ておりましたから解りません」
「下駄を穿いてたかね」
「靴だったようです」
「フーム。元来この店には朝鮮人が来るかね」
「よっぽど金持か何かでないと来ません。留学生はみんな吝ですから……女が居れば別ですけど……」
「ふふん。その連中の註文は……」
「珈琲だけです。何でも洋装の女より十分間ばかり前に来て、三人でちびちび珈琲を舐ていたようです。客が多ければ追い返してやるんでしたけど……それから女が出て行くと直ぐあとから引き上げて行きました。癪に障るから後姿を睨み付けてやりましたら、その痘痕面の奴がひょいと降り口で振り返った拍子に私の顔を見ると、慌てて逃げるように降りて行きました」
「ハハハハ。よかったね。それじゃもう一つ聞くが、昨夜の色の黒い紳士が、何か女から貰ったものはないかね。紫色のハンカチの外に……」
「別に気が付きませんでした……あ。そうそう、女が立って行った後に残っていた、小ちゃな白いものをポケットに入れて行きました」
「どれ位の……」
「これ位の……」
と指でその大きさを示した。それは丁度名刺半分位の大きさであった。
「もう御誂えは……」
「有り難う……ない……」
と立ち上りながら私は一円紙幣を一枚と五十銭札を一枚ボーイの手に握らした。ボーイは躊躇して手を半分開いたまま私の顔を見上げた。
「……これは……頂き過ぎますが……」
「……いいじゃないか、それ位……」
「だって……だって……」
とにやにや笑いながらボーイは口籠もった。
「……何だ……」
「だって……貴方は狭山さんでしょう。警視庁の……」
偏差値40からの医学部受験は慶応進学会フロンティア
「珈琲だけです。何でも洋装の女より十分間ばかり前に来て、三人でちびちび珈琲を舐ていたようです。客が多ければ追い返してやるんでしたけど……それから女が出て行くと直ぐあとから引き上げて行きました。癪に障るから後姿を睨み付けてやりましたら、その痘痕面の奴がひょいと降り口で振り返った拍子に私の顔を見ると、慌てて逃げるように降りて行きました」
「ハハハハ。よかったね。それじゃもう一つ聞くが、昨夜の色の黒い紳士が、何か女から貰ったものはないかね。紫色のハンカチの外に……」
「別に気が付きませんでした……あ。そうそう、女が立って行った後に残っていた、小ちゃな白いものをポケットに入れて行きました」
「どれ位の……」
「これ位の……」
と指でその大きさを示した。それは丁度名刺半分位の大きさであった。
「もう御誂えは……」
「有り難う……ない……」
と立ち上りながら私は一円紙幣を一枚と五十銭札を一枚ボーイの手に握らした。ボーイは躊躇して手を半分開いたまま私の顔を見上げた。
「……これは……頂き過ぎますが……」
「……いいじゃないか、それ位……」
「だって……だって……」
とにやにや笑いながらボーイは口籠もった。
「……何だ……」
「だって……貴方は狭山さんでしょう。警視庁の……」
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