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2014年06月17日
その時に限って
何かめそめそして不機嫌になった咲子を見ると、初めは慈愛の目で注意していたが、到頭苛々して思わず握り太な籐のステッキで、後ろから頭をこつんと打ってしまったのであった。
 それから間もなく、ある朝庸三が起きて茶の間へ出ると、子供はみんな出払って、葉子が独り火鉢の前にいた。細かい羽虫が軒端に簇がっていて、物憂げな十時ごろの日差しであった。いつもの癖で、起きぬけの庸三は顔の筋肉の硬ばりが釈れず、不機嫌そうな顔をして、長火鉢の側へ来て坐っていた。子供の住居になっている裏の家へ行っていると見えて、女中の影も見えなかった。

腰障子で仕切られた四畳半から、母を呼ぶ声がした。葉子は急いで傍へ行って着物を着せ茶の間へつれ出して来た。
「おじさんにお早ようするのよ。」
 瑠美子は言う通りにした。
「寝坊だな。」
 庸三は言ったきり、むっつりしていた。葉子はちょっと台所へ出て行ったが、間もなく傍へ来て坐った。かと思うと、また立って行った。庸三は何かお愛相の好い言葉をかけなければならないように感じながら、わざとむっつりしていた。そして瑠美子が箸を取りあげるのを汐に、見ているのが悪いような気もして、やがて立ちあがった。そして机の前へ来て煙草をふかしていた。と、いきなり葉子が転がるように入って来たと思うと、袂で顔を蔽って畳に突っ伏して泣き出した。彼女は肩を顫わせ、声をあげて泣きながら、さっきから抑え抑えしていた不満を訴えるのだった。
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Posted by salchan at 13:12 | この記事のURL
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