2013年07月14日
復員列車といおうか
復員列車といおうか、買い出し列車といおうか、汽車は震災当時の避難列車を思わせるような混み方であった。
一本の足を一寸動かすだけでも、一日の配給量の半分のカロリーが消耗されるくらいの努力が要り、便所へも行けず、窓以外には出入口はないのも同然であった。
一本の足を一寸動かすだけでも、一日の配給量の半分のカロリーが消耗されるくらいの努力が要り、便所へも行けず、窓以外には出入口はないのも同然であった。
その位混むと、乗客は次第に人間らしい感覚を失って、自然動物的な感覚になって、浅ましくわめき散らすのだったが、わずかに人間的な感覚といえば、何となくみじめな想いと、そして突如として肚の底からこみ上げて来る得体の知れない何ものかに対する得体の知れぬ怒りであろうか。
そんな混雑した汽車の片隅に、白崎と赤井の二人は、しょんぼりと浮かぬ顔でうずくまっていた。
汽車が沼津へ着いた時である。
「お願いです。この窓あけて下さいません?」
焼跡らしい、みすぼらしいプラットホームで、一人の若い洋装の女が、おずおずと、しかし必死に白崎のいる窓を敲いた。
「窓から乗るんですか」
と、白崎は窓をあけた。
「ええ」
彼はほっとしたのだった。どこの窓も、これ以上の混雑をいやがって、乗客のために明けてやろうとしなかったのだ。
「大丈夫ですか。はいれますか。――じゃ、荷物を先に入れなさい」
荷物を先に受け取って、それから窓にしがみついた女の腕を、白崎はひきずり上げた。びっくりするような柔かい感触だった。
女の身体が車内へはいったのと、汽車が動きだしたのと同時だった。
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