2013年06月24日
お前さんにはまだ屋根代が
「お前さんにはまだ屋根代が貰ってなかったね。屋根代が六銭。それから宿帳を記けておくれな。」と肩先を揺る。
私は睡ったふりもしていられぬので、余儀なく返事をして顔を挙げた。そして上さんのさしだす宿帳と矢立とを取って、まずそれを記してから、
「その……宿代だが、明朝じゃいかんでしょうか。」
私は睡ったふりもしていられぬので、余儀なく返事をして顔を挙げた。そして上さんのさしだす宿帳と矢立とを取って、まずそれを記してから、
「その……宿代だが、明朝じゃいかんでしょうか。」
「明朝――今夜持合せがないのかね。」
「明朝になればできるんだが……」と私は当座※れを言う。
「明日だって、どうせ外へ出てでかすんだろうがね、それじゃ私の方で困らあね。今夜何か品物でも預かっとこう。」
「品物といって――何しろ着のみ着のままで……」
「さっきお前さんが持って上った日和下駄、あれは桐だね。鼻緒は皮か何だね。」
「皮でしょう。」
「お見せ。」
寝床の裾の方の壁ぎわに置いてあったのを出して見せると、上さんはその鼻緒を触ってみて、
「じゃ、これでも預かっとこう。お前さんが明朝出かける時には、何か家の穿物を貸してあげるから。」
上さんはそのまま下駄を持って階下へ降りて行った。たかが屋根代の六銭にしても、まさか穿懸けの日和下駄が用立とうとは思いも懸けなかったが、私はそれでホッと安心してじき睡ついた。
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