2018年08月03日
賢い選択:抗菌薬、適正使用を
賢い選択:抗菌薬、適正使用を
2018年7月1日 (日)配信毎日新聞社
「風邪」や中耳炎、胃腸炎を訴える患者に出されることが多い抗菌薬。
原因がウイルス性だと効果がないばかりか、副作用で健康を損ねたり、薬が効かない耐性菌を出現させたりとデメリットもある。
大人から子どもまで使うからこそ、確かな根拠に基づき賢く選びたい抗菌薬の適正使用についてまとめた。
【渡辺諒】
◇細菌検査で処方減
「細菌はいませんでしたよ」。
まえだ耳鼻咽喉(いんこう)科クリニック(奈良県橿原市)では、鼻水や鼻づまりなど細菌感染が疑われる患者に対し、「グラム染色」という細菌を調べる検査をしてから治療法や薬の種類を決めている。
この取り組みを始めてから、100人当たりの抗菌薬処方件数が、2017年はピークだった06年の7分の1以下に減った。
風邪や中耳炎の患者に対し、内科や小児科、耳鼻咽喉科で抗菌薬が出されるケースは多い。
外来診療で6割の患者に処方されたとする京都大チームの調査結果もある。
抗菌薬の適正使用を広めようと、厚生労働省は17年に手引を作成した。
6歳以上の風邪の患者に対し、鼻水だけがひどい場合や、痛みが特にひどい喉から細菌が検出された一部のケースを除き、「抗菌薬の使用は不必要」としている。
海外でも抗菌薬の不適切な使用は問題になっている。
過剰医療を見直す米国のキャンペーン「Choosing Wisely」(賢い選択)では、
抗菌薬はほとんどの風邪に効かない」
「中耳炎は2、3日経過を見て、症状が改善しなければ病院に行くべきだ」
と訴え、使用を控えるよう求めている。
鼻水や鼻づまり、中耳炎が疑われる耳の痛みがあった場合、どうすればいいか。
グラム染色で細菌が確認できなかった場合には抗菌薬の使用は控え、こまめに鼻をかんで物理的に鼻水を外に出すことが最も重要で有効なケアとされている。
症状がひどい時は解熱剤や鎮痛剤を出すこともあるが、対症療法に過ぎない。
同クリニックの前田稔彦院長は「細菌の有無や種類が分からないのに抗菌薬を使うと、かえって症状を長引かせることがある」と指摘する。
◇チラシで説明
抗菌薬への理解を深めてもらうことも適正使用には重要だ。
同クリニックでは患者への説明にも工夫を凝らす。
いろいろな細菌のイラストや効果のある薬、細菌の生息地を記したカラフルなチラシを用意して患者に配布している。
薬剤師の前田雅子さんは「しっかりした検査と説明があることで保護者もきちんと受け止めてくれているようだ」と話す。
抗菌薬が不要なケースの場合、解熱剤や鎮痛剤、せき止めを病院で処方されたり、薬局で買い求めたりしても、症状は一時的に和らぐかもしれないが、早く治ることはないとされる。
感染症が専門の京都大病院の山本舜悟特定助教は「大人ならいつもと異なるひどい症状だと感じることが医師にかかる一つの目安」と助言する。
抗菌薬が使われやすい病気に、食品や水からウイルスや細菌に感染して生じる胃腸炎もある。
厚労省の手引によると、水のような下痢症状があり、血圧の低下や免疫不全の状態、海外渡航歴がある場合に精密検査をして抗菌薬の使用を検討する必要があるが、症状が軽ければ使わなくてもいい。
ただし、便に血液が混じっている場合、体温が38度以上の時や、38度未満でも血圧低下や免疫不全がある時には抗菌薬を検討してもよいと指摘する。
◇乳幼児版手引作成へ
「乳幼児期は年10回程度風邪を引き、受診する頻度も多いが、抗菌薬で(風邪の)重症化は予防できない。
肺炎に伴う入院も防がないとの結果が疫学的に証明されている」。
先月9日に開かれた国立国際医療研究センター病院のAMR(薬剤耐性)臨床リファレンスセンター主催のセミナー。
登壇した兵庫県立こども病院感染症科の笠井正志医師は、小児外来での抗菌薬の適正使用を広める重要性を訴えた。
乳幼児の場合、どのようなケースで抗菌薬が必要となるのか。
肺炎が疑われる時は苦しそうな呼吸を伴うことがあり、保護者らは症状の変化を見落としてはならない。
東京都立小児総合医療センター感染症科の堀越裕歩医長は「ぐったりしていたり、意識がはっきりしていなかったりといった症状が一つの目安になる」と説明する。
◇ペニシリン系を
ただ、溶連菌感染や中耳炎で抗菌薬を使用する場合でも、
必要以上に多くの種類の細菌に影響し、耐性菌の出現で問題の
「第3世代セファロスポリン系」は控えたい
(この系統の飲み薬は体内に吸収されることがほとんどなく,腸内細菌だけを死滅させる最悪の抗生剤として,投与するドクターは勉強していないと,今では開業医以外では常識化している)。
堀越医長は「原因となる特定の細菌だけに効果を発揮するペニシリン系から選ぶべきだ」と訴える。
発熱や鼻水、せきなどの症状があっても、見た目が元気なら多くは抗菌薬が不要で、鼻水の拭き取りや、水分と栄養補給で安静にすれば十分という。
国の手引は6歳以上が対象のため、6歳未満についても今年度内に堀越医長らが作成を進め、乳幼児版を公表する予定だ。
堀越医長は「保護者らが会社を休みにくく、子どもを抗菌薬で何とか早く治したいという思いで、効かない状況でも不要な薬を求める場合もある。
医師だけでなく、保護者らの認識を変える必要もある」と話す。
2018年7月1日 (日)配信毎日新聞社
「風邪」や中耳炎、胃腸炎を訴える患者に出されることが多い抗菌薬。
原因がウイルス性だと効果がないばかりか、副作用で健康を損ねたり、薬が効かない耐性菌を出現させたりとデメリットもある。
大人から子どもまで使うからこそ、確かな根拠に基づき賢く選びたい抗菌薬の適正使用についてまとめた。
【渡辺諒】
◇細菌検査で処方減
「細菌はいませんでしたよ」。
まえだ耳鼻咽喉(いんこう)科クリニック(奈良県橿原市)では、鼻水や鼻づまりなど細菌感染が疑われる患者に対し、「グラム染色」という細菌を調べる検査をしてから治療法や薬の種類を決めている。
この取り組みを始めてから、100人当たりの抗菌薬処方件数が、2017年はピークだった06年の7分の1以下に減った。
風邪や中耳炎の患者に対し、内科や小児科、耳鼻咽喉科で抗菌薬が出されるケースは多い。
外来診療で6割の患者に処方されたとする京都大チームの調査結果もある。
抗菌薬の適正使用を広めようと、厚生労働省は17年に手引を作成した。
6歳以上の風邪の患者に対し、鼻水だけがひどい場合や、痛みが特にひどい喉から細菌が検出された一部のケースを除き、「抗菌薬の使用は不必要」としている。
海外でも抗菌薬の不適切な使用は問題になっている。
過剰医療を見直す米国のキャンペーン「Choosing Wisely」(賢い選択)では、
抗菌薬はほとんどの風邪に効かない」
「中耳炎は2、3日経過を見て、症状が改善しなければ病院に行くべきだ」
と訴え、使用を控えるよう求めている。
鼻水や鼻づまり、中耳炎が疑われる耳の痛みがあった場合、どうすればいいか。
グラム染色で細菌が確認できなかった場合には抗菌薬の使用は控え、こまめに鼻をかんで物理的に鼻水を外に出すことが最も重要で有効なケアとされている。
症状がひどい時は解熱剤や鎮痛剤を出すこともあるが、対症療法に過ぎない。
同クリニックの前田稔彦院長は「細菌の有無や種類が分からないのに抗菌薬を使うと、かえって症状を長引かせることがある」と指摘する。
◇チラシで説明
抗菌薬への理解を深めてもらうことも適正使用には重要だ。
同クリニックでは患者への説明にも工夫を凝らす。
いろいろな細菌のイラストや効果のある薬、細菌の生息地を記したカラフルなチラシを用意して患者に配布している。
薬剤師の前田雅子さんは「しっかりした検査と説明があることで保護者もきちんと受け止めてくれているようだ」と話す。
抗菌薬が不要なケースの場合、解熱剤や鎮痛剤、せき止めを病院で処方されたり、薬局で買い求めたりしても、症状は一時的に和らぐかもしれないが、早く治ることはないとされる。
感染症が専門の京都大病院の山本舜悟特定助教は「大人ならいつもと異なるひどい症状だと感じることが医師にかかる一つの目安」と助言する。
抗菌薬が使われやすい病気に、食品や水からウイルスや細菌に感染して生じる胃腸炎もある。
厚労省の手引によると、水のような下痢症状があり、血圧の低下や免疫不全の状態、海外渡航歴がある場合に精密検査をして抗菌薬の使用を検討する必要があるが、症状が軽ければ使わなくてもいい。
ただし、便に血液が混じっている場合、体温が38度以上の時や、38度未満でも血圧低下や免疫不全がある時には抗菌薬を検討してもよいと指摘する。
◇乳幼児版手引作成へ
「乳幼児期は年10回程度風邪を引き、受診する頻度も多いが、抗菌薬で(風邪の)重症化は予防できない。
肺炎に伴う入院も防がないとの結果が疫学的に証明されている」。
先月9日に開かれた国立国際医療研究センター病院のAMR(薬剤耐性)臨床リファレンスセンター主催のセミナー。
登壇した兵庫県立こども病院感染症科の笠井正志医師は、小児外来での抗菌薬の適正使用を広める重要性を訴えた。
乳幼児の場合、どのようなケースで抗菌薬が必要となるのか。
肺炎が疑われる時は苦しそうな呼吸を伴うことがあり、保護者らは症状の変化を見落としてはならない。
東京都立小児総合医療センター感染症科の堀越裕歩医長は「ぐったりしていたり、意識がはっきりしていなかったりといった症状が一つの目安になる」と説明する。
◇ペニシリン系を
ただ、溶連菌感染や中耳炎で抗菌薬を使用する場合でも、
必要以上に多くの種類の細菌に影響し、耐性菌の出現で問題の
「第3世代セファロスポリン系」は控えたい
(この系統の飲み薬は体内に吸収されることがほとんどなく,腸内細菌だけを死滅させる最悪の抗生剤として,投与するドクターは勉強していないと,今では開業医以外では常識化している)。
堀越医長は「原因となる特定の細菌だけに効果を発揮するペニシリン系から選ぶべきだ」と訴える。
発熱や鼻水、せきなどの症状があっても、見た目が元気なら多くは抗菌薬が不要で、鼻水の拭き取りや、水分と栄養補給で安静にすれば十分という。
国の手引は6歳以上が対象のため、6歳未満についても今年度内に堀越医長らが作成を進め、乳幼児版を公表する予定だ。
堀越医長は「保護者らが会社を休みにくく、子どもを抗菌薬で何とか早く治したいという思いで、効かない状況でも不要な薬を求める場合もある。
医師だけでなく、保護者らの認識を変える必要もある」と話す。
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