2019年05月20日
脳梗塞に対する血管内治療の現状と課題は?
(脳の栄養動脈にカテーテルを進めて、出来立ての血栓を絡めて根こそぎ取ってくる治療がゴールデンタイム3.5時間を過ぎてtPA投与の適応がなくなった症例でも有効!)
脳梗塞に対する血管内治療の現状と課題は?
兵庫医大・吉村氏がSTROKE2019で報告 2019年03月28日 05:00
日本における急性期脳梗塞に対する血管内治療の現状と課題について、
兵庫医科大学脳神経外科主任教授の吉村紳一氏が
第44回日本脳卒中学会(STROKE2019、3月21〜23日、横浜市)で報告。
急速に普及しつつある血管内治療について、さらなる適応拡大が望まれている点を指摘。
発症6時間以降をはじめ、広範囲脳梗塞、末梢血管閉塞、軽症例への適応拡大に向けた
臨床研究が進んでいることなどを解説した。
治療件数は増加するも地域格差が課題
吉村氏はまず、同氏らが主任研究者を務める超急性期脳梗塞に対する
血管内治療研究会(RESCUE-Japan Study Group)が推進する、
脳梗塞に対する血管内治療の普及に向けたRESCUE-Japan Projectで行った全国調査の最新データを紹介した。
調査は日本脳神経血管内治療学会全会員が対象で、回答率は100%近かった。
脳梗塞に対する血管内治療の施行件数は、2016年の7,702件から2017年には1万360件へと34.5%増加。
2018年については集計中だが、
治療件数は既に1万2,165件に達しており、
人口10万人当たりでは2016年が6.06件、2017年が8.15件、2018年が9.57件と、
着実に増加している。
専門医当たり、また治療施設当たりの治療件数も年々増えており、
吉村氏は「全体的に右肩上がりの状況にある」と述べた(表)。
表. RESCUE-Japan Project 全国調査(2016〜18年)
(吉村紳一氏提供)
ただし、人口10万人当たりの治療件数を地域ごとに比較すると、
依然として地域格差が認められた。
治療施設当たりの治療件数が多い地域は総治療件数も多いことから、
「脳梗塞に対する血管内治療が可能な施設(脳卒中センター)に患者が搬送されることが、
その地域の治療件数を増やすことにつながる」と、同氏は説明した。
病院到着前に主幹動脈閉塞症(LVO)であることが予測できれば、
脳卒中センターに血管内治療の適応例を効率的に搬送できる。
同氏はLVO予測スコアについて、陽性的中率は最も良いスコアでも32%にとどまっており、
Mimicが多く含まれ、出血性脳卒中が鑑別できない上、
脳卒中の非専門家(救急隊員)が簡便に使用できないなどの問題点を指摘し、
「完全なスコアはまだない」と話した。
同氏が率いる兵庫医大の研究グループは、救急隊員が現場で評価可能な21項目の点数を
スマートフォンやタブレット端末に入力して病型(脳梗塞、脳出血)を判別する
「JUST Score」を開発しており、
「(日本脳神経血管内治療)学会を挙げて標準的な評価スケールをつくる試みがスタートしている」とした。
広範囲脳梗塞も血管内治療で良好な転帰
さらに血管内治療の課題として、吉村氏は地域格差に加え、適応拡大を挙げた。
現在検討されている適応は主に発症6時間以降、広範囲脳梗塞、末梢血管閉塞、軽症例の4つ。
同氏はそれぞれにおける臨床研究の進捗状況を次のようにまとめた。
発症6時間以降への適応拡大に関しては、
最終健常確認時刻から6〜24時間以内の症例を対象としたDAWN Trial、
発症後6〜16時間以内の症例を対象としたDEFUSE 3 Studyが行われ、
血管内治療群で非常に良好な転帰が得られている。
これを受けて2018年には、米国心臓協会(AHA)のガイドラインに
「最終健常確認時刻から6〜16時間以内の急性期LVOで、
DAWNまたはDEFUSE 3の登録基準に合致する患者においては血栓回収療法が勧められる」
と記載された。
一方、日本では日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会が
2018年3月に合同策定した『経皮経管的脳血栓回収機器適正使用指針第3版』において、
「最終健常確認時刻から6時間を超えた脳梗塞(詳細条件あり)に対して
最終健常確認時刻から16時間以内の血管内治療開始が強く勧められる(グレードA)」と記された。
こうしたことから、同氏は「発症6時間以降への適応拡大は既に認められたと理解される」との見方を示した。
広範囲脳梗塞に関しては、
RESCUE-Japan Study Groupによるレジストリ研究RESCUE-Japan Registry 2のデータを用いた検討が行われ、
発症90日後のmodified Rankin Scale(mRS)が 0-3または0-2で評価した転帰は
血管内治療群で有意に良好だった(順にP<0.001、P=0.017)。
さらに、広範囲脳梗塞を対象としたランダム化比較試験(RCT)RESCUE-Japan LIMITが進行中で、
海外でも複数のRCTが進められているという。
末梢血管閉塞については、RESCUE-Japan Registry 2のデータを用いた検討で、
血管内治療により比較的良好な転帰が得られているが、
中大脳動脈M3領域(脳表面を走る末梢領域)に限ると転帰不良であった。
吉村氏は「現在使用可能なステントでは安易に手を出すのは良くないかもしれない。
ただし、今年(2019年)には従来に比べ小型のステントなど、
新たなデバイスが多く使用できるようになるようだ。
デバイスの改良により克服できる部分があるのではないか」と展望した。
軽症例では、RESCUE-Japan Registry 2のデータ解析において、
血管内治療の有無で転帰に差はなく、
「軽症例全例に血管内治療を行うのは適切ではないだろう」とした。
最後に同氏は、
「レジストリ研究によって血管内治療の限界も明らかになりつつあり、
慎重な適応拡大が望まれる」とした上で、
「脳卒中センターの施設認定により、救急体制の改善と治療の質向上が期待される」と報告を締めくくった。
(STROKE2019 取材班)
脳梗塞に対する血管内治療の現状と課題は?
兵庫医大・吉村氏がSTROKE2019で報告 2019年03月28日 05:00
日本における急性期脳梗塞に対する血管内治療の現状と課題について、
兵庫医科大学脳神経外科主任教授の吉村紳一氏が
第44回日本脳卒中学会(STROKE2019、3月21〜23日、横浜市)で報告。
急速に普及しつつある血管内治療について、さらなる適応拡大が望まれている点を指摘。
発症6時間以降をはじめ、広範囲脳梗塞、末梢血管閉塞、軽症例への適応拡大に向けた
臨床研究が進んでいることなどを解説した。
治療件数は増加するも地域格差が課題
吉村氏はまず、同氏らが主任研究者を務める超急性期脳梗塞に対する
血管内治療研究会(RESCUE-Japan Study Group)が推進する、
脳梗塞に対する血管内治療の普及に向けたRESCUE-Japan Projectで行った全国調査の最新データを紹介した。
調査は日本脳神経血管内治療学会全会員が対象で、回答率は100%近かった。
脳梗塞に対する血管内治療の施行件数は、2016年の7,702件から2017年には1万360件へと34.5%増加。
2018年については集計中だが、
治療件数は既に1万2,165件に達しており、
人口10万人当たりでは2016年が6.06件、2017年が8.15件、2018年が9.57件と、
着実に増加している。
専門医当たり、また治療施設当たりの治療件数も年々増えており、
吉村氏は「全体的に右肩上がりの状況にある」と述べた(表)。
表. RESCUE-Japan Project 全国調査(2016〜18年)
(吉村紳一氏提供)
ただし、人口10万人当たりの治療件数を地域ごとに比較すると、
依然として地域格差が認められた。
治療施設当たりの治療件数が多い地域は総治療件数も多いことから、
「脳梗塞に対する血管内治療が可能な施設(脳卒中センター)に患者が搬送されることが、
その地域の治療件数を増やすことにつながる」と、同氏は説明した。
病院到着前に主幹動脈閉塞症(LVO)であることが予測できれば、
脳卒中センターに血管内治療の適応例を効率的に搬送できる。
同氏はLVO予測スコアについて、陽性的中率は最も良いスコアでも32%にとどまっており、
Mimicが多く含まれ、出血性脳卒中が鑑別できない上、
脳卒中の非専門家(救急隊員)が簡便に使用できないなどの問題点を指摘し、
「完全なスコアはまだない」と話した。
同氏が率いる兵庫医大の研究グループは、救急隊員が現場で評価可能な21項目の点数を
スマートフォンやタブレット端末に入力して病型(脳梗塞、脳出血)を判別する
「JUST Score」を開発しており、
「(日本脳神経血管内治療)学会を挙げて標準的な評価スケールをつくる試みがスタートしている」とした。
広範囲脳梗塞も血管内治療で良好な転帰
さらに血管内治療の課題として、吉村氏は地域格差に加え、適応拡大を挙げた。
現在検討されている適応は主に発症6時間以降、広範囲脳梗塞、末梢血管閉塞、軽症例の4つ。
同氏はそれぞれにおける臨床研究の進捗状況を次のようにまとめた。
発症6時間以降への適応拡大に関しては、
最終健常確認時刻から6〜24時間以内の症例を対象としたDAWN Trial、
発症後6〜16時間以内の症例を対象としたDEFUSE 3 Studyが行われ、
血管内治療群で非常に良好な転帰が得られている。
これを受けて2018年には、米国心臓協会(AHA)のガイドラインに
「最終健常確認時刻から6〜16時間以内の急性期LVOで、
DAWNまたはDEFUSE 3の登録基準に合致する患者においては血栓回収療法が勧められる」
と記載された。
一方、日本では日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会が
2018年3月に合同策定した『経皮経管的脳血栓回収機器適正使用指針第3版』において、
「最終健常確認時刻から6時間を超えた脳梗塞(詳細条件あり)に対して
最終健常確認時刻から16時間以内の血管内治療開始が強く勧められる(グレードA)」と記された。
こうしたことから、同氏は「発症6時間以降への適応拡大は既に認められたと理解される」との見方を示した。
広範囲脳梗塞に関しては、
RESCUE-Japan Study Groupによるレジストリ研究RESCUE-Japan Registry 2のデータを用いた検討が行われ、
発症90日後のmodified Rankin Scale(mRS)が 0-3または0-2で評価した転帰は
血管内治療群で有意に良好だった(順にP<0.001、P=0.017)。
さらに、広範囲脳梗塞を対象としたランダム化比較試験(RCT)RESCUE-Japan LIMITが進行中で、
海外でも複数のRCTが進められているという。
末梢血管閉塞については、RESCUE-Japan Registry 2のデータを用いた検討で、
血管内治療により比較的良好な転帰が得られているが、
中大脳動脈M3領域(脳表面を走る末梢領域)に限ると転帰不良であった。
吉村氏は「現在使用可能なステントでは安易に手を出すのは良くないかもしれない。
ただし、今年(2019年)には従来に比べ小型のステントなど、
新たなデバイスが多く使用できるようになるようだ。
デバイスの改良により克服できる部分があるのではないか」と展望した。
軽症例では、RESCUE-Japan Registry 2のデータ解析において、
血管内治療の有無で転帰に差はなく、
「軽症例全例に血管内治療を行うのは適切ではないだろう」とした。
最後に同氏は、
「レジストリ研究によって血管内治療の限界も明らかになりつつあり、
慎重な適応拡大が望まれる」とした上で、
「脳卒中センターの施設認定により、救急体制の改善と治療の質向上が期待される」と報告を締めくくった。
(STROKE2019 取材班)
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