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2019年05月08日

「膀胱炎治療にクラビット」は時代遅れ

(ニューキノロン系は結核の治療にとっておきたいし、細菌培養に出した腸内細菌の多くがニューキノロン系に耐性を持っていることが多い!)

「膀胱炎治療にクラビット」は時代遅れ
2019/3/26 岡 秀昭(埼玉医科大学総合医療センター)

前回は単純性膀胱炎の診断について紹介しました。今回は治療について考えていきます。単純性膀胱炎の治療のスタンダードは、現在は抗菌薬の投与です。

「現在は」と強調したのは、近年、膀胱炎の治療に対し、抗菌薬と消炎鎮痛薬(NSAIDs)の治療効果を比較した臨床試験が海外で立て続けに報告されているからです1、2)。
また経験的に、水分を摂取してしっかりと尿を出すだけでも膀胱炎の治療効果は上がります。
昨年、水を飲むことで膀胱炎の再発予防になるという報告がなされていますし3)、後述するように膀胱炎へ処方できる抗菌薬の選択肢が少なくなっている中、今後は抗菌薬の投与なしに治療する方向に向かうのかもしれません。

さて、膀胱炎患者に抗菌薬を処方する際に、どの薬剤を選択しますか? 
「尿路感染、膀胱炎にはクラビットだろ!」という先生がおられましたら、それは残念ながら現在では大きな間違いです。

感染症治療のために抗菌薬処方を考える場合、
(1)病気を引き起こす微生物に有効、
(2)できるだけ狭域、
(3)低コストで副作用が少ない――を考えるのが鉄則です。

では単純性膀胱炎の原因菌は何でしょうか?
「それは簡単だ、大腸菌だろう!」。

正解です。

単純性膀胱炎の75〜95%が大腸菌で生じると報告されています。
つまり、「単純性膀胱炎はほぼ大腸菌の感染症」と断言してもよいのです。

大腸菌に有効な抗菌薬は、かつてはクラビット(レボフロキサシン)のようなニューキノロン系抗菌薬やST合剤といわれていました。
経口のセフェム系抗菌薬も有効ですが、効果がやや落ちるためかあまり人気がないようです。
ニューキノロン系抗菌薬は3日の服用でよいのに対して、セフェム系抗菌薬では3日より長い期間服用させる必要があるからでしょうか。

ところが、我が国の大腸菌の薬剤感受性(JANIS)を見ると、クラビットの耐性菌が非常に増えています。
最近ではニューキノロン系抗菌薬にだけ耐性があるという結果も珍しくありません。

ニューキノロン系抗菌薬は、院内で問題となる緑膿菌にも唯一処方できる内服薬です。
またレジオネラ肺炎のような重症化する特殊な肺炎にも有効です。
更には抗結核作用もあります。

このような貴重な抗菌薬を、膀胱炎のようなNSAIDsでも治療できる可能性のある感染症に使用するのはとてももったいないと思いませんか?

また、ニューキノロン系は意外と『副作用が多い』薬でもあります。

血糖の異常、
QT延長のような不整脈、
アキレス腱断裂が知られていますし、
最近では大動脈解離のリスクとなることも指摘されています。

以上から、米国食品医薬品局(FDA)は、
ニューキノロン系抗菌薬を細菌性副鼻腔炎、慢性気道感染症の急性増悪、そして合併症のない尿路感染症(膀胱炎)に極力使用しないよう警鐘を鳴らしています。

ですから、『膀胱炎はもちろん、くれぐれもかぜや咽頭炎、そしてウイルス性腸炎にも処方しない』ようにお願いします。

膀胱炎治療に必要な薬の「最新」の正解は?
 それでは、単純性膀胱炎へ処方する抗菌薬は何がよいでしょうか?

米国感染症学会のガイドラインは、Nitrofurantoin(国内未承認)、ST合剤、ホスホマイシン、Pivmecillinam(国内未承認)の中から選択するように推奨しています。

これらが使用できない場合には、経口βラクタム薬(セフェム系、『ペニシリン系抗菌薬』)を、それらも使えない場合のみニューキノロン系抗菌薬の使用を推奨しています。

(アモキシシリンが推奨され、頻用しています。キレもいいです。ただし、尿量を増やして膀胱内を尿で洗い流さないと効果は限られるので、普段より500〜1000mLは余計に水ないし茶を飲むように促しています)

この推奨のうち、我が国で使用可能な薬剤はST合剤とホスホマイシンになります。
ただ、ホスホマイシンは海外ではホスホマイシントロメタロール、
日本ではホスホマイシンカルシウムと、化合物が異なります。

そのため、日本のホスホマイシン錠は海外のものよりバイオアベイラビリティーが不良で効果が落ちる懸念があり、積極的には推奨できません。
(ホスホマイシンは全く効かない薬なので薦めません)
ST合剤は、女性に使用する場合には妊娠やピルなどとの薬物相互作用に注意する必要がありますが、よい選択です。
またST合剤は我が国では単純性膀胱炎への適応はありませんが、大腸菌感染症に対する適応があり薬価も安いため、レセプトが査定されにくいと思われます。

ついでガイドラインに従うと、セフェム系かペニシリン系抗菌薬の使用を考慮することになりますが、ペニシリン系抗菌薬の経口薬であるアモキシシリンでは大腸菌の耐性化が深刻です。
そのため、感受性が保たれているセフェム系抗菌薬がよいでしょう。
(入院患者では、尿培養検査を取って治療を始めます。培養結果では多剤耐性大腸菌が検出されても、セファレキシン内服、セファゾリン点滴静注でほとんどが治癒します。輸液を負荷して尿量を十分に出させるためと、培養結果が必ずしも起炎菌を正しく反映しているわけではないからです。見込みで始めた抗菌剤選択が効かなかかった場合の備えとして採取するのと、病院内の細菌流行を把握するため、スーパー緑膿菌、スーパーMRSAなどが発生していないかを確認するためです)


セフェム系抗菌薬の中では第3世代セフェム系の薬剤はバイオアベイラビリティーが極めて不良で、
10数%から、多くても50%程度しか消化管から吸収されません(ほとんどがうんこになって出てくるのと、腸内細菌に薬剤耐性菌を増やすだけだということが知られています)

第1世代のセファレキシン(ケフレックス)のようなセフェム系の使用をお勧めします。
また緑膿菌に無効な第1世代のセフェム系抗菌薬としてセファクロルを思い浮かべる方もおられるかもしれませんが、セファクロルは第2世代で、皮疹などの血清反応の副作用が多く推奨しにくいです。

ということで、膀胱炎と診断したら、レボフロキサシンではなく、ケフレックス250mg6カプセル 分3を5〜7日間か、ST合剤4錠分2を3日間処方しましょう。

ST合剤の投薬を怖いと感じる先生も多いかもしれません。
確かに高カリウム血症、クレアチニン上昇、骨髄抑制、発疹などの副作用があり、添付文書上も「他剤が無効あるいは使用できない場合に投与を考慮する」と警告されています。
一方で、ST合剤をHIV患者などに生じるニューモシスチス肺炎の治療薬として用いる場合は、より高用量かつ長期間服用させます。
疾患の重篤度に違いがあるとはいえ、膀胱炎の投薬はわずか3日間。
処方で重篤な副作用が生じる可能性は極めて低いのです。

現在の大腸菌の耐性傾向を考慮すると、膀胱炎に対して国内で処方できる薬剤は限られます。
まずはST合剤、ST合剤は使いたくないという先生はせめてセファレキシンで治療をお願いいたします。
 
明日から膀胱炎の治療は楽勝ですね!
【参考文献】
1)Andreas K,et al. BMJ.2017;359:j4784.
2)Ingvild Vi,et.al.PLOS Medicine.2018;May15.
3)Thomas H,et al. JAMA Intern Med. 2018;178(11):1509-15.

著者プロフィール

岡秀昭(埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科准教授)
●おかひであき氏。
2000年日本大学卒。日本大学第一内科で研修後、横浜市立大学、神戸大学、東京高輪病院などを経て、2017年より現職。
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田中松平
元消化器外科医で,頭からつま先まで診れる総合診療科医です. 医学博士 元日本外科学会認定指導医・専門医, 元日本消化器外科学会認定指導医・専門医, 元日本消化器内視鏡学会専門医, 日本医師会認定産業医, 日本病理学会認定剖検医,
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