2019年05月01日
アルコール依存症 まずは減酒!、最終目標は断酒
アルコール依存症 まずは減酒!、最終目標は断酒
転換期迎えるアルコール依存症治療
飲酒量低減薬が登場 2019年03月25日 06:00
自分の意思で飲酒の量や頻度をコントロールできなくなるアルコール依存症。
その治療法は、長らく飲酒を一切行わないことを目的とした「断酒」のみだった。
しかし、飲酒量を減らすという新しいコンセプトに基づく「飲酒量低減薬」が今年(2019年)3月5日に登場したことを機に、治療は大きな転換点を迎えた。
国内初の「減酒外来」を2017年4月に開設した久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)において同外来の担当医師を務める湯本洋介医師に、アルコール依存症治療の現状や課題、国内初となる飲酒量低減薬に対する期待について聞いた。(関連記事:「【飲酒量低減薬】ナルメフェン」)
依存症者は推計107万人、受療者はわずか6万人
アルコール依存症は、通常20〜30年かけて飲酒習慣を続けていく過程で次第に飲酒量が増え、顕在化していく。
かつては依存症者の大半を中年男性が占めていたが、近年は女性が増えており、特に50歳以上での増加が顕著である。
不適切な飲酒は、飲酒者本人に肝障害、膵炎、高血圧、脳出血、うつ病など心身にダメージを与えるだけでなく、家族、パートナーへの暴言や暴力、子供への虐待、飲酒運転など社会的な問題を引き起こす場合もある。
国内のアルコール依存症者数は107万人と推定されるが、治療を受けている人は年間6万人にすぎない。
その理由について、湯本氏は「医療機関の受診には、『アル中』のレッテルを貼られる、強制的に断酒をさせられる、医師に叱られるといったネガティブなイメージがつきまとい、飲酒で問題を抱えている人から敬遠されている。それが受診率の低さに表れている」と指摘する。
多量飲酒者にも減酒のサポートを
世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)の診断基準では、渇望、飲酒行動のコントロール、離脱症状などの6項目のうち、過去1年間で3項目以上当てはまるとアルコール依存症と診断される。
離脱症状とは禁断症状ともいわれ、飲酒を我慢すると手の震えや発汗、いらいら、幻覚などの症状が現れるのが特徴だ。
依存症には至らないが、飲酒後に記憶をなくしたり、飲酒運転をしたり、傷害やDVなどで警察沙汰になる問題を起こす、予備群ともいえる多量飲酒者はもっと数が多い。
予備群も含めたアルコール依存症者は、約440万人に上ると推定されている。
多量飲酒とはどのような状態を指すのか。湯本氏は「恒常的に飲酒量が多く、1日当たりの平均アルコール摂取量が60グラムを超えている人。
ビールジョッキ3杯、日本酒3合分に該当する量である。
将来的に飲酒による健康被害や、生産性の低下などのリスクがあるとされ、飲酒量を減らすというサポートが有効と考えられる」と説明する(図1)。
軽症の依存症などに減酒を推奨
国内のアルコール依存症治療において中核的な役割を担ってきた久里浜医療センターは、依存症者に加えて、軽症者や予備群である多量飲酒者にも間口を広げるため、2017年4月に国内初の「減酒外来」を開設した。
その狙いについて、湯本氏は「アルコールによる問題を抱えている人に、飲酒量を減らすための治療を行うのが目的である。
最終ゴールは断酒だが、治療のハードルを低くすることで受診への抵抗感を減らし、治療への参加を促したいと考えている。
依存症未満(多量飲酒)者が抱えている問題を軽くしたり、依存症に移行するリスクを減らしたりする役割もある」と話す。
減酒治療を経て、最終的に断酒に至った例もおり、健康状態の改善も期待されるという(図2)。
同センターには既にアルコール科があり、アルコール依存症者に対し断酒を目標とした治療を行ってきた。
だが、断酒を受け入れなかったり、初めから諦めてしまったり、断酒に至る前に治療を中断してしまう例が少なからず存在した。
そうした中、飲酒による害を減らすという"harm reduction"の概念が提唱され、日本アルコール・アディクション医学会と日本アルコール関連問題学会が昨年改訂した『新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン』では、軽症の依存症で明確な合併症がない場合は、「飲酒量低減が治療目標になり得る」との方針が盛り込まれた(図3)。
一方、重症の依存症者や、身体的、精神的合併症、深刻な家族・社会的問題を有するケースでは断酒に導くことが望ましいが、それを達成しにくい場合は、先述のharm reductionの概念を用い、ひとまず現在生じている飲酒による害を減らすことを支援してもよいとしている。
減酒外来を開設後、患者が約100人増加
同センターの治療実績を見ると、減酒外来開設前の年間受診者数は約800人だったのに対し、開設後の1年間で約100人増えたという。
県外からも断酒に踏み切れなかった軽症の依存症者や多量飲酒者が治療に訪れており、湯本氏は「幅広い層の受診率向上につながっている」と手応えを感じている。
2017年5月〜18年3月の11カ月間に減酒外来を受診した92人(男性81人、女性11人)の背景を見ると、アルコール依存症者は20%で、それ以外は依存症未満だった。平均年齢は45.3歳で、働き盛り世代が中心だという。
受診者層について、同氏は「9割以上は就業しており、飲酒による影響が少なく、社会的機能が保たれている人が多い。
特に社会的地位が高い人は、仕事で成功していれば飲酒による問題があっても仕方ないと見なされ、治療にアクセスしにくい」と説明する。
受診動機で多いのは、「飲酒後に記憶がなくなるブラックアウトが起こり、不安になって来院するケース」だという。
減酒外来では、受診者に対してまず、ICD-10により依存症か依存症未満かを判定するとともに、アルコール使用障害同定テスト(AUDIT)で重症度、飲酒の程度を評価する。
減酒で対応が可能かどうかを確認するのが目的だ。
また、血液検査のデータから、飲酒による健康への影響が出ていないかを調べる。
次に、診断結果を受診者に伝え、治療方針を話し合う。受診者自身が飲酒の量や頻度(休肝日を含む)などの目標を決め、飲酒日記を毎日付けてもらう。1〜2カ月に1回受診し、3回目で治療が終了するという流れだ。
オピオイド受容体に結合して飲酒欲求を抑える新薬
治療の根幹を成すのが心理社会的治療である。
受診者は飲酒が引き起こす問題や依存症という疾患を学ぶとともに、カウンセリングなどを通じ飲酒しない習慣を身に付け、良好な人間関係を構築・維持する方法についてアドバイスを受ける。
その際、補助的に薬剤を用いるが、これまで国内で使用できるものは抗酒薬と飲酒抑制薬という断酒維持を目的とした内服薬に限られていた。
しかし、今春3月には、アルコール依存症者の新たな治療薬として、飲酒量を減らすという従来薬にない効果が期待されるナルメフェンが保険適用になった。
使用に際しては、心理社会的治療と併用する必要がある(図4)。
ナルメフェンは選択的オピオイド受容体調節薬で、飲酒の1〜2時間前に服薬する。
中枢神経系に広く存在するオピオイド受容体に選択的に結合して飲酒欲求を抑えることにより、抵抗感なく飲酒量を抑制する効果がある。
アルコール依存症者約660人を対象に行われた国内第V相臨床試験では、ナルメフェンまたはプラセボを心理社会的治療と併用し、24週間頓用して有効性を検討した。
その結果、プラセボ群に比べてナルメフェン群では、多量飲酒(1日の平均アルコール消費量が男性60グラム超、女性40グラム超)した日数が有意に減少し、その効果は24週間持続した。総飲酒量も有意に減少していた。
有害事象として、ナルメフェン群で悪心、浮動性めまい、傾眠などが報告されたが、多くは軽度または中等度で、長期投与により発現率や重症度が高まるものはなかった。
依存性や離脱症状は認められていない。
ナルメフェンは軽症のアルコール依存症者に有効
湯本氏はナルメフェンの効果が期待される患者像について、「アルコールのリスク評価で、高リスクのアルコール依存症者(アルコール量が男性60グラム以上/日、女性40グラム以上/日)の飲酒量を減らす効果が期待できる。
軽症の依存症者では、心理社会的治療との併用で有効性を発揮する」と期待を示す。
実際、先述の新ガイドラインでは、治療目標を飲酒量低減とした場合、「治療薬物としてナルメフェンを考慮する。
毎日の飲酒量のモニタリングなどの心理行動療法の併用が重要である」との記載がある。
また、同薬は欧州を含む 40カ国以上で承認されている(2018 年11 月現在)ことからも、同氏は「海外でのエビデンスも豊富であり、この薬に対する知識があれば抵抗感なく処方できるのではないか。
減酒をしたいという患者からのニーズがあり、心理社会的治療と併用するという条件の下で、処方が専門医から非専門医に広がる可能性もある」と締めくくった。 (小沼紀子)
転換期迎えるアルコール依存症治療
飲酒量低減薬が登場 2019年03月25日 06:00
自分の意思で飲酒の量や頻度をコントロールできなくなるアルコール依存症。
その治療法は、長らく飲酒を一切行わないことを目的とした「断酒」のみだった。
しかし、飲酒量を減らすという新しいコンセプトに基づく「飲酒量低減薬」が今年(2019年)3月5日に登場したことを機に、治療は大きな転換点を迎えた。
国内初の「減酒外来」を2017年4月に開設した久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)において同外来の担当医師を務める湯本洋介医師に、アルコール依存症治療の現状や課題、国内初となる飲酒量低減薬に対する期待について聞いた。(関連記事:「【飲酒量低減薬】ナルメフェン」)
依存症者は推計107万人、受療者はわずか6万人
アルコール依存症は、通常20〜30年かけて飲酒習慣を続けていく過程で次第に飲酒量が増え、顕在化していく。
かつては依存症者の大半を中年男性が占めていたが、近年は女性が増えており、特に50歳以上での増加が顕著である。
不適切な飲酒は、飲酒者本人に肝障害、膵炎、高血圧、脳出血、うつ病など心身にダメージを与えるだけでなく、家族、パートナーへの暴言や暴力、子供への虐待、飲酒運転など社会的な問題を引き起こす場合もある。
国内のアルコール依存症者数は107万人と推定されるが、治療を受けている人は年間6万人にすぎない。
その理由について、湯本氏は「医療機関の受診には、『アル中』のレッテルを貼られる、強制的に断酒をさせられる、医師に叱られるといったネガティブなイメージがつきまとい、飲酒で問題を抱えている人から敬遠されている。それが受診率の低さに表れている」と指摘する。
多量飲酒者にも減酒のサポートを
世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)の診断基準では、渇望、飲酒行動のコントロール、離脱症状などの6項目のうち、過去1年間で3項目以上当てはまるとアルコール依存症と診断される。
離脱症状とは禁断症状ともいわれ、飲酒を我慢すると手の震えや発汗、いらいら、幻覚などの症状が現れるのが特徴だ。
依存症には至らないが、飲酒後に記憶をなくしたり、飲酒運転をしたり、傷害やDVなどで警察沙汰になる問題を起こす、予備群ともいえる多量飲酒者はもっと数が多い。
予備群も含めたアルコール依存症者は、約440万人に上ると推定されている。
多量飲酒とはどのような状態を指すのか。湯本氏は「恒常的に飲酒量が多く、1日当たりの平均アルコール摂取量が60グラムを超えている人。
ビールジョッキ3杯、日本酒3合分に該当する量である。
将来的に飲酒による健康被害や、生産性の低下などのリスクがあるとされ、飲酒量を減らすというサポートが有効と考えられる」と説明する(図1)。
軽症の依存症などに減酒を推奨
国内のアルコール依存症治療において中核的な役割を担ってきた久里浜医療センターは、依存症者に加えて、軽症者や予備群である多量飲酒者にも間口を広げるため、2017年4月に国内初の「減酒外来」を開設した。
その狙いについて、湯本氏は「アルコールによる問題を抱えている人に、飲酒量を減らすための治療を行うのが目的である。
最終ゴールは断酒だが、治療のハードルを低くすることで受診への抵抗感を減らし、治療への参加を促したいと考えている。
依存症未満(多量飲酒)者が抱えている問題を軽くしたり、依存症に移行するリスクを減らしたりする役割もある」と話す。
減酒治療を経て、最終的に断酒に至った例もおり、健康状態の改善も期待されるという(図2)。
同センターには既にアルコール科があり、アルコール依存症者に対し断酒を目標とした治療を行ってきた。
だが、断酒を受け入れなかったり、初めから諦めてしまったり、断酒に至る前に治療を中断してしまう例が少なからず存在した。
そうした中、飲酒による害を減らすという"harm reduction"の概念が提唱され、日本アルコール・アディクション医学会と日本アルコール関連問題学会が昨年改訂した『新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン』では、軽症の依存症で明確な合併症がない場合は、「飲酒量低減が治療目標になり得る」との方針が盛り込まれた(図3)。
一方、重症の依存症者や、身体的、精神的合併症、深刻な家族・社会的問題を有するケースでは断酒に導くことが望ましいが、それを達成しにくい場合は、先述のharm reductionの概念を用い、ひとまず現在生じている飲酒による害を減らすことを支援してもよいとしている。
減酒外来を開設後、患者が約100人増加
同センターの治療実績を見ると、減酒外来開設前の年間受診者数は約800人だったのに対し、開設後の1年間で約100人増えたという。
県外からも断酒に踏み切れなかった軽症の依存症者や多量飲酒者が治療に訪れており、湯本氏は「幅広い層の受診率向上につながっている」と手応えを感じている。
2017年5月〜18年3月の11カ月間に減酒外来を受診した92人(男性81人、女性11人)の背景を見ると、アルコール依存症者は20%で、それ以外は依存症未満だった。平均年齢は45.3歳で、働き盛り世代が中心だという。
受診者層について、同氏は「9割以上は就業しており、飲酒による影響が少なく、社会的機能が保たれている人が多い。
特に社会的地位が高い人は、仕事で成功していれば飲酒による問題があっても仕方ないと見なされ、治療にアクセスしにくい」と説明する。
受診動機で多いのは、「飲酒後に記憶がなくなるブラックアウトが起こり、不安になって来院するケース」だという。
減酒外来では、受診者に対してまず、ICD-10により依存症か依存症未満かを判定するとともに、アルコール使用障害同定テスト(AUDIT)で重症度、飲酒の程度を評価する。
減酒で対応が可能かどうかを確認するのが目的だ。
また、血液検査のデータから、飲酒による健康への影響が出ていないかを調べる。
次に、診断結果を受診者に伝え、治療方針を話し合う。受診者自身が飲酒の量や頻度(休肝日を含む)などの目標を決め、飲酒日記を毎日付けてもらう。1〜2カ月に1回受診し、3回目で治療が終了するという流れだ。
オピオイド受容体に結合して飲酒欲求を抑える新薬
治療の根幹を成すのが心理社会的治療である。
受診者は飲酒が引き起こす問題や依存症という疾患を学ぶとともに、カウンセリングなどを通じ飲酒しない習慣を身に付け、良好な人間関係を構築・維持する方法についてアドバイスを受ける。
その際、補助的に薬剤を用いるが、これまで国内で使用できるものは抗酒薬と飲酒抑制薬という断酒維持を目的とした内服薬に限られていた。
しかし、今春3月には、アルコール依存症者の新たな治療薬として、飲酒量を減らすという従来薬にない効果が期待されるナルメフェンが保険適用になった。
使用に際しては、心理社会的治療と併用する必要がある(図4)。
ナルメフェンは選択的オピオイド受容体調節薬で、飲酒の1〜2時間前に服薬する。
中枢神経系に広く存在するオピオイド受容体に選択的に結合して飲酒欲求を抑えることにより、抵抗感なく飲酒量を抑制する効果がある。
アルコール依存症者約660人を対象に行われた国内第V相臨床試験では、ナルメフェンまたはプラセボを心理社会的治療と併用し、24週間頓用して有効性を検討した。
その結果、プラセボ群に比べてナルメフェン群では、多量飲酒(1日の平均アルコール消費量が男性60グラム超、女性40グラム超)した日数が有意に減少し、その効果は24週間持続した。総飲酒量も有意に減少していた。
有害事象として、ナルメフェン群で悪心、浮動性めまい、傾眠などが報告されたが、多くは軽度または中等度で、長期投与により発現率や重症度が高まるものはなかった。
依存性や離脱症状は認められていない。
ナルメフェンは軽症のアルコール依存症者に有効
湯本氏はナルメフェンの効果が期待される患者像について、「アルコールのリスク評価で、高リスクのアルコール依存症者(アルコール量が男性60グラム以上/日、女性40グラム以上/日)の飲酒量を減らす効果が期待できる。
軽症の依存症者では、心理社会的治療との併用で有効性を発揮する」と期待を示す。
実際、先述の新ガイドラインでは、治療目標を飲酒量低減とした場合、「治療薬物としてナルメフェンを考慮する。
毎日の飲酒量のモニタリングなどの心理行動療法の併用が重要である」との記載がある。
また、同薬は欧州を含む 40カ国以上で承認されている(2018 年11 月現在)ことからも、同氏は「海外でのエビデンスも豊富であり、この薬に対する知識があれば抵抗感なく処方できるのではないか。
減酒をしたいという患者からのニーズがあり、心理社会的治療と併用するという条件の下で、処方が専門医から非専門医に広がる可能性もある」と締めくくった。 (小沼紀子)
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