2018年12月03日
『良性発作性頭位めまい症』一番多いめまい症です. 脳外科の先生,わかりやすいです
『良性発作性頭位めまい症』一番多いめまい症です.
脳外科の先生,わかりやすいです.
スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草(244)
公開日:2018/10/25 企画・制作 ケアネット
スキンヘッド脳外科医 中島 伸氏が、日々の診療のよしなし事を、そこはかとなく書きつくるエッセー。
大阪より、いとをかしき噺をお届けします。
二百四十四の段 電話を使って一発解決!
つい先日のこと。10年以上前に手術した患者さん(50代、女性)から切羽詰まった様子のメールが来ました。
なんでも1週間ほど前からふらついて困っているとのこと。
最初に耳鼻科にいったら、
「それは頸が原因かもしれないから整形外科だ」と言われ、
整形外科にいったら「頭位性めまいかもしれない」と言われたそうです。
また、現在抗がん剤治療を受けている外科の先生からは
「今使っている薬が原因になっている可能性がないわけではない」
と言われたそうで大混乱しているようでした。
すでに地方の実家に引っ越しておられるので、
大阪まで来てもらうと1泊2日になってしまいます。
それでも実際に診ないことには分かりません。
とりあえず「いつでも都合のつくときに来てください」と
いうメールを返信しました。
メールを送ってから、
ふと「これは直接に話をした方が早いかもしれん」と思い、
携帯電話にかけてみました。
患者「ああ、先生!」
中島「調子悪いですか」
患者「ええ、頭を動かすとふらついてしまって」
中島「ひょっとして頭を動かさなかったら大丈夫とか」
患者「そうですね」
おおっ! 案外、電話だけで決着がつくかも。
良性発作性頭位めまい症、
いわゆるBPPV(Benign Paroxysmal Positional Vertigo)
ではないでしょうか。
中島「頭を左右に動かしたらどうなりますか?」
患者「ええっ? 左右…ですか」
中島「ちょっとやってみましょう。左右確認みたいに」
患者「はい」
中島「まず、右を向いて」
患者「向きました」
中島「次に左を向いて」
患者「はい」
中島「どうですか、目が回りましたか」
患者「何ともありません」
1歩、手がかりに近づいた!
水平半規管型のBPPVではなさそう。
中島「次はね、洗濯物を干すような姿勢を
とってみてください」
患者「やらなくても分かります。
それをするとすごくふらつくんですよ」
中島「おおーっ! では、次に椅子に座って、
靴の紐を結ぶ動作をしてみましょう」
患者「あっとっとっと。目が回ります。すごく回ります!」
どうやら決まりですね。
典型的な後半規管型のBPPVです。
左右の患側を決めることができないのが
いささかもどかしくはありますが。
中島「夜中にトイレに行くときとかどうですか?」
患者「ふらつきます」
中島「顔を洗うときは?」
患者「それもダメです。こけそうになります」
顔を洗うときは必然的に目を閉じるので、
視覚情報が遮断されてふらつきが強くなるわけです。
暗い家の中でトイレに行くときも同じ理屈ですね。
中島「おめでとうございます。治りますよ、それ」
患者「ホントですか!」
中島「いわゆる良性発作性頭位めまい症という奴で、
耳の奥の三半規管に耳石が入り込むことによって
起こるのです」
患者「良、良性? 発作性?」
中島「名前が長いので我々はBPPVと略して
呼んでいますけどね。
三半規管に入り込んだ耳石は
そのうちどこかに出ていってしまうので、
放っておいても勝手に治るんです」
患者「そうなんですか! 薬とかあるんですか?」
中島「ありません。
今年中に治るので大阪にも来なくていいです」
私は通常、初診のBPPVの患者さんに耳石置換は
やっていません。
放っておいても治るからです。
だから、今回もわざわざ大阪まで来てもらう必要も
ありません。
患者「先生、鍼灸とか行ってもいいですか?」
中島「ダメダメダメ! 皮膚の下にね、
脳とおなかをつなぐシャントが入っているんだから、
そんなところを鍼で刺してしまったら手術のやり直し
になってしまいますよ」
患者「分かりました」
何を言い出すやら。ちょっとビビリました。
中島「ちなみに1番ふらつきが強かったときを100とすると、
今日はどのくらいですか?」
患者「ちょっとマシになって70か60くらいです」
中島「それがだんだん良くなるはずですから、
時々メールで症状を教えてください。『50になった』とか『30になった』って」
患者「分かりました!」
というわけで一件落着。
翌日には「安心しました。感謝します」という
お礼のメールが来ていました。
「放っておいても大丈夫!」と力強く言ってあげるのも、
ある意味、立派な医療ではないかと私は思います。
とはいえ、本当に治ってくれるのかな?
今回の顛末については、
あらためて報告させていただこうと思います。
最後に1句
電話聴き 自信を持って 放置する
中島 伸 ( なかじま しん ) 氏
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 脳神経外科、総合診療科
[略歴]
昭和34年神戸市生まれ。昭和59年大阪大学医学部卒業。麻酔科、脳神経外科、放射線科、救急などで研修する。平成6年〜9年の間、米国ボストンのハーバード大学およびブリガム・アンド・ウイミンズ病院に留学した。
脳外科の先生,わかりやすいです.
スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草(244)
公開日:2018/10/25 企画・制作 ケアネット
スキンヘッド脳外科医 中島 伸氏が、日々の診療のよしなし事を、そこはかとなく書きつくるエッセー。
大阪より、いとをかしき噺をお届けします。
二百四十四の段 電話を使って一発解決!
つい先日のこと。10年以上前に手術した患者さん(50代、女性)から切羽詰まった様子のメールが来ました。
なんでも1週間ほど前からふらついて困っているとのこと。
最初に耳鼻科にいったら、
「それは頸が原因かもしれないから整形外科だ」と言われ、
整形外科にいったら「頭位性めまいかもしれない」と言われたそうです。
また、現在抗がん剤治療を受けている外科の先生からは
「今使っている薬が原因になっている可能性がないわけではない」
と言われたそうで大混乱しているようでした。
すでに地方の実家に引っ越しておられるので、
大阪まで来てもらうと1泊2日になってしまいます。
それでも実際に診ないことには分かりません。
とりあえず「いつでも都合のつくときに来てください」と
いうメールを返信しました。
メールを送ってから、
ふと「これは直接に話をした方が早いかもしれん」と思い、
携帯電話にかけてみました。
患者「ああ、先生!」
中島「調子悪いですか」
患者「ええ、頭を動かすとふらついてしまって」
中島「ひょっとして頭を動かさなかったら大丈夫とか」
患者「そうですね」
おおっ! 案外、電話だけで決着がつくかも。
良性発作性頭位めまい症、
いわゆるBPPV(Benign Paroxysmal Positional Vertigo)
ではないでしょうか。
中島「頭を左右に動かしたらどうなりますか?」
患者「ええっ? 左右…ですか」
中島「ちょっとやってみましょう。左右確認みたいに」
患者「はい」
中島「まず、右を向いて」
患者「向きました」
中島「次に左を向いて」
患者「はい」
中島「どうですか、目が回りましたか」
患者「何ともありません」
1歩、手がかりに近づいた!
水平半規管型のBPPVではなさそう。
中島「次はね、洗濯物を干すような姿勢を
とってみてください」
患者「やらなくても分かります。
それをするとすごくふらつくんですよ」
中島「おおーっ! では、次に椅子に座って、
靴の紐を結ぶ動作をしてみましょう」
患者「あっとっとっと。目が回ります。すごく回ります!」
どうやら決まりですね。
典型的な後半規管型のBPPVです。
左右の患側を決めることができないのが
いささかもどかしくはありますが。
中島「夜中にトイレに行くときとかどうですか?」
患者「ふらつきます」
中島「顔を洗うときは?」
患者「それもダメです。こけそうになります」
顔を洗うときは必然的に目を閉じるので、
視覚情報が遮断されてふらつきが強くなるわけです。
暗い家の中でトイレに行くときも同じ理屈ですね。
中島「おめでとうございます。治りますよ、それ」
患者「ホントですか!」
中島「いわゆる良性発作性頭位めまい症という奴で、
耳の奥の三半規管に耳石が入り込むことによって
起こるのです」
患者「良、良性? 発作性?」
中島「名前が長いので我々はBPPVと略して
呼んでいますけどね。
三半規管に入り込んだ耳石は
そのうちどこかに出ていってしまうので、
放っておいても勝手に治るんです」
患者「そうなんですか! 薬とかあるんですか?」
中島「ありません。
今年中に治るので大阪にも来なくていいです」
私は通常、初診のBPPVの患者さんに耳石置換は
やっていません。
放っておいても治るからです。
だから、今回もわざわざ大阪まで来てもらう必要も
ありません。
患者「先生、鍼灸とか行ってもいいですか?」
中島「ダメダメダメ! 皮膚の下にね、
脳とおなかをつなぐシャントが入っているんだから、
そんなところを鍼で刺してしまったら手術のやり直し
になってしまいますよ」
患者「分かりました」
何を言い出すやら。ちょっとビビリました。
中島「ちなみに1番ふらつきが強かったときを100とすると、
今日はどのくらいですか?」
患者「ちょっとマシになって70か60くらいです」
中島「それがだんだん良くなるはずですから、
時々メールで症状を教えてください。『50になった』とか『30になった』って」
患者「分かりました!」
というわけで一件落着。
翌日には「安心しました。感謝します」という
お礼のメールが来ていました。
「放っておいても大丈夫!」と力強く言ってあげるのも、
ある意味、立派な医療ではないかと私は思います。
とはいえ、本当に治ってくれるのかな?
今回の顛末については、
あらためて報告させていただこうと思います。
最後に1句
電話聴き 自信を持って 放置する
中島 伸 ( なかじま しん ) 氏
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 脳神経外科、総合診療科
[略歴]
昭和34年神戸市生まれ。昭和59年大阪大学医学部卒業。麻酔科、脳神経外科、放射線科、救急などで研修する。平成6年〜9年の間、米国ボストンのハーバード大学およびブリガム・アンド・ウイミンズ病院に留学した。
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