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2018年10月21日

HDL-C値が97mg/dLを超える男性および135mg/dLを超える女性の全死因死亡率が高い 高すぎるHDL-C値も「過ぎたるは、及ばざるが如し」だった。

HDL-C値が97mg/dLを超える男性および135mg/dLを超える女性の全死因死亡率が高い
高すぎるHDL-C値も「過ぎたるは、及ばざるが如し」だった。

HDL-C値を上昇させるだけでは、問題は解決しない!
公開日:2018/08/17
採血管のイラスト _ かわいいフリー素材集 いらすとや.jpg


HDL-C: Is It Time to Stop Calling It the 'Good' Cholesterol?
Tricia Ward / Medscape 2018/7/27

HDLコレステロール(HDL-C)といえば、“善玉”コレステロール"
という言葉を思い浮かべる人がほとんどだろう。

しかし、HDL-Cを上昇させる
ナイアシン1) および
コレステロールエステル転送蛋白(CETP)阻害薬2)
などの薬剤で有益な心血管疾患アウトカムは確認されず、
多民族の集団ベース研究では、HDL-C値がきわめて高い集団で
全死因死亡のリスクが高いことを示唆するU字型曲線が示されている。

“善玉”コレステロールという言葉の使用をやめる時期に来ているのだろうか?

Mount Sinai Icahn School of Medicine(ニューヨーク)のRobert Rosenson氏は、
この問いに対して「そのとおりだろう」と応じた。

同氏は、上記のように誤解されがちなHDL粒子の生物学をテーマとした4つの国際的な作業部会の議長を務めている。

同氏は電話による取材で、HDLが心保護作用のある細胞表面タンパク質であることを説明しながらも、
「HDLは、善玉となることもあれば悪玉となることもあり、善玉と悪玉の中間の特性を持つ粒子として機能することもある」と述べた。

同氏は、「心血管リスクを低下させるために、HDL粒子にコレステロールを取り込ませることは誤った治療戦略である」と付け加えた。

初期の試験で得られた手掛かり

皮肉なことに、HDL-Cを上昇させる薬剤に関する初期の試験のうち1件がそれを示唆していた。
Veterans Affairs High-Density Lipoprotein Intervention Trialでは、
ベースラインのHDL-C値が低い男性にgemfibrozilを投与すると、
冠動脈疾患イベントが減少することが示された3) 。

しかし、2006年に実施された、同研究のサブコホートにおける核磁気共鳴(MRI)スペクトル測定法を用いた症例対照研究で、HDL-C値の緩やかな上昇の裏には、全HDL粒子、とくに相対的にコレステロールの少ない小さなHDL粒子の増加があることが明らかになった4)。

著者らは、「HDL粒子の数が多くなると、より多くのコレステロール排出が促進されるようになり、LDLの酸化変性からの保護につながるかもしれない」と推測しているが、この理論に対して、論説委員らは疑念を抱いた5)。

コペンハーゲンの2つの集団ベースコホートに登録されている10万人以上から得られた最近のデータでは、HDL-C値が97mg/dLを超える男性および135mg/dLを超える女性の全死因死亡率が高いことが示された6)。

この結果は、63万人以上が登録されているカナダの大規模コホートで得られた結果を反映しており、
このカナダ人コホートでは、
空腹時のHDL-C値が70mg/dLを超える男性および90mg/dLを超える女性で非心血管死のリスクが高かった7)。

本コホートの研究者らは、HDL-Cの極端な高値は、機能不全HDLを反映したものであるという仮説を立てた。

Rosenson氏は、いつ何時でもHDL-C値が重要視されることについて警鐘を鳴らしている。

同氏は、「重要なのはHDL粒子の数であって、コレステロールの含有量ではない」と述べた。

ロサンゼルス生物医学研究所のMatthew Budoff氏は、「HDL粒子の総数が、抗動脈硬化作用の優れた尺度であることに同意する」と電話による取材で述べた。

同氏は、HDL-Cの極端な高値が必ずしも悪い状態を示しているわけではないと考えており、このことを説明するために、卓球またはバスケットボールの球で満たされた樽を例にしてHDL-Cを立体的に表現した。

「HDL-C値が極端に高くても、多数の[小さな]HDL粒子を保有している人たちは保護されているが、HDL-C値が極端に高いうえに[小さな]HDL粒子がきわめて少ない人たちもいる」。

機能不全は、HDL-C値からは独立していると考えられる8)。

Budoff氏は、今のところ“善玉”コレステロールおよび“悪玉”コレステロールという言葉の使用を控えるつもりはないという。

なぜなら、これらの言葉は、総コレステロール値だけでは正確な評価が難しいことを患者に理解してもらうのに役立つことがわかっているからである。

同氏は、「95%の人たちにとって、[HDL-Cは]“善玉”である」と述べた。

“善玉”の意味を考える

HDL-C値の基準値は通常、

男性では40mg/dL未満、
女性では50mg/dL未満と定義されているが、

HDL-C値と冠動脈疾患との間に逆相関を認めると明らかにされたことによって9)、

HDL-C値の低下を促進する薬剤に関する研究に拍車が掛かった。

しかし、HDL-C値はライフスタイルの指標にすぎないとRosenson氏は考えており、

「HDL-C値が低い傾向が認められるのは、
運動量が多く、体重が少なく、タバコを吸わない人たちである」と述べた。

HDLが高く評価されている主な理由は、

コレステロールの逆輸送においてHDLが重要な役割を果たしているためであり、
HDLは、まるでロボット掃除機のルンバのように、コレステロールをマクロファージから吸い上げる。

さらに、HDLには抗炎症作用10) および抗血栓作用11) があり、内皮細胞機能不全を改善する作用12)もある。

このことから、HDL-CではなくHDL機能の測定を重要視すべきといわれるようになった13)。

HDLのコレステロール排出効率の測定による心血管イベントの予測能は、HDL-C値の測定よりも高いことが示されている14)。

しかし、HDLのコレステロール排出効率の測定法は臨床的に利用可能ではなく、これらの測定法またはHDLの機能をさまざまな観点から測定するその他の測定法に関する国際標準は存在しない。

何が機能不全HDLの引き金となっているのだろうか?

急性冠症候群15)、糖尿病または全身性炎症などの身体状態が、HDL粒子を心保護作用のある粒子から炎症およびLDL酸化を促進する粒子に変化させる可能性があることが、かなり以前から知られている16)。

Budoff氏およびフェローの治験責任医師らは、閉経期への移行も、HDL粒子を変化させる身体状態のリストに追加する必要があることを示唆している。

MESA studyの主要コホートでは、HDL-Cと冠動脈疾患(CAD)および頸動脈内膜中膜複合体厚(cIMT)との間に逆相関が認められた17)。

その一方で、閉経後の女性約1,500例では、HDL-CとcIMTの増加との間に正相関が認められた18)。

MRIによる分析では、小さなHDL粒子は、大きなHDL粒子と比較して閉経期の有害な変化による影響を受けにくいことも示されている。

HDL粒子は、男性および女性のcIMTと逆相関を示し、この逆相関は、アテロームを形成する粒子で補正した後も維持された。

何を測定すべきか?

HDL機能の検査に最も適したプライムタイムにこの検査の準備ができていない場合には、HDL亜分画の測定が最善の方法かもしれない。

その理由として、コレステロールが枯渇している微小なHDL粒子が、コレステロールの排出において一番重要な役割を果たしている可能性が挙げられる19)。

Rosenson氏は、HDL亜分画を測定する方法について、単純化されすぎていると認識しており、HDLには多くのサブクラスが存在し、これらを密度によって正確に識別することは不可能であると警告した。

HDLに関連するタンパク質は60種類を超えているが、ごく少量のコレステロールしか運べない粒子がほとんどである。

どのタンパク質にどのような特性があるのかについても、十分に解明されていない。

「HDL-Cを上昇させる治療法の欠点は、HDL粒子にコレステロールを取り込ませることによって、心保護において重要な役割を果たしている表面タンパク質の一部が失われてしまう点である」と同氏は指摘した。

non HDL-Cは、アテロームを形成するすべての粒子を捕捉することから、
Budoff氏およびRosenson氏はともにnon HDL-Cを高く評価している。

しかし、機能不全HDL-Cである可能性のある物質の数値がきわめて高い患者の場合はどうだろうか?

Budoff氏は、「LDL-Cが高値、HDL-Cが異常高値で、そのリスクを予測できない患者を担当する場合は、HDL粒子の数を測定する」と説明した。

このようなHDL粒子の検査キットはすでに市販されている。

さらに同氏は、該当する女性患者(同氏は、HDL-Cが100mg/dLを超えている男性を診察した覚えがない)に対しては、カルシウム値の測定を行うことも提案している。

「冠動脈内の沈着物が少なく、きれいな状態であるならば、HDLが機能していると考えられるだろう」と同氏は述べた。

その一方で、本稿で述べたHDLに関する仮説が当てはまらないケースもある。

最近の論説では、「疾患の予防因子または原因としてのHDLの役割について、まだ解明されていないことが多い13)」ことが指摘されている。

Rosenson氏は、個人的には、いわゆる“善玉”コレステロールよりもHDL粒子に着目することによって、これまでの認識をリセットし、再スタートを切りたいと考えている。

Drs Rosenson and Budoff reported no relevant financial relationships.

References

1.HPS2-THRIVE Collaborative Group, Landray MJ, Haynes R et al. Effects of extended-release niacin with laropiprant in high-risk patients. N Engl J Med. 2014;371:203-212.
2.Barter PJ, Caulfield M, Eriksson M, et al; ILLUMINATE Investigators. Effects of torcetrapib in patients at high risk for coronary events. N Engl J Med. 2007;357:2109-2122.
3.Rubins HB, Robins SJ, Collins D, et al. Gemfibrozil for the secondary prevention of coronary heart disease in men with low levels of high-density lipoprotein cholesterol. Veterans Affairs High-Density Lipoprotein Cholesterol Intervention Trial Study Group. N Engl J Med. 1999;341:410-418.
4.Otvos JD, Collins D, Freedman DS, et al. Low-density lipoprotein and high-density lipoprotein particle subclasses predict coronary events and are favorably changed by gemfibrozil therapy in the Veterans Affairs High-Density Lipoprotein Intervention Trial. Circulation. 2006;113:1556-1563.
5.Barter PJ, Rye KA. Cardioprotective properties of fibrates: which fibrate, which patients, what mechanism? Circulation. 2006;113:1553-1555.
6.Madsen CM, Varbo A, Nordestgaard BG. Extreme high high-density lipoprotein cholesterol is paradoxically associated with high mortality in men and women: two prospective cohort studies. Eur Heart J. 2017;38:2478-2486.
7.Ko DT, Alter DA, Guo H, et al. High-density lipoprotein cholesterol and cause-specific mortality in individuals without previous cardiovascular conditions: the CANHEART Study. J Am Coll Cardiol. 2016;68:2073-2083.
8.Rosenson RS, Brewer HB Jr, Ansell BJ, et al. Dysfunctional HDL and atherosclerotic cardiovascular disease. Nat Rev Cardiol. 2015;13:48.
9.Gordon T, Castelli WP, Hjortland MC, Kannel WB, Dawber TR. High density lipoprotein as a protective factor against coronary heart disease. The Framingham Study. Am J Med. 1977;62:707-714.
10.Barter PJ, Nicholls S, Rye KA, Anantharamaiah GM, Navab M, Fogelman AM. Antiinflammatory properties of HDL. Circ Res. 2004;95:764-772.
11.Mineo C, Deguchi H, Griffin JH, Shaul PW. Endothelial and antithrombotic actions of HDL. Circ Res. 2006;98:1352-1364.
12.Bisoendial RJ, Hovingh GK, Levels JH, et al. Restoration of endothelial function by increasing high-density lipoprotein in subjects with isolated low high-density lipoprotein. Circulation. 2003;107:2944-2948.
13.Barter PJ, Rye KA. HDL cholesterol concentration or HDL function: which matters? Eur Heart J. 2017;38:2487-2489.
14.Rohatgi A, Khera A, Berry JD, et al. HDL cholesterol efflux capacity and incident cardiovascular events. N Engl J Med. 2014;371:2383-2393.
15.Besler C, Heinrich K, Rohrer L, et al. Mechanisms underlying adverse effects of HDL on eNOS-activating pathways in patients with coronary artery disease. J Clin Invest. 2011;121:2693-2708.
16.Ansell BJ, Fonarow GC, Navab M, Fogelman AM. Modifying the anti-inflammatory effects of high-density lipoprotein. Curr Atheroscler Rep. 2007;9:57-63.
17.Mackey RH, Greenland P, Goff DC, Jr, Lloyd-Jones D, Sibley CT, Mora S. High-density lipoprotein cholesterol and particle concentrations, carotid atherosclerosis, and coronary events: MESA (multi-ethnic study of atherosclerosis). J Am Coll Cardiol. 2012;60:508-516.
18.El Khoudary SR, Ceponiene I, Smmargandy S, et al. HDL (high density lipoprotein) metrics and atherosclerotic risk in women: do menopause characteristics matter? MESA. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2018 Jul 19. [Epub ahead of print]
19.Rosenson RS, Brewer HB Jr, Davidson WS, et al. Cholesterol efflux and atheroprotection: advancing the concept of reverse cholesterol transport. Circulation. 2012;125:1905-1919.
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元消化器外科医で,頭からつま先まで診れる総合診療科医です. 医学博士 元日本外科学会認定指導医・専門医, 元日本消化器外科学会認定指導医・専門医, 元日本消化器内視鏡学会専門医, 日本医師会認定産業医, 日本病理学会認定剖検医,
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