くさよの部屋

こちらです。あ、どうぞ

あの、城西署の矢口ですけれども
江上検事いらっしゃいますか？

あ、どうも
うちの江上が何か？

江上さんから　ここに来るようにって言われたんですけどね

あいつどこいったんだ？

いや分かんない

さあ

申し訳ありません　少々お待ちいただけますか？

しかし、被疑者が自殺するなんて、残念な結果に終わりましたね


あ、矢口さん

どうも

あ、そうだ。
警察の人たちって　やっぱり　あの
空手とか柔道とか剣道とか　やってるんですか？

あ？

いやいやいや、うちらやっぱ検察官ってダメなんですよね　やってないから
いざっていう時に
こないだなんかもう　うちの江上っていう検察官がいるんですけど、
ふふふ、ほら　榎本さんが　あの例の暴行犯に間違えられて
こいつに思いっきり投げ飛ばされちゃったんですよ

あんた何言ってんすか

え？　
いや
榎本さんがね、まだ犯人が生きてるって思ってたみたいで

そんなはずはないでしょう、暴行犯の古田は、自殺したんだよ？

ええ
なんですけど、実はねぇ、
彼、自殺する前に、自分のところに連絡くれたんですよ。
それで、
２度目の事件があった時には、
ちょうど函館にあるお母さんのお墓参りに行ってたみたいなんですよね

でたらめに決まってんでしょう

それがホントなんですよ

久利生さんが函館まで行って証人も見つけてきたんです

お前そんなところまで行ったのか！？

え？

証人なんてどうでもなりますよ。なんか物的証拠があったんすか？

ありません。
ないんですよね〜。
古田がね電話で持ってるって言ってたエアチケットの半券が、ないんですよ。
矢口さん見ませんでした？

見ませんよ！

じゃあ、誰かが捨てちゃったのか

久利生検事

はい？

あんたどうしても古田が犯人じゃないって言いたいんですか？

矢口さんもそう思ってるんでしょ？
いつですか確信したの、彼が犯人じゃないって。
自殺する前じゃないすか？

馬鹿な、何を根拠にそんな、デタラメ言ってんだよ！

どうぞ

榎本さんが全部しゃべってくれました
榎本さんはね、２度目に襲われた時に、
男の腕に傷があったのを見て、犯人は古田じゃないって確信したそうです。
古田には、そんな傷ありませんでしたよね？

あなたはそれを知った上で、彼を追い詰めちゃったんですね

言い掛かりも甚だしいよ！

矢口さん、もうやめましょうよ

どうかしてるよ！
こんな、こんな検事の言うこと信用するんですか！？
なんだよ
もうこんな事件終わったんだよ、
被疑者が死んだような事件、いまさら蒸し返してどうするんだよ！


あんたが殺したようなもんだろうがよ！

久利生さん！

久利生！


俺たちみたいな仕事ってな、人の命奪おうと思ったら簡単に奪えんだよ！
あんたら警察も、俺ら検察も、そしてマスコミも！
これっぽっちの保身の気持ちでな、ちょっと気ぃ緩めただけで、
人を簡単に殺せんだよ！
俺らは　そういうこと忘れちゃいけないんじゃないんすか？

誰でも最初は、そう思ってたんだよ。
でもな、現実は　そうはいかないんだよ。
そんなの、ただの理想だよ！

理想を持って仕事しちゃいけないんですか！？

矢口さん。我々検事が着けている、このバッチの意味をご存知ですか？

秋霜烈日って、ご存じですよね。
秋に降りる冷たい霜と、夏の強い日差しを表している。
それは、権力を持たされた我々に、人を罰する仕事の、厳しさを教えている。
言わば、検事の理想の有り方みたいなものなんです。
我々は　その理想を胸に、検事をやってるんですよ


我々は警察に、真犯人の再捜査を強く要請します
一緒に　ここで待っていただけますね？
警察の方の到着を

矢口さん
改めて
被疑者　古田晋一を　不起訴処分にします　
いいっすね？