2018年10月13日
『羽化のとき』 第四話 30歳のヴァージン
『羽化のとき』 第四話
○駅・全景
○同・階段
花が階段を下りていく。
盲目の少年(16)が立っている。
少年「すいません」
花「はい?」
少年「ちょっとお手伝いしてくれませんか?」
花「いいですよ」
少年「ありがとうございます」
少年は白い杖を畳んで、花の手を握る。
花は驚く。
少年「大丈夫ですか?」
花「(大丈夫じゃない)ええ」
少年「家の近くまで連れていってもらえませんか?」
花「(嫌そうに)わかりました」
花は握られた手を離そうとするが、少年が握り返す。
ぎこちなく歩き出す二人。
○道
少年と花が体をぴったりとくっつけて歩いている。
花「こっちの方ですか?」
少年「そうです。川沿いです」
少年が花の腰に触る。
花はびくっとする。
少年「大丈夫ですか?」
花「(大丈夫じゃない)へえ」
少年は花に抱き付く。
花は固まる。
少年「電話番号教えてください」
花「(ショック)それはできません」
少年「僕のこと嫌いですか?」
花「そういうわけじゃありません」
神谷が現れる。
神谷「だいじょうぶ?」
神谷は花の腕をつかむ。
花は驚く。
花「あ、はい(助けて)」
少年は、花から体を離す。
少年「ここでいいです。ありがとうございました」
花「あ、ありがとうございました(気が動転)」
少年は白い杖をついて行ってしまう。
花は疲れた表情。
神谷「だいじょうぶ?」
花「だいじょうぶじゃないです」
○喫茶店「オリジナル」・中
花と神谷がお茶している。
神谷「だまされたんだな」
花「やっぱり」
神谷「そういう子、専門の風俗とかあるんだぜ。思春期は難しい。かわいそうだな」
花「うん。かわいそうだけど。私、ボランティアは向いてないみたい」
神谷「ボランティア?」
花「そう。ボランティア。なんか手を握られたときに生理的に受け付けないっていうか、
体を押し付けられて、よっかかられて、重いって思っちゃった」
神谷「そら、誰だって重いよ」
花「私、お金をもらって何かする方が向いてるみたい」
神谷「余裕がないんだね」
花「ないない」
神谷「ないものづくしだね」
花「うるさい」
神谷「脚本できた?」
花「一応」
神谷「やるじゃん。送ってよ」
花「アドレス教えてください」
神谷は花に名刺を渡す。
○関東ブレストセンター・診察室
医師(40)と、花が話している。
医師「手術すれば治りますよ」
花「本当ですか?」
医師「初期の初期なので、簡単な手術で済みますよ」
花「ちょっと考えさせてください」
医師「早く決めてくださいね」
花「すみません」
X線画像を見つめる花。
○墓地
花が歩いている。
若い夫婦がお墓参りしている。
若い夫婦を眺めている花。
若い夫婦がお参りしているのは水子の墓である。花は墓を見つめる。
花は若い夫婦に会釈をして通り過ぎる。
○花の部屋(夜)
パソコンに向かって脚本を書いている花。
だんだん夜が明けてくる。
○デパート・全景
○同・洋服売り場
花が、洋服を物色している。
店員Bが近づいてきて、
店員B「何かお探しですか?」
花「美しく見える服を」
店員B「十分お美しいですよ」
花、笑う。
○イメージ
さなぎの背中が割れて、蝶が出てくる。
○喫茶店「オリジナル」
花と神谷が打ち合わせしている。
花は前よりあか抜けている。
神谷「変わったね」
花「だいぶ書き換えました」
神谷「あなたのこと」
花照れる。
神谷「なんかいいことあった?」
花「ぜんぜん。いいことなんかひとつもないです」
神谷「ひとつもってことはないんじゃないの?」
花は腕時計を触る。
花「お墓参りにいったときに……」
神谷「お墓参り?」
花「若いご夫婦がいたんです。とっても幸せそうだなって、うらやましいなって思った。
でも、お子さんを亡くされたみたいで。もしかしたら私の勘違いかもしれないけど。
お子さんを亡くされた悲しみに比べたら私の悩みなんてちっぽけだな、と思ってちょっと気持ちが楽になったっていうか。
すごく不謹慎で申し訳ないんですけど」
神谷「だれでもそうなんじゃないかな。人の不幸は我が身の幸せ、じゃないけど」
花「監督も、他人と自分を比べたりすることあるんですか?」
神谷「ないよ」
花「ですよね〜」
神谷「花はあれだろ、新聞の人生相談が好きなタイプだろ?」
花、図星。
花「人生相談は、キャラクターの研究になるんです」
神谷は鼻で笑う。
花「つまんないですよね。私と話してても」
神谷「つまんないね。セックスでもする?」
花「!」
神谷は笑う。
花「私みたいなオバサンは嫌いなんじゃないんですか?」
神谷「セックスはスポーツだから」
花「スポーツって……」
花は腕時計を触る。
神谷はそれを見る。
○マンション「ローズバッド」外観(夜)
○同・花の部屋(夜)
アダルトビデオを見ている花。
下着の中に手を入れている。
鏡に映る自分の姿を見る花。
つづく
※このドラマはフィクションです。
齋藤なつ
○駅・全景
○同・階段
花が階段を下りていく。
盲目の少年(16)が立っている。
少年「すいません」
花「はい?」
少年「ちょっとお手伝いしてくれませんか?」
花「いいですよ」
少年「ありがとうございます」
少年は白い杖を畳んで、花の手を握る。
花は驚く。
少年「大丈夫ですか?」
花「(大丈夫じゃない)ええ」
少年「家の近くまで連れていってもらえませんか?」
花「(嫌そうに)わかりました」
花は握られた手を離そうとするが、少年が握り返す。
ぎこちなく歩き出す二人。
○道
少年と花が体をぴったりとくっつけて歩いている。
花「こっちの方ですか?」
少年「そうです。川沿いです」
少年が花の腰に触る。
花はびくっとする。
少年「大丈夫ですか?」
花「(大丈夫じゃない)へえ」
少年は花に抱き付く。
花は固まる。
少年「電話番号教えてください」
花「(ショック)それはできません」
少年「僕のこと嫌いですか?」
花「そういうわけじゃありません」
神谷が現れる。
神谷「だいじょうぶ?」
神谷は花の腕をつかむ。
花は驚く。
花「あ、はい(助けて)」
少年は、花から体を離す。
少年「ここでいいです。ありがとうございました」
花「あ、ありがとうございました(気が動転)」
少年は白い杖をついて行ってしまう。
花は疲れた表情。
神谷「だいじょうぶ?」
花「だいじょうぶじゃないです」
○喫茶店「オリジナル」・中
花と神谷がお茶している。
神谷「だまされたんだな」
花「やっぱり」
神谷「そういう子、専門の風俗とかあるんだぜ。思春期は難しい。かわいそうだな」
花「うん。かわいそうだけど。私、ボランティアは向いてないみたい」
神谷「ボランティア?」
花「そう。ボランティア。なんか手を握られたときに生理的に受け付けないっていうか、
体を押し付けられて、よっかかられて、重いって思っちゃった」
神谷「そら、誰だって重いよ」
花「私、お金をもらって何かする方が向いてるみたい」
神谷「余裕がないんだね」
花「ないない」
神谷「ないものづくしだね」
花「うるさい」
神谷「脚本できた?」
花「一応」
神谷「やるじゃん。送ってよ」
花「アドレス教えてください」
神谷は花に名刺を渡す。
○関東ブレストセンター・診察室
医師(40)と、花が話している。
医師「手術すれば治りますよ」
花「本当ですか?」
医師「初期の初期なので、簡単な手術で済みますよ」
花「ちょっと考えさせてください」
医師「早く決めてくださいね」
花「すみません」
X線画像を見つめる花。
○墓地
花が歩いている。
若い夫婦がお墓参りしている。
若い夫婦を眺めている花。
若い夫婦がお参りしているのは水子の墓である。花は墓を見つめる。
花は若い夫婦に会釈をして通り過ぎる。
○花の部屋(夜)
パソコンに向かって脚本を書いている花。
だんだん夜が明けてくる。
○デパート・全景
○同・洋服売り場
花が、洋服を物色している。
店員Bが近づいてきて、
店員B「何かお探しですか?」
花「美しく見える服を」
店員B「十分お美しいですよ」
花、笑う。
○イメージ
さなぎの背中が割れて、蝶が出てくる。
○喫茶店「オリジナル」
花と神谷が打ち合わせしている。
花は前よりあか抜けている。
神谷「変わったね」
花「だいぶ書き換えました」
神谷「あなたのこと」
花照れる。
神谷「なんかいいことあった?」
花「ぜんぜん。いいことなんかひとつもないです」
神谷「ひとつもってことはないんじゃないの?」
花は腕時計を触る。
花「お墓参りにいったときに……」
神谷「お墓参り?」
花「若いご夫婦がいたんです。とっても幸せそうだなって、うらやましいなって思った。
でも、お子さんを亡くされたみたいで。もしかしたら私の勘違いかもしれないけど。
お子さんを亡くされた悲しみに比べたら私の悩みなんてちっぽけだな、と思ってちょっと気持ちが楽になったっていうか。
すごく不謹慎で申し訳ないんですけど」
神谷「だれでもそうなんじゃないかな。人の不幸は我が身の幸せ、じゃないけど」
花「監督も、他人と自分を比べたりすることあるんですか?」
神谷「ないよ」
花「ですよね〜」
神谷「花はあれだろ、新聞の人生相談が好きなタイプだろ?」
花、図星。
花「人生相談は、キャラクターの研究になるんです」
神谷は鼻で笑う。
花「つまんないですよね。私と話してても」
神谷「つまんないね。セックスでもする?」
花「!」
神谷は笑う。
花「私みたいなオバサンは嫌いなんじゃないんですか?」
神谷「セックスはスポーツだから」
花「スポーツって……」
花は腕時計を触る。
神谷はそれを見る。
○マンション「ローズバッド」外観(夜)
○同・花の部屋(夜)
アダルトビデオを見ている花。
下着の中に手を入れている。
鏡に映る自分の姿を見る花。
つづく
※このドラマはフィクションです。
齋藤なつ
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