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2024年01月09日

横溝利一の『蝿』の執筆脳について9

4 まとめ

 横光利一の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「蝿」のLのストーリーをデータベース化して、最後に特定したところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

片野善夫 ほすぴ162号 日本成人病予防協会 2018
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風社 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社  2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 フランツ・カフカの"Die Verwandlung"の執筆脳について ファンブログ 2020
横光利一 蝿 青空文庫 

横溝利一の『蝿』の執筆脳について8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2

A:情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B:情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C:情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
D:情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。 

結果 横光利一は、この場面で真実を理解しているのは大きな目をした蝿だけで、新情報がテンポよく流れるも問題は未解決のままとし、読み終えて誰もが考えるように工夫している。そのため「蝿の眼と真実」と「観察と思考」という組が相互に作用する。

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より

横溝利一の『蝿』の執筆脳について7

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)
 
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の反応である。
 
情報の認知2(記憶と学習)
 
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)
 
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。 

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より

横溝利一の『蝿』の執筆脳について6

分析例

1 馬車が滑落する場面。
2 この小論では、「蝿」の購読脳を「蝿の眼と真実」と考えているため、意味3の注意ありなしに注目する。 
3 意味1 @視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3振舞い @直示A隠喩B記事なし、意味4注意@ありAなし、4 人工知能 @観察、A思考 
  
テキスト共生の公式

ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「蝿の眼と真実」を作る。
ステップ2:蝿の眼を通した「観察と思考」という組を作り、解析の組と合わせる。

A:@視覚+B哀+@直示+A注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した@観察ありとA思考なしという組と合わせる。 
B:「@視覚+A聴覚」+B哀+@直示+A注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した@観察ありとA思考なしという組と合わせる。
C:「@視覚+B味覚」+B哀+@直示+A注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した@観察ありとA思考なしという組と合わせる。 
D:@視覚+B哀+@直示+A注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した@観察ありとA思考なしという組と合わせる。
E:「@視覚+A聴覚」+B哀+@直示+A注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した@観察ありとA思考ありという組と合わせる。

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より

横溝利一の『蝿』の執筆脳について5

【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ 馬車が滑落する場面

A 馭者台では鞭が動き停った。農婦は田舎紳士の帯の鎖に眼をつけた。「もう幾時ですかいな。十二時は過ぎましたかいな。街へ着くと正午過ぎになりますやろな。」
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

B 馭者台では喇叭が鳴らなくなった。そうして腹掛けの饅頭を、今や尽ことごとく胃の腑の中へ落し込んでしまった馭者は、一層猫背を張らせて居眠り出した。その居眠りは、馬車の上から、かの眼の大きな蠅が押し黙った数段の梨畑を眺め、真夏の太陽の光りを受けて真赤に栄えた赤土の断崖を仰ぎ、突然に現れた激流を見下して、そうして馬車が高い崖路の高低でかたかたときしみ出す音を聞いてもまだ続いた。
意味1 1+2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

C しかし、乗客の中で、その馭者の居眠りを知っていた者は、僅かにただ蠅一疋であるらしかった。蠅は車体の屋根の上から、馭者の垂れ下った半白の頭に飛び移り、それから、濡れた馬の背中に留とまって汗を舐めた。 意味1 1+3、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

D 馬車は崖の頂上へさしかかった。馬は前方に現れた眼匿しの中の路に従って柔順に曲り始めた。しかし、そのとき、彼は自分の胴と、車体の幅とを考えることは出来なかった。一つの車輪が路から外れた。突然、馬は車体に引かれて突き立った。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

E 瞬間、蠅は飛び上った。と、車体と一緒に崖の下へ墜落して行く放埒な馬の腹が眼についた。そうして、人馬の悲鳴が高く一声発せられると、河原の上では、圧し重なった人と馬と板片との塊りが、沈黙したまま動かなかった。が、眼の大きな蠅は、今や完全に休まったその羽根に力を籠めて、ただひとり、悠々と青空の中を飛んでいった。 意味1 1+3、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1+2

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より

横溝利一の『蝿』の執筆脳について4

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】

表1 「蝿」のデータベースのカラム
文法1 名詞の格 横光の助詞の使い方を考える。
文法2 態  能動、受動、使役。
文法3 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1  五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2  喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3  振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
意味4 思考の流れ 注意ありなし。
意味5 数字 作品からとれる数字。 
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「蝿の眼と真実」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 エキスパートシステム 1観察、2思考。

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より

横溝利一の『蝿』の執筆脳について3

 ところが鞭や喇叭が鳴らなくなった。馭者が居眠りを始めた。蝿は、梨畑を眺め、真夏の太陽の光りを受けた赤土の断崖を仰ぎ、激流を見下した。馭者の居眠りを知っていた者は、この蝿だけである。蝿は車体の屋根の上から、馭者の半白の頭に飛び移り、それから、濡れた馬の背中に留まって汗を舐めた。 
 一つの車輪が路から外れた。蝿は飛び上った。車体と一緒に崖の下へ墜落して行く馬の腹が眼についた。そして、人馬の悲鳴が高く一声発せられると、河原の上では、圧し重なった人と馬の塊りが、沈黙したまま動かなかった。眼の大きな蠅は、今や完全に休まったその羽根に力を籠めて、ただひとり、悠々と青空の中を飛んでいった。
 つまり、蝿と乗客の視覚情報は、全く異なるものになった。そして、順調に街に辿り着くと思っていたところに、突然、脱輪から滑落事故が起こり死亡するというフィナーレが来る。非線形ともいえるため、カオス理論に通じる作品と考えることができる。  
 その場に居合わせた人は、真実の理解からほど遠く、第三者、ここでは大きな目の蝿が真の理解者である。「蝿」の購読脳は、「蝿の眼と真実」にする。
 通常、五感情報の80%以上が視覚情報といわれる。片野(2018)によると、目で見たものは、物体から跳ね返ってくる光を受け取り物体の色や形、大きさ、立体感などを認識している。大きな目の蝿が見たものは、物体から跳ね返ってくる光を受け取り物体の色や形、大きさ、立体感などの認識になっている。
 こうすると、「蝿」の執筆脳は、「観察と思考」と見なされ、心の活動を脳の働きと考えた場合、シナジーのメタファーは、「横光利一と観察としての思考」になる。
 埼玉県所沢市にあるトトロの森を舞台にしたアニメーションの監督、宮崎駿も森に生息する昆虫の眼から見た現実世界の観察を研究している。

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より

横溝利一の『蝿』の執筆脳について2

2 「蝿」の思考によるLのストーリー  

 横光利一(1898−1947)は、場面のイメージが掴めるような感覚表現を用いて新しい文体を作り出し、新しい文芸時代のための貢献を試みた。ここでは、横光利一の「蝿」(1923)を題材にする。「蝿」は、眼の大きな一匹の蝿が蝿の眼で田舎の宿場の様子や乗客たちを分析するときの話である。無論、客観性を上げるためである。
 宿場には、街で仕事をしている倅が死にかけている農婦、荷物を持った駆け落ち組の若い男女がやってきた。さらに、母親に連れられた男の子、四十三歳で春蚕の仲買人をしている田舎紳士も宿場に加わった。 
二番の馬車は、10時に出る。馭者は、饅頭を腹掛けの中へ押し込み、馭者台に乗った。喇叭が鳴り、鞭が入る。眼の大きな例の蝿は、馬の腰の余肉の匂いの中から飛び立った。そして、車体の屋根の上にとまり直ると、漸く蜘蛛の網からその生命をとり戻した身体を休めて、馬車と一緒に揺れていった。初期値敏感性で見ると、蝿の目に映る馬車からの光景は、乗客と変わらない。 
 動物や昆虫から見た現実世界を描いた作家は他にもいる。フランツ・カフカである。「変身」は、起きたときに大きな害虫に変わっていたグレゴール・サムサがやはり虫の眼で家族の様子を観察している。観察している以上、視覚情報が重要である。

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より

横溝利一の『蝿』の執筆脳について1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 なお、メゾのデータを束ねて何やら観察で予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール