こんな時にキンキンに焼けた磯に立つのは、いくら釣り好きのぼくでもしりごみする。
しかし、9月の風が吹いて30度を下回る日が続いた途端、虫がうずきだした。
「涼しい部屋でいっぱい飲んで、シメはラーメン♪」なんてのもいいけど、やはり磯に行きたい!
朝の香りを感じながら、これだという穴にピトンをねじこむ。
ビッと水平線をにらみつけた愛竿が、重力とも遠心力とも違う「意思のある何か」の強引な力で、それは美しい弧を描き、純白の穂先がそれとは正反対の黒く深い海底に向かって突き刺さる所が見たい。。
いや、違う。
いまは、とにかく磯に立ちたい。
だけど、まだまだ磯は暑く、良い釣果も無い。
やはり誘えない・・・。
磯に立ちたい。
どうせなら、同じ価値観を共有できる仲間と磯に立ちたい。
よし。
新たに仲間を作ればいい。
銭は無いけど、ヒマなら、いくらでもある。
インターネットで同行者を募集しよう。
「やるなら今しかねぇ」の家訓に従い、ぼくは、すぐに同行者募集を投稿した。
今日、ぼくは、狙ったポイントに仕掛けを入れた。
あとは息をとめて、その時を待つだけ。。
ある朝、新着メールに都内在住の30歳男性から、釣行予定の問い合わせがあった。
いつも大島に単独釣行しているが、まだ石モノを釣ったことがないとの事。
ぼくの簡単な自己紹介と、釣行スタイルとして、三宅をホームグラウンドに、ほぼ一年中、底モノを追っている事を伝えた。
そして、三宅の魅力と、底モノへの熱い想いをたっぷりとメールにのせて送信のボタンを押す。
マキエは入れた。
これで、カブセも十分なはず。
喰うか・・・。
すぐに連絡はあった。
三宅に行きたい。底モノを釣りたいと。
よし食いついた。
丁寧に、日程やスケジュールの詳細を伝え、段取りを行う。
今回は9キロオーバーを2枚も釣っている竜宮会の山里会長と、魚信さんばりに釣り全国行脚中の竜宮会「釣りキチ三平」こと渋尾さんと東海汽船で同行。
この二人の武勇伝を聞いて、平常心で居られる釣り人は居ない。
確かに最初は自由に動ける。
しかし、カンヌキを貫いた針は外れない。
まずハマる。
これは間違い無い。
もう底モノ釣りから逃れる事はできない。
ようこそ。無限に続く満たされない幸せの世界へ。
9月最後の連休、竹芝発の東海汽船で三宅に向けて出港した。
ダイビングと観光客で混雑する汽船のラウンジの角に腰を落ち着けビールで乾杯。
飲めないクセに、山里会長と渋尾さんの武勇伝や三宅の魅力に食い付いてくる。
明日は竜宮会の二人の行く御蔵に便乗させてもらう事になった。
もう釣れた気でいるに違いない。
今晩は良い夢が見れるだろう。
三宅行きの汽船の夜は短い。
4時をいくらか過ぎたとき、突然明るくなり三宅島到着のアナウンス。
到着港は三池港。
やはり南西か。
どれだけ吹いてるのか。
うねりは残っているのか。
狙った御蔵は行けるのか?
眠たい目をこすりながら、手早く貸し毛布を片付け荷物の世話して、眠気覚ましのタバコに火をつける。
今日はどこに乗れるのか。。。
竜宮会の二人は速い。
すでに到着ロビーの先頭に荷物を並べている。
さすが、数々の武勇伝を持ちながらも、現役バリバリの底モノ師。気合いの入り方が違う。
「ええかぁ。1番以外はべべと一緒や」
ふと、飲んだくれの父の言葉を思い出した(80歳になり酒とタバコをやめたそうです。時々飲んでるみたいだけど)
っていうか、もー、何時に起きたのっ!!
小雨が降る三池港。
風は南西かな。そんなに吹いてない。
行けるのか?
しかし、港まで迎えに来てくれた船長から、船は出ねぇよ。地磯で頑張って。。。
手早く準備をすませ、南西に強い下根の駐車場へ。
磯を見ると、右側はかぶっている。もう少し南西が吹かないと、海は戻らない。
左側は荒れていない。やれる。
下根の左側。磯の香りとともに吹き付ける風が心地良い。
海は青が濃く、ほど良い波気。
あぶくを見ると、右前から、おっつけ気味に左へ流れている様子。
左寄りの正面から吹く南西も気にならない。今日は釣れる!
相棒にいちばん沖寄りの少し低くなった所にピトンを打ち込むよう伝え、ポイントを説明。
ぼくは、少し地寄りに竿をかまえた。
マガニ2匹がけの1投目。
少し右寄りの沖側から攻める。
しばらくして、ゴツ、ゴツッ と強い底モノのアタリが竿を揺らしてくる。
魚は居る。入るか!
仕掛けをあげると、カニがマルっとなくなっている。
あと4〜5回も打ち込めば、きっと入るはず。
よっしゃぁぁ、釣るぞぉ!!
2投目、3投目・・。
良いアタリは出るものの、舞い込むまでいかない。
魚が小さいのか。幾多の死線をくぐりぬけた老練なデカバンなのか。。。
一口で食えそうな小さめのカニをつけてみる。
糸を巻いて、じらしてみる。
3個がけにして、上を食い易くし、食い気を高める。
アタる。
しかし、舞い込まない。。。
後ろを振り返り、相棒に魚の活性を伝える。
しかしまだ竿は出せない。
三宅の磯の雰囲気を肌で感じ、至福の一服をきめている。
釣らなくても楽しめるとは、なかなかの達人と見た。
そして、ぼくが竿を出してから40分後、相棒は、三宅の海に1投目を入れた。
南西の風は徐々に強くなり、風に押され右に回ってしまうピトンを手で押さえながらの釣り。
ゴツゴツとした強引な手ごたえを感じながら・・。
真剣そのもの。良い底モノ師の目だ。
南西風は激しさを増し、下根の右側は急速に波気がとれ凪いできた。
竿受けを固定できないタイプのピトンを使っている相棒は釣りつらそうにしている。
ここで右側への移動を決めポイントを解説。
干潮前2〜3時間前を目処に、波の様子を見ながら先端に出るよう伝え、ぼくは一歩下がった所で竿を構えた。
右側はゴツゴツとしたアタリも殆ど無く、小さなイシガキのアタリだけで、いつの間にエサが消える。
どこかに潮が直接あたるポイントはないのか。
ポイントを探りながらアタリを取っていくが、どうも潮の流れを感じられない。
しかし、強風で右側に逃げてきた相棒のモチベーションを高めるためには、何とか釣るしかない!
しかた無い。マガニを半分に割り、小針にまきつけ投入。
1発目で竿が舞い込み35センチ程度のイシガキが上がってきた。
そして2投目。同じようにすぐにアタリがあり、竿が舞い込む。
相棒は、初めて底モノ竿が舞い込む所を見たと感激して、写真を撮っている。
ここは釣れる。今なら釣れる。
早く竿だせ!
そして、右の先端にピトンを打ち込み、なにやらモゾモゾやっている。
そのまま道具を世話をしながら、20分くらいたったろうか。
ひぞっこまで2時間を切った。
早く釣れ!
とつぜん、足元の波がドゴっとひいた。
沖をみると、大きなウネリが、こんもりと盛り上がり迫ってくる。
これは来る!
ぼくは、身の回りのものを手で持ち、立ち上がって波に耐えた。
ウネリはきれいに磯を洗い流し、隣の深い水溜りが真っ白になり、限界を超えた海水は滝のよう海に戻っていく。
迫力満点である。
相棒を見ると、流れていく竿袋、磯バックを呆然と見ている。
流されたのは竿袋と磯バックだけなのか。何が流されたのか。
ぼくの仕掛けを投げて取ろうとするが、今のウネリのせいなのか根がかり。
早く取れ! と叫び、隣に駆け寄る。
バタバタとしながらも、竿袋をなんとかタモにひっかけるが、次の大き目の波でもまれ、返す波で離れていった。
引き波は早く、沖のシモリ付近まで流れ、かろうじて頭を出している。
もう取れない。
飛び込め!
飛び込めない。
ただ、呆然と立っているだけ。
メインで使用している竿は折れ、予備竿は流された。
磯バックには、全財産が入った財布が入っており、免許証、キャッシュカード、帰りのチケット、カッパ、着替え、携帯の充電器まで入っていたとのこと。
また、釣っている所を撮影しようと、磯にセットした買ったばかりのゴープロ、換えバッテリーや関連用品一式まで流されたとのこと。
ボーゼンとするのも理解できる。
なんて言ってあげればいいのか。
かける言葉がない。。。
地磯の釣りは自己責任の遊び。
荷物の置き場所、ピトンを打つ場所、とっさの判断、波の状況を観察するチカラ。
すべて己のせいだと改めて理解するまで時間がかかるのだろう。
無理も無い。
まだ三宅に降り立って、数時間しか経過してない。
仕掛けを入れたのも5〜6回程度だろう。
ただ歯をくいしばり海を見ている。
見ていられない。。
30分は立ち尽くしたろうか。
警察に行って、紛失届を出してくるという。
ついて行ったほうがいいのか、一人にした方がいいのか。
少し考えた後、弁当やお茶を買えるよう3千円をわたし、商店の場所を伝えた。
自分が納得するまで行ってこい。
さて、どうしよう。
この状況で一発狙うのか、小物を釣って「三宅は釣れる」という記憶をすりこますのか。
よし。今日は小物を釣って、魚が釣れる三宅。型が小さいのは水温が高いからと説明するか。
明日は海が凪いでくるはずだから、朝一番からいいところに入って、一発狙えばいい。
待ってる間に小針で数を釣っておいてやろう。
2時間もたったろうか。相棒が戻ってきた。
普通に会話が出来るまで精神状態も回復している。
警察で紛失届けを出すも、帰りのチケットは取り直し。
遊ぶにも、帰るにも、金が無いので貸して欲しいという。
よっしゃ。わかった。
金は貸す。
飯も食って仕切り直しできたことだし、これでカウンターゼロセットだ。
今日は気が済むまで遊ぼう!
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日暮れまで遊び宿に戻る。
光明丸では、宿泊料金などもろもろをサービスしてもらい、最小限の支出でどうにか竹芝まで戻ってこれた。
三宅はどうか。と尋ねたところ、
光明丸の暖かさに心から感謝している。つらい時にお世話になった事は忘れない。出来るだけ早く立て直してきちんとお礼に行きたい。
もちろん底モノをやりたい!と言う。
そして2週間もたったころ、中古だけど安い石鯛竿とリールがあったので買いました。と連絡が入った。
30歳の底モノ師誕生である。
※投稿が無いときは、ぼくの身の回りのお話し(釣りに関する)でも書いていこうと思います。
これは2018年9月のお話です。
全磯連 関東支部HP
https://www.iso-tsuri.com/
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