目的の飲食店の評判やルート、生産現場の作業手順、夜空を見上げた時の星座の場所や名前―。スマートCLが実用化されれば、こうした情報も現実世界の風景に重ねて表示されるようになる。AR用ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)を極限まで小型化し、目に直接装着するイメージだ。
「長期的にはスマートフォンはこれに置き換わる」。モジョビジョンのマイク・ウィーマー最高技術責任者(CTO)はスマートCLについて、豪語する。同社は2015年に設立し、スマートCL「モジョレンズ」を開発する。スマホに目を落とさずに情報を得られるのが利点で、「スマホではなく現実の世界に目を向ける社会を提供したい」(ウィーマーCTO)という。
モジョレンズは無線通信機や目の動きを読み取るセンサー、ディスプレーなど極小電子機器をレンズで挟んだ構造。世界最小というディスプレーは1万4000ppi(1インチ当たりの画素数)と高解像度。光を直接網膜に収束させる技術を採用し、弱視者も像がきれいに見えるという。
開発は最終段階を迎えている。21年内に試作品を披露し、販売に必要な認可取得を目指す。価格は「ハイエンドのスマートフォンと同等」(モジョビジョン)を想定する。顧客に見据えるのは、日本や欧州を含む「16カ国約1億3000万人のCL装着者」(ドリュー・パーキンス最高経営責任者〈CEO〉)という。
国内CL大手のメニコンも、08年頃からスマートCLを研究。このほどCLに極小電子機器を組み込む技術を確立した。20年9月にはモジョビジョンと共同開発契約を締結するなど動きが活発だ。
メニコンは商品化時期を未定としている。同社開発担当者の鈴木弘昭氏は「実用に耐える容量を持つ小型バッテリーの開発が必要」と課題を説明。充電方法も含めた電源の確保は実用化への大きなハードルだ。今後、電池メーカーなどとの協業が開発の進展のカギを握りそうだ。
現状では、ディスプレーを内蔵したデジタル端末としてのスマートCLを開発しているのは、世界にモジョビジョンとメニコンのみのようだ。SFの世界は現実のものとなるのか。今後の開発が注目される。