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2023年06月09日

528.イハナシの魔女

イハナシの魔女.png

 おはようございます。あるへです。
 本日はこちら「イハナシの魔女」のレビューです。

 イハナシとは沖縄に伝わる古い方言で、伝説とか、言い伝えみたいな意味があるようです。
 本作はその沖縄を舞台に繰り広げられる笑いあり涙あり、そして胸熱展開ありの王道ラブコメのテキストアドベンチャーです。本編クリア後に解放される設定資料解説の項でも記されている通り、古のKanonやClannadのような泣きゲーを彷彿とさせる、ド王道のストーリー構成でした。

 各キャラクターには個性はあるのですが、序盤は印象が弱く、中盤から役割を演じることに徹するようになるので、全体としてはそこまで。

 肝心のストーリーは、読み進めていると少し理屈の弱い部分があり、物語序盤から中盤にかけては、普段はあまりにもノーマルな常識人でありながら、物語上都合の良い所で急に設定に逃げる、そんな弱さを随所に感じました。
 また、沖縄地方の建築は台風や湿気などの風土の理由から、木造建築はほとんど無く、コンクリート製の建物が多いと聞きかじったことがあるのですが、作中に登場するほとんどの建物は木造で、このような理由付けも見当たりませんでした。
 かと思えば、舞台のモチーフとなった実在の島の観光案内が出てきたり、木造ゆえに除湿機は切らすなとか、台風の日には雨風を凌ぐための防災の準備をする場面があるなど、ちゃんとリサーチしていると思われるシーンもちらほらあって、またそれが説得力を持っていると感じたので、むしろ自分の知識が間違っているのかなと思えてきたり。
 というわけでこの辺の世界観設定は、十分合格点ではあるものの、もう一歩踏み込んで納得させてほしかったかなと思います。

 文章の書き味についてはそれほど文句はなく、素直に良かったと頷けます。言葉選びや文章力は変に穿った回りくどさがなく、勢いがあってリズミカルにすらすらと読めました。インディーゲームの宿命が功を奏して、だらだらと引き延ばすようなフルプライスのギャルゲー染みたシーンがほとんど無いので、1エピソードの総量もコンパクトで、結果的にすらすらと、夢中になって読み進め、いい感じのところでしっかり区切りがつくのがすばらしかったです。
 ただ、ここぞというシーンで脱字があったり、日本語の使い方が不自由なところが少しあって、もったいなぁと思うこともありました。

 中身について触れるのは難しいですが、どうせKemcoゲーだろと侮っていた自分が恥ずかしくなるくらい、ぶっちゃけ神ゲーでした。読後感は素晴らしかったです。
 物語序盤の展開についてはプレイヤーへの吸引力がやや足りておらず、自主性を持たないステレオタイプで、言動に一貫性を感じない主人公に共感できなかったり、物語の展開に舞台が沖縄である必要性を感じづらかったり、あとは最初に言った理屈の弱さが全編に渡って蔓延しているので、正直クソゲー感、やっぱりいつものKemcoゲー感は漂っていました。
 ただ、登場する他のキャラクターたちについてはエピソードの存在感も強く、彼らを通して描かれる日常や事件は、ライターの持つ明るく軽妙な書き味と相まって非常に読み心地が良く、没頭できました(個人的にアカリ編については練り込みが足りず、最後まで疑問符が湧きましたが、後のエピソードはかなり良かったです)。
 そして今まで敷かれてきた伏線が回収され始める終盤では、さすがに胸が熱くなり、やられました。画面がぼやけっぱなし。泣きゲーと言ったように、これでもかと言うほど落とされていくのですが、どんでん返しが熱く、エンディングでサッパリさせてくれます。
 前述したように、全体としてのボリュームは長すぎず、短すぎずのいい塩梅なので、小説二、三巻分くらいのちょっとしたシリーズものを読み終えたような、非常に良い重さの読後感を味わえました。
 欲を言えば残る二人についても同質同量のエピソードを備え、ラストでメインキャラクターとして全員で立ち向かってほしかったとは思います。

 タイトル通りファンタジー要素である魔法を使う魔女がキーポイントになるお話ですが、これについては作り手の拘りをちゃんと感じられるくらいに丁寧に扱われており、安易に魔法という設定に逃げず、丁寧な誘導になっているのは良かったです。

 ゲームとして複雑なフラグ管理は必要ありません。選択肢に見えるものは全てダミーで、実際には順番に読み進めていくだけです。
 この手のゲームが好きなら迷わずお勧めできる、今月の大当たりでした。

 ……財布は痛かったけどな。

どうでもいいけどどうしてテキストゲームのレビューになるとこんなに、○○小説大賞の品評みたいになるんですかね……。ちょっと嫌(笑)
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