寝坊しても、一日の半分を無駄にしたという感覚がない。日本で昼過ぎに目覚めれば、あとは程なくして日が落ちるだけなのに。後になって考えて見ると、湿度も関係しているのではないだろうか、気分的に。
そんなわけで、今日も今日とて昼過ぎに目覚め、ゆーと朝食?を採ってから、観光に出かけた。今日の目的地はUBCだ。
行きがけにコウスケの店の裏でコウスケと待ち合わせし、こっそりサンドイッチを三人前もらった。たかがサンドイッチと侮るべからず! こいつは日本の500mlペットボトルよりでかいんだぜ! パンはフランスパンだ。重い。
バスには各駅(各駅停車・各停)と特急がある。各駅は普通のバスだ。運転手にも結構適当なところがある。バス停に近寄りすぎてタイヤを歩道で削ってしまったり(そうそうないだろうが、それが笑って許される国なのである)、バスの乗客が満員になると、次のバス停で人が待っていようと、降りる客がいなければ簡単にスルーしてしまう。乗りたい人がチケットを掲げて乗る意思を見せても、断固として扉を開けない。乗りたかった人は困ったねぇのポーズで笑ってバスを見送る。乗客が急いでいるのに、急にバスを停めて、運転手は新聞を読み始める。適当なところで停留所もないのにバスを停めて、運転手が交代する。仕事の終わった運転手はそこから遊びに行く。それがカナダだ。
話がそれたが、特急は特定の場所まで直行するバスだ。俺達はこのバスに乗ってUBC(ブリティッシュコロンビア大学)へ行く。中に乗るのは当然学生達ばかりだ。この時俺達が無賃乗車したのは内緒だ。UBCは馬鹿に大がつくほど広い。
バス停も、「UBC前」じゃなくて、「UBC」だ。完全に敷地内だ。キャンパスとキャンパス、校門とキャンパスあるいは停留所、の間もかなり離れている。時間を計算してバスに乗らないと、学校に着いているのに授業に遅刻するのもよくある話だという。UBCの敷地にはビーチや森、高速道路も含まれているらしい……。
このUBCでゆーは一人のガイドを雇った(もちろん無料)。現役のUBC生で、ゆーの友達リュウヘイだ。この三人でUBC内を見学して回った。最初は図書館。7階だての巨大な建物で、地下も存在する。なかなか有名な図書館らしく、ここにない資料はないとも言われてるとか、なんとか。インターネットも使い放題だ。日本語も打てる。キーボードの配置が若干換わっている。
UBCで一番古い建物は、(たしか)化学系の授業で使う教室が集まっていたな。どこぞのファンタジー映画とかに出てくる魔法学校のような、四角形ではない建物だ。中も雰囲気出しまくり。古臭い白黒の写真は、歴代の卒業生と先生達。石とレンガの壁に木の扉。アーチ型の天井を持つ廊下がまっすぐ伸びる。教室の中は映画館のような椅子が並んでいて、机はしまえる小さな板だ。すわり心地は良い。
UBCで一番新しい建物は、(たしか)経済学の建物だったかな。最新の技術を使って作られたこの建物は、内装もお洒落で、いかにもエリートな集団のオフィスのようだ。ガイドのリュウヘイ曰く、「どこぞの空港のようだな」。壁に設置されたディスプレイ、エンターホールにはめっちゃ座り心地の良さそうなソファーとテーブル、この建物のためだけに雇われた警備員と清掃員。洒落た造りの階段に、会議室のような個室は冷暖房完備、ホワイトボード、自動で明かりがつき、ADSL回線もある。
この時期は春休みに入っており、授業をしている教室はなかった。リュウヘイはアサインメント(宿題)が大量に出されており(休みの期間は4ヶ月くらいあるらしいが、その間にテストなどがあるので、休みに入るのは人それぞれ)、地獄のような日々を送っているという。それもあと数日で終わるのだが、同時に春休みもあと一週間で終わるそうだ。
UBCには日本庭園というものもある。学生は無料で一般は有料。たしか4ドルくらい。リュウヘイとゆーは様々な感想を述べていたが、日本を離れて間もない俺は、そこまで何かを感じ取るには日が浅すぎた。たしかに、日本を感じさせる良い場所ではあったが。その美しい景観を30年の間保ってきた日本人庭師が、今度退職するらしい。ということで何故か俺も色紙を書かされた。寄せ書きというあれだ。しかもでかでかと真ん中に「感謝」と書けと。なかなかうまく書けたとは思う。その日本庭園の片隅で、今朝もらった例のサンドイッチを三人で食べた。
授業を見られなかったので、雰囲気だけで解析することになるが、日本の大学と比べて、生徒のやる気、モチベーションが非常に高いというのは想像に難くないだろう。
アサインメントのまだ残っているリュウヘイと別れて、俺達は駐車場へ行った。仕事終わりのコウスケが車で待っていて、そこからまた観光の続きをすることに。
今日行ったのは、どこかの海だった。俺は海よりも、その近くにあった大きな沼に惹かれた。水と土の境界があいまいで、水面には鴨が戯れ、ところどころの水面から長ネギみたいな植物が群生している。波音のうるさい海よりもよっぽど落ち着く眺めだ。この沼にはビーバーが生息しているらしく、太い樹の幹に律儀に同じところを削り続けた大きなくぼみがある。そんな切り株がところどころにある。切り株なのは、安全のために切り倒したからだ。沼に沿って森があり、ビーバーを探して探索したが、ついぞ彼の姿を見ることはなかった。代わりに野生のうさぎを何匹も見かけた。人に慣れているのか、近づいてもあまり逃げなかった。
森は遠目に見ると、日本の森とあまり変わらないように感じるが、近づいて生えている草をよくよく見てみると、結構グロテスクな見たこともない植物が多い。地面が湿っているということもあって、シダみたいなのが多かった。科とか目とかの種類分けは俺にはできない。
やはりここでも日本と比べると湿度が関係しているように思う。カナダの風は乾いている。それゆえ、日本で森に入った時に感じる、むっとするような森の匂いや海の匂いがほとんどしない。
夕食は、俺がUBCで暇つぶしに調べたレストランの中から選ぶ。が、これは高い、あれはまずい、これは駄目と片っ端からゆーに撥ねられた。その中の一軒から、似た店が、ゆーたちの家から歩いて20歩のところにあったのでそこに決めた。
屋号は「SUSHIYAMA」。寿司山……。すしやま…………。看板には何の意味が……? バンクーバーには、こんな意味不明の、ただ語呂で決めたようなジャパニーズレストラン(=すし屋)が結構ある。覚えているのだけでも、「姫寿司」「大将」「寿司太郎」「SUSHI KING」などなど。
中に入って英語で注文する。ネタは意外と普通で、マグロやサーモンを始め、ホタテ、イカ、いくら、とびっこ、など普通。が、コンボというセットメニューには「ダイナマイトランチセット」とか「ジャパンパラダイス」とか怪しげな文字が。
注文は一貫ごとで1ドル。セットはまとめて一つ8ドルから12ドルあたり。
俺達はまず食べたい寿司を幾つか頼んで、他に遊びで例のセットメニューを一つ頼んでみた。
出てきたものに目を疑ったさ。
まず、ネタの大きさが半端じゃない。これ使って、日本じゃ三貫は寿司が握れる。変わりにシャリがとっても小さい。これで1ドルは逆に安いんじゃないか?
恐る恐る、俺は寿司を口に運んだ。そして驚愕する。
うまい。うますぎる。すごく脂が乗っている。ホタテも海老も尋常じゃない大きさなのに、すごくうまいぞ!
なんだか、食に関しては良い感じに日本を勘違いしているような気がして、嬉しいような恥ずかしいような。軍艦巻きにしても、海苔から溢れるほどいくらが盛ってあるんだもん。
そして、件のセットメニュー。内容はカリフォルニアロールと牛肉巻きだった。どちらも海苔巻きだが、日本のように海苔を外側に巻くのではなく、米を外側に巻く、そして胡麻をかける。ネタはアボカドとエビフライのカリフォルニアロールと、焼肉風味の牛肉巻き。
口に入れて三度驚愕する。これもうまい。日本に逆輸入しても良いと思った。びっくりの連続だ。
俺は、他国の文化を自国に取り入れる際、その国に合うよう改良する「ローカライズ」に賛成している。それは必要なことだと思うのだ。日本のカレーがインドのそれと似ても似つかないように、日本のラーメンが中国のそれとまったく違うように。しかし、そのおかげでインドにはカレーというこんなおいしいものがあるのだと、日本の国民は知ることが出来たし、インドや中国が世界のどこにあるか知らない人でも、カレーがインドから伝わった料理で、ラーメンは中国から伝わった料理であることを知らない日本人はいないくらいに、日本の文化に浸透した。 ローカライズは、文化の紹介と浸透には必要不可欠であると考えているし、それが理想であるとさえ思っている。寿司を始めとする日本の文化が、他国に正しく伝わらないことを危惧して、日本政府が正しい日本料理を提供する外国の店に証明を発行するとかほざいて、あまつさえ正しい日本料理を提供する店のガイドブックとか発行しているらしいがくそくらえだ! 正しい日本料理を提供する店はあっても問題ないと思うし、あったほうがより深く日本の文化を知ることが出来るだろう。こういった店を批判しているわけではない。上記のような傲慢な考え方に納得できないだけだ。
とにもかくにも、大きな衝撃を受けた一日だった。明日は俺の髪を整えに、ゆーの友達の美容師が来てくれる。短くなるのは覚悟しているから、早く帽子を取らせてくれ。でも被ってると暖かいんだよな。
カナダ滞在中にジャパニーズレストランに入ったのは一度だけ。なので、この店がたまたま大当たりだった可能性もある。話に聞くとどんな店の料理もピンキリらしい。
第四日目(4/30)-----------------------------------------------
今日はあまり遠出はせず、過日に比してのんびりと過ごした。緑豊かな自然の大地、カナダ、バンクーバーとは言っても所詮は田舎。国の歴史自体が100年ちょっとだそうで、カナダに住む人は皆口をそろえて言う。「カナダの観光名所なんて、あんまりないよねー」
恒例の12時起床の後、近くの公園でゆーとテニスをした。コートが二つあって、誰でも自由に使って良い。日本でテニスがしたければ、まず管理しているところへ赴き、予約をする。そして使用料(管理料金)を払い、指定された日、指定のコートで指定の時間だけしか使えないシステムがほとんどだ。ま、何が言いたいかというと、非常に面倒くさいということだけだ。
コートは一つ空いていて、隣で二人の中年男性がラリーをしていた。言っとくけど、今日はまだ平日で、しかもお昼ですよ?
テニスラケットとボールはゆーの家にあったので、それを拝借して遊んでみる。体力がないためにすぐに疲れるが、腕は鈍っていない。というと聞こえは良いが、底辺より下には行きようがないということだ。俺実はテニス下手だったんだな……。
ゆーとテニスを始める前から隣のおじさんたちはラリーを愉しみ、俺達がへとへとになって帰る頃も、やめる気配はない。相変わらずにこやかに強烈なスマッシュを打ち続けている。
家に帰ってシャワーを浴びると、さっそく疲れて眠たくなった。
空が曇ってきて雨が降り出した。風は強くはなく、雨も雨粒は大きいがしとしと降る、という感じではない。かといってさらさらでもないし。……ぽたぽた? いや、結構降ってたぞ。さぁーっ、とざぁーっの間の感じ。よくわからん。
再三言うが湿気が薄いのでじめじめした感じはない。だから寒い。雨が降ると埃の匂いが結構する。
そんな雨の中、傘を差して件のサエコ様を迎えにいった。雨が降っているのに傘を差している人はあまりいなかった。
バスに乗って待ち合わせ場所へ。サエコ様と軽く会話をしながら、ゆー一押しのピザを買いに行った。近くにある。
日本のピザ屋のように注文してから作るのではなく。すでに何枚かが作られている。ピザ一枚が8ピースくらいに切り分けられていて、ピースで注文する。金額は見なかった。狭い店内の割りに客が多く、なかなか繁盛しているようだ。
このピース自体、結構なボリュームなのだが家に帰って食べて見ると、なかなかおいしい。俺は二枚を平らげたが、三枚目もいけそうだと思った。そろそろ胃袋がカナディアンサイズになってきたのかもしれない。
家の中に即席のスペースを作り、散髪をしてもらう。頭がずいぶんと軽くなった。だがもみあげは帰ってはこない。
ゆーの失敗の尻拭いも終わり、家で三人のんびりしているとコウスケが帰ってきた。コウスケの車に乗ってサエコ様を家まで送り、買い物をして帰る。
そこは巨大なスーパーマーケットだった。ダイエーとか、駅の地下にある生鮮品売り場とか、あんなのを横にこれでもかというほど広げた感じ。天井がすごく高い。大きなカートを押して、中に入る。メトロシティと似たような感じ。どうやら閉店間際だったらしく、客は俺達しかいなかった。
カートに大量のメープルクッキーを敷き詰めて、土産のお菓子を物色した。他にもおいしそうなチップスを買って家で食べてみた。正直、お菓子の味は日本が一番だな。その代わり包装や型崩れなどお構い無しなので大量に詰め込んである。
持ってみるとお菓子にしては重い。それから、店内が巨大なので、保存の利くものは結構放置されてるっぽい。埃を被っているものが結構ある。果物や野菜にはそんなことはないので悪しからず。
第五日目(5/1)------------------------------------------------
そろそろゆーの観光ネタがなくなってきたか、今日もコウスケが帰るまでは家でのんびりしていた。
昨日のテニスが効いているのか、体中が痛い。昼寝もしてしまった。
階下のコインランドリーで洗濯をしたり、ゆーとお菓子や昼食を作ったりしながら、これから出かける際の足である(笑)コウスケの帰りを待った。
今日は二つの湖を見た。一つ目はwhite pine beach。周囲をぐるりと山に囲まれ、背後は森。風が吹かず、黄色い太陽の光が気持ちよい。水は透明で、静かにゆっくりとうねっている。遊びに来た別の家族たちの声を聞きながら、静かに紫煙をくゆらす。すごくいい。気持ちが良い。落ち着く。
俺とは性格の真反対であるゆーや、どちらかといえば家にいるより外なコウスケは、気が休まりすぎてブルーに浸っていた。
もう一つの湖、たしかbentzen beachだったか。ベンゼンと読む。これは、景色は前者と似ているのだが、前方の山が開けており、ずっと遠くの空まで見える。左右を山に囲まれているのだが、向かって右側の山が迫るようにずしりと立っていて、なかなか壮大な雰囲気をかもし出す。ここがアクティブなバーベキュー場なら、ホワイトパインビーチは、隠された秘境だ。ゆーがチョコクッキーをぼりぼり齧っていた。
ようやく日も沈んで、夕食はプーティンという料理を食べに行った。カナダ唯一の郷土料理らしい。その正体はフライドポテト。そこにかかってる特製ソースが所以らしいが、正直しょっぱいだけだ。日本のそれと比べて塩味が濃い以外は、へぇーとかふーんとか。そんなもん。他にラム肉を食べてみた。おいしいとは思わなかった。ゆーはラム肉の臭みが駄目らしいが、そこまで臭みは感じなかったように思う。ゆーは牛肉のパイを頼んだ。グリークフード(ギリシャ料理)だ。てっきりパンみたいなパイが出てくるのかと思いきや、ポテトだった。よくこねてどろどろになったポテトを牛肉に被せて焼いたもの。グラタンやドリアのような感じ。ラム肉よりはおいしかったが、ポテトポテトでもう飽きた。見た目は良いし、歯ごたえも外側はさくっ、中はふわっ、なんだけどね。ポテトだもんね。飽きる。
料理よりも、この店で印象に残ってるのは、非常にうるさかったということだ。サービスは今まで入ったどの店よりも良いし(その分値段にも響く)、客のガラが悪いわけでもない。何がうるさいかって、俺のすぐ後ろで電子ピアノ弾きながら歌ってるおっさんだよ。ちょっとお洒落な店でピアノ弾いてたり、ジャズ弾いてたり、テレビでよく見るあれ。もっと遠くの席に案内されていたら感想も変わったかもしれない。ジャズを弾いていたみたいだが、この場にその歌を評価できる人間はいない。
先ほどカナダの歴史は100年と述べたように、この国の歴史は浅い。原住民はインディアンで、カナダのそこかしこにトーテムポールがモニュメントとして立っている。しかし、歴史は浅く、インディアンの文化というのも、衣装が少しあるくらいで、強烈なものは残っていない。それゆえ、この国は主に移民の国で、アジア系の移民が多い。通りを歩いてもカナダ料理は存在せず、多種多様な国の料理店が軒を連ねる。
最後にライオンズゲートブリッジを眺めに行った。ここはスタンレーパークという巨大な公園の敷地内なのだが、この時は橋の名前も公園の名前も知らなかった。展望台から海を臨む。向こう側にも街があって、こっち側の陸と向こう側を、ライトアップされたブリッジが繋いでいる。
バンクーバーの街は京都のように碁盤の目のように整理されている。
そのため、街灯が規則正しく上下左右に並んでいる様がよくわかる。相変わらず風は強い。夜ともなれば普通に寒いぞ。
この公園にはアライグマが生息している。もちろん野生だが、観光客がえさなどをあげたりするので、人を怖がらず、えさをよこせと車に寄ってくる。ゆーは可愛いと叫んで、面白がって食べ残したチョコクッキーをあげていたが、俺はこの動物達に関わる気にはなれなかった。
家に帰るとすごく疲れた気がする。今日一日、それほど多くのメニューをこなしたわけではないが、きっとテニスのせいだろう。そうに決まっている。
第六日目(5/2)-----------------------------------------------
今日は朝から晩まで雨だ。雨らしい雨だ。ゆーの観光ネタも尽きたし、家ですることもない。ゆーの友達マリと三人でグリークフードを食べに行った。beefを頼んだら、話に聞く串焼きの状態でランチが出てきたが、正直うまくはない。固い。
ゆーの頼んだBBQチキンと交換してもらった。こっちの方がうまい。
でも真に美味いのは、これらのランチセットに付くピラフだった。
やっぱり雨は降り続き、4時を過ぎて迎えに来たコウスケと、家に直帰した。マリは帰っていったので、印象は薄い。ゆーとマリは、カナダは何もかもが高いし、ブティックなどもたくさんあるにはあるが、どれもダサくて買う気になれない。それゆえ古くて傷んだ服や靴もずっと使うのだという。
俺個人の感想としては、物価や税金が高いといってもそこまで日本と変わらないように思えた。それは俺がこの国にやってきて間もないということもあるし、ゆーたちはカナダに実際に住み、少ない給料でやりくりする貧乏学生のような立場だからこその言なのかもしれない。まぁ、大富豪でもなければ誰だって不満の一つや二つ、どこに住んでいようが持っているし、半分は意味のない会話の流れなのだろうけども。
家に帰ってごろごろした。確かコウスケは用事があってまた出かけたんじゃないだろうか。ゆーとカレーを作っている時はコウスケはいなかったように記憶している。
疲労が蓄積していて、また昼寝でもしたかったが、ゆーが執拗に邪魔してくるため眠れなかった。仕方なく夕食作りを手伝う。今晩のメニューはカレーだ。
どうやらゆーにはこだわりがあるらしく、市販のルーは使わずスパイスだけでルーを作り上げた。コウスケが調理関係の仕事をしているので、家には数々のスパイスが置いてあり、ゆーが名前もわからず匂いだけで決めて適当に混ぜたところカレーが出来上がったのだそうだ。どこのお話だよ!
とにかくそれからゆーはルーを使わず、スパイスでカレーを作るようになった。
じゃがいもや人参の皮むき、玉ねぎの千切り。鶏肉を切る。俺もゆーもジャガイモがカレーにごろっと入っているのは好きではないので、じゃがいもとたまねぎをミキサーにかけて液状にした。炒めた鶏肉の鍋に液状じゃがいもと玉ねぎを入れ、人参をいれ、あとなんだったかな、忘れた。普通のカレーだよ。
スパイスを少しずつ混ぜていった。なんか香り付けの葉っぱを二枚ほど入れたな。これは食べないらしい。ソースとか入れて、程よい味になった。甘みが少し足りないかも、ということで急遽隣のマーケット(ホントに隣。煙草吸うために毎朝ベランダに出ると、目の前に見える)にバナナを買いに行った。Than Pha Super Marketだ。ベトナム系のマーケットで、Phaのaの上にアクセント記号が載る。日本の商店街などにありそうな小ぶりでちょっと廃れてそうな生鮮食品店。そんな雰囲気。店内は狭いが、朝は結構客が入っていくのを見る。日本のお菓子なども見かけたが、「真心込めて、作りました。 てぜろこ味わだうあふ」はどうかと思う。
あ、そうそう。りんごも切ってミキサーに入れた。ミキサーに入れたのは玉ねぎじゃなくてりんごだったかも。皮をむいて適当に切ったが、手ごたえはみそっかすだった。きっと生で食ったら、とてもじゃないが日本人の口には合わないだろう。
マーケットに売っている果物の多くは見た目がすごくつやつやしている。ワックス塗りたくっているのだろうか。見た目は良いのだけれども。
バナナもミキサーに入れて鍋に流し込み、完成。その合間にクレソン?のおひたしも作ったし(これが意外においしい)、ご飯も炊けた。米は外国産だが、日本製の炊飯器で炊くことでおいしく作れるらしい。更にゆーは炊く前にサラダ油を少量加えていた。
カレーにしてはまったく辛味がないが、それでもなかなかカレーな夕食だった。出来上がる頃に帰ってきたコウスケと三人でおいしく頂きました。
ゆっくりする時間。これからどうしよう。ゆーとコウスケは卓球しにいこうとか言ってる。ビリヤードもいいね、とか。
うむ、ビリヤードだった。入った時間が遅かったので、すぐにラストゲームになったが、そこからが長かった。最後のボールがなかなか入らず時間を長引かせた。ま、でも楽しかった。なかなか。疲れないし。
手のひらの油分泌がほとんどない俺は、キューを指で囲うとひっかかってしまい、うまく弾を突くことが出来ない。いろいろ試行錯誤して、自分なりの打ち方を研究する。
隣にいた客達は、中国人マフィア(それも末端)のテンプレートみたいな格好でビリヤードしていた。くたびれたジーパン。白いTシャツ。適当に切った髪。彼らが本当にマフィアかどうかは知らないけど。
それと、ゆーがマリファナの匂いがすると教えてくれた。カナダじゃ麻薬乱用の摘発は現行犯ぐらいじゃないと難しいらしく、日本ほど厳しくない(それでも規制は厳しいはず)。ここに住んでいるとたびたびマリファナを感じるという。
どんな匂いなのか、よくわからなかった。
後になって、もう一度マリファナの匂いを感じる機会があった。その時はゴムとコンクリートの焼ける匂いを混ぜたような匂いだった。これがマリファナなのかどうかは定かではない。
つづく
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