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2020年05月15日

坂口安吾の「肝臓先生」から見えてくるバラツキについて1

1 簡単な統計処理

1.1 データのバラツキ

 グループa(5、5、5、5、5)とグループb(3、4、5、6、7)とグループc(1、3、5、7、9)は、算術平均がいずれも5であり、また中央値(メジアン)も同様に5である。算術平均やメジアンを代表値としている限り、この3つのグループは差がないことになる。しかし、バラツキを考えると明らかに違いがある。グループaは、全てが5のため全くバラツキがない。グループbは、5が中心にあり3から7までばらついている。グループcは、1から9までの広範囲に渡ってバラツキが見られる。グループbのバラツキは、グループcのバラツキよりも小さい。  
 次に、グループd(1、1、4、7、7)とグループe(1、4、4、4、7)だと、どちらのバラツキが大きいことになるのだろうか。グループdは、中心の4から3も離れた所に4つの値がある。グループeは、中心に3つの値があって、そこから3離れたところに値が2つある。 
 バラツキの大きさを定義する方法で最も有名なのが、レンジと標準偏差である。レンジはグループの最大値から最小値を引くことにより求めることができる。グループdは、7-1=6で、グループeも7-1=6となる。レンジだけでバラツキを定義すれば、グループdとグループeは同じことになるが、グループ内の最大値と最小値だけを問題にするため、他の値が疎かになっている。そこでもう一つのバラツキに関する定義、標準偏差について見てみよう。

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』から見えてくるバラツキについて」より

2020年05月14日

心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の「沢村校長の晩年」を考える7

3 まとめ

 佐藤愛子の「沢村校長の晩年」の正剛と光江の性格についてデータベースから心理学統計による評価をしてみると、違いがあることが分かった。

参考文献
大山正・中島義明 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 佐藤愛子の「沢村校長の晩年」の執筆脳について ファンブログ 2020
佐藤愛子 院長の恋 文春文庫 2012

心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の「沢村校長の晩年」を考える6

1 最初は作者と鼠とで努力に差がないと予測する。両者の平均値を取ると、正剛 1.0、光江 1.7になる。この差は誤差の可能性がある。 
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう努力の大小は、従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値である努力が水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
[満足度のt検定] 
正剛1.0、光江1. 7、よってt値=0. 7。
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は0.02にする。ここでは5%未満のため、帰無仮説を棄却し対立仮設を採択し、性格に違いがあるとする。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の『沢村校長の晩年』を考える」より

心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の「沢村校長の晩年」を考える5

表2 具体度

「世に憎むべきは善意である」正剛は日記にそう書いた。「悪意には立ち向かい様がある。しかし底抜けの善意には立ち向かいようがない」光江のすることなすことが彼の気に障るのである。→基準からの逸脱1、逸脱2 

時折、光江は仏壇の前に座って鉦を鳴らす。必ず三回、「チーン、チーン、チーン」と鳴らすのである、すると彼はムッとした。→基準からの逸脱1、逸脱2

居合わせた柳原がそれを聞いて、「なんだ?そりゃ?」といぶかしんだ。「ばあさんだよ、手伝いの」吐き捨てるようにいった。→基準からの逸脱2、逸脱1

柳原は尚もいぶかしんでいった。「なんで鉦を鳴らすんだ?」「知らんよ」正剛はまた吐き捨てた。「オレも知りたいよ・・・」それ以来、柳原は光江を気に留めるようになった。→基準からの逸脱1、逸脱1 

「あれは例の秋葉原のメイド喫茶の真似かね?」といったこともある。光江は黒々と染めた前髪にレースの縁取りをした白い布をつけている。「知らんよ」その時も吐き捨てるように正剛はいった。→基準からの逸脱2、逸脱2

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の『沢村校長の晩年』を考える」より

心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の「沢村校長の晩年」を考える4

2.3 「沢村校長の晩年」の登場人物間で性格が違う 

 「沢村校長の晩年」は、私立の女子高校の元校長とお節介なお手伝いとのやり取りを描いた短編である。ここでは、この小論の研究テーマ、正剛と光江の性格に関し違いがあるかどうかについて作成したデータベースを基に考察していく。  

解答 正剛と光江の性格に違いがある

表1 具体度

光江がしゃべりながら近づいてくる。「先生、見ました?こんなに小さくて可愛いんですよう、鶯色して・・・あら、鶯が鶯色なのは当り前ですけどね。」一人でけたたましく笑っている。→基準からの逸脱0、逸脱2

「梅に鶯って昔からいいますけど、ほんとうですわえ。お庭には桃も桜もあるのに、わざわざ梅にくるなんて、梅の密がおいしいのかしら、香りがすきなんでしょうか。それとも花が可愛いから?」。→基準からの逸脱0、逸脱2 

それを打ち切るように正剛は「赤松さん!」と呼んだ。声がふるえている。「赤松さん、鶯が来ているときは黙って、静かにしているものですよ。それが年に一度来る鶯への礼儀だ・・・」すると光江はいった。→基準からの逸脱1、逸脱1 

「礼儀!そうですわねえ。やっぱり先生はおっしゃることが違いますわ。それで先生はだまって静かにしてらしたんですねえ。私はまた、ご存じないのかと思って・・・失礼しました。ほんとうに私ってどうしてこんなにオッチョコチョイなんでしょう、うちの主人もしょっちゅう、いいますんですよ、昨日もねえ・・・」。→基準からの逸脱1、逸脱2 

「もういいから、少し静かにしてくれませんか。ひどく疲れるんだ」。あらたと話していると、と彼は付け加えたが光江は気にも留めず、「あらまあ、いけませんわ。先生、お休みになってください。お床をとりましょう。お熱はどうです?大丈夫ですか?」と額に手を当てにくる。→基準からの逸脱1、逸脱2 

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の『沢村校長の晩年』を考える」より

心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の「沢村校長の晩年」を考える3

2.2 実験計画

【研究テーマ】 
質問 正剛と光江の性格に違いがある。 
帰無仮説 正剛と光江の性格に関し違いがない。 
対立仮説 正剛と光江の性格に関し違いがある。  
【実験計画】
独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でいうと原因である。
従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
【要因と水準】
要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
【参加者間要因と参加者内要因】
参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
【有意確率】
帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の『沢村校長の晩年』を考える」より

心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の「沢村校長の晩年」を考える2

2 心理学統計

 心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

2.1 有意性検定

 科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女の性差で満足度に差があるのかどうか、または不安度に差があるのかどうか考える。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

【検定の流れ】
帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する

 ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の『沢村校長の晩年』を考える」より

心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の「沢村校長の晩年」を考える1

1 先行研究との関係

 データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、佐藤愛子の「沢村校長の晩年」を使用して正剛と光江の性格に関し考察していく。 

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて佐藤愛子の『沢村校長の晩年』を考える」より

佐藤愛子の「沢村校長の晩年」の相関関係について6

4 相関係数を言葉で表す

数字の意味を言葉で確認しておく。

-0.7≦r≦-1.0 強い負の相関がある
-0.4≦r≦-0.7 やや負の相関がある
0≦r≦-0.4 ほとんど負の相関がない
0≦r≦0.2 ほとんど正の相関がない
0.2≦r≦0.4 やや正の相関がある
0.4≦r≦0.7 かなり正の相関がある
0.7≦r≦1 強い正の相関がある

5 まとめ

 佐藤愛子の「沢村校長の晩年」のデータベースのうち、言語の認知のカラムは、性格の創造とその表現、1あり2なし、情報の認知のカラムは、人工知能が1創造、2認知発達は、正の強い相関があることがわかった。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
前野昌弘 回帰分析超入門 技術評論社 2012
佐藤愛子 院長の恋 文春文庫 2012

佐藤愛子の「沢村校長の晩年」の相関関係について5

表2 計算表

A 3 2 5
偏差 0.5 -0.5 0
偏差2 0.25 0.25 0.5
B 3 2 5
偏差 0.5 -0.5 0
偏差2 0.25 0.25 0.5
AB偏差の積 0.25 0.25 0.5

◆相関係数は、次の公式で求めることができる。

相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/
√(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和

上記計算表を代入すると、

相関係数 = 0.5/√0.5 x 0.5 = 0.5/0.5= 1

従って、正の強い相関があるといえる。

花村嘉英(2020)「佐藤愛子の『沢村校長の晩年』の相関関係について」より


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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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