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2020年05月13日

佐藤愛子の「沢村校長の晩年」の執筆脳について2

2 Lの分析

 「書いて書いて書きまくる」を地で行く仕事ぶり。佐藤愛子(1923年−)の精力的な作品作りは定評のある所である。河野(2012)によると、佐藤愛子は、人間が大好きな作家である。最も興味のあるものは、人間の性格のようである。登場人物に纏わる性格の創造と表現が作品の随所に見られる。そこで、購読脳を「性格の創造とその表現」にする。
 「沢村校長の晩年」の作中人物の性格の作り方を見てみよう。沢村正剛は、30年間私立の女子高校の校長を勤め、退職後は趣味を楽しんでいる。作中ではすでに75歳になり、妻の正子は亡くなり、晩年を一人で過ごしている。一人暮らしになった正剛のために、長男勇也の妻忍が初老の赤松光江に手伝いを依頼する。働き者でも神経質で小うるさい正剛とは性格が合わない。余計なお節介だと口にする数倍鈍感で旺盛な善意にいら立っている。月に一度様子を見に来る忍が介在することにより、二人の性格のコントラストが際立つ。 
 執筆脳は、性格を創造するための表現を駆使しながら何人もの登場人物を調節するため、「創造と認知発達」にする。認知発達に関しては、川端康成の「雪国」を分析した花村(2019)に詳しく説明がある。参考にしてもらいたい。執筆脳の「創造と認知発達」を購読脳の「性格の創造とその表現」とマージした場合のシナジーのメタファーは、「佐藤愛子と認知発達」にする。 

花村嘉英(2020)「佐藤愛子の『沢村校長の晩年』の執筆脳について」より

佐藤愛子の「沢村校長の晩年」の執筆脳について1

1 はじめに

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 メゾのデータを束ねて何やら観察で予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「佐藤愛子の『沢村校長の晩年』の執筆脳について」より

2020年04月10日

芥川龍之介の「河童」の相関関係について6

4 まとめ

 芥川龍之介の「河童」のデータベースのうち、言語の認知のカラム、逆転の思考が1ある、2なしと、情報の認知のカラム、人工知能で1機知、2批判は、正の強い相関関係になることがわかった。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
前野昌弘 回帰分析超入門 技術評論社 2012
芥川龍之介 河童 角川文庫 2008

芥川龍之介の「河童」の相関関係について5

表2 計算表

A 1 4 5
偏差 -1.5 1.5 0
偏差2 2.25 2.25 4.5
B 4 1 5
偏差 1.5 -1.5 0
偏差2 2.25 2.25 4.5
AB偏差の積 2.25 2.25 4.5

◆相関係数は、次の公式で求めることができる。

相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/
√(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和

上記計算表を代入すると、

相関係数 = 4.5/√4.5 x 4.5 = 4.5/4.5 = 1

従って、正の強い相関があるといえる。

数字の意味を言葉で確認しておく。 

-0. 7≦r≦-1.0 強い負の相関がある
-0.4≦r≦-0.7 やや負の相関がある
0≦r≦-0.4 ほとんど負の相関がない
0≦r≦0.2 ほとんど正の相関がない
0.2≦r≦0.4 やや正の相関がある
0.4≦r≦0.7 かなり正の相関がある
0.7≦r≦1 強い正の相関がある

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

芥川龍之介の「河童」の相関関係について4

A 言語の認知(動から静への思考):1ある、2ない →1、4
B 人工知能:1認識、2心的操作 →4、1
 
◆A、Bそれぞれの平均値を出す。
Aの平均:(1 + 4)÷ 2 = 2.5
Bの平均:(4 + 1 )÷ 2 = 2.5
◆A、Bそれぞれの偏差を計算する。偏差=各データ−平均値 
Aの偏差:(1 – 2.5)、(4 – 2.5)= -1.5、1.5
Bの偏差:(4 – 2.5)、(1– 2.5)= 1.5、-1.5
◆A、Bの偏差をそれぞれ2乗する。
Aの偏差2乗 = 2.25、2.25
Bの偏差2乗 = 2.25、2.25
◆AとBの偏差同士の積を計算する
(Aの偏差)x(Bの偏差)= 2.25、2.25
◆AとBを2乗したものを合計する。
Aの偏差を2乗したものの合計 = 2.25 + 2.25 = 4.5
Bの偏差を2乗したものの合計 = 2.25 + 2.25 = 4.5
◆Aの偏差xBの偏差の合計を計算する。2.25 + 2.25 = 4.5

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

芥川龍之介の「河童」の相関関係について3

3 小説の場面に適用する

表1 河童の訪問
それから僕は二三日ごとにいろいろの河童の訪問を受けました。僕の病はS博士によれば早発性痴呆症ということです。しかしあの医者のチャックは、僕は早発性痴呆症患者ではない、早発性痴呆症患者はS博士をはじめ、あなたがた自身だと言っていました。意味思考 1、人工知能2

医者のチャックも来るくらいですから、学生のラップや哲学者のマッグの見舞いにきたことはもちろんです。が、あの漁夫のバッグのほかに昼間はだれも尋ねてきません。意味思考 2、人工知能2

ことに二三匹いっしょに来るのは夜、―それも月のある夜です。僕はゆうべも月明りの中に硝子ガラス会社の社長のゲエルや哲学者のマッグと話をしました。のみならず音楽家のクラバックにもヴァイオリンを一曲弾いてもらいました。意味思考 2、人工知能2

そら、向こうの机の上に黒百合の花束がのっているでしょう?あれもゆうべクラバックが土産に持ってきてくれたものです。(僕は後ろを振り返ってみた。が、もちろん机の上には花束も何ものっていなかった。)
意味思考 2、人工知能2

それからこの本も哲学者のマッグがわざわざ持ってきてくれたものです。ちょっと最初の詩を読んでごらんなさい。いや、あなたは河童の国の言葉を御存知になるはずはありません。では代わりに読んでみましょう。これは近ごろ出版になったトックの全集の一冊です。2、人工知能1

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

芥川龍之介の「河童」の相関関係について2

2 相関の作り方

 シナジーのメタファーのために作成しているデータベースは、データの種類で見ると、俗に言う測れないカテゴリーデータからなる。数量データといわれる身長、体重、気温、湿度などとは異なり、値が連続ではなく飛び飛びで離散的となる。前野(2012)によると、カテゴリーデータは、対象の性質を表したり、現象や区別を表したりする。性別、好き、嫌い、うまい、まずい、おもしろいなどあるものの性質や現象が示される。
 相関とは原因から結果が生じ、それが互いに関係しあっていることをいう。また、相関関係があるとは、ある測定値の変化に対して他の測定値も変化する場合に使われる。相関の強さは、ピアソンの相関係数で表す。合わせて共分散という統計用語が重要になる。 

(1) 共分散の公式
共分散=[(xの各データ−xの平均値)x(yの各データ−yの平均値)]の和/データ数
   =[(xの偏差)x(yの偏差)]の和/データ数
   = xとyの偏差積の和/データ数

正の相関があると0より大きく、負の相関があると0より小さくなる。

(2) 相関係数(ピアソン)
相関係数=XYの偏差平方和/√(Xの偏差平方和)x(Yの偏差平方和)

「河童」の問題解決の場面を使用して、簡単な例を見てみよう。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

芥川龍之介の「河童」の相関関係について1

1 先行研究

 昭和初期の日本を風刺した芥川龍之介(1892−1927)の「河童」の一場面を使用し、人間社会と反対の価値を持つ河童の世界を描きながら、そこに遥かに人間味のあることを狂人に語らせる。執筆時には、逆転の論理、弱者の勝利といった現代にも通じる発想があったに違いない。  
 この小論では、自作のデータベースを使用して相関関係を考察する。言語の認知のカラムは、思考の流れ、即ち、逆転の思考が1ある、2ない、情報の認知のカラムは、人工知能が1機知、2批判である。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

2020年04月09日

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について9

4 まとめ

 芥川龍之介の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「河童」のLのストーリーをデータベース化して、最後に特定したところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

片野善夫 ほすぴ164号 日本成人病予防協会 2018
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風社 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  241-249 
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019 276-283
芥川龍之介 河童・戯作三昧 角川文庫 2008

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
D 表2と同じ。情報の認知1 1、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2

A:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
D:情報の認知1は@ベースとプロファイル、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E:情報の認知1はB条件反射、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。

結果

 芥川は、この場面で早発性痴呆症患者は精神病を患う狂人ではなく、精神病院の院長や日本国民であると説明したかった。つまり、思考の流れに逆転の論理という推論があるため、「風刺と精神病」と「機知と批判」という組が相互に作用する。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の執筆脳について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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