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2020年06月02日

横光利一の「蝿」で執筆脳を考える2

2 「蝿」の思考によるLのストーリー  

 横光利一(1898−1947)は、場面のイメージが掴めるような感覚表現を用いて新しい文体を作り出し、新しい文芸時代のための貢献を試みた。ここでは、横光利一の「蝿」(1923)を題材にする。「蝿」は、眼の大きな一匹の蝿が蝿の眼で田舎の宿場の様子や乗客たちを分析するときの話である。無論、客観性を上げるためである。
 宿場には、街で仕事をしている倅が死にかけている農婦、荷物を持った駆け落ち組の若い男女がやってきた。さらに、母親に連れられた男の子、四十三歳で春蚕の仲買人をしている田舎紳士も宿場に加わった。 
二番の馬車は、10時に出る。馭者は、饅頭を腹掛けの中へ押し込み、馭者台に乗った。喇叭が鳴り、鞭が入る。眼の大きな例の蝿は、馬の腰の余肉の匂いの中から飛び立った。そして、車体の屋根の上にとまり直ると、漸く蜘蛛の網からその生命をとり戻した身体を休めて、馬車と一緒に揺れていった。初期値敏感性で見ると、蝿の目に映る馬車からの光景は、乗客と変わらない。 
 動物や昆虫から見た現実世界を描いた作家は他にもいる。フランツ・カフカである。「変身」は、起きたときに大きな害虫に変わっていたグレゴール・サムサがやはり虫の眼で家族の様子を観察している。観察している以上、視覚情報が重要である。

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より

横溝利一の「蝿」で執筆脳を考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 メゾのデータを束ねて何やら観察で予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「横溝利一の『蝿』の執筆脳について」より

2020年05月16日

坂口安吾の「肝臓先生」の多変量解析−クラスタ分析と主成分10

6 まとめ 

 データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。

【参考文献】

片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 ヘルスケア出版 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
坂口安吾 肝臓先生 角川文庫 1999
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 テキスト3 心の健康管理 ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005 
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018 
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 坂口安吾の「肝臓先生」の執筆脳について ファンブログ 2020 

坂口安吾の「肝臓先生」の多変量解析−クラスタ分析と主成分9

【カラム】
A平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0 
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0 
C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0 
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.0低い、標準偏差0低い、中央値1.0低い、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.9高い、標準偏差023低い、中央値2.0高い、四分位範囲2.0高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
Aの中央値が低く、Cの中央値が高いため、視覚の新情報が多い。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。  
@ 6、視覚、直示、新情報、未解決 →島に病人が待っている。行かねばならない。 
A 6、視覚、直示、新情報、未解決 →小舟に乗り、空襲のサイレンを聞く。 
B 5、視覚、直示、新情報、未解決 →先生は肝臓の鬼、慈愛の目が究理の目に変っている。
C 6、視覚、直示、新情報、未解決 →飛行機が舟をめがけて急降下。
D 6、視覚、直示、新情報、未解決 →先生の姿は永久に消えた。遺品の一つない。 
【場面の全体】
 全体で視覚情報が10割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも高いため、視覚の情報が重要となっている。

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

坂口安吾の「肝臓先生」の多変量解析−クラスタ分析と主成分8

◆場面3 

娘の肩に手をかけて、こう優しく慰めると、先生は棺の前に端坐して、冥目合掌し、
「島に病人が待っています。行ってやらなければなりません。あなただけは、それを喜んで下さるでしょう。肝臓医者は負けじ」深く深く一礼を残すと、あとはイダテン走りであった。病院へ駈けつけると薬をつめたカバンをとり、私をしたがえて、一散に海へ。A1、B1、C2、D2

三人は小舟に乗った。私は櫂をにぎった。海上で、かなた陸上の空襲のサイレンをきく。それは淋しく、怖ろしいものである。見渡す海に、一艘の舟とてもない。浜に立つ人影もない。風よ。浪よ。舟をはこべ。島よ。近づけ。 先生は舟中で娘の掌をきつく握って、手の色をみた。それは先生が肝臓疾患の有無をしらべる時の最初の方法なのである。A1、B1、C2、D2

「やっぱり、あなたもあるようだ。どれ」 もはや、先生は肝臓の鬼だ。慈愛の目が、きびしい究理の目に変っている。 先生は肝臓に手をあて、強く押して診察した。「流行性肝臓炎だ。しかし安心するがよいよ。おうちへつくと、じきに治る薬をあげますよ」A1、B1、C2、D1

アッと思った瞬間に、私は施す術すべもなく、ただ、すくんで、待つばかりであった。「伏せ! 伏せ!」
先生は叫んだ。伏すことのできない私を、怒りをこめて、にらんだ。その先生は伏さなかった。飛行機は私たちの舟をめがけて急降下する。先生はそれをジッとにらんでいる。耳を聾する爆音。すべてが、メチャ/\にひっくりかえった。A1、B1、C2、D2

気がついたとき、私は海上を漂っていた。かたわらに、小舟が真二ツにわれている。娘が歯をくいしばって、浮いている。しかし、先生の姿はなかった。そして先生の姿は永久に消え、再び見ることができなかった。遺品の一つといえども、浜に打ちあげられてこなかったのだ。壮烈なる最期である。しかし、あまりにも、なさけない。どうして私が死に、先生が助かることが出来なかったのだろう。思えば地上にすら人影ひとつ動くもののないとき、一艘の小舟のみが海上を漂うことのいかに冒険であったことか。敵機がこれを軍事的な何物かと誤認することは当然だった。A1、B1、C2、D2

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より





坂口安吾の「肝臓先生」の多変量解析−クラスタ分析と主成分7

【カラム】
A平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
D平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0  
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.4普通、標準偏差0.22低い、中央値1.5普通、四分位範囲1.5高い
CD 平均1.6普通、標準偏差0. 55普通、中央値2.0高い、四分位範囲1.0低い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
肝臓炎に関し情報が新旧交じり未解決のまま、専門医に意見を聞いている。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。 
@ 6、視覚以外、直示、新情報、解決 →満州事変以来、肝臓肥大が目についた。
A 7、視覚以外、直示、新情報、未解決 →その後暫くは皆が肝臓が悪いといわれる。
B 6、視覚以外、直示、新情報、解決 →流行性肝臓炎とか流感性肝臓炎とか名づけられた。
C 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 →支那大陸から持ちこまれた流感に関係がある。
D 5、視覚、直示、旧情報、未解決 →篤学の皆様方の御研究の参考になって欲しい。
【場面の全体】
 全体で視覚情報は2割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合より低いため、視覚以外の情報が重要になっている。

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

坂口安吾の「肝臓先生」の多変量解析−クラスタ分析と主成分6

◆場面2

「さて、次に、ひとつ、お願いがございますが、昭和七年満州事変以来、ポツポツ亜黄疸の患者があって肝臓肥大に気付くようになりましたが、その当時はちょッとフシギと思った程度で、たいして気にも留めませんでした。ところが、昭和十二年末ごろから、年々かような患者を見うけることが急速に、かつ、非常に多くなって、殊に感冒患者はほとんど肝臓肥大で圧痛あることが普通のこととなったのであります。A2、B1、C2、D1

そこでこの四五年というものは、アナタも肝臓がわるい、アナタも、アナタも、と言わざるを得ないものですから、あの医者は肝臓医者だ、あそこへ行くと、みんな肝臓にされてしもう、こう言って呆れてほかの医者へ転じてしもう人も多くなりましたが、又一方には、遠路はるばる宿をもとめて肝臓の診察を乞う人もあり、うれしい思いをさせられる折もあります。A2、B1、C2、D2

ちかごろに至りましては流感の患者、肺炎の患者、胃腸の患者の八九十%以上に、肝臓の肥大圧痛が触診されるのでありまして、昭和十二年末から現在まで、二千例あるいはそれ以上かような患者を扱ったのですが、これらを集約して、私は流行性肝臓炎とか流感性肝臓炎とか名づけて然るべき病気ではないかと思っているのであります。A2、B1、C2、D1

支那大陸から持ちこまれた流感に関係があるのではないかと思っております。いずれに致しましても、かように多くの患者に向って、アナタも肝臓である、アナタも、アナタも、と申しましては、患者の中にはインチキと思う人もあり、同業者までインチキ視しまして、あれはフランスの医者であるとか、赤城氏性肝臓炎とか言いふらし、かくては当物療科の名誉を傷け、大先生の御恩にも背き、温泉療養所の先生方の目ざましい功績までも汚すことになるのではないかと心から恐れているのであります。A2、B1、C1、D2

それでお願いと申しますのは、この事実を申上げて篤学の皆様方の御研究の参考になって欲しいと祈るものでございます。謝恩会の席をかりまして、皆々様の御関心御研究をひたすらお願い致す次第であります」
A1、B1、C1、D2

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

坂口安吾の「肝臓先生」の多変量解析−クラスタ分析と主成分5

A平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0  
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0   
【クラスタABとクラスタCD】 
AB 平均1.2低い、標準偏差0.27低い、中央値1.0低い、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.4普通、標準偏差0.22低い、中央値1.5普通、四分位範囲2.0高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
Aの中央値が低く、Cの中央値が高いことから、視覚の新情報が多い。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。  
@ 5、視覚、直示、新情報、解決 →診察を乞う人の肝臓の苦痛を和らげる。 
A 5、視覚、直示、新情報、解決 →肝臓を観察し進行性と伝染性を突きとめた。
B 6、視覚以外、直示、新情報、解決 →その由って来たるところに結論を得た。
C 6、視覚以外、直示、新情報、解決 →日支事変により大陸の肝臓炎が輸入された。
D 4、視覚以外、直示、旧情報、解決 →これを流行性肝臓炎と命名した。
【場面の全体】
 全体で視覚情報は6割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚以外の情報が重要となっている。

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

坂口安吾の「肝臓先生」の多変量解析−クラスタ分析と主成分4

◆場面1

かく観ずることによって、先生は安心を得た。否、かく観ずることによって、その時以来、さらに逞しい闘志に燃えたち、診察を乞う人々のあらゆる肝臓の苦痛をやわらげんものと堅く心に期するところがあったのである。
A1、B1、C2、D1

そこで先生は冷静の上にも冷静を重ねて例外なく腫れているモロモロの肝臓をつぶさに観察し、一方に慢性的な進行性と、一方に甚しい伝染性のあることを突きとめた。家族の一人がこの肝臓炎に犯されると、数年のうちに、家族の全員に伝染することも確かめたのである。A1、B1、C2、D1

かくて先生はその由って来たるところに結論を得たが、これぞ戦争がもたらしたイタズラ小僧の末弟の一人だ。コロンブスによってもたらされたスピロヘーテンパリーダが忽ちにして全世界を侵略するに至ったのも戦争のせいである。鎖国の別天地、日本を侵略するに最も多くの時間がかかったとはいえ、ヨーロッパの侵略におくれることたッた六十年で、日本人の鼻を落しているのである。A2、B1、C2、D1

日支事変によって、日本と大陸とに莫大な人員物資の大交流が行われ、大陸の肝臓炎が輸入されてきたのだ。はじめ先生はこれを大陸カゼとよんだ。スペインカゼが心臓を犯したように、大陸カゼは好んで肝臓を犯すのである。元来肝臓炎は風邪に随伴して起りやすいが、肝臓病者がカゼをひきやすくもあるのである。
A2、B1、C2、D1

かくて大陸渡来の風邪性肝臓炎は今や全日本を犯しつつあり、赤城風雨先生の診療室に戸をたたく患者のすべての肝臓を腫れあがらせているほどの暴威をふるうに至っているのだ。
 先生はこれを流行性肝臓炎と命名して患者に説明したが、町の人たちにはオーダンカゼと言ってきかせるのが一番わかりやすいことを発見した。A1、B1、C1、D1

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

坂口安吾の「肝臓先生」の多変量解析−クラスタ分析と主成分3

3 多変量の分析

 多変量を解析するには、クラスタと主成分が有効な分析になる。これらの分析がデータベースの統計処理に繋がるからである。
 多変数のデータでも、最初は1変数ごとの観察から始まる。また、クラスタ分析は、多変数のデータを丸ごと扱う最初の作業ともいえる。似た者同士を集めたクラスタを樹形図からイメージする。それぞれのクラスタの特徴を掴み、それを手掛かりに多変量データの全体像を考えていく。樹形図については、単純な二個二個のクラスタリングの方法を想定し、変数の数や組み合わせを考える。
 作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、グループ分けをする。例えば、A五感(1視覚と2それ以外)、Bジェスチャー(1直示と2隠喩)、C情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。 
 まず、ABCDそれぞれの変数の特徴について考える。次に、似た者同士のデータをひとかたまりにし、ここでは言語の認知ABと情報の認知CDにグループ分けをする。得られた変数の特徴からグループそれぞれの特徴を見つける。
 最後に、各場面のラインの合計を考える。それぞれの要素からどのようなことがいえるのであろうか。「肝臓先生」のバラツキが縦のカラムの特徴を表しているのに対し、ここでのクラスタは、一場面のカラムとラインの特徴を表している。
 なお、外界情報の獲得に関する五感の割合は、視覚82%、聴覚11%、嗅覚4%、触覚2%、味覚1%とする。(片野2018)

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
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プロフィール
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花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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