2011年08月17日
笑ってさよなら〜四畳半下請け工場(こうば)の日々〜
NHK ベストテレビにて視聴
「地方の時代」映像祭2010のグランプリ、更にモンテカルロ・テレビジョン・フェスティバル最高賞受賞に輝いた作品。
特に後者の方は民放史上日本発という事で、どんだけ凄い事なのか良く分からないがまあ多分相当凄いんでしょう。
で、肝心の内容ですが、まあそれだけの評価を得るだけの事はあってしっかり心に残る素敵な作品でしたよ。
「ここは下請けの下請けの下請けのそのまた下請け、4次下請けの町工場」という平泉成のナレーションにあるように、トヨタの部品の接着などを請け負っている工場が閉鎖するまでを追う。
工場といっても、経営者は56歳のおばちゃんで、従業員はこれまた主婦2人。
3人でおしゃべりをしながら「いわゆる内職」的な作業を一日中行なうという非常にシンプルな工場。
10年前に夫の会社の倉庫の一角を借りてスタートし、辛い時も笑い飛ばしながらやってきたが、先のトヨタショックの影響で半年仕事がなくなるという事態に陥った。
その後エコカーブームで仕事が復活するものの、おばちゃんは独自に自動車業界を分析し、「これ以上振り回されたくない。」と、工場を閉める事を決意する。
というのはあくまでプロローグで、作品自体はそれから先の工場の明るく楽しい様子や、おばちゃんの私生活でのパワフルかつ愛嬌に溢れた人柄を追い続けていく。
そして「終わる実感が無いね。」といつものように作業を行い、回収のトラックを迎える。
運転手と笑いながら挨拶を交わし、3人でトラックを見送る。
「やっぱりさみしいね。」と明るくしゃべりながらも涙を流すおばちゃん達。
それまで笑顔のシーン連続だった故にこのおばちゃんの苦労が詰まった涙にもらい泣きしてしまう。
エピローグはやわらかいBGMに乗せて名古屋の町の空撮から始まる。
ナレーションでトヨタショックによりこの東海3県でこの年1000件の企業が廃業した事を告げ、工場のある建物にズーム。
それに合わせ
「しかし、この4畳半の小さな工場の廃業は、そんな統計にも現れない小さな、小さな出来事。」
と。
泣きました。
「下請けの下請けの・・・。」という冒頭にうまく呼応し、静かに静かに何かを告発した作品だった。
作品とは直接関係無いが、この作品を観たのはNHKの特集番組だった。
コメンテーター達のこの作品への感想と解説がなかな見事で、よりこの作品の魅力を感じる手助けになった。
特に「トヨタにとってあまり嬉しくないこの作品をお膝元のテレビ局が作った事にもこの作品の存在意義がある。」というコメントにはなるほどと思わされ、だからこそ声高でない作品になり、それが却って抑制の効いた非常に絶妙なバランスの作品になったのだろうと知った。
映画なども解説のおかげで「なるほど、そういう解釈もあるか。」などと思う事はあるが、ドキュメンタリーについてはその背景にある社会問題なども重要なファクターであるからして、解説が付く事によって作品の存在意義をより掴む事ができたりするんだなと関心した。
大企業は社会から様々な恩恵を受けている。
それは「お前も悪よのう、越後屋。」的な事を一切無視したとしても、「国の経済上重要だから。」という最もらしい理由で裏づけされる。
倒産しそうになったら税金が投入される事だってある。
結局中枢にいる人達は色々非難される事はあろうが、生活に大きな支障をきたさない。
それどころかしっかり資産を維持していたりする。
ちょっと何かがあった時のバッファとして存在し、振り回され吹き飛ばされるのはこのおばちゃん達のような下請け企業、立場の弱い人達だ。
一体誰の為に存在しているのかよくわからないモノに依存した社会について改めて考え直す必要がある。
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