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私たちの免疫システムには、新型コロナウイルスの感染を促進する「感染増強抗体」と、

感染を予防する「中和抗体」との相反する2つの抗体が存在することが明らかになってきました。

ワクチンを接種することで「中和抗体」を増やし、

相対的に「感染増強抗体」を減らすことで新型コロナウイルスの感染を予防することができます。

【目次：記事内容の要点】

Ⅰ．新型コロナウイルス感染における抗体の役割
◆抗体とはウイルス（抗原）と結合するタンパク質
◆抗体はB細胞が産生する
◆抗体には「中和抗体」と「感染増強抗体」の2種類が存在

Ⅱ．ウイルス感染を促進する「感染増強抗体」とは？
◆「感染増強抗体」は重症化した人に多く存在


Ⅲ．ウイルス感染を予防する「中和抗体」とは？
◆「中和抗体」の正体と働きとは？
◆富山大学が変異株の感染を防ぐ「スーパー中和抗体」の作成に成功

Ⅳ．ワクチン接種で「中和抗体」を増やし「感染増強抗体」を無力化！
◆ワクチン接種で「中和抗体」を獲得

Ⅰ．新型コロナウイルス感染における抗体の役割

私たちが新型コロナウイルスに感染すると、

抗体という免疫グロブリン（タンパク質）が免疫B細胞によって生成されます。


この抗体を獲得できると、同じウイルスが再び侵入してきた時に、

B細胞の記憶に基づいた適確な免疫反応によって、二度と同じウイルスに感染しないようになります。

抗体とはウイルス（抗原）と結合するタンパク質

「抗体」とは、コロナ

真っ先に抗原として認識して反応する免疫の元となる物質。


抗体は、免疫B細胞が産生する免疫グロブリンというタンパク質で、

「Ig（アイジー」と表記されます。


抗体は主に血液中や体液中に遊離型として存在するか、B細胞の表面上に受容体として存在しています。


抗体としての最も重要な役割は、

特定のウイルスを抗原（病原体）として結合することで、

免疫細胞が攻撃しやすいように“目印”となることです。

抗体は免疫B細胞が産生する

私たちの免疫システムにおいては、

どのようなタイプのウイルスが侵入しても、

免疫B細胞がそのウイルスにピッタリと合うタイプの抗体を作ることができます。


ただし、1種類のB細胞は1種類の抗体しか作れないうえ、

1種類の抗体は1種類のウイルスしか認識することができません。


そこで、B細胞には数百万～数億もの種類が存在し、

あらゆるウイルス抗原と結合できる特異的な抗体を産生することができるのです。


しかしながら、B細胞による抗体の産生には、

数日から数週間もの時間を必要とするとされています。

抗体には「中和抗体」と「感染増強抗体」の2種類が存在

つい最近の研究で、抗体の中には「中和抗体」のような善玉だけではなく、

コロナウイルス感染を促進してしまう悪玉の「感染増強抗体」の存在が明らかになりました。

この「感染増強抗体」を発見したのは大阪大学の研究チームで、

76種類の抗体を解析した結果、そのうちの6種類が「感染増強抗体」だったと発表。


いっぽうで富山大学の研究チームは、「スーパー中和抗体」の作成に成功したと発表しました。

この「スーパー中和抗体」は、

なんとインド型など複数の変異コロナウイルスへの感染を防ぐ効果を発揮するとのことです。

Ⅱ．ウイルス感染を促進する「感染増強抗体」とは？

「感染増強抗体」は大阪大学研究チームが発見し、

2021年6月に米国の科学誌「セル」に発表されました。

「感染増強抗体」は、コロナウイルスがヒト細胞に侵入しようとする際に、

侵入を阻止すのではなくコロナウイルスが侵入しやすいように助ける悪玉の抗体です。

「感染増強抗体」は重症化した人に多く存在

大阪大学の研究チームが発見した「感染増強抗体」は、

解析した76種類の抗体の中から6種類が確認されています。

この6種類の「感染増強抗体」は、

コロナウイルス感染で特に重症化した人の体内から確認されています。

従って、「感染増強抗体」の有無は、

重症化のリスクの高い人を早期段階で見分ける目印になり、

適切な治療に貢献できる可能性があることを示唆しています。

またワクチン接種を受けた人であっても、「感染増強抗体」は生成されるらしい。

しかし、ワクチン接種により「中和抗体」が一定量生成されれば、

「感染増強抗体」の感染促進作用を阻害し、感染を予防できるとされています。

Ⅲ．ウイルス感染を予防する中和抗体とは？

「中和抗体」とは、ヒトの体内に侵入したウイルスなどから感染を防ぐ中和作用のある抗体のこと。

ワクチン接種やウイルスに対する免疫システムとしてB細胞によって産生されます。


「中和抗体」には、

コロナウイルスの感染を予防する効果や感染後の重症化を抑制する効果があります。


そこで現在では、新型コロナウイルスの感染を予防するために、

「中和抗体」に関する研究・開発が国内外で盛んに進められています。

中和抗体の正体と働きとは？

「中和抗体」とは、免疫システムにおける ウイルスや病原性細菌などに対する免疫応答のひとつ。

ウイルスなどの感染性の病原体（＝抗原）の表面に特異的に結合することで、

中和作用によって宿主細胞への侵入・増殖を阻止する働きを行います。

「中和抗体」は、

ウイルスへの感染（＝細胞侵入・増殖）が成立する前にウイルスを排除してくれるので、

「殺菌免疫」とも呼ばれています。

〇ウイルスの細胞侵入を防ぐ中和抗体のしくみ

新型コロナウイルスは、

受容体を持つ標的細胞の表面にウイルスの突起タンパク質を結合させて、

標的細胞（宿主細胞）内に侵入します。


宿主細胞内に侵入したウイルスは、自らの複製（コピー）することで増殖を繰り返します。

この複製＝増殖の始まりが、ウイルス感染を意味します。


「中和抗体」は、ウイルスなどの病原体（＝抗原）に結合して毒性を中和し、

標的細胞内への侵入・増殖を阻止してくれます。


新型コロナウイルスのエンベローブ型では、

「中和抗体」が突起の糖タンパク質に結合することで、

ウイルスの細胞内への侵入を阻止します。

富山大学が変異株の感染を防ぐ「スーパー中和抗体」の作成に成功

2021年6月に富山大学の研究チームが、

インド型などの新型コロナウイルスの変異株にもマルチ対応できる、

「スーパー中和抗体」の作成に成功したと発表しました。


この「スーパー中和抗体」は従来型の中和抗体ではなく、

イギリス型・アフリカ型・インド型などの変異型コロナウイルスにも対抗することができます。


新型コロナウイルスに感染して回復した人には、特に多くの量の中和抗体が存在します。

この回復した人の血液から抗体を産出する「Ｂ細胞」を取り出し、

遺伝子を組み替えることで「スーパー中和抗体」を作成したとのこと。


この「スーパー中和抗体」は、

新型コロナウイルスに感染した患者が重症化する前の治療薬として、

今後の実用化が期待されています。

Ⅳ．ワクチン接種で中和抗体を増やし増強抗体を無力化！

最近の横浜市立大学の研究結果から、

新型コロナウイルスに感染して回復した患者の多数が、

「中和抗体」を獲得していることが判明しています。


また中国本土においても、新型コロナウイルスに感染して回復した人の94%が、

「中和抗体」を保有していたとの報告もあります。

ワクチン接種で「中和抗体」を獲得

「中和抗体」は、ワクチン接種によって獲得することができます。

ワクチン接種によって毒性を弱体化したウイルスを注入すると、

免疫B細胞によって「中和抗体」の産生が可能になります。


ワクチン接種は1回だけでは不十分で2回の接種が必要です。

1回目のワクチン接種後に存在するメモリーＢ細胞がウイルスの特異性を記憶し、

2回目のワクチン接種後には「中和抗体」を迅速に産生することが可能になります。


また、ワクチン接種によって、

ウイルスへの感染を促進する「感染増強抗体」も無力化することができます。


ただし、これらのワクチン接種によって獲得できた「中和抗体」を、

どれだけの期間にわたって保持できるのかはまだ定かではなく、

さかんに研究し続けられています。

まとめ

新型コロナウイルス感染症の発生から約1年半を経過して、世界中でのワクチン接種が急速に進んでいます。

このワクチンの接種による「中和抗体」の獲得しか、

新型コロナウイルス感染症の終息は図れないような気がします。