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2014年02月13日

銀(ぎん、英: silver、羅: argentum)は原子番号47の元素。元素記号は Ag。貴金属の一種。



目次 [非表示]
1 歴史
2 概要・性質
3 産出 3.1 銀鉱石

4 銀化合物
5 同位体
6 宝飾品としての利用
7 その他の用途 7.1 貨幣としての利用
7.2 蒸着利用
7.3 抗菌性の利用
7.4 公衆浴場での利用
7.5 写真への利用
7.6 医療用途への応用
7.7 電子工学分野への応用
7.8 食品
7.9 顔料・化粧品

8 銀の象徴的意味
9 銀相場
10 註・出典
11 関連項目
12 外部リンク


歴史[編集]

紀元前3000年ごろには、人間の生活舞台に登場していた[1]。元素記号の Ag は、ギリシャ語でアルギュロス(ラテン語では argentum) に由来する[1]。これらは「輝く」や「明るい」という意味である[1]。

概要・性質[編集]

室温における電気伝導率と熱伝導率、可視光線の反射率は、いずれも金属中で最大である。光の反射率が可視領域にわたって98 %程度と高いことから美しい金属光沢を有し[2]、大和言葉では「しろがね/しろかね(白銀: 白い金属)」と呼ばれた。

延性および展性に富み、その性質は金に次ぎ、1 gの銀は約2200 mの線に伸ばすことが可能である[3]。

溶融銀は973 °Cにおいて1気圧の酸素と接触すると、その体積の20.28倍の酸素を吸収し、凝固の際に吸収した酸素を放出し表面がアバタとなる spitting と呼ばれる現象を起こす[4]。純銀の鋳造は、これを防止するために酸素を遮断した状態で行う。

貴金属の中では比較的化学変化しやすく、空気中に硫黄化合物(自動車の排ガスや温泉地の硫化水素など)が含まれていると、表面に硫化物 Ag2S が生成し黒ずんでくる。銀が古くから支配階級や富裕階級に食器材料として用いられてきた理由の一つは、硫黄化合物やヒ素化合物などの毒を混入された場合に、化学変化による変色でいち早く異変を察知できる性質からという説がある。

銀イオンはバクテリアなどに対して強い殺菌力を示すため、現在では広く抗菌剤として使用されている。例えば抗菌加工と表示されている製品の一部に、銀化合物を使用した加工を施しているものがある。

塩素などのハロゲンとは直接結合しハロゲン化銀を生成する。また酸化作用のある硝酸および熱濃硫酸に溶解し銀イオンを生成する。ただし王水には溶けにくい。また空気の存在下でシアン化ナトリウムの水溶液にもシアノ錯体を形成して溶解する。
3 Ag + 4 HNO3 → 3 AgNO3 + NO + 2 H2O4 Ag + 8 NaCN + O2 + 2 H2O → 4 Na[Ag(CN)2] + 4 NaOH
アルゼンチンの国名は、国の中央を流れる大河ラプラタ川(スペイン語で銀の川の意味)にちなみ、銀を意味するラテン語名「argentum」から取っている。

産出[編集]

「銀山」も参照

金とともに、中世ヨーロッパでは新大陸発見までの慢性的な不足品であって、そのため高価でもあった。特に16世紀後半から17世紀前半にかけての日本は東アジア随一の金、銀、銅の採掘地域であり、生糸などの貿易対価として中国への輸出も行っていた。これらの金属は日本の貿易品として有用だったので、銀山は鎌倉幕府以前から江戸時代の鎖国終了からしばらく、明治に至っても国が直轄する場合が多かった。中でも島根県大田市の石見銀山は有名。その後、日本の銀山は資源枯渇のため、世界の銀産出地から日本の名前は消えた。

16世紀を通じて金の産額には大して変化がなかったのに対し、銀は16世紀中頃よりポトシ鉱山や石見銀山を中心に著しく増大したため銀価格が暴落した[5]。例えば日本および中国においては16世紀前半まで金銀比価は1:5 - 6前後であったが、17世紀以降は日本では1:10 - 13程度まで銀安となった[6]。16世紀中頃の銀の増産の背景には、アマルガム法や灰吹法の導入があった。新大陸発見後は、ペルーなどで大量採掘された銀が世界中に流れることになった。銀価値の暴落によりヨーロッパの物価は2 - 3倍のインフレーションに陥った(価格革命)。さらに近年、採掘技術の向上、および銅の電解精錬の副産物などにより金銀の生産量が増大し相対的に価格は下落している。しかしながら、いまだに銀は高価な金属であって、その光沢とともに、人々に愛好されている。

銀鉱石[編集]

銀鉱石を構成する鉱石鉱物には、次のようなものがある。
自然銀 (Ag)
輝銀鉱(輝銀鉱) (Ag2S)
濃紅銀鉱(火閃銀鉱) (Ag3SbS3)
淡紅銀鉱 (Ag3AsS3)
角銀鉱 (AgCl)

銀化合物[編集]

化合物中で銀原子は一般的に1価の原子価(酸化数)が最も安定であり、より高酸化状態のものとして3価のものも存在するが、見かけ上2価のものは1価および3価の混合原子価であることが多く真の2価の化合物は一般に不安定である[7]。銀化合物は一般的に光に対し敏感であり分解しやすく褐色瓶で保存する。
フッ化銀 (Ag2F, AgF, AgF2, AgF3)
塩化銀(I) (AgCl)
臭化銀(I) (AgBr)
ヨウ化銀(I) (AgI)
硝酸銀(I) (AgNO3)
酸化銀 (AgO, Ag2O, Ag2O3)
硫化銀(I) (Ag2S)

同位体[編集]

詳細は「銀の同位体」を参照

宝飾品としての利用[編集]





古代サメのアクセサリー
銀は、その白い輝きから宝飾品としても広く利用されてきた。貴金属のなかでは比較的産出量も多く安価であるため、日本では特に若者向けの宝飾品として人気があるが、最近は一般的にも用いられるようになっている。

宝飾品などとして利用する場合、純銀では柔らか過ぎて傷つきやすいため、他の金属との合金の形で利用される(この混ぜる金属を「割り金」と呼ぶ)。日本では一般的に銅を混ぜるが、加工性や高硬度のため他の添加金属を用いることがある。古代エジプトでは銀は金よりも価値があり、金製品に銀メッキが施された宝飾品が存在する。
カラー配合プラチナを混ぜたプラチナシルバーや金・パラジウムを混ぜたシルバー、また色合いを変えたイエローシルバー、ピンクシルバー、グリーンシルバーなどもある。 Silver900 (SV900): コインシルバー
Silver925 (SV925): スターリングシルバー(品位記号 Sterling)
Silver958 (SV958): ブリタニアシルバー(品位記号 Britannia)
Silver1000 (SV1000): 純銀、ピュアシルバー
シルバーの記号記号の SV は一般的に用いられているが、国際的には認知されていないので、社団法人日本ジュエリー協会は、元素記号である Ag の使用を推奨している。 SV900 ⇒(推奨)Ag900
SV925 ⇒(推奨)Ag925
純度について造幣局では、貴金属の品位証明を行っているが、銀の品位区分を1000, 950, 925, 900, 800(千分率 : ‰)の5種としている。これに対してジュエリー用貴金属の純度を決めている ISO 9202(国際標準化機構)と JIS H6309(日本工業規格)では925, 835, 800の3種としている(造幣局区分と異なり925を上回るものがなく、また900の代わりに835がある)。これらは品位区分であって、市場に出る地金として認めるとか認めないとかいう観点とは異なる。流行のピンクシルバーはほぼ500 ‰(割り金は銅)であり、変色しない銀としてかつて用いられたソフトホワイトは500 ‰(割り金はパラジウム)である。また、朧銀(おぼろ銀)は、 四分一(しぶいち)といわれ、銀が250 - 600 ‰の各種合金で、伝統工芸品、美術品、宝飾品に用いられている。※なお、記号「‰」についてはパーミルを参照されたい。その他銀製品は、年月を経ると空気中の硫黄分と反応して黒ずんでくるが、これを燻し銀と呼んで愛好する向きもあり、また強制硫化やめっきをした銀古美仕上げがある。
その他の用途[編集]

貨幣としての利用[編集]

詳細は「銀貨」を参照

古来、金とともに、貨幣として広く流通した。

蒸着利用[編集]

真空中に於いて銀を高温で熱し、気化させ、目標物に蒸着させる事により、銀の高い反射率を利用する。鏡、反射フィルムなど応用範囲は広い。

抗菌性の利用[編集]

銀イオンはバクテリアなどに対して極めて強い殺菌力を示すので、浄水器の殺菌装置など、近年急速に殺菌剤として普及してきた。抗菌性を持つものとしては、金属銀と金属銅がある[8][9][10]、銅に関しては用いられるようになってからは200年ほどの歴史がある。銀は1990年頃から使用されるようになった。

銀イオンは感光性があり、普通の塩の状態ではすぐに還元されて黒い銀の単体粒子が析出してしまうため、最近はチオ硫酸イオンなどを配位させた錯イオンを用いて、感光性をなくしたものを使用している。

銀は比較的人体への毒性が低いとされているが[11][12][13] 、化管法によると事業者が銀または銀化合物を使用するときは使用量の届出が必要なことに留意を要する。

公衆浴場での利用[編集]

日本では公衆浴場における浴槽水の衛生管理が義務付けられているが、銀イオンはその浴槽水の殺菌に利用されている。厚生労働省からは塩素剤による殺菌が推奨されているが、塩素殺菌が不向きな水質も存在している。銀イオンはそのような塩素殺菌が行いづらい水質の一部でも、効果的に殺菌を行えることが確認されている。また、他の浴水殺菌剤や殺菌装置にはない、還元的な殺菌作用(ORP による比較)から近年注目されている殺菌方法である。

写真への利用[編集]

銀はまた、写真の感光剤(臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)など)として利用されている。銀のハロゲン化物が光を受けて銀原子を遊離すること(潜像)を利用し、適当な還元剤と反応させることによりその変化を増幅し(現像)、画像を記録することが可能である。さらに、単独では濃淡しか表現できないが、複数の色素とフィルタ等を組み合わせ、波長に応じて感光の度合いを変化させることにより、カラーでの記録も可能としている。

医療用途への応用[編集]

銀は歯科医療で利用されている。比較的安価な材料として、主に保険診療で使用される。用途は主に歯のう蝕(虫歯)や歯根の患部を削った空洞などに、失った歯牙部分を補完する形で銀合金をかぶせたり、はめ込んだりする方法である。これらはロストワックス鋳造法により製作される。使用される銀は、銀に亜鉛やインジウムを添加したもの、また金やパラジウム等を添加した銀合金であり、そのうち銀の分量は約50 - 70 %である。現在はほとんど行われていないが、銀とスズの合金に銅や亜鉛を添加した粉末を水銀で練るアマルガム法を用いたアマルガム修復もよく行われた。有機水銀の毒性が問題となって日本においては廃れたが、現在でも毒性がないといわれる無機水銀を使用して行われる場合もある。

東洋医学の分野では、鍼治療用として、銀を含む材質の鍼が製造されている。金を含む鍼に比べると安価だが、一般的なステンレスの鍼に比べて高価なため、銀の鍼を使うのが効果的とされる症状に対してコスト面で折り合いがつく場合に用いられる。

電子工学分野への応用[編集]

室温において銀は既知の金属の中で最も電気抵抗が低い。そのため、導電性の良い電線として利用されている。もちろん銀そのものが高価なため、導電率の近い銅線又は軽量なアルミ線を太径又は複導体・多導体にして使用した方が良い場合も多く、銀線は特殊な場合にのみ利用される。例としてはマニア向けの、オーディオケーブル、スピーカーケーブル等がよく知られる(1メートル当たり数千円、プラグを付けるなど加工済みなら数万円する商品)。また高周波を扱う配線にも用いられることがあるほか、さびにくいため継電器(リレー)の接点にも用いられる。

ただし、銀はエレクトロケミカルマイグレーション(イオンマイグレーション)による短絡(ショート)がもっとも起こりやすい材料である[14]。また、硫化や塩化した場合に、絶縁体の硫化銀や塩化銀が生成される[15]。

食品[編集]

単体銀は食品添加物の着色料[16]として用いることが出来る。代表的なものとして、糖粒に食用銀粉をつけ銀白色金属粒状の外観を持つように加工したアラザンが菓子装飾用に用いられている。

顔料・化粧品[編集]

歴史的には銀の粉末が顔料として用いられた。現代において「銀粉」と呼ばれているのは、通常錫粉やアルミ粉である(これに対し、「金粉」は現代においても金が用いられる場合がある)。

銀の象徴的意味[編集]





銀スプーン
銀は、美しい白い光沢を放つことから、占星術や錬金術などの神秘主義哲学では月と関連づけられ、銀は男性を、金は女性を意味していた。ある時を境に位置が逆転し、銀は月や女性原理などを象徴する物となり、一方、金は太陽や男性原理などを象徴する物となった。

また、各種競技、コンクール等で、2位の場合に送られるメダル等に使われていることから、二位という象徴的意味、諺で「雄弁は銀、沈黙は金」と、金に比べて一段劣ることの象徴にもされている。

銀相場[編集]

金と並び貴金属や工業用素材として広く使用されることから、投資の対象にもなっている。時には、投機的な資金が流入して相場価格が乱高下することがある。

投資の対象として注目されるようになった発端は、1979年 - 1980年のハント兄弟が、工業用にも利用されている銀の価格が金と比べて低いことに着目した買い占めがきっかけであり、一時は20倍もの価格上昇が発生した。ハント兄弟の価格つり上げ工作は、高騰により欧州の一般家庭が使っていた銀食器が大量に鋳つぶされ、市場に大量放出されたことによる暴落で大失敗に終わるが、その後も1996年には米国の投資家ウォーレン・バフェットが世界の年間供給量の5分の1を買い占めたと表明し、直後に暴騰が生じた。2011年4月頃にも1980年のハント兄弟の買占めに迫る価格まで価格が急上昇したが、先物取引の規制(証拠金の上積み規制)がなされたために暴落するなど、依然として混乱は見られる。

なお、もっとも銀消費量が多かった写真工業分野では、現像時の銀回収システムの確立やフィルムを使わないデジタルカメラへの移行が進んでおり、ハント兄弟の買い占めに際して発生した写真フィルム、レントゲンフィルムの品不足のような事態は、今後は発生しにくいと考えられている。

註・出典[編集]

[ヘルプ]

1.^ a b c 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、220頁。ISBN 4-06-257192-7。
2.^ 東京天文台編纂 『理科年表2008』 丸善
3.^ 木下亀城、小川留太郎 『標準原色図鑑全集6 岩石鉱物』 保育社、1967年
4.^ 『化学大辞典』 共立出版、1993年
5.^ 小葉田淳 『日本鉱山史の研究』 岩波書店、1968年
6.^ 小葉田淳 『日本の貨幣』 至文堂、1958年
7.^ F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年
8.^ 抗菌作用を持つ材料、抗菌化研株式会社
9.^ 抗菌製品技術協議会、 A8.品質と安全性に関する自主規格
10.^ 抗菌製品技術協議会、 A8.品質と安全性に関するデータ等の自主登録規定
11.^ 「環境基準」(環境省)
12.^ 銀(銅)については 「水質汚濁に係る環境基準について 人の健康の保護に関する環境基準 別表1」(環境省)に該当しない。
13.^ 銀については 「土壌の汚染に係る環境基準について土壌環境基準 別表」(環境省)に該当しない。
14.^ くもりのち晴れ2002/11 社団法人日本プリント回路工業会 2002年11月
15.^ 一般リレー - 製品に関するFAQ FAQ04896 オムロン制御機器
16.^ 厚生労働省 食品添加物のページ 既存添加物名簿の104
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非鉄金属

非鉄金属(ひてつきんぞく、non-ferrous metal)とは、鉄および鉄を主成分とした合金、つまり鋼(ferrous metal)以外の金属のすべてを指す。日本工業規格 (JIS) では、部門記号 H(非鉄金属)に区分されている。

分類される理由[編集]

日本に限らず世界的に見ても鉄以外の金属の生産総量が鉄鋼の生産量に比べ圧倒的に少ないために、便宜的に「非鉄金属」という名称を与えて1つのグループにまとめたものであるが語感からすると「鋼」も除外されているような意味をもち、鉄鋼の中では鉄と呼ばれるものよりは鋼と呼ばれるものも多いという議論も起こりやすく混乱しやすいので使用領域は限定的である。従って、工業的/経済的理由での分類に過ぎず、それ以上の特別な意味はない。物理や化学といった科学的な特性での分類ではないので、科学分野では余り用いられない用語である。生産量とは逆に種類で見れば、鉄を主体とした合金の種類よりもそれ以外の金属元素を主体とした合金の種類も比肩する数がある。

主な非鉄金属[編集]

産業的によく使用される非鉄金属を以下に示す。
軽金属アルミニウム
マグネシウム
ナトリウム
カリウム
カルシウム
リチウム
チタン
ベースメタル銅
スズ
亜鉛

レアメタルニッケル
クロム
マンガン
モリブデン
タングステン
ビスマス
カドミウム
コバルト
レアアースセリウム
ネオジム
プラセオジム
貴金属金

白金
放射性金属ウラン
プルトニウム

レアメタル

レアメタル、希少金属(きしょうきんぞく)は非鉄金属のうち、様々な理由から産業界での流通量・使用量が少なく希少な金属のこと。

レアメタルは非鉄金属全体を呼ぶ場合もあるが、狭義では、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム等のベースメタル(コモンメタルやメジャーメタルとも呼ばれる)や金、銀などの貴金属以外で、産業に利用されている非鉄金属を指す[1]。「レアメタル」は、日本独自の用語であり、海外では「マイナーメタル」と呼ばれる[2]。



目次 [非表示]
1 レアメタルの一覧
2 用途 2.1 構造材
2.2 電子材料・磁性材料
2.3 機能性材料

3 価格と需給バランス
4 産出地の偏在性
5 国家備蓄
6 副産物レアメタル
7 日本におけるレアメタルの状況 7.1 日本での地下資源
7.2 海洋資源の開発
7.3 日本不在の非鉄金属業界
7.4 代替品開発

8 非鉄メジャーの一覧
9 出典
10 関連項目
11 外部リンク


レアメタルの一覧[編集]

リチウム ベリリウム ホウ素 (希土類) チタン
バナジウム クロム マンガン コバルト ニッケル
ガリウム ゲルマニウム セレン ルビジウム ストロンチウム
ジルコニウム ニオブ モリブデン ルテニウム ロジウム
パラジウム インジウム アンチモン テルル セシウム
バリウム ハフニウム タンタル タングステン レニウム
白金 タリウム ビスマス

希土類元素(レアアース)17種類

スカンジウム イットリウム ランタン セリウム プラセオジム
ネオジム プロメチウム サマリウム ユウロピウム ガドリニウム
テルビウム ジスプロシウム ホルミウム エルビウム ツリウム
イッテルビウム ルテチウム

[1]

用途[編集]

レアメタルの用途は大きく分けて3つある。
構造材への添加
電子材料・磁性材料
機能性材料

構造材[編集]

構造材に使われるレアメタルは、鉄や銅、アルミニウムなどのベースメタルに添加して合金を作ることに使われ、強度を増したり、錆びにくくしたりする。ステンレス鋼、耐熱材、マイクロアロイ鋼、特殊鋼(工具、耐磨耗)、Ni合金材、Cu合金材、Ti合金材、Al合金材などに利用される。

電子材料・磁性材料[編集]

半導体レーザー、発光ダイオード、一次電池、二次電池(ニッケル-水素電池)、燃料電池、永久磁石(希土類磁石)、磁気記録素子、磁歪材料、磁気冷凍、超伝導材料などに利用される。

機能性材料[編集]

光触媒、磁気光学媒体、EDレンズなどの光学ガラス、ニューガラスと呼ばれる透明電極 (ITO) や光通信用のフッ化ガラス、ニューセラミックスと呼ばれるガスセンサーや切削工具の刃先、磁気ヘッド、形状記憶合金、水素吸蔵合金などに利用される[3]。ほかにCRTやプラズマディスプレイ、蛍光灯などの蛍光体にも使用される。

価格と需給バランス[編集]

多くのベースメタルや貴金属は、世界の主要な商品取引所、たとえばロンドン金属取引所 (LME) やシカゴ・マーカンタイル取引所 (CME)、ニューヨーク商品取引所 (COMEX) などで日々売買され市場価格の透明性が確保されている。一方、ほとんどのレアメタルは実需流通規模が小さく公正な市場価格の形成維持が困難なため、商品取引所に上場していない。代わりに、経済紙や金属専門雑誌、Webニュースでの流通価格情報が取引の指標として用いられており、取引の透明性や即時性、流動性に乏しい。

一般にレアメタルが希少な理由は、
1.地殻中の存在量が比較的少なく、採掘と精錬のコストが高い
2.単体として取り出すことが技術的に困難
3.金属の特性から製錬のコストが高い

といった点があげられている。

この他の理由として、過去の長期にわたって金属の取引価格が低く抑制されてきたことが挙げられる。仮にレアメタルが金やプラチナ並みに高騰を続けた場合、様々な鉱石に僅かに含まれるレアメタルを抽出、製錬することで採算が取れるため採掘量は拡大していたと思われる。また、製錬の技術開発に多額の投資がなされていれば、より多くの量が抽出できている可能性がある。

実はレアメタルは、レア・アースを除けば地殻中の存在量は、鉄や銅の例外を除くベースメタル(コモンメタル)の存在量よりむしろ多い。レアアースが希少であるのは、採鉱される鉱石に含まれる割合が非常に少ないために、精錬による濃縮に大きな手間がかかるためである。金、銀、鉛、錫のようなベースメタル(コモンメタル)では特定の鉱石中に高い割合で目的の金属元素が含まれているので、昔から簡単な精錬方法で利用されてきたが、レアメタルはクロム、マンガン、ニッケルのように鉱石として採掘されるものは少数派で、ほとんどは他の金属鉱石中に微量が、構成金属を置換して存在している。

レアメタルは1〜3の理由のほか、用途が限られているため特定の産業でしか用いられなかったり、他の金属に代替できたり、価格高騰時には国家レベルで抑制策が打たれたりといった様々な制約から価格の高騰が抑制され、取引量が拡大しない点で希少性を保ってきた。 こうした状況の中で、レアメタルと呼ばれる各種元素で絶対的な枯渇が起きるという情報はないが、BRICsの経済発展と特殊な電子機器の部品開発に伴う急激な需要の増加に対して供給量が少ないために急激な価格の高騰が起こっており、2002年から2007年の5年間でニッケルの価格が8倍になったほか、モリブデンやレアアースなど多くの物質で価格が数倍に上がっている。

一方でレアメタルは用途が狭いために、代替技術が開発されると需要が急減するため市場価格が不安定である特性を持つことが、こういった特殊な地下資源産業への投資行動を躊躇させている。1979年の「ミネラル・ショック」時には、日本でもコバルトやモリブデンを触媒として消費していたメーカーは直ちにリサイクル技術を確立することで消費量を削減した[1]。

レアメタルはほとんどの製造業で不可欠な素材である。半導体産業ではタングステンやモリブデン、ニッケル等が必須の素材であるし、自動車産業では白金やパラジウムなどがなければ排ガス規制をクリアできる自動車を製造できないといわれている。ただし白金を使用しない燃料電池が開発されたことから、今後白金の需要は減退するという見方もある。捨てられた携帯電話や家電製品など廃棄物からの抽出によるリサイクルも行われており、新たな資源供給源として「都市鉱山」と呼ばれている[3]。

産出地の偏在性[編集]

レアメタルの産出地は、中華人民共和国・アフリカ諸国・ロシア・南北アメリカ諸国に偏在している。

レアメタルの産地に関する特徴として、ほとんどのレアメタルが産出量上位3カ国で50%〜90%の埋蔵量を占めている。例えば希土類元素(レア・アース)やタングステンは中国だけで90%以上の埋蔵量があり、バナジウムは南アフリカ、中国、ロシアの3か国で98%を占める。これらの国の政策、経済情勢、政情不安などによって、将来さらに入手が困難になることが予想されており、安定供給やリサイクル技術の確保が求められている。

国家備蓄[編集]

アメリカ合衆国やスイスでは、第二次世界大戦直前より国家の非常事態に備えてレアメタルの国家備蓄を行ってきた。戦後になると、アフリカのレアメタル産出国の政情安定に対応するため、経済安全保障の立場から備蓄を進める国が増えた。

日本では、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法によって経済安全保障の理由から供給停止などの障害に備えて、平常時の消費量を基準にして国家備蓄の42日分と民間備蓄の18日分、合計60日分の国内備蓄が石油天然ガス・金属鉱物資源機構によって行われている。品目対象はニッケル、クロム、タングステン、モリブデン、コバルト、マンガン、バナジウムの7元素。供給の障害が生じた場合は緊急放出を行い、市場価格が高騰した場合も国家備蓄分を売却することで価格の安定化を図るとしている。バナジウムについては実際に、1998年の市場価格高騰時に国内市場への放出が行われた。現在の7種に加えて、インジウム、リチウム、多種のレア・アースを新たに追加するか検討されている[3]。

副産物レアメタル[編集]

レアメタルは主産物としてのベースメタル鉱石中に副産物として得られるものが多い。以下に主要な主産物と副産物の関係を示す。


主産物

レアメタル

リチウム ルビジウム Rb
アルミニウム ガリウム Ga
銅 コバルト Co
銅 セレン Se
銅 テルル Te
銅・亜鉛 タリウム Tl
亜鉛 ゲルマニウム Ge
亜鉛 インジウム In
モリブデン レニウム Re
鉛 アンチモン Sb
鉛 ビスマス Bi

主産物である鉱石の採掘を停止すると副産物の産生も行なわれなくなる。日本のケースでは、2006年2月に豊羽鉱山の採掘・操業が停止されたため、世界第1位の産出量であったインジウムの供給源を突然失った[3]。

日本におけるレアメタルの状況[編集]

日本での地下資源[編集]





日本の黒鉱ベルトの分布
日本でも黒鉱ベルト(グリーン・タフ)と呼ばれる、鉛、亜鉛、バリウム、アンチモン、ビスマスを豊富に含む鉱床が存在するが、硫化鉱と諸金属からの分離に手間がかかるために、従来はコスト的に引き合わなかったため採掘は行なわれていなかった。これも、21世紀から始まったレアメタルの価格高騰が続けば、今後の開発も現実味を帯びてくる[3]。

海洋資源の開発[編集]

日本の排他的経済水域(EEZ)内には、レアメタルの含有量の高いマンガンノジュール・コバルトクラスト・熱水鉱床等があり、開発が期待される(詳細は、「日本の海底資源」を参照)。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構は、2011年より資源エネルギー庁の委託により、企業2社も参加し、沖縄トラフと伊豆・小笠原諸島沖の海底の金銀やレアメタルなど深海資源を採掘する技術の実用化に乗り出す。世界初の深海採鉱ロボットで鉱石を掘り出し、パイプで母船へ送る採鉱システムを開発、約10年後の商業化を目指す[4]。

日本不在の非鉄金属業界[編集]

世界の非鉄メジャーと呼ばれる企業群の中に日本企業の名前はなく(下の非鉄メジャー一覧を参照)、鉄鋼業界における日本の重要性とは全く異なる状況にある。日本の商社は日本企業向けのレアメタルの輸入を行なっているが、鉱山開発から精製、販売までの非鉄金属業界の中で自ら進んで戦略的に動く意思と能力は持っていない。

こういった中で、中国やロシアが「資源ナショナリズム」と呼ばれる自国資源の囲い込みを始めているため、日本の国内産業に不足するレアメタルを輸入するには資源国の示す価格条件を受け入れるしか選択肢がない状況である[1]。

代替品開発[編集]

日本の経済産業省では、2007年より「希少金属代替材料開発プロジェクト」を発足させた。インジウム、ジスプロシウム、タングステンの3つのレアメタルの代替材料を産官共同で開発する計画である。文部科学省も同じく2007年より「元素戦略プロジェクト」を行なっている。代替品開発と希少金属元素の効率的な使用方法開発を目指している[3]。

非鉄メジャーの一覧[編集]


企業名



種類

売上高
(2006年、百万ドル)


アングロ・アメリカン
Anglo American イギリスの旗 イギリス
南アフリカ共和国の旗 南アフリカ共和国 総合資源 18,825
リオ・ティント
Rio Tinto イギリスの旗 イギリス
オーストラリアの旗 オーストラリア 総合資源 12,111
BHPビリトン
BHP Billiton イギリスの旗 イギリス
オーストラリアの旗 オーストラリア 総合資源 20,927
エクストラータ(グレンコア)
XSTRATA スイスの旗 スイス 多種金属 5,178
CVRD
Companhia Vale do Rio Doce ブラジルの旗 ブラジル 多種金属 7,803
WMCリソーシズ
WMC Resources オーストラリアの旗 オーストラリア 多種金属 不明
コデルコ
CODELCO, Corporacion Nacional del Cobre de Chile チリの旗 チリ 銅専門 8,021
フェルプスドッジ
Phelps Dodge Corp. アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 銅専門 5,217
ファルコンブリッジ
Falconbridge Inc. カナダの旗 カナダ 亜鉛専門 6,806
ノリリスク
Norilsk ロシアの旗 ロシア ニッケル 不明
インコ
Inco Ltd. カナダの旗 カナダ ニッケル 3,025


出典:JOGMEC, K.SAWADA[1]

出典[編集]

[ヘルプ]

1.^ a b c d e 中村繁夫『レアメタル資源争奪戦』日刊工業新聞社 2007年8月25日初版第4刷発行 ISBN 978-4-526-05813-4
2.^ 「終わらないレアアース・ショック」,日経エレクトロニクス,2011年1月24日号,P30]
3.^ a b c d e f 田中和明『レアメタルの基本と仕組み』秀和システム 2007年11月17日発行 1版1刷 ISBN 978-4-7980-1809-6
4.^ 『海底レアメタル採堀へ 沖縄・小笠原に深海ロボ』 読売新聞 2011年1月7日

パラジウム

パラジウム (英: palladium) は原子番号46の元素。元素記号は Pd。白金族元素の1つ。貴金属にも分類される。

常温、常圧で安定な結晶構造は、面心立方構造 (FCC)。銀白色の金属(遷移金属)で、比重は12.0、融点は1555 °C(実験条件等により若干値が異なることあり)。酸化力のある酸(硝酸など)には溶ける。希少金属の1つ。



目次 [非表示]
1 用途
2 ジュエリー用貴金属として 2.1 触媒として

3 歴史
4 産出
5 同位体
6 出典
7 関連項目


用途[編集]

自分の体積の935倍もの水素を吸収するため、水素吸蔵合金として利用される。加工のしやすさから電子部品の材料としても使われたが、供給シェアの6割をロシアに依存しており、価格が不安定なことからニッケルなどの金属への代替が進められている。

特筆すべきは歯科治療(インレー)に使われる合金としての利用が挙げられる。いわゆる銀歯は金銀パラジウム合金で、20 %以上のパラジウムを含有する。

ジュエリー用貴金属として[編集]

貴金属としてジュエリーにも利用されている。

最も多いのは、プラチナ950や900の、またホワイトゴールドの割り金としての利用である。プラチナの場合は硬さの調節と色調のため、ホワイトゴールドは金色の白色化のために利用される。

近年、価格の高いプラチナや、ホワイトゴールドに替わって、パラジウムをメインに使用した合金のジュエリーが生産され始めている。

パラジウムは鋳造時にガスを大量に吸い込んで鬆(す)が出やすく、大気中でのろう付も枯れやすく難しいため、最近までジュエリーに加工されなかったが、技術の進歩で開発が進んで新しいジャンルとして注目されている。

ジュエリー用パラジウム合金は、ISO9202、JIS-H6309が、Pd950と、Pd500を品位区分として定めている。また、CIBJO(国際貴金属宝飾品連盟)は、前記2種に、Pd999を加えている。

Pd950は、ネックレスやリングなどの一般的なジュエリーに用いられている。Pd500は、銀との合金として、ソフトホワイトの名称で変色しない銀合金として用いられていた時代があったが、現在は銀合金というよりパラジウム合金として認知されている。

造幣局の貴金属品位証明制度は、金、銀、プラチナ合金の品位検定を行っているが、パラジウム合金は品位検定を行っていない。

触媒として[編集]

工業的には自動車の排気ガス浄化用の触媒(三元触媒)やエチレンからのアセトアルデヒドの合成(ワッカー酸化)に用いる触媒など、様々な反応の触媒として使われている。有機合成分野においては接触還元の触媒として、活性炭に担持させたパラジウム炭素が常用される。また主にホスフィン錯体が、クロスカップリング反応やヘック反応などC-C結合生成反応の触媒として用いられる。実験室から工業レベルまで応用範囲は広く、これらパラジウム触媒を用いる反応の開発に対し、リチャード・ヘック・根岸英一・鈴木章らに2010年のノーベル化学賞が贈られている。

歴史[編集]

1803年にイギリスの化学者、物理学者ウイリアム・ウォラストン (W.H.Wollaston) によって発見[2]。名前はこの前年に発見された小惑星パラス (pallas) にちなんだもの[2]。

産出[編集]

2007年において世界の産出量のうち、ロシアが44 %、南アフリカ共和国が40 %、カナダが6 %、アメリカ合衆国が5 %を占める。

同位体[編集]

詳細は「パラジウムの同位体」を参照

出典[編集]

1.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
2.^ a b 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、218頁。ISBN 4-06-257192-7。

ロジウム

ロジウム (英: rhodium) は原子番号45の元素。元素記号は Rh。白金族元素の1つ。貴金属にも分類される。銀白色の金属(遷移金属)で、比重は12.5 (12.4)、融点は1966 °C、沸点は3960 °C(融点、沸点とも異なる実験値あり)。常温、常圧で安定な結晶構造は単純立方構造 (SC, α-Rh)。1400 °C以上でβ-Rh(面心立方構造)に転移する。加熱下において酸化力のある酸に溶ける。王水には難溶。高温でハロゲン元素と反応。高温で酸化されるが、更に高温になると再び単体へ分離する。酸化数は-1価から+6価までをとり得る。レアメタルである。



目次 [非表示]
1 用途
2 歴史
3 ロジウムの化合物
4 同位体
5 出典


用途[編集]

用途としては排ガス制御の触媒として重要。また、めっき(ロジウムめっき)にも使われ、特に銀やプラチナ、ホワイトゴールドなどの銀白色の貴金属製装身具の着色、保護用に多用される。プラチナとの合金は、坩堝や熱電対に利用される。有機合成化学においては不飽和結合を水素化する際の触媒として有用なウィルキンソン触媒の中心金属で,直鎖炭化水素を脱水素して芳香族を製造する触媒にも塩化ロジウムが使われている。

歴史[編集]

1803年にウィリアム・ウォラストンによって白金鉱石から発見された[3]。ギリシャ語でバラ色を意味する rhodeos が語源[3]。これは塩の水溶液がバラ色になるため[3]。

2014年に、価格は1/3ほどで同等の性質をもつ合金が京都大学により開発され、代替利用が期待されている[4][5]。

ロジウムの化合物[編集]
塩化ロジウム (RhCl3)

同位体[編集]

詳細は「ロジウムの同位体」を参照

出典[編集]

1.^ “Rhodium: rhodium(I) fluoride compound data”. OpenMOPAC.net. 2007年12月10日閲覧。
2.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
3.^ a b c 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、216頁。ISBN 4-06-257192-7。
4.^ 中道理 (2014年1月24日). “京都大学、ロジウムの特性を持つ合金を開発”. 日本経済新聞 2014年2月1日閲覧。
5.^ “1面記事”. 日刊鉄鋼新聞. (2014年1月30日

テクネチウム

クネチウム(英: technetium)は原子番号43の元素。元素記号は Tc。マンガン族元素の1つで、遷移元素である。天然のテクネチウムは地球上では非常にまれな元素で、ウラン鉱などの中のウラン238の自発核分裂により生じるが、生成量は少ない。安定同位体が存在せず、全ての同位体が放射性である。最も半減期の長いテクネチウム98でおよそ420万年である。



目次 [非表示]
1 発見の歴史
2 特徴
3 天然での存在
4 用途
5 化合物
6 同位体
7 出典
8 外部リンク


発見の歴史[編集]

周期表中でモリブデンとルテニウムの中間に空欄があったことから、1800年代から1900年代初頭にかけて、多くの研究者がこの43番元素を発見するのに熱中した。この43番元素は他の未発見元素と比べると簡単に発見できるだろうと思われていたが、1936年にサイクロトロンで合成されるまで得られなかった。
1828年、白金鉱石から発見された元素が43番元素であると発表し、 ポリニウム (polinium) という名前がつけられた。しかし、この元素の正体は不純物が混入したイリジウムであることがわかった。
1846年、43番元素が発見されたという報告が入り、 イルメニウム (ilmenium) という名前がつけられた。しかしこの元素の正体は不純物が混入したニオブであることがわかった。この誤りは1847年まで繰り返された。
メンデレーエフはこの43番元素をマンガンの1マス下にあることから「エカマンガン」と名付けた。
1877年、ロシアの科学者セルゲイ・カーンが白金鉱石から43番元素を発見したと報告。カーンは有名なイギリスの科学者ハンフリー・デービーにちなんでデビウム (dabyum) と名付けた。しかし、それはロジウム、イリジウム、鉄の混合物であることが判明した。
1908年(明治40年)、小川正孝が43番元素を発見したと発表、ニッポニウム (nipponium, Np) と命名したが、後に43番元素は地球上には存在しない(半減期が短いため、地球が誕生してから現在までにほぼ全てのテクネチウムが崩壊している)ことが判明したためこれは取り消され、元素記号として使用される予定だった Np もネプツニウムに使用された。現在、小川正孝の発見は75番のレニウムだったと考えられている。当時まだ75番元素は発見されていなかった。
1936年、セグレはローレンス・バークレー国立研究所を訪れた際に所長のアーネスト・ローレンスに依頼して、サイクロトロンで加速した重陽子線が衝突したモリブデン箔(部品の一部)を帰国後に送ってもらった。セグレは Carlo Perrier と共にパレルモ大学でこのモリブデン箔を分析して43番元素を12月に発見(人工的に作られた元素としては最初のものである)。1947年になってテクネチウムと命名された(ギリシャ語の「人工」を表す "τεχνητός" (technitos) が語源)。ちなみに、パレルモ大学ではパレルモのラテン名にちなむパノルミウム (panormium) という名を提案していた。
1957年 ポール・メリルにより、赤色巨星にテクネチウムが存在することがスペクトルで観測された。
1961年 地球の物質から天然のテクネチウムを検出した。

特徴[編集]

テクネチウムがプロメチウムと同じく、比較的軽い元素でありながら不安定なのは、陽子数の割に中性子数が少ないからである。したがってこの元素には、比較的安定している同位体2つを含めても、22種類の放射性同位体しか存在しない。

白金に似た外観を持つ銀白色の放射性の金属で、比重は11.5、融点は2172 °C(異なる実験値あり)。沸点は4000 °C以上。安定な結晶構造は六方晶系。化学的性質はレニウムに類似する。フッ化水素酸、塩酸には不溶で、酸化力のある硝酸、濃硫酸、王水には溶ける。単体は、湿った空気でゆっくりと曇る。粉状のテクネチウムは、酸素中で炎を出して燃える。わずかに磁性を持っており11.3 K以下にすると強磁性を示す。

+2、+4、+5、+6、+7の酸化数をとる。酸化物には酸化テクネチウム(IV) TcO2 や酸化テクネチウム(VII) Tc2O7 がある。酸化条件下では過テクネチウム酸 TcO4- が見られる。

363 nm、403 nm、410 nm、426 nm、430 nm、485 nmの特有スペクトルを持つ。

天然での存在[編集]

テクネチウムは現在、いくつかの恒星のスペクトル線からも、天然での存在が確認されている(テクネチウム星)。地球上ではウラン鉱中に微量が自発核分裂生成物として見い出される。医療用に使用される同位体は放射性廃棄物中から単離して得る方法と、中性子を照射されたモリブデンの同位体から得る方法がある。

用途[編集]

β線を放出せず適量のγ線のみを放つ 99mTc の特性を活かし、核医学という医療の一分野を支える重要な元素で、骨・腎臓・肺・甲状腺・肝臓・脾臓など身体各部に対するシンチグラムに用いる。利用例としては、血流測定剤、骨イメージング剤、腫瘍診断剤の放射線診断薬など。テクネチウムを含む物質を放射性医薬品として投与した場合の体内動態などは充分解明されている上、検査目的に応じた多種の注射剤が供給されている。日本ではテクネチウムを含む薬剤を用いた緊急検査も行えるほどの利用ノウハウが蓄積されているが、国産化されておらず、全量を輸入している。

化合物[編集]
酸化テクネチウム(IV) (TcO2)
酸化テクネチウム(VII) (Tc2O7)
過テクネチウム酸アンモニウム (NH4TcO4)

同位体[編集]

詳細は「テクネチウムの同位体」を参照

出典[編集]

1.^ “Technetium: technetium(III) iodide compound data”. OpenMOPAC.net. 2007年12月10日閲覧。
2.^ “Technetium: technetium(I) fluoride compound data”. OpenMOPAC.net. 2007年12月10日閲覧。

モリブデン

モリブデン (英: molybdenum) は原子番号42の元素。元素記号は Mo。クロム族元素の1つ。



目次 [非表示]
1 概要
2 用途
3 歴史
4 モリブデンの化合物
5 同位体
6 入手について
7 生体におけるモリブデン 7.1 モリブデン含有酵素
7.2 栄養

8 出典
9 関連項目
10 外部リンク


概要[編集]

銀白色の硬い金属(遷移金属)。常温、常圧で安定な結晶構造は体心立方構造 (BCC) で、比重は10.28、融点は2620 °C、沸点は4650 °C(融点、沸点とも異なる実験値あり)。空気中では酸化被膜を作り内部が保護される。高温で酸素やハロゲンと反応する。アンモニア水には可溶。熱濃硫酸、硝酸、王水にも溶ける。原子価は2価から6価をとる。輝水鉛鉱(MoS2 など)に含まれる。資源としては、アメリカで約30 %、チリで約30 %など、北南米で世界の過半数を産出している。

モリブデンは、人体(生体)にとって必須元素で、尿酸の生成、造血作用、体内の銅の排泄などに関わる。微生物の窒素固定に関しての酵素(ニトロゲナーゼ)にも深く関わっており、地球上の窒素固定量の70 %以上は、モリブデンが関与していることになる。

また、植物にとっても必須元素であるため、モリブデン酸のナトリウム塩やアンモニウム塩の形で、肥料として販売されている。

用途[編集]
酸化モリブデン(VI)やフェロモリブデンとして、各種合金鋼の添加元素に利用される(クロムモリブデン鋼、マンガンモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼参照)。
硫化モリブデン(IV)は摩擦係数が低いことから、工業用の潤滑油やエンジンオイルの添加剤に用いられる。二硫化モリブデンの配合された油脂類は深緑色を示しているため、それ以外の製品と区別するのが容易である。機器や工程のマニュアルにモリブデン配合油脂の指定がされているところでは、これを用いなければ不本意な結果になることがある。モリブデン配合油脂は特別に高価ではなく簡単に入手できるため需要も高い。
モリブデンと銅の合金は、優れた温度特性と適度な導電性を兼ね備えているため、ハイブリッドカーやロケットの電子基板などに用いられる。
金属モリブデンが産業用に用いられることはそれほど多くなかったが、高温域での機械的性質を期待できる場面においては、タングステンよりも安価であることからしばしば用いられる(電子管の陽極など)。最近では液晶パネル製造ラインなどでも薄板の使用が増加している。
医療分野でもモリブテン99は癌の診断などにも利用されている。

モリブデンは、日本国内において産業上重要性が高いものの地殻存在度が低く供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。

歴史[編集]

カール・ヴィルヘルム・シェーレが1778年に輝水鉛鉱を硝酸と反応させて分離した酸化物として発見し、「水鉛土」(wasserbleierde) と命名。シェーレの友人ペーター・ヤコブ・イェルム (Peter Jacob Hjelm) が1781年に三酸化モリブデンを石炭で還元することにより単体分離し、現在の名称が付けられた。

名称は輝水鉛鉱 (molybdenite) に由来するが、この名称はギリシャ語で鉛を意味する molybdos に由来する。モリブデン鉱物である輝水鉛鉱が鉛鉱物である方鉛鉱に似ていることから名づけられた。日本での「モリブデン」という名称は、元はドイツ語の Molybdän で、これが日本語になっている。

モリブデンの化合物[編集]
酸化モリブデン(IV) (MoO2)
酸化モリブデン(VI) (MoO3)
硫化モリブデン(IV) (MoS2)

同位体[編集]

詳細は「モリブデンの同位体」を参照

入手について[編集]

工業的にモリブデンは(融点が高いことから)溶融・凝固というプロセスで製造することが困難であるため、大きな素材を作ることが難しい(多くは粉末冶金的製法で製造)。また、加工性に乏しく、常温での圧延は事実上不可能。切削・研磨もかなりの技術を必要とするため、複雑な形状に加工することは困難。粉末ではない金属モリブデンは主に小インゴット・板・線材の形で取引されるが、一般の入手は難しく、専門の販売業者に頼る他ない。

生体におけるモリブデン[編集]

モリブデンは、ヒトを含む全ての生物種で必須な微量元素である。人体には体重1 kgあたり約0.1 mg含まれていると見積もられており、骨、皮膚、肝臓、腎臓に多く分布している。

モリブデン含有酵素[編集]

現在、植物と動物をあわせて約20種類ほどのモリブデン含有酵素が知られている。その中で最もよく知られている酵素は、ニトロゲナーゼである。これは窒素固定における窒素をアンモニアに変換する反応を触媒する。この酵素はマメ科植物の根に共生する根粒菌(リゾビウム属)の菌体内に含まれ、空気から取り入れられた分子状窒素をアンモニアに変換する。藻類も窒素固定にモリブデン酵素を利用している。また、藻類の窒素固定モリブデン酵素は、過剰な硫黄を揮発性の硫化メチルに変換して排泄させるはたらきも有する。

哺乳類においては、キサンチンオキシダーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼおよび亜硫酸酸化酵素が知られている。キサンチンオキシダーゼは尿酸合成に関わる。この酵素のはたらきが強くなると痛風になるおそれがある。アルデヒドデヒドロゲナーゼはアルデヒドをカルボン酸に変換する。この酵素はアルコールの代謝に必須な酵素で、代謝産物である酢酸は体内でエネルギー源の一つとして利用される。亜硫酸酸化酵素は毒性のある亜硫酸イオンを毒性の低い硫酸イオンに変換する。

栄養[編集]

2005年版の「日本人の食事摂取基準」では、推定平均必要量:20(15) μg/日、推奨量:25(20) μg/日、上限量:300(250) μg/日(数値はいずれも成人男性、かっこ内は成人女性、ただし、30〜49歳男性および18〜29歳女性の上限値はそれぞれ320 μg、240 μg)である。モリブデンを多く含む食材は牛や豚の肝臓であり、植物では豆類に多く含まれる。

モリブデンの欠乏症はまれであるが、欠乏すると亜硫酸毒性がみられ、頻脈、頻呼吸、頭痛、悪心、嘔吐、昏睡の症状が見られたとの記録がある。過剰摂取による中毒は「モリブデノーシス」(molybdenosis) といい、コロラド州のモリブデンを多く含む土地の草を食べた牛が中毒した例がある。症状は、体重の低下・食欲減退・貧血・授乳不良・不妊・骨粗鬆症などである。

ニオブ

ニオブ (英: niobium) は原子番号41の元素。元素記号は Nb。バナジウム族元素の1つ。



目次 [非表示]
1 概要
2 用途
3 主な産出国
4 歴史
5 製造
6 ニオブの化合物
7 同位体
8 出典
9 関連項目


概要[編集]

銀白色の軟らかい金属(遷移金属)。常温、常圧で安定な結晶構造は体心立方格子構造 (BCC) で、比重は8.56、融点は2415 °C(異なる実験値あり)、沸点は2900 °C(4758 °Cという実験値あり)。空気中で表面が不動態となる。耐食性、耐酸性があるが、酸化力のある酸やフッ化水素酸には可溶。水酸化カリウムに微溶。原子価は2価から5価までをとる。単体金属としては最高の絶対温度9.2 K(常圧下)で超伝導転移を起こす。

コルンブ石 (Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6、パイロクロア(英語版)鉱石にタンタルと共に含まれる。資源としては埋蔵・産出とも世界の90 %以上をブラジルが占めている。日本名はドイツ語に由来。

タンタルに化学的性質がよく似ていて、鉱物中の結晶構造上でも共存している。金属としては、より軟らかく展性・延性に富み、加工し易い。

用途[編集]

鉄鋼添加剤としての用途が9割と大部分を占めているが、光学、電気、電子分野でも重要である。
鉄鋼添加剤フェロニオブとして添加される。自動車や石油パイプライン用の高張力鋼、海水に対する耐蝕性を高めたステンレス鋼、発電所や戦闘機エンジンのタービン用耐熱超合金など鋼中のニオブが炭素を安定化し粒間腐食を防止する。これにより鋼材の微小構造が保たれ、耐蝕性、耐熱性、耐衝撃性を高める効果を発揮すると考えられている。超硬工具炭化ニオブとして切削工具用超硬合金。スパッタリングターゲット材スズまたはチタンとの合金、高純度酸化物などが利用されている。高屈折率レンズ五酸化ニオブとして、光学ガラスの添加剤(鉛フリーの代替材としても検討されているが、価格が20倍)。光学薄膜主に蒸着やスパッタリングによって形成される。自動車・建築資材用ガラスやディスプレイ装置用の低反射膜、光学ディスク装置用ミラーの多層膜。光触媒酸化ニオブ(ニオビア、niobia)やニオブ酸塩に見られ、層状酸化物から得られるナノシートを利用した触媒や吸着機能の研究が進められている。これを利用した防汚ガラスがJR西日本により開発され、新幹線への導入が計画されている。超伝導磁石Nb3Ti、Nb3Sn などの金属間化合物として、MRI装置で普及しているほか、リニアモーターカーや核融合炉、粒子加速器などへの利用が予想されている。セラミック系の高温超伝導物質を除けば、比較的高い超伝導転移温度を持ち、金属として加工しやすいことから実用化が進んだが、転移温度が10-20 Kと低いため、長期的には新素材へ移行するものと見られる。圧電素子ニオブ酸リチウム(ナトリウム、カリウム塩も同様)の単結晶が強誘電体であることから、高周波発生装置、光変調素子(レーザー光の波長を変える)、表面弾性波フィルター(携帯電話などのノイズフィルタ)など。熱電素子チタン酸ストロンチウムにニオブを添加し、極薄導電体を挟み込んで熱電素子を作ると、温度差1 °Cに付き800 μVの起電力を発揮する。730 °C前後のエンジン/燃料電池排気の熱エネルギーを電気エネルギーとして回収できると期待されている[1]。コンデンサ金属粉末を焼結するなどした酸化物による、ニオブコンデンサ(電解コンデンサとセラミックコンデンサ)の誘電体。タンタルによる小型コンデンサが、携帯電話などの小型電子製品に不可欠となっている。埋蔵量が多く(タンタルの100倍とも)安定供給されているニオブを、その代替とする研究がすすめられてきた。放射化学天然安定同位体が1種しかないことから、人工同位体を作る材料として。その他高圧ナトリウムランプの電極部、垂直磁気記録方式の磁性体、ジョセフソン素子
主な産出国[編集]
ブラジル:特にミナスジェライス州のアラシャ(Araxá)鉱山だけで総産出量の8割を担っている。 ブラジルのパイロクロア鉱石は露天掘りされる上に品位が高く、採掘時で数%のニオブを含んでおり、選鉱すると酸化ニオブ(V)として65 %程度の精鉱が得られるという(価格安定の背景)。

カナダ:ブラジルに次ぐ。両者を合わせると99 %に達する。

このほか精製副産物としてタンタルの産出国などで回収されている。鉱石中のニオブとタンタルの含有比率は一定しておらず、特にコルンブ石とタンタル石は同じ構造で、どちらが多いかで名称が変わるため、コルタンと総称される。

歴史[編集]

化学的性質がタンタルと似ていたため、元素と確認されるまで紆余曲折があった。
18世紀初め、アメリカのニューイングランドでコルンブ石 (columbite) が発見。
1753年 コルンブ石が大英博物館に送られ、鉱物標本に。
1801年 標本を分析したチャールズ・ハチェットが未知の元素を発見し、鉱石名からコロンビウム (columbium, Cb) と命名[2]。
1802年 タンタルの発見[2]。
1809年 ウイリアム・ウォラストンによって両者は同じ元素とみなされ、タンタルに統合。
1846年 ドイツのハインリヒ・ローゼにより再発見され、ギリシャ神話のタンタロスの娘ニオベ (niobe) にちなんでニオブと命名。
1864年 コロンビウムがニオブだったことが確認される[2]。 その後、米英ではコロンビウム、日本を含む他の国ではニオブと呼ばれ、現在もアメリカではコロンビウムが使われている。

1949年 IUPAC により名称がニオブ (niobium) に統一。

製造[編集]

ニオブの主要用途である製鋼向けフェロニオブは、大部分がブラジルで精製鉱石を直接テルミット還元して生産されている。日本でも1950年代から1995年まで生産されていたが、ブラジルとカナダが鉱石の輸出を停止したため、撤退した(鉱石は日本でも産出するがコスト面から)。

一方、金属や高純度酸化物を得るための精製は主にアメリカで行われている。 方法としては溶媒抽出法が利用され、主成分が五酸化ニオブである精製鉱石を有機溶剤(MIBK、メチルイソブチルケトン)で抽出し酸で逆抽出する。条件を変えてタンタルとの分離を行い、またはアルカリ融解などでニオブ酸とした後、加水分解で酸化物を得る。 これを、アルミニウムテルミット還元、水素還元、電解還元などにより精製し、金属ニオブが得られる。

ニオブの化合物[編集]
炭化ニオブ (NbC)
酸化ニオブ(V) (Nb2O5)
塩化ニオブ(V) (NbCl5)
ニオブ酸バリウム (BaNb2O6)
ニオブ酸リチウム(LiNbO3) - 略称 LN

同位体[編集]

詳細は「ニオブの同位体」を参照

ジルコニウム

ジルコニウム (ラテン語: zirconium[4]) は原子番号40の元素。元素記号は Zr。チタン族元素の1つ、遷移金属でもある。常温で安定な結晶構造は、六方最密充填構造 (HCP) のα型。862 °C以上で体心立方構造 (BCC) のβ型へ転移する。比重は6.5、融点は1852 °C。銀白色の金属で、常温で酸、アルカリに対して安定。耐食性があり、空気中では酸化被膜ができ内部が侵されにくくなる。高温では、酸素、窒素、水素、ハロゲンなどと反応して、多様な化合物を形成する。



目次 [非表示]
1 用途
2 歴史
3 ジルコニウムの化合物 3.1 酸化反応

4 同位体
5 出典
6 外部リンク


用途[編集]

ジルコニウムは金属の中で熱中性子の吸収断面積が最小のため、ジルカロイと呼ばれるジルコニウム合金が原子炉の燃料棒の被覆材料(燃料被覆管)や沸騰水型原子炉用燃料集合体のチャンネルボックスの材料として利用される。燃料被覆管を形成する際には、原子炉に入れたときにα相(稠密六方格子)の底面に水素化物が析出しやすく、それが原因で被覆管が破損する可能性があるため、ロールダイスにより管を回転往復させながら圧延するピルガー式圧延法を用いる。沸騰水型軽水炉ではα領域内の高温 (580 °C)で最終焼鈍した再結晶材を使用し、加圧水型軽水炉では再結晶が生じていない450 °C程度で焼鈍を行った歪み取り焼鈍材を使用する。

酸化ジルコニウム(IV)は、白色顔料などに使われている他、圧電素子、コンデンサー、ガラス、差し歯や歯のブリッジなど、あるいは陽極酸化によって発色する特性を活かして宝飾品などに使われている。

歴史[編集]

元素名は、宝石のジルコン(アラビア語で金色を表す zarqun) が語源[5]。1798年、マルティン・ハインリヒ・クラプロートがジルコンから発見[5]。1824年にイェンス・ベルセリウスにより、フッ化カリウムジルコニウムをカリウムで還元することによって初めて金属分離された[5]。

ジルコニウムの化合物[編集]
ジルコン (ZrSiO4)
酸化ジルコニウム(IV) (ZrO2) - 白色顔料、皮膚炎の治療薬の原料
タングステン酸ジルコニウム(IV) (Zr(WO4)2) - 負の熱膨張率を示す物質
塩化ジルコニウム(III) (ZrCl3) - 反磁性物質
塩化ジルコニウム(IV) (ZrCl4) - 種々のジルコニウム錯体合成の出発物質

酸化反応[編集]

高温での酸化反応、および陽極酸化反応は次式で表される。


Zr +2H2O → ZrO2 + 2H2

同位体[編集]

「ジルコニウムの同位体」を参照

出典[編集]

1.^ “Zirconium: zirconium(I) fluoride compound data”. OpenMOPAC.net. 2007年12月10日閲覧。
2.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
3.^ Pritychenko, Boris; V. Tretyak. “Adopted Double Beta Decay Data”. National Nuclear Data Center. 2008年2月11日閲覧。
4.^ http://www.encyclo.co.uk/webster/Z/4
5.^ a b c 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、200頁。ISBN 4-06-257192-7。

イットリウム

ットリウム (ラテン語: yttrium[2]) は原子番号39の元素である。元素記号はYである。単体は軟らかく銀光沢をもつ金属である。遷移金属に属すがランタノイドと化学的性質が似ているので希土類元素に分類される[3]。唯一の安定同位体89Yのみ希土類鉱物中に存在する。単体は天然には存在しない。

1787年にカール・アクセル・アレニウス(英語版)がスウェーデンのイッテルビーの近くで未知の鉱物を発見し、町名にちなんで「イッテルバイト」と名づけた[4]。ヨハン・ガドリンはアレニウスの見つけた鉱物からイットリウムの酸化物を発見し、アンデルス・エーケベリはそれをイットリアと名づけた。1828年にフリードリヒ・ヴェーラーは鉱物からイットリウムの単体を取り出した[5]。イットリウムは蛍光体に使われ、赤色蛍光体はテレビのブラウン管ディスプレイやLEDに使われている[6]。ほかには電極、電解質、電気フィルタ、レーザー、超伝導体などに使われ、医療技術にも応用されている。イットリウムは生理活性物質ではないが、その化合物は人間の肺に害をおよぼす[7]。



目次 [非表示]
1 特徴 1.1 性質
1.2 ランタノイドとの類似点
1.3 化合物と化学反応
1.4 元素合成と同位体

2 歴史
3 産出 3.1 存在量
3.2 生産

4 応用 4.1 日用品
4.2 ガーネット
4.3 添加剤
4.4 医療
4.5 超伝導体

5 危険性
6 脚注 6.1 注釈
6.2 出典

7 参考文献


特徴[編集]

性質[編集]

イットリウムは軟らかく銀光沢を持つ金属である。第5周期と第3族に属す遷移金属であり、周期律から予想されるとおり、第3族で第4周期のスカンジウムより電気陰性度が小さく、第6周期のランタンよりも電気陰性度が大きい。また、第5族で第5周期のジルコニウムよりも電気陰性度が小さい[8][9]。第5周期元素のdブロック元素のなかではイットリウムがもっとも原子番号が小さい。

純粋な単体は空気中で比較的安定だが、これは酸化イットリウム(III) (Y2O3) の膜が金属表面を覆って不動態化するためである。水蒸気中で750 °C付近まで加熱すると、膜の厚さは10 μmに達することがある[10]。単体を細かくすると空気中で不安定となり、削り状のイットリウムは400 °C以上で自然発火しうる。窒素中では、単体を1,000 °Cに加熱すると窒化イットリウム (YN) が生成する[10]。

ランタノイドとの類似点[編集]

詳細は「希土類元素」を参照

イットリウムとランタノイド元素の性質はよく似ており、ともに希土類元素に属す[3]。天然の希土類鉱物(英語版)は必ず複数の希土類元素を含んでいる[11]。

イットリウムは、周期表中で近くに位置する元素よりも、ランタノイドに性質が似ている[12]。もし物理的性質だけに着目すれば、イットリウムの原子番号は64.5–67.5に相当する。この値はガドリニウムとエルビウムの中間である[13]。しかし、イットリウムの密度が4.47 g/cm3であるのに対してルテチウムが9.84 g/cm3、ジスプロシウムが8.56 g/cm3であるように、イットリウムはほかのランタノイドより密度が低く、物理的性質の相違もある[14]。

また反応次数もほぼ同じであり[10]、テルビウムやジスプロシウムと化学反応性が似ている[6]。原子半径 (180 pm) やイオン半径 (88 pm) も類似しており、溶液中ではまるで重希土類のようにふるまうため、重希土類のイオンは「イットリウム族」と呼ばれることがある[10][15]。原子半径の類似性はランタノイド収縮による[16]。

このようにイットリウムとランタノイドは非常に類似した化学的性質をもつが、相違点としては、イットリウムはもっぱら+3の原子価しか取らないのに対し、ランタノイドのおよそ半数は+3価以外の原子価も取ることが挙げられる[10]。

化合物と化学反応[編集]

「Category:イットリウムの化合物」も参照

+3価の遷移金属として、イットリウムはさまざまな無機化合物をつくり、通常3つの価電子をすべて結合に使うため、酸化数は+3である[17]。たとえば酸化イットリウム(III) (Y2O3) は1つのイットリウム原子が6つの酸素原子と結合した構造をもち、白色固体の物質である[18]。

フッ化物、水素化物、シュウ酸塩は水に溶けないが、臭化物、塩化物、ヨウ化物、窒化物、硫化物はすべて水に溶ける[10]。Y3+イオンは5d軌道と4f軌道に電子が存在しないため電子遷移による可視光の吸収が起こらず、その溶液は無色である[10]。

イットリウムやその化合物は水と容易に反応してY2O3が生成する[11]。濃硝酸やフッ化水素酸との反応性は高くないが、ほかの強酸とは容易に反応する[10]。

単体は200 °C以上でハロゲンと反応してフッ化イットリウム(III) (YF3)、塩化イットリウム(III) (YCl3)、臭化イットリウム(III) (YBr3) などのハロゲン化物をつくる[7]。同様に、高温で炭素、リン、セレン、ケイ素、硫黄などと反応し、二元化合物をつくる[10]。

炭素─イットリウム結合を持つ化合物を有機イットリウム化合物(英語版)という。そのなかには酸化数0のイットリウムを含むものがある[19][20][注 1]。ある三量体化反応の触媒として有機イットリウム化合物が使われることがある[20]。その化合物は、Y2O3と濃塩酸および塩化アンモニウムから得られるYCl3を出発物質として合成される[23][24]。

ハプト数とは、隣接する配位子がどのように中心原子へ結合しているかを表すもので、ギリシャ文字のイータ η で表される。カルボランが d0 金属原子にハプト数 η7 で配位している錯体として最初に発見されたのはイットリウム錯体であった[20]。炭素インターカレーション化合物(英語版)であるグラファイト-Yやグラファイト-Y2O3を気化することにより、Y@C82のような球状の炭素の檻の中にイットリウム原子を内包した原子内包フラーレン(英語版)が生成する[6]。電子スピン共鳴による研究で、Y3+と(C82)3−のイオン対の生成が示されている[6]。またY3C、Y2C、YC2などの炭化物を水素化すると炭化水素が得られる[10]。

元素合成と同位体[編集]

詳細は「イットリウムの同位体」を参照

太陽系のイットリウムは恒星内元素合成に由来し、約72%がs過程、約28%がr過程によるものである[25]。s過程は数千年かけてゆっくりと進み、脈動する赤色巨星の内部で起こる[26]。r過程は超新星爆発に伴って起こる速い反応である。いずれも軽い原子核の中性子捕獲により質量数が増加する。

イットリウムはウラン核分裂反応の主要な生成物である。核廃棄物管理の観点で重要な同位体は、半減期58.51日の91Yと半減期64時間の90Yである[27]。90Yは短い半減期を持ちながら、親核種のストロンチウム90 (90Sr) の半減期が29年と長いため永続平衡(英語版)状態になる。

第3族元素の陽子の数は奇数なので安定同位体が少ない[8]。イットリウムの安定同位体は89Yのみであり、これは天然に存在する。ほかの過程で生成した同位体が電子放出(中性子 → 陽子)で崩壊するための十分な時間をs過程が与えることにより、89Yの存在量が多くなったと考えられている[26][注 2]。s過程では質量数(A = 陽子 + 中性子)が90、138、208付近の原子核が選択的に生成する傾向がある[26][注 3]。このとき中性子数はそれぞれ50、82、126となる。このような同位体は電子をあまり放出しないので、結果として存在量が多くなる[5]。89Yの質量数は90に近く、中性子数は50である。

質量数76から108まで、少なくとも32種のイットリウムの人工放射性同位体が確認されている[27]。最も不安定な同位体は半減期150 nsの106Yであり、その次は半減期200 nsの76Yである[27]。最も安定なものは半減期106.626日の88Yであり、その次は半減期58.51日の91Y、79.8時間の87Y、64時間の90Yである[27]。ほかの同位体の半減期はすべて1日以内であり、そのほとんどが1時間以内である[27]。

質量数88以下のイットリウム同位体は、主にβ+崩壊(陽子 → 中性子)によりストロンチウム (Z = 38) の同位体になる[27]。質量数90以上のものは、主にβ−崩壊(中性子 → 陽子)によりジルコニウム (Z = 40) の同位体になる[27]。また、質量数97以上のものはβ遅延中性子放出過程による崩壊が一部起こる[29]。

質量数78から102まで、少なくとも20種の準安定同位体(励起状態の同位体)が知られている[27][注 4]。80Yと97Yでは複数の励起状態が確認されている[27]。基底状態より励起状態のほうが不安定なはずだが、78mY、84mY、85mY、96mY、98m1Y、100mY、102mYは基底状態のものより長い半減期を持つ。その理由は、これらは核異性体転移だけでなくβ崩壊によっても崩壊するためである[29]。

歴史[編集]

1787年、軍隊中尉のかたわら化学者をしていたカール・アクセル・アレニウスは、スウェーデン ストックホルム近郊の村イッテルビーの古い石切り場で、黒色の重い岩石を発見した。彼はこれを、当時見つかったばかりのタングステンが含まれる未知の鉱物だと考え[30]、これを「イッテルバイト」と名づけた[注 5]。さらなる分析のため、その試料が多数の化学者に送られた[4]。


白黒の肖像画。若い男がコートを着てネッカチーフを着けている。髪はわずかに着色されるのみで、灰色に見える。


酸化イットリウム(III)を発見したヨハン・ガドリン
1789年、ヨハン・ガドリンはオーボ大学 (University of Åbo) でアレニウスの試料から新たな酸化物を発見し(当時は「アース」と呼ばれた)、1794年、分析を完了してその成果を発表した[31]。1797年、アンデルス・エーケベリはこれを確認し、新たな酸化物を「イットリア (yttria)」と名づけた[32]。数十年後、アントワーヌ・ラヴォアジエによる元素の近代的定義により、アースは元素へと還元することができると考えられるようになり、新たなアースの発見はそれに含まれる新たな元素の発見と同義であることが認識された。そしてイットリアには「イットリウム」が含まれると考えられた[注 6]。

1843年、カール・グスタフ・モサンデル(英語版)はイットリアから3種の酸化物、すなわち白色の酸化イットリウム(III)、黄色の酸化テルビウム(III,IV)(当時これは「エルビア」と呼ばれていた)、薔薇色の酸化エルビウム(これは「テルビア」と呼ばれていた)を発見した[33]。四つ目の酸化物、酸化イッテルビウムは1878年、ジャン・マリニャックにより単離された[34]。その後、新たな元素が単体としてこれらの酸化物から単離され、採石場のあったイッテルビー村にちなんで、それぞれイッテルビウム、テルビウム、エルビウムと命名された[35]。さらに数十年後、7種の新たな金属が「ガドリンのイットリア」から発見された[4]。イットリアは単一組成の酸化物ではなく鉱物であることがわかったため、マルティン・ハインリヒ・クラプロートはガドリンの名をとって、これをガドリナイトと改名した[4]。

金属イットリウムは1828年、フリードリヒ・ヴェーラーが無水塩化イットリウムとカリウムを加熱することによって初めて単離した[36][37]。
YCl3 + 3 K → 3 KCl + Y
元素記号には1920年代初頭まで Yt が使われていたが、のちに Y が使われるようになった[38]。

1987年に、イットリウム・バリウム・銅酸化物(英語版)が高温超電導を示すことが発見された。この性質を示す物質としては2番目に見つかったもので[39]、窒素の沸点以上で超電導を示す物質としては、初めて見つかったものである[注 7]。

産出[編集]





リン酸イットリウムを主成分とするゼノタイムの結晶
存在量[編集]

イットリウムはほとんどの希土類鉱石に含まれ[9]、いくつかのウラン鉱石にも含まれるが、単体は自然界に存在しない[40]。地殻中の存在量は約31 ppmであり、これは28番目に大きく、銀の400倍である[41]。土壌中には10–150 ppm(乾燥質量の平均で23 ppm)含まれ、海水中には9 pptほど含まれている[41]。アポロ計画で採集された月の石は、イットリウムを比較的多く含む[35]。

生体内での役割は知られていないが、ほとんどの生物に含まれ、ヒトでは肝臓、腎臓、脾臓、肺、骨に濃縮する傾向がある。ヒトの体には0.5 mg程度のイットリウムが含まれており、母乳には4 ppmほど含まれている[42]。新鮮な野菜や作物には20–100 ppmほど含まれ、なかでもキャベツに最も多く含まれる[42]。最も高濃度なのは樹木の種子であり、700 ppm以上含まれる[42]。

生産[編集]

イットリウムとランタノイドの物性が似ていることから、ともに同じような過程で鉱石中に濃縮される。そのため、これらは同じ鉱石、すなわち希土類鉱物中に存在する。鉱石中での軽希土と重希土の分離はわずかであって、完全なものとはならない。原子量は小さいが、イットリウムは重希土の中で濃縮される[43][44]。

希土類元素の主な産出源として以下の四つが知られる[45]が、モナザイトやバストネサイトなどの軽希土鉱物においては副生成物として少量のイットリウムが得られるのみであり、主要なイットリウム源はもっぱら重希土鉱物のゼノタイムに依る[46]。





イットリウムのかけら。イットリウムと他の希土類元素を分離するのは困難である炭酸塩・フッ化物塩を含む軽希土であるバストネサイト ([(Ce, La, etc.)(CO3)F])。イットリウムの割合は平均0.1 %で[5][43]、残り99.9 %は他の16種の希土類元素である[43]。1960年から1990年にかけてのバストネサイトの主な産地はカリフォルニアのパス山希土鉱山であり、当時アメリカは最大の希土類産出国だった[43][45]。
モナザイト ([(Ce, La, etc.)PO4]) は大部分がリン酸塩で、侵食を受けた花崗岩の移動や重力による分離でつくられた漂砂鉱床(英語版)を構成する。軽希土鉱石として、モナザイトは2 %[43](または3 %[47])ほどのイットリウムを含んでいる。19世紀初めに最大の鉱床がインドとブラジルで見つかり、両国は19世紀半ばまで最大のイットリウム産出国だった[43][45]。
ゼノタイム(英語版)は希土類のリン酸塩で、リン酸イットリウム (YPO4) としてイットリウムを60 %以上含む重希土鉱石である[43]。最大の鉱床は中国の白云鄂博(バイユンオボ)であり、1990年代にパス山鉱が閉山したため中国は最大の重希土輸出国となった[43][45]。
イオン吸着型粘土(ログナン粘土)は花崗岩の風化によって形成され、重希土を1 %程度含む[43]。濃縮物により鉱石は最終的に8 %以上のイットリウムを含むようになる。イオン吸着型粘土は主に中国の華南地方で採掘される[43][45][48][49]。イットリウムはサマルスカイトやフェルグソナイト(英語版)中にもみられる[41]。

イットリウムを他の希土類から分離するのは困難であり、古典的な分離法である分別沈殿法では高純度なイットリウム化合物を得ることは事実上不可能である[50]。イットリウムを分離するための前処理として、鉱石中に含まれる希土類のリン酸塩を熱濃硫酸に溶解させて希土類溶液を得る硫酸法が用いられている。この希土類溶液にシュウ酸を加えて重希土類をシュウ酸塩として沈降させ軽希土類と分離し、これを酸素中で加熱乾燥させることで酸化イットリウム(III)を60 %ほど含有したイットリウム濃縮物が得られる。得られた濃縮物は塩酸に溶解された後、イオン交換クロマトグラフィーや溶媒抽出法によって各元素に分けられる。イオン交換法におけるキレート剤としては通常エチレンジアミン四酢酸 (EDTA) にあらかじめ銅(II)イオンや亜鉛(II)イオンなどの2価の金属イオンを吸着させたものが利用される。希土類元素と EDTA との結合力はそれぞれの元素によって異なるため、イオン交換塔に希土類溶液を通すと EDTA との結合力が強い順に希土類の混合物が分離され、イットリウムはジスプロシウムとテルビウムの間で得られる。この分離プロセスから明白なように、イオン交換膜法はバッチ処理を前提としているため大量生産には向いていないが、様々な組成の溶液を同一プロセスで処理できる利点がある。溶媒抽出法において利用される抽出剤としては、トリブチルリン酸やイソデカン酸などがある。イットリウムの抽出序列はランタノイド元素のほぼ中央にあり、また抽出序列の隣り合うランタノイド元素との分離効率がそれほど高くないため、抽出序列の異なる2種類の抽出剤を用いて2段階に分けて抽出される。溶媒抽出法は連続処理であるため大量生産に向いており、工業生産法としては溶媒抽出法が主流になっている[51]。さらにフッ化水素と反応させると、フッ化イットリウムが得られる[52]。

世界の年間の酸化イットリウム(III)生産量は、2001年に600トンに達した。また、世界の保有量は推計で900万トンに上る[41]。毎年わずか数トンの金属イットリウムがフッ化イットリウムを酸化することにより生産され、カルシウムマグネシウム合金の金属スポンジに利用される。1,600 °C 以上以上に加熱を行うアーク炉内でイットリウムを融解させることができる[41][52]。

応用[編集]

日用品[編集]





イットリウムはブラウン管テレビの赤色を作り出すために使われる元素の一つである
ユウロピウムイオン (Eu3+) をドープした酸化イットリウム(III) (Y2O3)、オルトバナジン酸イットリウム (YVO4)、二酸化硫化イットリウム(III) (Y2O2S) は蛍光体として、カラーテレビのブラウン管の赤色を出すために使われる[5][6][注 8]。イットリウムが電子銃からのエネルギーを集め、それを蛍光体へ渡すと、ユウロピウムから赤色の光が放出される[53]。Eu3+ のほかテルビウム (Tb3+) もドーパントとして用いられ、これは緑色の蛍光を発する。

イットリウム化合物はエチレンを重合してポリエチレンを製造する際の触媒となる[5]。金属としては高性能点火プラグの電極に使われる[54]。また、プロパンを燃料とするランタンのガスマントルの製造に、放射性物質であるトリウムの代替として使われる[55]。

研究中の用途として、固体電極や自動車排気ガスの酸素センサーとして期待される、イットリウムで安定化したジルコニアが挙げられる[6]。

ガーネット[編集]





直径 0.5cm の Nd:YAG レーザーロッド
イットリウムはさまざまな人工ガーネット(英語版)の製造に使われる[56]。イットリウム・鉄・ガーネット (Y3Fe5O12, YIG) は高性能マイクロ波電子フィルタである[5]。イットリウム、鉄、アルミニウム、ガドリニウムのガーネット(Y3(Fe,Al)5O12、Y3(Fe,Ga)5O12 など)は磁性を持つ[5]。YIG を音響エネルギー発信機や変換器に用ると高効率のものが得られる[57]。イットリウム・アルミニウム・ガーネット Y3A5O12 (YAG) はモース硬度8.5であり、模造ダイヤとして宝石に使われる[5]。セリウムをドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット (YAG:Ce) の結晶は、白色LEDの蛍光体に使われる[58][59][60]。

YAG、酸化イットリウム(III)、テトラフルオロイットリウム(III)酸リチウム (LiYF4)、オルトバナジン酸イットリウム(III) (YVO4) に、ネオジム、エルビウム、イッテルビウムなどをドープしたものは、近赤外線レーザーに使われる[61][62]。YAG レーザーは高出力で作動させることができ、金属の切削に使われる[47]。ドープ済み YAG 単結晶は通常チョクラルスキー法で生産される[63]。

添加剤[編集]

クロム、モリブデン、チタン、ジルコニウムに微量のイットリウム (0.1–0.2 %) を添加すると、その粒径が小さくなる[64]。アルミニウムやマグネシウムの合金に添加すると、強度が増加する[5]。一般に合金にイットリウムを添加すると、結晶の緻密化によって被加工性が向上し、強固な酸化被膜の形成によって高温条件下での再結晶や酸化、酸による腐食が起こりにくくなる[53][65]。このような合金への添加剤としての用途においては高純度であることを必要とされないことも多く、イットリウムの単離工程における中間生成物であるイットリウム濃縮物をそのまま還元して用いる場合もある[66]。コバルト、鉄との合金は永久磁石として利用される。

イットリウムはバナジウムや非鉄金属を脱酸素するのに使われる[5]。酸化イットリウム(III)は、宝石である立方晶のジルコニアを安定化させる[67]。これは、純粋なジルコニアでは温度変化によって結晶系が単斜晶系から正方晶系へと変化して割れを生じるが、イットリウムを添加することで温度変化に関わらず常に正方晶系となるため熱耐性が得られることによる[68]。

延性に富むダクタイル鋳鉄の製造用の球状化剤として、イットリウムが研究されている[5]。酸化イットリウム(III)は高い融点を持ち、衝撃抵抗と低い熱膨張率を提供するので、セラミックやガラスの製造に使われる[5]。これはたとえば、多孔性窒化ケイ素の生産における焼結添加物や、カメラレンズに使われる[69][41]。また、物質科学研究などに使われるイットリウム化合物を合成するための原料としても使われる。

医療[編集]

放射性同位体であるイットリウム90はイットリウム90-dota-tyr3-オクトレオチド(英語版)やイットリウム90イブリツモマブ・チウキセタンなどの医薬品に含まれている。これらの薬は悪性リンパ腫、白血病、子宮、結腸直腸、骨などの癌の治療に用いられている[42]。これらはモノクローナル抗体に付着し、癌細胞へと結合して、これをイットリウム90の発するβ線で破壊する[70]。

イットリウム90でできた針は、メスよりも正確に切断を行うことができるので、痛覚を伝達する脊髄の神経を切り離すのに使われる[30]。イットリウム90は、関節リウマチなどにより膝などに炎症を起こしている患者の治療のため、放射線滑膜切除術を行う際にも使われる[71]。

ロボットを補助的に利用し、側枝神経や組織への損傷を減少する目的で行われた、イヌでの前立腺全摘除術実験に、ネオジムをドープした YAG レーザーが用いられた[72]。一方、エルビウムがドープされたものは、美容外科において皮膚再生(スキン・リサーフェイシング)への利用が検討されている[6]。

超伝導体[編集]


Dark grey pills on a watchglass. One cubic piece of the same material on top of the pills.


YBCO 超伝導体
イットリウム・バリウム・銅酸化物 (YBa2Cu3O7, YBCO, 1-2-3) は1987年にアラバマ大学とヒューストン大学で開発された超伝導体である[39]。この超電導体は約93 Kでその性質を現すが、液体窒素の沸点77.1 Kより高いという点で有用である[39]。液体窒素は液体ヘリウムより安価なので、冷却のコストを大幅に減らすことができるためである。

イットリウム・バリウム・銅酸化物は化学式 YBa2Cu3O7−d で表されるが、超電導性を示すには d は0.7より小さくなければならない。その理由はわかっていないが、空孔が結晶中の特定の場所(平面状または鎖状の銅酸化物)にしか発生せず、銅固有の酸化数を上げることが知られていて、これが超電導性に関係しているのだろうとされている。

1957年にBCS理論が発表されてから、低温超伝導性の理論はよく理解されるようになった。基礎となるのは結晶中の2電子間の相互作用の独自性である。しかし、BCS理論では高温超電導性を説明できず、詳細な機構は明らかになっていない。わかっているのは、超電導性を起こすには銅酸化物の組成を正確に制御する必要があるということである[73] 。

YBCO は、黒緑色、多結晶、多相の無機物で、ペロブスカイト構造を基にしている。研究者はペロブスカイトについて、実用的な高温超電導体の開発を目指している[47]。

危険性[編集]

水溶性イットリウム化合物はわずかに有害であると考えられているが、不溶性化合物は無害である[42]。動物実験により、イットリウムやその化合物は、種類によって程度は異なるが、肺や肝臓に損傷を与えることが示されている。ラットでは、クエン酸イットリウムの吸入により肺水腫や呼吸困難が生じ、塩化イットリウム(III)では肝臓水種、胸水、肺の充血が生じた[7]。

ヒトがイットリウム化合物に曝されると肺疾患の原因となる可能性がある[7]。バナジン酸イットリウムユウロピウムの粉塵に曝された労働者の目、肌、呼吸器に軽度の炎症が見つかった例があるが、これはイットリウムではなくバナジウムの影響による可能性もある[7]。イットリウム化合物に急激に曝されると、息切れ、咳、胸痛、チアノーゼが起こることがある[7]。アメリカ国立労働安全衛生研究所 (NIOSH) では、許容曝露濃度 (PEL) は 1 mg/m3、生命と健康に対する危険性 (IDLH) は500 mg/m3 を推奨している[74]。イットリウムの粉塵は引火性である[7]。

脚注[編集]

注釈[編集]

1.^ イットリウムが+3以外の酸化数をとる例として、融解した塩化イットリウム(III)中で+2のものが[21]、酸化イットリウム(III)の気相中のクラスターで+1のものが観測された[22]。
2.^ 正確には、中性子が陽子になるとき電子と反ニュートリノが放出される。
3.^ 魔法数を参照。この理由は中性子捕獲断面積が非常に低いことによるものと考えられている[28]。
4.^ 準安定同位体は通常の核種よりも高いエネルギーを持っており、この状態はガンマ線や転換電子を放出するまで続く。準安定同位体は質量数の横に m を記して示す。
5.^ イッテルバイト (ytterbite) は発見された場所の近くの村 (ytterby) の名前に由来し、語尾の -ite は鉱物であることを示している。
6.^ アースは語尾に -a が、元素は -ium が付く。
7.^ YBCO の超伝導転移温度は93 Kで、窒素の沸点は77 Kである。
8.^ エムスリーによると、「普通はユウロピウム(III)をドープした二酸化硫化イットリウム(III)がカラーテレビの赤色成分として使われている。」[41]

出典[編集]

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『レアアース』 新金属協会 希土類部会、新金属協会〈新金属早わかりシリーズ No.2〉、1980年、増補改訂版。
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