2014年02月13日
銀
銀(ぎん、英: silver、羅: argentum)は原子番号47の元素。元素記号は Ag。貴金属の一種。
目次 [非表示]
1 歴史
2 概要・性質
3 産出 3.1 銀鉱石
4 銀化合物
5 同位体
6 宝飾品としての利用
7 その他の用途 7.1 貨幣としての利用
7.2 蒸着利用
7.3 抗菌性の利用
7.4 公衆浴場での利用
7.5 写真への利用
7.6 医療用途への応用
7.7 電子工学分野への応用
7.8 食品
7.9 顔料・化粧品
8 銀の象徴的意味
9 銀相場
10 註・出典
11 関連項目
12 外部リンク
歴史[編集]
紀元前3000年ごろには、人間の生活舞台に登場していた[1]。元素記号の Ag は、ギリシャ語でアルギュロス(ラテン語では argentum) に由来する[1]。これらは「輝く」や「明るい」という意味である[1]。
概要・性質[編集]
室温における電気伝導率と熱伝導率、可視光線の反射率は、いずれも金属中で最大である。光の反射率が可視領域にわたって98 %程度と高いことから美しい金属光沢を有し[2]、大和言葉では「しろがね/しろかね(白銀: 白い金属)」と呼ばれた。
延性および展性に富み、その性質は金に次ぎ、1 gの銀は約2200 mの線に伸ばすことが可能である[3]。
溶融銀は973 °Cにおいて1気圧の酸素と接触すると、その体積の20.28倍の酸素を吸収し、凝固の際に吸収した酸素を放出し表面がアバタとなる spitting と呼ばれる現象を起こす[4]。純銀の鋳造は、これを防止するために酸素を遮断した状態で行う。
貴金属の中では比較的化学変化しやすく、空気中に硫黄化合物(自動車の排ガスや温泉地の硫化水素など)が含まれていると、表面に硫化物 Ag2S が生成し黒ずんでくる。銀が古くから支配階級や富裕階級に食器材料として用いられてきた理由の一つは、硫黄化合物やヒ素化合物などの毒を混入された場合に、化学変化による変色でいち早く異変を察知できる性質からという説がある。
銀イオンはバクテリアなどに対して強い殺菌力を示すため、現在では広く抗菌剤として使用されている。例えば抗菌加工と表示されている製品の一部に、銀化合物を使用した加工を施しているものがある。
塩素などのハロゲンとは直接結合しハロゲン化銀を生成する。また酸化作用のある硝酸および熱濃硫酸に溶解し銀イオンを生成する。ただし王水には溶けにくい。また空気の存在下でシアン化ナトリウムの水溶液にもシアノ錯体を形成して溶解する。
3 Ag + 4 HNO3 → 3 AgNO3 + NO + 2 H2O4 Ag + 8 NaCN + O2 + 2 H2O → 4 Na[Ag(CN)2] + 4 NaOH
アルゼンチンの国名は、国の中央を流れる大河ラプラタ川(スペイン語で銀の川の意味)にちなみ、銀を意味するラテン語名「argentum」から取っている。
産出[編集]
「銀山」も参照
金とともに、中世ヨーロッパでは新大陸発見までの慢性的な不足品であって、そのため高価でもあった。特に16世紀後半から17世紀前半にかけての日本は東アジア随一の金、銀、銅の採掘地域であり、生糸などの貿易対価として中国への輸出も行っていた。これらの金属は日本の貿易品として有用だったので、銀山は鎌倉幕府以前から江戸時代の鎖国終了からしばらく、明治に至っても国が直轄する場合が多かった。中でも島根県大田市の石見銀山は有名。その後、日本の銀山は資源枯渇のため、世界の銀産出地から日本の名前は消えた。
16世紀を通じて金の産額には大して変化がなかったのに対し、銀は16世紀中頃よりポトシ鉱山や石見銀山を中心に著しく増大したため銀価格が暴落した[5]。例えば日本および中国においては16世紀前半まで金銀比価は1:5 - 6前後であったが、17世紀以降は日本では1:10 - 13程度まで銀安となった[6]。16世紀中頃の銀の増産の背景には、アマルガム法や灰吹法の導入があった。新大陸発見後は、ペルーなどで大量採掘された銀が世界中に流れることになった。銀価値の暴落によりヨーロッパの物価は2 - 3倍のインフレーションに陥った(価格革命)。さらに近年、採掘技術の向上、および銅の電解精錬の副産物などにより金銀の生産量が増大し相対的に価格は下落している。しかしながら、いまだに銀は高価な金属であって、その光沢とともに、人々に愛好されている。
銀鉱石[編集]
銀鉱石を構成する鉱石鉱物には、次のようなものがある。
自然銀 (Ag)
輝銀鉱(輝銀鉱) (Ag2S)
濃紅銀鉱(火閃銀鉱) (Ag3SbS3)
淡紅銀鉱 (Ag3AsS3)
角銀鉱 (AgCl)
銀化合物[編集]
化合物中で銀原子は一般的に1価の原子価(酸化数)が最も安定であり、より高酸化状態のものとして3価のものも存在するが、見かけ上2価のものは1価および3価の混合原子価であることが多く真の2価の化合物は一般に不安定である[7]。銀化合物は一般的に光に対し敏感であり分解しやすく褐色瓶で保存する。
フッ化銀 (Ag2F, AgF, AgF2, AgF3)
塩化銀(I) (AgCl)
臭化銀(I) (AgBr)
ヨウ化銀(I) (AgI)
硝酸銀(I) (AgNO3)
酸化銀 (AgO, Ag2O, Ag2O3)
硫化銀(I) (Ag2S)
同位体[編集]
詳細は「銀の同位体」を参照
宝飾品としての利用[編集]
古代サメのアクセサリー
銀は、その白い輝きから宝飾品としても広く利用されてきた。貴金属のなかでは比較的産出量も多く安価であるため、日本では特に若者向けの宝飾品として人気があるが、最近は一般的にも用いられるようになっている。
宝飾品などとして利用する場合、純銀では柔らか過ぎて傷つきやすいため、他の金属との合金の形で利用される(この混ぜる金属を「割り金」と呼ぶ)。日本では一般的に銅を混ぜるが、加工性や高硬度のため他の添加金属を用いることがある。古代エジプトでは銀は金よりも価値があり、金製品に銀メッキが施された宝飾品が存在する。
カラー配合プラチナを混ぜたプラチナシルバーや金・パラジウムを混ぜたシルバー、また色合いを変えたイエローシルバー、ピンクシルバー、グリーンシルバーなどもある。 Silver900 (SV900): コインシルバー
Silver925 (SV925): スターリングシルバー(品位記号 Sterling)
Silver958 (SV958): ブリタニアシルバー(品位記号 Britannia)
Silver1000 (SV1000): 純銀、ピュアシルバー
シルバーの記号記号の SV は一般的に用いられているが、国際的には認知されていないので、社団法人日本ジュエリー協会は、元素記号である Ag の使用を推奨している。 SV900 ⇒(推奨)Ag900
SV925 ⇒(推奨)Ag925
純度について造幣局では、貴金属の品位証明を行っているが、銀の品位区分を1000, 950, 925, 900, 800(千分率 : ‰)の5種としている。これに対してジュエリー用貴金属の純度を決めている ISO 9202(国際標準化機構)と JIS H6309(日本工業規格)では925, 835, 800の3種としている(造幣局区分と異なり925を上回るものがなく、また900の代わりに835がある)。これらは品位区分であって、市場に出る地金として認めるとか認めないとかいう観点とは異なる。流行のピンクシルバーはほぼ500 ‰(割り金は銅)であり、変色しない銀としてかつて用いられたソフトホワイトは500 ‰(割り金はパラジウム)である。また、朧銀(おぼろ銀)は、 四分一(しぶいち)といわれ、銀が250 - 600 ‰の各種合金で、伝統工芸品、美術品、宝飾品に用いられている。※なお、記号「‰」についてはパーミルを参照されたい。その他銀製品は、年月を経ると空気中の硫黄分と反応して黒ずんでくるが、これを燻し銀と呼んで愛好する向きもあり、また強制硫化やめっきをした銀古美仕上げがある。
その他の用途[編集]
貨幣としての利用[編集]
詳細は「銀貨」を参照
古来、金とともに、貨幣として広く流通した。
蒸着利用[編集]
真空中に於いて銀を高温で熱し、気化させ、目標物に蒸着させる事により、銀の高い反射率を利用する。鏡、反射フィルムなど応用範囲は広い。
抗菌性の利用[編集]
銀イオンはバクテリアなどに対して極めて強い殺菌力を示すので、浄水器の殺菌装置など、近年急速に殺菌剤として普及してきた。抗菌性を持つものとしては、金属銀と金属銅がある[8][9][10]、銅に関しては用いられるようになってからは200年ほどの歴史がある。銀は1990年頃から使用されるようになった。
銀イオンは感光性があり、普通の塩の状態ではすぐに還元されて黒い銀の単体粒子が析出してしまうため、最近はチオ硫酸イオンなどを配位させた錯イオンを用いて、感光性をなくしたものを使用している。
銀は比較的人体への毒性が低いとされているが[11][12][13] 、化管法によると事業者が銀または銀化合物を使用するときは使用量の届出が必要なことに留意を要する。
公衆浴場での利用[編集]
日本では公衆浴場における浴槽水の衛生管理が義務付けられているが、銀イオンはその浴槽水の殺菌に利用されている。厚生労働省からは塩素剤による殺菌が推奨されているが、塩素殺菌が不向きな水質も存在している。銀イオンはそのような塩素殺菌が行いづらい水質の一部でも、効果的に殺菌を行えることが確認されている。また、他の浴水殺菌剤や殺菌装置にはない、還元的な殺菌作用(ORP による比較)から近年注目されている殺菌方法である。
写真への利用[編集]
銀はまた、写真の感光剤(臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)など)として利用されている。銀のハロゲン化物が光を受けて銀原子を遊離すること(潜像)を利用し、適当な還元剤と反応させることによりその変化を増幅し(現像)、画像を記録することが可能である。さらに、単独では濃淡しか表現できないが、複数の色素とフィルタ等を組み合わせ、波長に応じて感光の度合いを変化させることにより、カラーでの記録も可能としている。
医療用途への応用[編集]
銀は歯科医療で利用されている。比較的安価な材料として、主に保険診療で使用される。用途は主に歯のう蝕(虫歯)や歯根の患部を削った空洞などに、失った歯牙部分を補完する形で銀合金をかぶせたり、はめ込んだりする方法である。これらはロストワックス鋳造法により製作される。使用される銀は、銀に亜鉛やインジウムを添加したもの、また金やパラジウム等を添加した銀合金であり、そのうち銀の分量は約50 - 70 %である。現在はほとんど行われていないが、銀とスズの合金に銅や亜鉛を添加した粉末を水銀で練るアマルガム法を用いたアマルガム修復もよく行われた。有機水銀の毒性が問題となって日本においては廃れたが、現在でも毒性がないといわれる無機水銀を使用して行われる場合もある。
東洋医学の分野では、鍼治療用として、銀を含む材質の鍼が製造されている。金を含む鍼に比べると安価だが、一般的なステンレスの鍼に比べて高価なため、銀の鍼を使うのが効果的とされる症状に対してコスト面で折り合いがつく場合に用いられる。
電子工学分野への応用[編集]
室温において銀は既知の金属の中で最も電気抵抗が低い。そのため、導電性の良い電線として利用されている。もちろん銀そのものが高価なため、導電率の近い銅線又は軽量なアルミ線を太径又は複導体・多導体にして使用した方が良い場合も多く、銀線は特殊な場合にのみ利用される。例としてはマニア向けの、オーディオケーブル、スピーカーケーブル等がよく知られる(1メートル当たり数千円、プラグを付けるなど加工済みなら数万円する商品)。また高周波を扱う配線にも用いられることがあるほか、さびにくいため継電器(リレー)の接点にも用いられる。
ただし、銀はエレクトロケミカルマイグレーション(イオンマイグレーション)による短絡(ショート)がもっとも起こりやすい材料である[14]。また、硫化や塩化した場合に、絶縁体の硫化銀や塩化銀が生成される[15]。
食品[編集]
単体銀は食品添加物の着色料[16]として用いることが出来る。代表的なものとして、糖粒に食用銀粉をつけ銀白色金属粒状の外観を持つように加工したアラザンが菓子装飾用に用いられている。
顔料・化粧品[編集]
歴史的には銀の粉末が顔料として用いられた。現代において「銀粉」と呼ばれているのは、通常錫粉やアルミ粉である(これに対し、「金粉」は現代においても金が用いられる場合がある)。
銀の象徴的意味[編集]
銀スプーン
銀は、美しい白い光沢を放つことから、占星術や錬金術などの神秘主義哲学では月と関連づけられ、銀は男性を、金は女性を意味していた。ある時を境に位置が逆転し、銀は月や女性原理などを象徴する物となり、一方、金は太陽や男性原理などを象徴する物となった。
また、各種競技、コンクール等で、2位の場合に送られるメダル等に使われていることから、二位という象徴的意味、諺で「雄弁は銀、沈黙は金」と、金に比べて一段劣ることの象徴にもされている。
銀相場[編集]
金と並び貴金属や工業用素材として広く使用されることから、投資の対象にもなっている。時には、投機的な資金が流入して相場価格が乱高下することがある。
投資の対象として注目されるようになった発端は、1979年 - 1980年のハント兄弟が、工業用にも利用されている銀の価格が金と比べて低いことに着目した買い占めがきっかけであり、一時は20倍もの価格上昇が発生した。ハント兄弟の価格つり上げ工作は、高騰により欧州の一般家庭が使っていた銀食器が大量に鋳つぶされ、市場に大量放出されたことによる暴落で大失敗に終わるが、その後も1996年には米国の投資家ウォーレン・バフェットが世界の年間供給量の5分の1を買い占めたと表明し、直後に暴騰が生じた。2011年4月頃にも1980年のハント兄弟の買占めに迫る価格まで価格が急上昇したが、先物取引の規制(証拠金の上積み規制)がなされたために暴落するなど、依然として混乱は見られる。
なお、もっとも銀消費量が多かった写真工業分野では、現像時の銀回収システムの確立やフィルムを使わないデジタルカメラへの移行が進んでおり、ハント兄弟の買い占めに際して発生した写真フィルム、レントゲンフィルムの品不足のような事態は、今後は発生しにくいと考えられている。
註・出典[編集]
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1.^ a b c 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、220頁。ISBN 4-06-257192-7。
2.^ 東京天文台編纂 『理科年表2008』 丸善
3.^ 木下亀城、小川留太郎 『標準原色図鑑全集6 岩石鉱物』 保育社、1967年
4.^ 『化学大辞典』 共立出版、1993年
5.^ 小葉田淳 『日本鉱山史の研究』 岩波書店、1968年
6.^ 小葉田淳 『日本の貨幣』 至文堂、1958年
7.^ F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年
8.^ 抗菌作用を持つ材料、抗菌化研株式会社
9.^ 抗菌製品技術協議会、 A8.品質と安全性に関する自主規格
10.^ 抗菌製品技術協議会、 A8.品質と安全性に関するデータ等の自主登録規定
11.^ 「環境基準」(環境省)
12.^ 銀(銅)については 「水質汚濁に係る環境基準について 人の健康の保護に関する環境基準 別表1」(環境省)に該当しない。
13.^ 銀については 「土壌の汚染に係る環境基準について土壌環境基準 別表」(環境省)に該当しない。
14.^ くもりのち晴れ2002/11 社団法人日本プリント回路工業会 2002年11月
15.^ 一般リレー - 製品に関するFAQ FAQ04896 オムロン制御機器
16.^ 厚生労働省 食品添加物のページ 既存添加物名簿の104
目次 [非表示]
1 歴史
2 概要・性質
3 産出 3.1 銀鉱石
4 銀化合物
5 同位体
6 宝飾品としての利用
7 その他の用途 7.1 貨幣としての利用
7.2 蒸着利用
7.3 抗菌性の利用
7.4 公衆浴場での利用
7.5 写真への利用
7.6 医療用途への応用
7.7 電子工学分野への応用
7.8 食品
7.9 顔料・化粧品
8 銀の象徴的意味
9 銀相場
10 註・出典
11 関連項目
12 外部リンク
歴史[編集]
紀元前3000年ごろには、人間の生活舞台に登場していた[1]。元素記号の Ag は、ギリシャ語でアルギュロス(ラテン語では argentum) に由来する[1]。これらは「輝く」や「明るい」という意味である[1]。
概要・性質[編集]
室温における電気伝導率と熱伝導率、可視光線の反射率は、いずれも金属中で最大である。光の反射率が可視領域にわたって98 %程度と高いことから美しい金属光沢を有し[2]、大和言葉では「しろがね/しろかね(白銀: 白い金属)」と呼ばれた。
延性および展性に富み、その性質は金に次ぎ、1 gの銀は約2200 mの線に伸ばすことが可能である[3]。
溶融銀は973 °Cにおいて1気圧の酸素と接触すると、その体積の20.28倍の酸素を吸収し、凝固の際に吸収した酸素を放出し表面がアバタとなる spitting と呼ばれる現象を起こす[4]。純銀の鋳造は、これを防止するために酸素を遮断した状態で行う。
貴金属の中では比較的化学変化しやすく、空気中に硫黄化合物(自動車の排ガスや温泉地の硫化水素など)が含まれていると、表面に硫化物 Ag2S が生成し黒ずんでくる。銀が古くから支配階級や富裕階級に食器材料として用いられてきた理由の一つは、硫黄化合物やヒ素化合物などの毒を混入された場合に、化学変化による変色でいち早く異変を察知できる性質からという説がある。
銀イオンはバクテリアなどに対して強い殺菌力を示すため、現在では広く抗菌剤として使用されている。例えば抗菌加工と表示されている製品の一部に、銀化合物を使用した加工を施しているものがある。
塩素などのハロゲンとは直接結合しハロゲン化銀を生成する。また酸化作用のある硝酸および熱濃硫酸に溶解し銀イオンを生成する。ただし王水には溶けにくい。また空気の存在下でシアン化ナトリウムの水溶液にもシアノ錯体を形成して溶解する。
3 Ag + 4 HNO3 → 3 AgNO3 + NO + 2 H2O4 Ag + 8 NaCN + O2 + 2 H2O → 4 Na[Ag(CN)2] + 4 NaOH
アルゼンチンの国名は、国の中央を流れる大河ラプラタ川(スペイン語で銀の川の意味)にちなみ、銀を意味するラテン語名「argentum」から取っている。
産出[編集]
「銀山」も参照
金とともに、中世ヨーロッパでは新大陸発見までの慢性的な不足品であって、そのため高価でもあった。特に16世紀後半から17世紀前半にかけての日本は東アジア随一の金、銀、銅の採掘地域であり、生糸などの貿易対価として中国への輸出も行っていた。これらの金属は日本の貿易品として有用だったので、銀山は鎌倉幕府以前から江戸時代の鎖国終了からしばらく、明治に至っても国が直轄する場合が多かった。中でも島根県大田市の石見銀山は有名。その後、日本の銀山は資源枯渇のため、世界の銀産出地から日本の名前は消えた。
16世紀を通じて金の産額には大して変化がなかったのに対し、銀は16世紀中頃よりポトシ鉱山や石見銀山を中心に著しく増大したため銀価格が暴落した[5]。例えば日本および中国においては16世紀前半まで金銀比価は1:5 - 6前後であったが、17世紀以降は日本では1:10 - 13程度まで銀安となった[6]。16世紀中頃の銀の増産の背景には、アマルガム法や灰吹法の導入があった。新大陸発見後は、ペルーなどで大量採掘された銀が世界中に流れることになった。銀価値の暴落によりヨーロッパの物価は2 - 3倍のインフレーションに陥った(価格革命)。さらに近年、採掘技術の向上、および銅の電解精錬の副産物などにより金銀の生産量が増大し相対的に価格は下落している。しかしながら、いまだに銀は高価な金属であって、その光沢とともに、人々に愛好されている。
銀鉱石[編集]
銀鉱石を構成する鉱石鉱物には、次のようなものがある。
自然銀 (Ag)
輝銀鉱(輝銀鉱) (Ag2S)
濃紅銀鉱(火閃銀鉱) (Ag3SbS3)
淡紅銀鉱 (Ag3AsS3)
角銀鉱 (AgCl)
銀化合物[編集]
化合物中で銀原子は一般的に1価の原子価(酸化数)が最も安定であり、より高酸化状態のものとして3価のものも存在するが、見かけ上2価のものは1価および3価の混合原子価であることが多く真の2価の化合物は一般に不安定である[7]。銀化合物は一般的に光に対し敏感であり分解しやすく褐色瓶で保存する。
フッ化銀 (Ag2F, AgF, AgF2, AgF3)
塩化銀(I) (AgCl)
臭化銀(I) (AgBr)
ヨウ化銀(I) (AgI)
硝酸銀(I) (AgNO3)
酸化銀 (AgO, Ag2O, Ag2O3)
硫化銀(I) (Ag2S)
同位体[編集]
詳細は「銀の同位体」を参照
宝飾品としての利用[編集]
古代サメのアクセサリー
銀は、その白い輝きから宝飾品としても広く利用されてきた。貴金属のなかでは比較的産出量も多く安価であるため、日本では特に若者向けの宝飾品として人気があるが、最近は一般的にも用いられるようになっている。
宝飾品などとして利用する場合、純銀では柔らか過ぎて傷つきやすいため、他の金属との合金の形で利用される(この混ぜる金属を「割り金」と呼ぶ)。日本では一般的に銅を混ぜるが、加工性や高硬度のため他の添加金属を用いることがある。古代エジプトでは銀は金よりも価値があり、金製品に銀メッキが施された宝飾品が存在する。
カラー配合プラチナを混ぜたプラチナシルバーや金・パラジウムを混ぜたシルバー、また色合いを変えたイエローシルバー、ピンクシルバー、グリーンシルバーなどもある。 Silver900 (SV900): コインシルバー
Silver925 (SV925): スターリングシルバー(品位記号 Sterling)
Silver958 (SV958): ブリタニアシルバー(品位記号 Britannia)
Silver1000 (SV1000): 純銀、ピュアシルバー
シルバーの記号記号の SV は一般的に用いられているが、国際的には認知されていないので、社団法人日本ジュエリー協会は、元素記号である Ag の使用を推奨している。 SV900 ⇒(推奨)Ag900
SV925 ⇒(推奨)Ag925
純度について造幣局では、貴金属の品位証明を行っているが、銀の品位区分を1000, 950, 925, 900, 800(千分率 : ‰)の5種としている。これに対してジュエリー用貴金属の純度を決めている ISO 9202(国際標準化機構)と JIS H6309(日本工業規格)では925, 835, 800の3種としている(造幣局区分と異なり925を上回るものがなく、また900の代わりに835がある)。これらは品位区分であって、市場に出る地金として認めるとか認めないとかいう観点とは異なる。流行のピンクシルバーはほぼ500 ‰(割り金は銅)であり、変色しない銀としてかつて用いられたソフトホワイトは500 ‰(割り金はパラジウム)である。また、朧銀(おぼろ銀)は、 四分一(しぶいち)といわれ、銀が250 - 600 ‰の各種合金で、伝統工芸品、美術品、宝飾品に用いられている。※なお、記号「‰」についてはパーミルを参照されたい。その他銀製品は、年月を経ると空気中の硫黄分と反応して黒ずんでくるが、これを燻し銀と呼んで愛好する向きもあり、また強制硫化やめっきをした銀古美仕上げがある。
その他の用途[編集]
貨幣としての利用[編集]
詳細は「銀貨」を参照
古来、金とともに、貨幣として広く流通した。
蒸着利用[編集]
真空中に於いて銀を高温で熱し、気化させ、目標物に蒸着させる事により、銀の高い反射率を利用する。鏡、反射フィルムなど応用範囲は広い。
抗菌性の利用[編集]
銀イオンはバクテリアなどに対して極めて強い殺菌力を示すので、浄水器の殺菌装置など、近年急速に殺菌剤として普及してきた。抗菌性を持つものとしては、金属銀と金属銅がある[8][9][10]、銅に関しては用いられるようになってからは200年ほどの歴史がある。銀は1990年頃から使用されるようになった。
銀イオンは感光性があり、普通の塩の状態ではすぐに還元されて黒い銀の単体粒子が析出してしまうため、最近はチオ硫酸イオンなどを配位させた錯イオンを用いて、感光性をなくしたものを使用している。
銀は比較的人体への毒性が低いとされているが[11][12][13] 、化管法によると事業者が銀または銀化合物を使用するときは使用量の届出が必要なことに留意を要する。
公衆浴場での利用[編集]
日本では公衆浴場における浴槽水の衛生管理が義務付けられているが、銀イオンはその浴槽水の殺菌に利用されている。厚生労働省からは塩素剤による殺菌が推奨されているが、塩素殺菌が不向きな水質も存在している。銀イオンはそのような塩素殺菌が行いづらい水質の一部でも、効果的に殺菌を行えることが確認されている。また、他の浴水殺菌剤や殺菌装置にはない、還元的な殺菌作用(ORP による比較)から近年注目されている殺菌方法である。
写真への利用[編集]
銀はまた、写真の感光剤(臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)など)として利用されている。銀のハロゲン化物が光を受けて銀原子を遊離すること(潜像)を利用し、適当な還元剤と反応させることによりその変化を増幅し(現像)、画像を記録することが可能である。さらに、単独では濃淡しか表現できないが、複数の色素とフィルタ等を組み合わせ、波長に応じて感光の度合いを変化させることにより、カラーでの記録も可能としている。
医療用途への応用[編集]
銀は歯科医療で利用されている。比較的安価な材料として、主に保険診療で使用される。用途は主に歯のう蝕(虫歯)や歯根の患部を削った空洞などに、失った歯牙部分を補完する形で銀合金をかぶせたり、はめ込んだりする方法である。これらはロストワックス鋳造法により製作される。使用される銀は、銀に亜鉛やインジウムを添加したもの、また金やパラジウム等を添加した銀合金であり、そのうち銀の分量は約50 - 70 %である。現在はほとんど行われていないが、銀とスズの合金に銅や亜鉛を添加した粉末を水銀で練るアマルガム法を用いたアマルガム修復もよく行われた。有機水銀の毒性が問題となって日本においては廃れたが、現在でも毒性がないといわれる無機水銀を使用して行われる場合もある。
東洋医学の分野では、鍼治療用として、銀を含む材質の鍼が製造されている。金を含む鍼に比べると安価だが、一般的なステンレスの鍼に比べて高価なため、銀の鍼を使うのが効果的とされる症状に対してコスト面で折り合いがつく場合に用いられる。
電子工学分野への応用[編集]
室温において銀は既知の金属の中で最も電気抵抗が低い。そのため、導電性の良い電線として利用されている。もちろん銀そのものが高価なため、導電率の近い銅線又は軽量なアルミ線を太径又は複導体・多導体にして使用した方が良い場合も多く、銀線は特殊な場合にのみ利用される。例としてはマニア向けの、オーディオケーブル、スピーカーケーブル等がよく知られる(1メートル当たり数千円、プラグを付けるなど加工済みなら数万円する商品)。また高周波を扱う配線にも用いられることがあるほか、さびにくいため継電器(リレー)の接点にも用いられる。
ただし、銀はエレクトロケミカルマイグレーション(イオンマイグレーション)による短絡(ショート)がもっとも起こりやすい材料である[14]。また、硫化や塩化した場合に、絶縁体の硫化銀や塩化銀が生成される[15]。
食品[編集]
単体銀は食品添加物の着色料[16]として用いることが出来る。代表的なものとして、糖粒に食用銀粉をつけ銀白色金属粒状の外観を持つように加工したアラザンが菓子装飾用に用いられている。
顔料・化粧品[編集]
歴史的には銀の粉末が顔料として用いられた。現代において「銀粉」と呼ばれているのは、通常錫粉やアルミ粉である(これに対し、「金粉」は現代においても金が用いられる場合がある)。
銀の象徴的意味[編集]
銀スプーン
銀は、美しい白い光沢を放つことから、占星術や錬金術などの神秘主義哲学では月と関連づけられ、銀は男性を、金は女性を意味していた。ある時を境に位置が逆転し、銀は月や女性原理などを象徴する物となり、一方、金は太陽や男性原理などを象徴する物となった。
また、各種競技、コンクール等で、2位の場合に送られるメダル等に使われていることから、二位という象徴的意味、諺で「雄弁は銀、沈黙は金」と、金に比べて一段劣ることの象徴にもされている。
銀相場[編集]
金と並び貴金属や工業用素材として広く使用されることから、投資の対象にもなっている。時には、投機的な資金が流入して相場価格が乱高下することがある。
投資の対象として注目されるようになった発端は、1979年 - 1980年のハント兄弟が、工業用にも利用されている銀の価格が金と比べて低いことに着目した買い占めがきっかけであり、一時は20倍もの価格上昇が発生した。ハント兄弟の価格つり上げ工作は、高騰により欧州の一般家庭が使っていた銀食器が大量に鋳つぶされ、市場に大量放出されたことによる暴落で大失敗に終わるが、その後も1996年には米国の投資家ウォーレン・バフェットが世界の年間供給量の5分の1を買い占めたと表明し、直後に暴騰が生じた。2011年4月頃にも1980年のハント兄弟の買占めに迫る価格まで価格が急上昇したが、先物取引の規制(証拠金の上積み規制)がなされたために暴落するなど、依然として混乱は見られる。
なお、もっとも銀消費量が多かった写真工業分野では、現像時の銀回収システムの確立やフィルムを使わないデジタルカメラへの移行が進んでおり、ハント兄弟の買い占めに際して発生した写真フィルム、レントゲンフィルムの品不足のような事態は、今後は発生しにくいと考えられている。
註・出典[編集]
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1.^ a b c 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、220頁。ISBN 4-06-257192-7。
2.^ 東京天文台編纂 『理科年表2008』 丸善
3.^ 木下亀城、小川留太郎 『標準原色図鑑全集6 岩石鉱物』 保育社、1967年
4.^ 『化学大辞典』 共立出版、1993年
5.^ 小葉田淳 『日本鉱山史の研究』 岩波書店、1968年
6.^ 小葉田淳 『日本の貨幣』 至文堂、1958年
7.^ F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年
8.^ 抗菌作用を持つ材料、抗菌化研株式会社
9.^ 抗菌製品技術協議会、 A8.品質と安全性に関する自主規格
10.^ 抗菌製品技術協議会、 A8.品質と安全性に関するデータ等の自主登録規定
11.^ 「環境基準」(環境省)
12.^ 銀(銅)については 「水質汚濁に係る環境基準について 人の健康の保護に関する環境基準 別表1」(環境省)に該当しない。
13.^ 銀については 「土壌の汚染に係る環境基準について土壌環境基準 別表」(環境省)に該当しない。
14.^ くもりのち晴れ2002/11 社団法人日本プリント回路工業会 2002年11月
15.^ 一般リレー - 製品に関するFAQ FAQ04896 オムロン制御機器
16.^ 厚生労働省 食品添加物のページ 既存添加物名簿の104
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