2020年01月19日
「如月未代の奇妙な体験」(2)
○川沿いの一本道 (夕・下校時)
冒頭のシーンと、ほぼ同じ場所。
半分シルエット状の未代、ミチル、さちえ、麻衣子らが、
口々に「バイバイ」とか「じゃあね」とか言って、散り散りに去ってゆく。
なぎさの姿は、ここに無い。
○未代の家・玄関 (夕)
無表情の未代がドアを開け、外から帰ってくる。
すぐに、奥の方から、未代の父と母のものと思われる、
夫婦ゲンカをしているらしき、男女の怒鳴り声が聞こえてくる。
その為、未代はここで立ち止まり、顔をしかめる。
未代の母の声「(奥の方から)未代なの?帰って来たの?」
しかし、未代は返事をせず、そのままクルリと向きを変え、
すぐまた外へと出て行ってしまう。
○塾の教室 (夕)
黒板に難しい英文を書き連ねた若い講師が、大声を張り上げて、説明している。
生徒は、ほぼ席を埋め尽くしていて、その中には未代の姿もあり、
理解にてこずっているのか、気難しい表情をしている。
○未代の家・玄関 (夜)
再び、未代がドアを開き、帰ってくる。勉強疲れなのか、やや、やつれて見える。
家族はもう寝てしまったのか、玄関も奥の方も電気は付けられていない。
未代は外靴を脱ぎ、中へと入ってゆく。
○同・居間 (夜)
暗い中、未代が通り抜けようとすると、
食卓のところで、椅子に座り、おとなしくうつむいていた未代の母が、
ひょっこり顔を上げる。母も疲れきった感じである。
未代の母「未代ちゃん。塾へ行ってたのね」
未代「(立ち止まり)ママ」
未代の母「夕食はどうしたの?」
未代「(あっけらかんと)それよりも、ママ、またお酒を飲んでるのね」
未代の母「(自嘲的に)飲まなきゃ、やってられないじゃない。
あなたのパパはね、あんなにろくでなしなんだもん」
未代「でも、毎日飲んでたら、体に毒だわ」
未代の母「構わないわよ。
それよりも、未代ちゃんはね、いっぱい勉強して、絶対偉い人になるのよ。
これからは、女だって自立してやっていかなくちゃいけない時代なんだから。
男の人なんかはアテにならないわ。
ママみたいに変な亭主を掴んでしまったりしてはダメよ」
未代「(ムスッと)分かってるわよ!」
母親のグチを聞きたくなくて、
未代はさっさと自分の部屋の方へと歩き去ってしまう。
○同・未代の部屋 (夜)
未代が、ベッドの上にパーッとうつぶせに寝っ転がる。
ホッと息のつける瞬間である。
しかし、シーツの上に顔を押し付けた未代の瞳からは涙がこぼれている。 (FO)
○川沿いの一本道 (朝・登校時)
冒頭のシーンと同じ場所。
早く来すぎたのか、未代が友人たちの登校を、一人立ちんぼして待っている。
退屈している未代の目が、何気なく、河原の方へ向く。
そこには、静寂の中、かむろが立っている。先日と全く同じままの姿、様子で。
未代と視線の合ったかむろは、優しく微笑む。
他方、未代の方は、
この違和感に満ちた人物への不快からか、あからさまに顔をしかめる。
そんな時、未代の三人の友人、ミチル、さちえ、麻衣子らがようやくやって来て、
未代の傍へと駆け寄る。
ミチル「(笑って)ゴメーン。待ったあ?」
未代「(ツンと)いや。あれ、なぎさは?」
ミチル「一緒じゃないよ」
未代「(つぶやき)なにさ、あたしたちと学校に行くのが嫌で、逃げたのかしら」
ふと未代が目をやると、
彼女の三人の友人は、何やら、うろたえた様子でひそひそ話し合っている。
未代「(あっけらかんと)どうしたの?」
麻衣子「(慌てて)いや、何でもない。早く学校行かなくちゃ」
未代「うん」
四人は、仲良く歩き出す。
未代は、何となく、もう一度河原の方へと振り返ってみる。
しかし、そこには、かむろの姿なぞ、影も形も無い。
未代は、合点が行かず、眉をひそめる。
○中学校・未代のクラスの教室 (朝)
チャイムが鳴っている。
あちこちにてんで散らばっていた生徒たちが、
ざわめきながらも、いっせいに席に向かいだす。
一つだけ、角の方に座り手の現われない机がある。そこが、なぎさの席である。
未代とその友人たちも、隣接した机にと着席している。
未代「(なぎさの席の方を見ながら)なぎさったら、とうとう来なかったわね。
珍しいわね。熱を出したって、学校を休んだ事が無かったのに」
ミチルたちは、また弱ったような表情になる。
そして、戸が開き、先生が入ってくる。吉川ではなく、若い男の教師である。
その為、生徒たちが少しざわめく。
男の教師「(落ち着いて)えー、吉川先生なんだが、
急に用事が出来てしまった為、今日は朝は出てこられない。
皆には悪いが、一時間目はおとなしく自習をしていてもらいたい」
それだけ言うと、男の教師はさっさと出て行ってしまう。
教室の中のあちこちで、生徒たちがざわめきだす。
はじめは、やや、あっけにとられていた未代だが、
目を向けると、ミチルたちが、また不安げにヒソヒソ話をしている事に、
あざとく気が付く。
未代「(ミチルたちへ、きつく)あんたたち、何か隠してるんじゃないの?」
ミチル「(弱りながら)実はさ、未代・・
昨日の帰りさ、未代と別れたあと、あたしたちで、なぎさの事、呼び出したんだよね
・・それで・・」
未代「それで、どうしたと言うのよ」
喋りずらそうなミチルが、未代の耳元へとコソコソ囁く。
話を聞いているうち、サッと未代の表情が変わってしまう。がく然としている。
慌てて大声を出しかけた未代だが、すぐ声をひそめて、ミチルたちに言い返す。
未代「(うろたえながら)あんたたち、何て事をしちゃったのよ!
それは、ちょっとまずいわ。それで、もし、なぎさが・・なぎさが・・」
ミチルたちは、申し訳なさそうにうつむいている。
次の瞬間、校内放送が流れてくる。
放送室からの声「(少し早口で)全校生徒の皆さん。
臨時の職員会議の為、本日は以後の授業を中止、全生徒は集団下校となります。
すぐ帰りのホームルームを行ないますので、教室で待機していて下さい。
繰り返します。・・」
この放送で、教室内の生徒たちはいっきょにどよめく。
その中で、未代は、凍り付いたように、ぼう然としている。
(つづく)
冒頭のシーンと、ほぼ同じ場所。
半分シルエット状の未代、ミチル、さちえ、麻衣子らが、
口々に「バイバイ」とか「じゃあね」とか言って、散り散りに去ってゆく。
なぎさの姿は、ここに無い。
○未代の家・玄関 (夕)
無表情の未代がドアを開け、外から帰ってくる。
すぐに、奥の方から、未代の父と母のものと思われる、
夫婦ゲンカをしているらしき、男女の怒鳴り声が聞こえてくる。
その為、未代はここで立ち止まり、顔をしかめる。
未代の母の声「(奥の方から)未代なの?帰って来たの?」
しかし、未代は返事をせず、そのままクルリと向きを変え、
すぐまた外へと出て行ってしまう。
○塾の教室 (夕)
黒板に難しい英文を書き連ねた若い講師が、大声を張り上げて、説明している。
生徒は、ほぼ席を埋め尽くしていて、その中には未代の姿もあり、
理解にてこずっているのか、気難しい表情をしている。
○未代の家・玄関 (夜)
再び、未代がドアを開き、帰ってくる。勉強疲れなのか、やや、やつれて見える。
家族はもう寝てしまったのか、玄関も奥の方も電気は付けられていない。
未代は外靴を脱ぎ、中へと入ってゆく。
○同・居間 (夜)
暗い中、未代が通り抜けようとすると、
食卓のところで、椅子に座り、おとなしくうつむいていた未代の母が、
ひょっこり顔を上げる。母も疲れきった感じである。
未代の母「未代ちゃん。塾へ行ってたのね」
未代「(立ち止まり)ママ」
未代の母「夕食はどうしたの?」
未代「(あっけらかんと)それよりも、ママ、またお酒を飲んでるのね」
未代の母「(自嘲的に)飲まなきゃ、やってられないじゃない。
あなたのパパはね、あんなにろくでなしなんだもん」
未代「でも、毎日飲んでたら、体に毒だわ」
未代の母「構わないわよ。
それよりも、未代ちゃんはね、いっぱい勉強して、絶対偉い人になるのよ。
これからは、女だって自立してやっていかなくちゃいけない時代なんだから。
男の人なんかはアテにならないわ。
ママみたいに変な亭主を掴んでしまったりしてはダメよ」
未代「(ムスッと)分かってるわよ!」
母親のグチを聞きたくなくて、
未代はさっさと自分の部屋の方へと歩き去ってしまう。
○同・未代の部屋 (夜)
未代が、ベッドの上にパーッとうつぶせに寝っ転がる。
ホッと息のつける瞬間である。
しかし、シーツの上に顔を押し付けた未代の瞳からは涙がこぼれている。 (FO)
○川沿いの一本道 (朝・登校時)
冒頭のシーンと同じ場所。
早く来すぎたのか、未代が友人たちの登校を、一人立ちんぼして待っている。
退屈している未代の目が、何気なく、河原の方へ向く。
そこには、静寂の中、かむろが立っている。先日と全く同じままの姿、様子で。
未代と視線の合ったかむろは、優しく微笑む。
他方、未代の方は、
この違和感に満ちた人物への不快からか、あからさまに顔をしかめる。
そんな時、未代の三人の友人、ミチル、さちえ、麻衣子らがようやくやって来て、
未代の傍へと駆け寄る。
ミチル「(笑って)ゴメーン。待ったあ?」
未代「(ツンと)いや。あれ、なぎさは?」
ミチル「一緒じゃないよ」
未代「(つぶやき)なにさ、あたしたちと学校に行くのが嫌で、逃げたのかしら」
ふと未代が目をやると、
彼女の三人の友人は、何やら、うろたえた様子でひそひそ話し合っている。
未代「(あっけらかんと)どうしたの?」
麻衣子「(慌てて)いや、何でもない。早く学校行かなくちゃ」
未代「うん」
四人は、仲良く歩き出す。
未代は、何となく、もう一度河原の方へと振り返ってみる。
しかし、そこには、かむろの姿なぞ、影も形も無い。
未代は、合点が行かず、眉をひそめる。
○中学校・未代のクラスの教室 (朝)
チャイムが鳴っている。
あちこちにてんで散らばっていた生徒たちが、
ざわめきながらも、いっせいに席に向かいだす。
一つだけ、角の方に座り手の現われない机がある。そこが、なぎさの席である。
未代とその友人たちも、隣接した机にと着席している。
未代「(なぎさの席の方を見ながら)なぎさったら、とうとう来なかったわね。
珍しいわね。熱を出したって、学校を休んだ事が無かったのに」
ミチルたちは、また弱ったような表情になる。
そして、戸が開き、先生が入ってくる。吉川ではなく、若い男の教師である。
その為、生徒たちが少しざわめく。
男の教師「(落ち着いて)えー、吉川先生なんだが、
急に用事が出来てしまった為、今日は朝は出てこられない。
皆には悪いが、一時間目はおとなしく自習をしていてもらいたい」
それだけ言うと、男の教師はさっさと出て行ってしまう。
教室の中のあちこちで、生徒たちがざわめきだす。
はじめは、やや、あっけにとられていた未代だが、
目を向けると、ミチルたちが、また不安げにヒソヒソ話をしている事に、
あざとく気が付く。
未代「(ミチルたちへ、きつく)あんたたち、何か隠してるんじゃないの?」
ミチル「(弱りながら)実はさ、未代・・
昨日の帰りさ、未代と別れたあと、あたしたちで、なぎさの事、呼び出したんだよね
・・それで・・」
未代「それで、どうしたと言うのよ」
喋りずらそうなミチルが、未代の耳元へとコソコソ囁く。
話を聞いているうち、サッと未代の表情が変わってしまう。がく然としている。
慌てて大声を出しかけた未代だが、すぐ声をひそめて、ミチルたちに言い返す。
未代「(うろたえながら)あんたたち、何て事をしちゃったのよ!
それは、ちょっとまずいわ。それで、もし、なぎさが・・なぎさが・・」
ミチルたちは、申し訳なさそうにうつむいている。
次の瞬間、校内放送が流れてくる。
放送室からの声「(少し早口で)全校生徒の皆さん。
臨時の職員会議の為、本日は以後の授業を中止、全生徒は集団下校となります。
すぐ帰りのホームルームを行ないますので、教室で待機していて下さい。
繰り返します。・・」
この放送で、教室内の生徒たちはいっきょにどよめく。
その中で、未代は、凍り付いたように、ぼう然としている。
(つづく)
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