大図鑑に載ってないクワガタたち（主に）

Dorcus属の中の俗にコクワガタと呼ばれるグループについてです。

今回はMacrodorcasの中のMacrodorcasグループについてで、
次回はPogonodorcusグループを予定しています。
もう一つのグループのFalcicornisについては以前の記事を参照してください。

[関連記事] Falcicornisグループのコクワガタ

※国産種で記載文を持っていない種類の記載時の種名・基準産地はFujioka,2001を参照しています。
※分布は知っている限りは載せていますが、抜けている産地もあるとは思います。


Macrodorcas Motschulsky, 1862:15 (type: Psalidostomus rectus Motschulsky, 1857)
=Macrodorcus Felsche, 1898:48 (type: Psalidostomus rectus Motschulsky, 1857)
=Falcicornis Planet, 1894:44 (type: Falcicornis groulti Planet, 1894)
=Pogonodorcus Séguy, 1954:189 (type: Prosopocoelus elegantulus Albers, 1891)

1:D.anmanianus　Fujita,2010より
2:D.a.kubotai Holotype　Fujita,2010より
3:D.anomurai　Fujita,2010より
4:D.a.yaeyamaensis　Fujita,2010より　
5:D.rectus Mizunuma&Nagai,1994より
6:D.r.kobayashii Holotype　Fujita,2010より
7:D.r.miekoae Holotype　Fujita,2010より
8:D.r.mishimaensis Holotype　Fujita,2010より
9:D.r.yakushimaensis　Holotype　Fujita,2010より

Dorcus amamianus (Nomura,1964):47, pl.3 [Macrodorcas rectus amamianus]
奄美大島,加計呂間島 [Ikarri,Amami-Oshima].

日本の特産種で、通称アマミコクワ。
顎は細くて短く、一本の内歯を有する。
前胸は丸みを帯びる。


Dorcus amamianus kubotai (Fujita et Ichikawa,1985):9, 12,figs.17,19 [Macrodorcas okinawanus kubotai]
徳之島 [Mikyô,Tokunoshima Is.].

通称トクノシマコクワ。
原名亜種に似るが、点刻が小さくてまばら。
♀の上翅の筋はやや不明瞭。


Dorcus amamianus nomurai Mizunuma,1994:263,figs.374(1-5) (new name for okinawanus Nomura,1964)
沖縄本島 [Yona,Okinawa Is.].
=Macrodorcas rectus okinawanus Nomura,1964:47,pl.3 [Yona,Okinawa Is.].

通称オキナワコクワ。
MacrodorcasをDorcus属に含めると「M.r.okinawanus」は「Dorcus titanus okinawanus」の二次ホモニムになるが、
独立させるとSsp.okinawanusが亜種名なる。

体色は黒味が強く、体型が細身で光沢が強く、内歯はやや強壮。
♀の上翅に筋は見られない。


Dorcus amamianus yaeyamaensis (Hori,1991):75-76 [Macrodorcas yaeyamaensis ]
西表島 [Urauchi River,Iriomote-jima Is.,Okinawa Pref.].

通称ヤエヤマコクワ。
長らく超珍品でしたが最近では採集場所がわかったのか
そこそこ数が得られているとかどうとか。

体色はやや明るく、体表はやや艶消し。
顎は細く、前胸は四角状、胴体は幅広。


Dorcus rectus (Motschulsky,1857):29 [Psalidostomus? rectus]
北海道〜九州,奥尻島,佐渡,伊豆大島,利島,新島,式根島,神津島,三宅島,御蔵島,隠岐,対馬,
壱岐,熊毛諸島,福江島,粟島,朝鮮半島,済州島,鬱陵島,中国,台湾(?) [Japon].
=Dorcas binervis Motschulsky, 1860:16　[Japon].
=Macrodorcas rugipennis Motschulsky, 1861:14, 16-19 [Japon].
=Dorcus niponensis v.Vollenhoven,1861:113,fig.3 [Japan].
=Dorcus diabolicus Thomson, 1862:423 [Japon].
=Macrodorcas montivagus (nec Lewis) Matsumara, 1906:

通称コクワガタ。
分布域は広域で中国のチベットまで確認しています。（中国産は変異があるかは不明）
台湾産は♀が3頭のみ（たしか）得られていますが、ちゃんと分布しているのかはわからないみたいです。

体表は艶消し状。前胸前方はD.striatipennisと異なり切れ込まない。


Dorcus rectus kobayashii (Fujita et Ichikawa,1985):9, 12,figs.21-23 [Macrodorcas rectus kobayashii]
トカラ列島(中之島,諏訪瀬島,悪石島,臥蛇島) [Nakanoshima Is.].

通称トカラコクワ。
光沢が強く、顎・体型・脚は細い。


Dorcus rectus miekoae (Yoshida,1991):40-42 [Macrodorcas rectus miekoae]
八丈島 [Nakanogo,Hachijo-jima Is.].

通称ハチジョウコクワ。
Ssp.kobayashiiに似ているが、やや光沢が弱い。


Dorcus rectus mishimaensis Tsuchiya,2003:43,45-50,figs.20-41,66-71,82-87,92-95
男女群島,大隈諸島(口永良部島,竹島,硫黄島,黒島) [Nakazato-rindo,Kuroshima Is.,Kagoshima Pref.,Japan].

通称ミシマコクワ。
鈍い光沢があり、顎は細く、胴体は大きい。


Dorcus rectus yakushimaensis Tsuchiya,2003:45,47-51,figs.42-57,72-75,88-91,96-99
大隈諸島(屋久島,種子島,馬毛島),甑島列島 [Andou,Yakushima Is.,Kagoshima Pref.,Japan].

通称ヤクシマコクワ。
体表は艶消し。顎は太短く、体型は幅広。



1:D.striatipennis　Paralectotype?　Araya,2001より
2:D.s.davidi　記載文の絵　Séguy,1954より
3:D.s.davidi　
4:D.s.koyamai　Fujita,2010より
5:D.s.yushiroi　I氏所蔵
6:D.binervis Motschulsky,1860より
7:D.bashanus　Holotype Huang&Chen,2013より
8:D.lubu　Paratype　Huang&Chen,2013より

1:D.emikoae　大型の模写
2:D.emikoae　Holotype
3:D.emikoae　小型
4:D.s.davidi　
5:D.s.davidi　
6:D.s.davidi　

Dorcus striatipennis (Motschulsky,1861):17 [Macrodorcas striatipennis]
北海道〜九州,利尻島,焼尻島,松前小島,御蔵島,八丈島(?),粟島,佐渡,対馬,隠岐,朝鮮半島 [Japon].
=Macrodorcas cribellatus Motschulsky, 1861:17-18 [Japon].
=Macrodorcas opacus Waterhouse, 1870:208 [N.Japan].
=Macrodorcus van volxemi Lewis, 1879:462 [Yezo].
=Macrodorcas rectus (nec Motschulsky)Harold, 1876:122-124　[Hiogo auf Nipon].
=Macrodorcas binervis (nec Motschulsky)Nomura, 1960:39-79

通称スジクワガタ。
D.rectusに似るが、小型で、内歯は4つ歯になる。
前胸前方がややえぐれる。

♀のみで記載されたD.binervisを本種と同種とする場合もありますが、
記載文からD.binervisをD.rectusの♀と当方は判断しました。
D.binervisが本種と同種ならば、D.striatipennisはD.binervisのシノニムとなります。


Dorcus striatipennis davidi (Séguy,1954):186-187,fig.3 [Hemisodorcus davidi]
中国(湖北省,四川省,陝西省,雲南省,チベット,福建省,広東省,浙江省) [Chine:Ichang].
=Dorcus striatipennis continentalis Sakaino,1997:9-12,figs.7-15,18,21,24,26,29,32 [Wanyuan,Ssuchuang Prov.,Central China].

Ssp.continentalisはHuang&Chen,2013でD.davidiのシノニムとされ、当方も同意見です。
内歯の下の歯が鋭く突出し、端歯は小さい。
前胸前方のえぐれは大きく、胴体はやや細身で、光沢が強い。


Dorcus striatipennis koyamai (Nakane,1978):77 [Macrodorcas striatipennis koyamai]
屋久島 [Yakushima Island,south of Kyushu,Japan].

通称ヤクシマスジ。
内歯の開きが大きく、前胸前方のえぐれは原名亜種よりは大きい。


Dorcus striatipennis yushiroi Sakaino,1997:9-12,figs.1-6,17,20,23,28,31
台湾 [Sungkang-Meifeng,Nantou Pref.,Central Taiwan].

小型の亜種群。
基本的に小型ばかりで、図示した個体が見た中では一番はっきりと特徴が出ています。

顎は短く、端歯は見られない。
ずんぐりした体型で、前胸前方のえぐれはやや大きい。


Dorcus bashanus Huang et Chen,2013:445,pl.87,134-figs.112(1-2)
中国(重慶市) [CHINA: Chongqing: Dabashan Mts., Chengkon County, Gaonan Township, Lingnan village, Dawankon].

D.s.yushiroi に似た雰囲気の小型種。
顎は短く、二股の内歯は痕跡程度で、前胸前方はえぐれず、前胸の幅は狭い。


Dorcus emikoae H.Ikeda,2001:31,fig.1
中国(陝西省,四川省,雲南省) [Daba Shan,Shaanxi Province,China].
=Dorcus striatipennis davidi (nec. Séguy) Huang et Chen,2013:fig.110(11,25)

D.s.davidiの小型によく似ていて、Huang&Chen,2013ではD.s.davidiのシノニムとされています。
頭部はやや小さく、内歯は1本で、光沢はやや強く、中〜小型個体では頭部・前胸の点刻が荒い。
模写した大型個体は生き虫でサイズが不明ですが、一緒に写っていた♀が標準的なサイズと仮定した場合、
30�oくらいと思われます。（♀のサイズも不明ですが、20�oくらいと思われます。）
大型でも内歯は1本で、端歯は無く、上翅に点刻列が並びます。
D.s.davidiでは30�oにもなると内歯は二股になり、上翅の点刻列は消えてしまいます。

ちなみに図示したHolotypeはHuang&Chen,2013に載っている写真ですが、
これが原本になります。


Dorcus lvbu Huang et Chen,2013:442-444,pl.88,134-figs.111(1-7)
中国(重慶市,貴州省,四川省) [CHINA: Chongqing: Nanchuan, Jinfoshan, noeth slope].

種名は三国志最強の武将の呂布からとったようです。
歯型が呂布の愛用の武器の方天画戟っぽい印象だからでしょうか(笑)

D.s.davidiに非常によく似た種類です。
やや大型になり、内歯の開きは大きく、上側の内歯は鋭くなく、端歯は大きい。
3つ山状の頭楯の両端は突出し、前胸前方のえぐれは大きい。
また、交尾器も異なるようです。


1:D.gongshanus　Paratype　Huang&Chen,2013より
2:D.intricatus　記載文の絵　Lacroix,1981より
3:D.linwenhsini　Paratype　Huang&Chen,2013より
4:D.ursulae　Holotype　Schenk,1996より
5:D.sp.　Vietnam,Sapa
6:D.fujiii
7:D.f.ssp.　Fujita,2010より
8:D.tanakai
9:D.t.meridionalis
10:D.tanakai
11:D.t.meridionalis

Dorcus gongshanus Huang et Chen,2013:446-448,pl.88,134-figs.113(1-11)
中国(雲南省),NE.Myanmar [CHINA: NW Yunnan: Nujiang Pref., Gongshan County, Heiwadi].

D.lubuに似るが、顎は太短く、内歯は鈍角。
体型はやや幅広で、上翅の光沢が非常に強い。


Dorcus intricatus (Lacroix,1981):68-69,fig.5 (G.Hemisodorcus)
中国(四川省,貴州省,湖北省),N.Myanmar [China].

顎先が内側に強く曲がるのが特徴的な種類。
前胸前方の幅は広く、上翅の光沢は強い。
小型個体でも顎先は曲がり、内歯は大きい。


Dorcus linwenhsini Huang et Chen,2013:450-451,pl.89,134-figs.115(1-6)
中国(雲南省),N.Myanmar [CHINA: Yunnan: Nujiang Pref., Lushui County, Pianma Township].

Macrodorcasに含めてしまいましたが、Serrognathusグループかもしれません。
D.gongshanusに似るが、体型は幅広で、内歯は鋭く、端歯は大きい。
複眼下はやや膨らみ、頭部・前胸にもやや光沢があり、頭楯は3つ山の真ん中の山が無いような形状。


Dorcus ursulae (Schenk,1996):440-442,fig.1 [Hemisodorcus ursulae]
中国(福建省,江西省,四川省,雲南省,安徽省,浙江省,広東省,湖北省,チベット,海南島) [China, Ost-Sichuan, Dabashan-Gebirge].

産地が確かなら広域に分布しているわけですがあまり見かけません。
非常に大きく開いた内歯が特徴的で、端歯はかなり大きい。
体表は艶消しで、頭楯は突出したV字状。


Dorcus sp.
Vietnam,Sapa

D.gongshanusに似た種類。亜種？
内歯の開きはやや小さく、複眼下はやや膨らむ。
体型はやや細長く、全体的にやや光沢が強い。


Dorcus fujiii Nagai et Maeda,2010:37-38,figs.5-10
N.Vietnam [Ha giang Prov.,N.Vietnam].

通称トンキンスジ。
D.ursulaeの内歯上がりのような雰囲気の種類。
顎は細長く、体型も細身。
前胸・上翅は光沢があり、頭楯は３つ山状。


Dorcus fujiii ssp.
中国(貴州省,四川省)

内歯の開きは小さく、前胸前方のえぐれは小さい。


Dorcus tanakai Nagai,2002:11-14,fig.4
中国(四川省,雲南省,貴州省,広西壮族自治区,広東省,福建省,香港,湖南省,海南島) [Baojie Ling,Guilin Diqu,Guangxi Zhuangzu Zizhiqu,China].

顎前方に連続した細かい内歯を有し、多種との区別は容易。
前胸前方はえぐれず、頭楯はやや突出したV字状。
内歯の位置が中央付近の個体も見られますが、地域変異か個体変異かは不明。
確認したのは雲南・広東・海南島で、中間地点の広西は先端よりでした。


Dorcus tanakai meridionalis Nagai et Maeda,2010:37-39,figs.11-16
N.Vietnam [Ha giang Prov.,N.Vietnam].

通称ニセタナカコクワ。
新大図鑑では独立種とされていますが、種を分けるほどの違いが感じられませんので記載通りのD.tanakaiの亜種にしています。

内歯の位置が顎付け根付近に出る。
体型はやや幅広で、やや光沢が強い。
♀もやや幅広な体型。