大図鑑に載ってないクワガタたち（主に）

Dorcus属の中のDorcusグループと近年に分けられたSinodorcusグループについてです。


Dorcusは本来は基準種のD.parallelipipedusの近縁な種類のみでまとめるべきなのかもしれませんが、
分類上 よくわからないものもここに含めました。（例：D.katsurai)
D.vicinusはParadorcusに近縁なのではないかと思いましたので抜かしてあります。

SinodorcusはDorcus属から新たに分けられたものですが、
個人的には亜属と考えています。

Dorcus W.S. MacLeay, 1819:111 (type: Scarabaeus parallelipipedus Linné, 1758)
=Dorcas Hope, 1842:127 (type: Scarabaeus parallelipipedus Linné, 1758)
=Dynodorcus Didier, 1931:197 (type: Dorcus antaeus Hope, 1842)
=Velutinodorcus Maes, 1992:95 (type: Dorcus velutinus Thomson, 1862)

Sinodorcus Huang et Chen,2013:78-79 (type: Dorcus sawaii Tsukawaki,1999)


Dorcusに近縁とされるDynodorcus・Velutinodorcusは過去記事を参照してください。
[関連記事] Dynodorcusグループのオオクワガタ
[関連記事] Velutinodorcusグループ

1:D.alexisi Paratype Websiteより
2:D.caucasicus　記載文　Ganglbauer,1886より
3:D.caucasicus　Websiteより
4:D.musimon　記載文の絵　Gené,1836より
5:D.musimon　Gené,1839より
6:D.parallelipipedus　Fujita,2010より
7:D.parallelipipedus　記載文　Linné,1758より
8:D.p.var. truquii
9:D.p.var. truquii 記載文　Mulsant, 1855より
10:D.sewertzowi　Fujita,2010より

Dorcus alexisi Muret et Drumont,1999:484-488
Cyprus I. [CYPRUS,TROODOS Mts.,Platys Riv,Ayiou Awakoum].

キプロス島特産で、D.parallelipipedusの亜種程度と思われる。
やや細身で光沢が強く、前胸はやや丸みを帯びる。
上翅接合部は点刻が非常に小さくて数も少ない。


Dorcus caucasicus Ganglbauer,1886:81-82
Caucasus [Kaukasus].

独立種としては微妙な特徴で、D.parallelipipedusの亜種が妥当と思われます。
特徴は点刻が荒くて、光沢は弱い。複眼下は小型個体でも大きく膨らむ。


Dorcus musimon Gené,1836:192-193,fig.23
Corsica I.,Sardegna I.,N.Africa [via quae sb urde Igkesias ad Monteponi fodinas ducit].
=Dorcus semisulcatus Mulsant,1855:14-16 [Appenins].

D.parallelipipedusに似るが、光沢が強く、複眼縁が発達する。
♀の上翅には点刻列が並ぶ。


Dorcus parallelipipedus (Linné,1758):354 [Scarabaeus parallelipipedus]
Europe,N.Africa,Asia minor [Germania].
=Scarabaeus punctatus Pontoppidan, 1763:431, pl.16, 29 [-].
=Scarabaeus bipunctatus Pontoppidan, 1765:199, pl.16 [-].
=Lucanus dama Müller, 1776:52, 98 [-].
=Lucanus infractus Bergstrasser, 1778:3, 40, pl. 1, 8 [-].
=Lucanus capra Panzer, 1797:12-13,fig. [fylvaticis:in Silefia].
=Dorcus tuberculatus W.S. Macleay, 1819:112 [Germanis].
=Dorcus bituberculatus W.S. Macleay, 1819:112 [-].
=Dorcus immaturus Mulsant, 1842:581, 591, pl.1 [France].
=Dorcus parallelipipedus var. truquii Mulsant, 1855:14-16 [M.Truqui].
=Dorcus bituberculatus (W.S. Macleay)Parry, 1864:89 [nomen nudum]
=Dorcus parallelopipedus var.reichei Ganglbauer,1886:81　[Syrien und Kleinasien]
=Dorcus parallelopipedus var. leuthneri Ganglbauer, 1886:140 [Strien]. (new name for var.reichei)
=Dorcus parallelipipedus var. minor Seabra, 1905:9,19 [-].

俗にいうリンネ種でDorcus属の基準種。
和名は「ヨーロッパ・オオクワ」ですが、一般の人が聞いたら違和感があるでしょう。

顎中央に大きな内歯があり、すぐ裏側に小さな内歯を備える。
全体的にやや艶消しで、上翅は点刻でざらついた感じの見た目。

広域分布で地域によって変異が見られるので、
シノニムとされる種類でも よく調べれば亜種になるかもしれません。
たとえばトルコやシリアあたりの個体群は、
複眼縁がやや発達し、上翅の点刻がやや荒くて♂♀ともに薄っすらと筋が入る。


Dorcus sewertzowi Semenow,1890:309-310
Turkestan,Kazachstan,Tajikistan,Punjab,Turky,Afghanistan,Kashmir,Pakistan [Turkestan mer.:Wantsch:Rocharf].
=Dorcus rugatus Didier,1927:193-194,figs.4 [Kaschmyr].

D.parallelipipedusの代置種と思われる。
全体的に光沢が強い。
顎付け根は外側に張り出す。頭部はやや長く、複眼縁は張り出す。
前胸は直線的で、前胸後方は大きくえぐれる。



1:D.parallelus　Fujita,2010より
2-1:D.brevis　Benesh,1944より
2-2,a,b:D.mexicanus　記載文の絵　Benesh,1944より(a:♂,b:♀)
3:D.katsurai Holotype Ikeda,2000より
4:D.k.ssp.　貴州省　Huang&Chen,2013より
5:D.k.ssp.　江西省　Huang&Chen,2013より
6:D.k.ssp.　浙江省　Huang&Chen,2013より
7:D.sukkiti Hollotype Fukinuki,2004より
8:D.zhangmuensis　Holotype　Huang&Chen,2013より

Dorcus parallelus (Say,1823):248 [Lucanus parallelus]
E.America,Canada [Atrantic states,and as far west as the Rocky Mountains].
=Lucanus voeti Schonherr, 1817:326 [America]. [nomen nudum]
=Lucanus oblongus Charpentier, 1825:214-215 [-].
=Dorcus aper Dejean, 1837:193 [Amer. bor.].
=Dorcus scrofa Dejean, 1837:193 [Amer. bor.].
=Dorcus costatus Leconte, 1863:35 [nomen nudum]
=Dorcus nanus Casey,1909:278-279 [Indiana].
=Dorcus parallelus var. carnochani Angell, 1916:70 [New City,N.Y.].

D.parallelipipedusの代置種と思われる。
顎中央に1本の内歯を備え、全体的に光沢は強い。
頭部は長くて複眼下の膨らみは弱い。
前胸は丸みを帯び、上翅には点刻列が並ぶ。


Dorcus brevis (Say,1825):202-203 [Lucanus brevis]
E.America,Canada [United States].
=Dorcus nanus (nec Casey) Angell,1922:201

D.parallelusと比較して、顎は小さくて、小さな3本の内歯を顎中央に備える。
複眼下はやや膨らみ、頭部・前胸の点刻は荒い。
頭楯の幅は狭くて双山状でやや突出する。


Dorcus mexicanus Benesh,1944:45-47,figs.2,a-b
Mexico [Jalapa,MEXICO].
=Dorcus brevis (nec Say) Bland,1862:263

D.brevisのシノニムとされることもあるが、記載文の絵の通りならば完全に区別できる。
頭楯は長方形で強く突出し、複眼縁の形状も異なる。
前胸後方は切れ込まない。


Dorcus katsurai H.Ikeda,2000:28-29,figs.1-2
N.Vietnam;Cao Bang [Mt.Pia Oac,Cao Bang,northern Vietnam].

ベトナム北部から得られる超珍品。極稀に採集されているようではあります。
幅広な頭部と独特な歯型が特徴的。


Dorcus katsurai ssp.
中国(貴州省,重慶市,四川省)

中国からはいろいろな場所で得られていて、
それぞれ特徴が見られます。

本個体群は顎は直線的で、前胸は幅が狭くて長く、前胸前方の切れ込みは大きい。
上翅の光沢は強い。


Dorcus katsurai ssp.
中国(江西省,福建省)

本個体群は顎が直緯線的で、全体的に細長い。


Dorcus katsurai ssp.
中国(浙江省)

本個体群は原名亜種に似るが、
頭楯は幅広で、前胸前方の切れ込みはかなり弱い。


Dorcus sukkiti Fukinuki,2004:29,figs.2-3
N.Myanmar,中国(雲南省,チベット) [Chudo Razi,Kachin,Myanmar].
=Dorcus katsurai (nec H.Ikeda) Huang et Chen,2013:figs.95(6,7,8,14)

D.katsuraiの代置種。
D.katsuraiに似るが、顎は細くて湾曲が強く、頭楯の突出は弱くてやや幅広。
前胸前方は幅広になる傾向が強くて、前胸前方は切れ込まない。
上翅の光沢は強く、ケイ節はやや幅広。


Dorcus zhangmuensis Huang et Chen,2013:456-457:pl89,135-figs.118(1-4)
中国(チベット) [CHINA: SC Tibet: Xigaze Pref., Nielamu County, Zhangmu Township].

特徴からはD.skkitiに近縁と思われる。
顎は直線的で、内歯は大きくて先方を向く。
頭部はやや長くて幅が狭い。
お尻がぼっていりていて、やや瓢箪型の体型。


1:D.ratiocinativus　記載文の絵　Westwood,1871より
2:D.manpa Paratype Okuda&Maeda,2014より
3:D.suturalis　記載文の絵　Westwood,1871より
4:D.suturalis　Fujita,2010より
5:D.opacipennis　Ikeda,1993より
6:D.opacipennis　Arrow,1950より
7:D.kyawi Holotype Nagai&Maeda,2009より
8:D.myinti　Paratype Nagai&Maeda,2009より
9:D.peyronis　Fujita,2010より
10:D.prochazkai Holotype?　Schenk, 2003より
11:D.vavrai Krajcik,2003より

Dorcus ratiocinativus Westwood,1871:356-357,fig.2
NE.India,Bhutan,中国(チベット) [Himalayas].

顎付け根が外側に張り出し、顎中央に1本の内歯を備える。
前胸は8角形状。


Dorcus manpa Okuda et Maeda,2014:14,16,17,figs.1-4,26,33
Arunachal Pradesh,中国(チベット) [West Kameng, Arunachal Pradesh, northeastern India].

D.ratiocinativusによく似る。
頭部は小さくて、体型はやや細身。
顎付け根は張り出さず、顎は弧を描いて湾曲する。
複眼縁は角ばらず、複眼下の膨らみは弱い。
前胸は丸みを帯びる。
チベットからもD.ratiocinativusの中に本種と思われる個体を確認しました。（Huang&Chen,2013)


Dorcus suturalis Westwood,1871:358-359,fig.3
Kashmir,Pakistan [Pungi,Himalaya].
=Dorcus rotundopunctatus Nagel,1936:209 [Kamdesch].

D.ratiocinativusににるが、顎は長くて弧を描いて湾曲する。
前胸前方の幅は狭く、先方付近がくびれる。
♀の頭部の突起が1個なのも本種の特徴。


Dorcus opacipennis Zang,1906:184,327
NE.India [Kaschmir].

D.suturalisと分布が被っていて同種の可能性も充分あります。
ただ、本種とされる個体は頭部・前胸がやや長くて、全体的に細長い印象を受けます。


Dorcus kyawi Nagai et Maeda,2009:46-48,figs.1-2
N.Myanmar,中国(雲南省) [Chudo Razi,NE Kachin State,northern Myanmar].

D.parallelipipedusに似た種類。というよりはD.parallelusに似た印象を受けます。
前胸側面は直線的で、後方が鋭く尖るのが特徴的。


Dorcus myinti Nagai et Maeda,2009:46-48,figs.3-8
N.Myanmar,中国(雲南省) [Chudo Razi,NE Kachin State,northern Myanmar].

上翅に筋が出るので、多種との区別は容易。
顎は小さく、複眼縁は丸い。
前胸は丸い8角形状。


Dorcus peyronis Reiche et Saulcy,1856:407-409,fig.9
Armenia,Greece,Syria,Turky [Caramenie].

中東に分布する、独特な形状のグループ。
顎は特選的で短く、複眼下が鋭く尖る。
上翅は点刻が目立ち、ざらついた印象。

Dorcus prochazkai Schenk, 2003:17-19,figs,9a1,9b2
Iran,Pakistan [Südwest-Iran,Provinz Ahmad-o-Kuhgiluye,5km östlich Sisaht].

同産地にD.vavraiが分布していて区別がつきにくいです。
D.vavraiと比べ、顎が直線的で、複眼縁・複眼下の尖がりがやや大きく、
上翅に点刻が無い筋が入るようです。


Dorcus vavrai Nonfried,1905:12-13
Kurdistan,Pakistan,Iran [Koshrowa,Persich Kurdistan].

産地は被らないようですが、D.peyronisに非常によく似ています。
区別がつきにくいですが、顎はやや湾曲し、複眼縁がやや大きく、複眼下の尖がりがやや鈍角なようです。
せいぜい亜種くらいなものかもしれません。



1:D.sawaii Holotype Tsukawaki,1999より
2:D.s.norikoae Holotype Tsukawaki,2011より
3:D.disper 記載文の絵　DeLisle,1970より
4:D.rama　W.Sumatra
5:D.tenuecostatus　記載文　Fairmaire,1888より
6:D.parallelipipedus　Fujita,2010より
7:D.rectus　対馬
8:D.davidis　Huang&Chen,2013より
9:D.tenuecostatus（？）　Huang&Chen,2013より
10:D.tenuihirsutus　Huang&Chen,2013より

Dorcus disper DeLisle,1970:109-110,figs.5(b),16
N.Sumatra [Redelong, Atjeh, Sumatra].

本来はDorcusに含めて紹介するべき種類ではないのかもしれません。
D.ritsemaeの小型の奇形ではないかとも言われる正体不明の種類。
記載文の絵では前ケイ節の棘が無くてぼってりした体型ですが、
歯型や頭部の形状はD.ramaの小型によく似ています。


Dorcus tenuecostatus Fairmaire,1888:116-117
中国(北京市) [Pékin].

こちらも本来はDorcusに含めて紹介するべき種類ではないのかもしれません。
♀のみで記載されたいまいち正体のはっきりしない種類。サイズは16�o。
記載文の上翅の項目に注目すると、D.parallelipipedusとは筋がどことなく違うというようなことが書かれています。
D.parallelipipedusと似たような雰囲気の種類を想像すると、
まずD.rectus・D.davidisが浮かびます。
サイズが16�oだとD.davidisでは小さすぎ、D.rectusでも近いサイズは記録にはありませんが、
D.rectusの♂の逆ギネスを見るとありえないサイズとも言い切れないです。
Huang&Chen,2013でD.tenuecostatusと紹介されている種類はD.pieliなどのグループで、
サイズ的には合いますが、上翅は光沢が強くて点刻が少なく、
記載文の特徴と照らし合わせるとかなり違和感があります。
記載文の筋云々の原文には「sculpture」とあり、ということは上翅に隆起する筋があるのかもしれません。
そうなると、D.tenuihirsutusの♀がサイズ的にも特徴的にも一致します。


Dorcus sawaii Tsukawaki,1999:6-7,fig.1
中国(福建省,浙江省) [Kaihua, Zhejiang Prov., China].

かなり特異な種類で、Dorcusから分けられたのも納得できます。
独立させて1属1種にするか、Dorcusの亜属とするかはそれぞれだとは思いますが。

独特の歯型と突出した頭楯が特徴的で多種との区別は容易でしょう。


Dorcus sawaii norikoae Tsukawaki,2011:16-18,figs.16-17
C.Vietnam;Nghe An [Nghe-an Province,central Vietnam].

原名亜種とはかなり離れた中央ベトナム北部から得られます。
顎はやや長くて直線的、内歯や頭楯の形状もやや異なる。
複眼縁はやや角ばり、前胸前方の幅は若干狭い。
胴体先端はややほっそりしていて、上翅・前胸の光沢はやや強い。
産卵方法も原名亜種と比べてやや癖があるみたいです。

広東・広西・北ベトナムと空白地帯があり、
その中から別亜種が発見されるかもしれませんね。