2019年10月10日
映画「ジャッカルの日」- 標的はド・ゴール、周到な準備で計画を遂行する殺し屋ジャッカル
「ジャッカルの日」(The Day of the Jackal)
1973年 イギリス/フランス
監督フレッド・ジンネマン
原作フレデリック・フォーサイス
脚本ケネス・ロス
撮影ジャン・トゥルニエ
音楽ジョルジュ・ドルリュー
〈キャスト〉
エドワード・フォックス マイケル・ロンズデール
デルフィーヌ・セイリグ
フランス第18代大統領シャルル・ド・ゴールを狙った暗殺事件を、「真昼の決闘」(1952年)、「地上より永遠に」(1953年)、「わが命つきるとも」(1966年)の名匠フレッド・ジンネマンが、周到に積み上げた細部と史実に基づいて、ド・ゴール暗殺を目論む武装組織の暗躍を背景に、暗殺を依頼された一匹狼の殺し屋ジャッカルと、暗殺を阻止しようとジャッカルを追い詰めるフランス官憲のクロード・ルベル警視の活躍を描いたサスペンス映画の傑作。
1962年、OAS(フランス極右民族主義)によるド・ゴール暗殺未遂事件が起こり、首謀者は逮捕、さらに銃殺。
当局の締め付けが厳しくなったOASは壊滅状態に陥ります。
OASによるド・ゴール暗殺の最後の切り札として登場したのが、国籍不明の殺し屋、暗号名ジャッカル(エドワード・フォックス)です。
50万ドルの契約で仕事を引き受けたジャッカルは着々と準備を進めます。
身分証明書を偽造し、精巧な狙撃銃を作らせたジャッカルはフランスへと進入。
ド・ゴール暗殺の機会をうかがいます。
一方、50万ドルという破格の契約のために資金を確保しなければならなくなったOASは銀行強盗を決行。
現金強奪にはいくつか成功しますが、テロを警戒したフランス当局は厳重な包囲網を敷き、強盗の一人を狙撃して逮捕。
尋問からOASの計画の断片を察知した大統領官邸は、ド・ゴール大統領を狙う正体不明の暗殺者捜索のためにフランス警察の腕利き、クロード・ルベル警視(マイケル・ロンズデール)を招集することになります。
パッとしない風采でボソボソとした話し方のルベルは、体こそ大きいものの、茫洋とした感じで切れ者のイメージからはほど遠い男なのですが、粘り強く、少ない情報を元に殺し屋ジャッカルの足取りをつかんでゆきます。
治安組織の動きを察知するため、フランス治安当局の官僚に近づいたOASのジャクリーヌは、機密情報を盗み出してOASに流し、その情報を元にジャッカルは当局やルベル警視の目を潜(くぐ)り抜けてパリへ潜入してゆきます。
一向に手がかりのつかめないジャッカルの足取りに疑問を感じたルベルは、内部から情報が洩れていることを突き止め、やがて、ド・ゴール暗殺のためのジャッカルの計画がパリ解放記念式典にあることに気づきます。
ジャクリーヌが逮捕され、足取りが察知されていることを感じたジャッカルは、計画を思いとどまることなく、むしろ敢然と挑むように渦中に飛び込んでゆきます。
8月25日のその日、大勢のパリ市民でにぎわいを見せる中、厳重な警戒網の目をくぐって、松葉づえをついた片足の男がアパートへの帰宅のために歩いています。
傷痍軍人に変装したジャッカルです。
シャルル・ド・ゴールが記念式典に参列。
アパートに侵入したジャッカルは狙撃の機会を待ちます。
躍起になってジャッカルの姿を探すルベルは、一人の男が警戒の目を抜けていたことを察知。男が向かったアパートに駆け込みます。
ド・ゴールが勲章授与のために進み出た瞬間、ジャッカルは狙撃銃の引き金を引きます。
私は高校時代、この映画を映画館で観ましたが、正直に言って何が何だかよく分かりませんでした。
当時「ジャッカルの日」は大きな話題になっていて、シャルル・ド・ゴールを狙う殺し屋の話として映画ファンの間で盛り上がっていたこともあったので、単純にアクション映画としてしか考えなかった私は(なにしろ「ダーティハリー」や「フレンチ・コネクション」の時代でしたから)、心に大きな空白を抱いて帰宅することになりました。
今でもよく覚えているシーンは、狙撃銃を手に入れたジャッカルが山の中で、木の枝に吊るしたスイカを標的に銃の精度を調節するシーンと、サウナで知り合った友人を殺害するシーン。
この二つだけで、その他はほとんど覚えていません。
なぜよく分からなかったのかというのは、その背景となっている国際情勢の流れと、どうしてド・ゴールを暗殺しなければいけないのか、ということだったのでしょう。
●シャルル・ド・ゴール暗殺の理由は?
植民地政策を執る欧米列強の中で、フランスはインドシナや北アフリカへ侵攻。
1847年にはアルジェリアを支配します。
しかしアルジェリアでは各地で独立運動が起き、FLN(民族解放戦線)の武装蜂起によって1954年にはフランスの支配に対するアルジェリアの独立戦争が勃発。
一方、1890年にフランス北部のリールで生まれたド・ゴールは、陸軍軍人や首相を経験しながら1959年に大統領に就任。
第二次世界大戦のナチス・ドイツによる占領や、第一次インドシナ戦争で疲弊したフランスの国力なども考慮して、ド・ゴールはアルジェリアの独立を承認。
アルジェリアの独立戦争は1962年に終結をします。
しかし極右勢力はこれに反発。
シャルル・ド・ゴール暗殺計画が企てられます。
1962年8月22日。
パリ郊外のプティ・クラマールで、OASによるド・ゴール暗殺事件が起こります。
ド・ゴールを乗せた専用車DS19シトロエンが12発の銃弾を受けますが、ド・ゴール本人は無傷のままシトロエンは襲撃場所を突っ切って事なきを得ます。
映画「ジャッカルの日」は、プティ・クラマール襲撃事件の史実を踏まえ、襲撃に失敗して弱体化したOASの最後の手段としてプロの殺し屋を雇うところからストーリーが動きだします。
「第四の核」「戦争の犬たち」のフレデリック・フォーサイスの同名小説を原作に、名匠フレッド・ジンネマンが監督として取り組んだ作品で、用意周到に獲物を狙うプロの殺し屋ジャッカルの冷静で緻密な行動、まさにジャッカル(狼に似たイヌ科イヌ属の哺乳動物)を思わせる風貌を持った非情な殺し屋と、それを追うのが、妻に頭の上がらない凡庸(ぼんよう)とした風采のクロード・ルベル警視という、正反対の男たちの対決を軸に、ド・ゴール暗殺をクライマックスとしたスリリングな展開で迫ります。
殺し屋ジャッカルに「恋」(1971年)、「遠すぎた橋」(1977年)、「ガンジー」(1982年)の名優エドワード・フォックス。
ジャッカルを追うクロード・ルベル警視に「日曜日には鼠を殺せ」(1964年)、「パリは燃えているか」(1966年)、「薔薇の名前」(1986年)の、こちらも名優マイケル・ロンズデール。
ド・ゴール本人は31回という暗殺未遂事件を受けながらも生き延び、大動脈瘤破裂によって1970年に79歳で世を去っていますから、ジャッカルの暗殺は失敗に終わるのが判っているのですが、それでも最後の最後まで見る者を惹きつけて離さない超一級のサスペンス映画です。
ただ、難点をひとつあげるとすれば、舞台はほとんどフランスだし、登場人物のほとんどもフランス人なのに、セリフがすべて英語というのは違和感がありますが、そこは少し大目に見て、難点を差し引いても十分過ぎるほど見ごたえのある傑作です。
1973年 イギリス/フランス
監督フレッド・ジンネマン
原作フレデリック・フォーサイス
脚本ケネス・ロス
撮影ジャン・トゥルニエ
音楽ジョルジュ・ドルリュー
〈キャスト〉
エドワード・フォックス マイケル・ロンズデール
デルフィーヌ・セイリグ
フランス第18代大統領シャルル・ド・ゴールを狙った暗殺事件を、「真昼の決闘」(1952年)、「地上より永遠に」(1953年)、「わが命つきるとも」(1966年)の名匠フレッド・ジンネマンが、周到に積み上げた細部と史実に基づいて、ド・ゴール暗殺を目論む武装組織の暗躍を背景に、暗殺を依頼された一匹狼の殺し屋ジャッカルと、暗殺を阻止しようとジャッカルを追い詰めるフランス官憲のクロード・ルベル警視の活躍を描いたサスペンス映画の傑作。
1962年、OAS(フランス極右民族主義)によるド・ゴール暗殺未遂事件が起こり、首謀者は逮捕、さらに銃殺。
当局の締め付けが厳しくなったOASは壊滅状態に陥ります。
OASによるド・ゴール暗殺の最後の切り札として登場したのが、国籍不明の殺し屋、暗号名ジャッカル(エドワード・フォックス)です。
50万ドルの契約で仕事を引き受けたジャッカルは着々と準備を進めます。
身分証明書を偽造し、精巧な狙撃銃を作らせたジャッカルはフランスへと進入。
ド・ゴール暗殺の機会をうかがいます。
一方、50万ドルという破格の契約のために資金を確保しなければならなくなったOASは銀行強盗を決行。
現金強奪にはいくつか成功しますが、テロを警戒したフランス当局は厳重な包囲網を敷き、強盗の一人を狙撃して逮捕。
尋問からOASの計画の断片を察知した大統領官邸は、ド・ゴール大統領を狙う正体不明の暗殺者捜索のためにフランス警察の腕利き、クロード・ルベル警視(マイケル・ロンズデール)を招集することになります。
パッとしない風采でボソボソとした話し方のルベルは、体こそ大きいものの、茫洋とした感じで切れ者のイメージからはほど遠い男なのですが、粘り強く、少ない情報を元に殺し屋ジャッカルの足取りをつかんでゆきます。
治安組織の動きを察知するため、フランス治安当局の官僚に近づいたOASのジャクリーヌは、機密情報を盗み出してOASに流し、その情報を元にジャッカルは当局やルベル警視の目を潜(くぐ)り抜けてパリへ潜入してゆきます。
一向に手がかりのつかめないジャッカルの足取りに疑問を感じたルベルは、内部から情報が洩れていることを突き止め、やがて、ド・ゴール暗殺のためのジャッカルの計画がパリ解放記念式典にあることに気づきます。
ジャクリーヌが逮捕され、足取りが察知されていることを感じたジャッカルは、計画を思いとどまることなく、むしろ敢然と挑むように渦中に飛び込んでゆきます。
8月25日のその日、大勢のパリ市民でにぎわいを見せる中、厳重な警戒網の目をくぐって、松葉づえをついた片足の男がアパートへの帰宅のために歩いています。
傷痍軍人に変装したジャッカルです。
シャルル・ド・ゴールが記念式典に参列。
アパートに侵入したジャッカルは狙撃の機会を待ちます。
躍起になってジャッカルの姿を探すルベルは、一人の男が警戒の目を抜けていたことを察知。男が向かったアパートに駆け込みます。
ド・ゴールが勲章授与のために進み出た瞬間、ジャッカルは狙撃銃の引き金を引きます。
私は高校時代、この映画を映画館で観ましたが、正直に言って何が何だかよく分かりませんでした。
当時「ジャッカルの日」は大きな話題になっていて、シャルル・ド・ゴールを狙う殺し屋の話として映画ファンの間で盛り上がっていたこともあったので、単純にアクション映画としてしか考えなかった私は(なにしろ「ダーティハリー」や「フレンチ・コネクション」の時代でしたから)、心に大きな空白を抱いて帰宅することになりました。
今でもよく覚えているシーンは、狙撃銃を手に入れたジャッカルが山の中で、木の枝に吊るしたスイカを標的に銃の精度を調節するシーンと、サウナで知り合った友人を殺害するシーン。
この二つだけで、その他はほとんど覚えていません。
なぜよく分からなかったのかというのは、その背景となっている国際情勢の流れと、どうしてド・ゴールを暗殺しなければいけないのか、ということだったのでしょう。
●シャルル・ド・ゴール暗殺の理由は?
植民地政策を執る欧米列強の中で、フランスはインドシナや北アフリカへ侵攻。
1847年にはアルジェリアを支配します。
しかしアルジェリアでは各地で独立運動が起き、FLN(民族解放戦線)の武装蜂起によって1954年にはフランスの支配に対するアルジェリアの独立戦争が勃発。
一方、1890年にフランス北部のリールで生まれたド・ゴールは、陸軍軍人や首相を経験しながら1959年に大統領に就任。
第二次世界大戦のナチス・ドイツによる占領や、第一次インドシナ戦争で疲弊したフランスの国力なども考慮して、ド・ゴールはアルジェリアの独立を承認。
アルジェリアの独立戦争は1962年に終結をします。
しかし極右勢力はこれに反発。
シャルル・ド・ゴール暗殺計画が企てられます。
1962年8月22日。
パリ郊外のプティ・クラマールで、OASによるド・ゴール暗殺事件が起こります。
ド・ゴールを乗せた専用車DS19シトロエンが12発の銃弾を受けますが、ド・ゴール本人は無傷のままシトロエンは襲撃場所を突っ切って事なきを得ます。
映画「ジャッカルの日」は、プティ・クラマール襲撃事件の史実を踏まえ、襲撃に失敗して弱体化したOASの最後の手段としてプロの殺し屋を雇うところからストーリーが動きだします。
「第四の核」「戦争の犬たち」のフレデリック・フォーサイスの同名小説を原作に、名匠フレッド・ジンネマンが監督として取り組んだ作品で、用意周到に獲物を狙うプロの殺し屋ジャッカルの冷静で緻密な行動、まさにジャッカル(狼に似たイヌ科イヌ属の哺乳動物)を思わせる風貌を持った非情な殺し屋と、それを追うのが、妻に頭の上がらない凡庸(ぼんよう)とした風采のクロード・ルベル警視という、正反対の男たちの対決を軸に、ド・ゴール暗殺をクライマックスとしたスリリングな展開で迫ります。
殺し屋ジャッカルに「恋」(1971年)、「遠すぎた橋」(1977年)、「ガンジー」(1982年)の名優エドワード・フォックス。
ジャッカルを追うクロード・ルベル警視に「日曜日には鼠を殺せ」(1964年)、「パリは燃えているか」(1966年)、「薔薇の名前」(1986年)の、こちらも名優マイケル・ロンズデール。
ド・ゴール本人は31回という暗殺未遂事件を受けながらも生き延び、大動脈瘤破裂によって1970年に79歳で世を去っていますから、ジャッカルの暗殺は失敗に終わるのが判っているのですが、それでも最後の最後まで見る者を惹きつけて離さない超一級のサスペンス映画です。
ただ、難点をひとつあげるとすれば、舞台はほとんどフランスだし、登場人物のほとんどもフランス人なのに、セリフがすべて英語というのは違和感がありますが、そこは少し大目に見て、難点を差し引いても十分過ぎるほど見ごたえのある傑作です。
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