2019年10月17日
映画「ダークレイン」- ホラーか、コメディか メキシコ発ノンストップスリラー
「ダークレイン」(LOS PARECIDOS/THE SIMILARS)
2015年 メキシコ
脚本・監督イサーク・エスバン
音楽エディ・ラン
撮影イシ・サルファティ
〈キャスト〉
グスタフォ・サンチェス・パラ サンティアゴ・トレス カサンドラ・シアンゲロッティ
シッチェス・カタロニア国際映画祭作品賞/
バハ国際映画祭作品賞/モルビド映画祭作品賞/他6部門受賞
原題は類似性、類似的とでも訳すのでしょうか、それがこの映画の本質でもあると思うのですが、「ダークレイン」という邦題も地味ですが映画全体の雰囲気を表すのには適していると思います。
バスステーションに集まった男女が経験する不可思議な事象。
そこからのパニックを描いた本作は、最後の最後まで目を離すことのできない緊張感にあふれた映画で、文句なしに面白い、といっても言い過ぎではないと思います。
1968年10月2日。メキシコシティから遠く離れた深夜のバスステーション。
マルティン・アギラ(フェルナンド・ベセリル)はバスの券売係を30年間勤めた男。
その夜も、マルティンにとっては30年間の退屈な夜と同じものになるはずでしたが、異常なばかりに降り続く雨は、世界的な規模で災いを含む悪質な雨であることを電波状況の悪いラジオのニュースが伝えています。
ステーションの中にはウリセス(グスタフォ・サンチェス・パラ)が、妻の出産のために早くメキシコシティの病院へ駆けつけたいのに、なかなかやってこないバスを待ってイライラしています。
隅のほうには、白髪をお下げに垂らした老女のシャーマン(巫女)がベンチに腰掛けています。
そこへ、夫の暴力から逃れ、実家のあるメキシコシティまでバスで向かおうとする大きなお腹をした妊婦のイレーヌ(カサンドラ・シアンゲロッティ)が入ってきます。
しかし、異常に降り続く雨のためにバスがやって来ないと知ったイレーヌは、タクシーを呼ぼうとします。
4時間待ち続けてもやって来ないバスに業を煮やしたウリセスは、タクシーに相乗りして一緒にメキシコシティへ行かないかとイレーヌに持ち掛けます。
次にやって来たのは、医療器具をつけた8歳の息子イグナシオ(サンティアゴ・トレス)を連れた母親のゲルトルディス(カルメン・ベアト)。
一方では、バスステーションに住み込みで働いている若い女性ローザ(カトリーナ・サラス)の体に異変が生じ始めていました。
さらにマルティンにも異変が生じ、タクシーでバスステーションにやってきた医学生のアルバロ(ウンベルト・ブスト)はウイルスではないかと主張しますが、シャーマンの老女は悪魔の仕業であると言いだし、ウリセスが悪魔であると指差します。
自分はただの鉱山作業員だとウリセスは主張しますが、ローザの顔が変形し、長髪に髭をたくわえたウリセスの容貌そっくりに変わり、券売係のマルティンもウリセスの容貌になったことから、何かの化学実験の手先ではないかと医学生アルバロはウリセスを疑い出し、マルティンが銃を持ち出したことから、バスステーションの中はパニック状態に陥ります。
さらに、シャーマンの老女、妊婦のイレーヌまでもが濃い髭をたくわえたウリセスの顔へと変わってゆき、狂気と混乱が全員を支配していきます。
しかし、その様子を冷静に見つめていた人間がいました。
母親に連れられた少年、イグナシオです。
やがて、この異常な出来事の全貌がイグナシオの母親ゲルトルディスによって語られてゆくことになります。
舞台は1968年のメキシコ。
この年には世界各地で様々な紛争、事件が起こっています。
ベトナムでは「テト攻勢」により北ベトナム軍がアメリカ軍に攻撃を展開。アメリカの優位が崩れ、世界的な反戦世論が激化。
4月には公民権運動の活動家マーティン・ルーサー・キングの暗殺。
5月にはフランス・パリで学生による「5月革命」が勃発。それに触発された日本を始めとする世界数カ国でも反体制運動が拡大。
さらにJ・F・ケネディの実弟ロバート・F・ケネディ司法長官の暗殺。
ナイジェリアの内戦では数百万人が飢えのために死亡。
チェコスロバキアの民主化を抑えるためソ連軍がチェコへ侵入する「プラハの春」が勃発。
そして「ダークレイン」の時代設定である10月2日には、メキシコオリンピックを控えたメキシコシティで、民主化要求デモに警官隊が発砲。300人近くの学生が死亡する惨事が引き起こされています。
まさに「動乱の1968年」とも呼べる状況が世界を覆う時代を「ダークレイン」は背景にしています。
もっとも、そういった背景が映画で強調されることはありませんが、悪魔呼ばわりされるウリセスに対する疑惑として東西の冷戦構造が背景として持ち上がったりしていますし、異常に降り続く雨がもたらす世界各地の混乱が「動乱の1968年」を印象づける特徴として扱われています。
色彩を極度に排し、モノクロ映画と勘違いしそうなクラシックな怪奇性を帯びた映像。
たたみこむように展開する意外なストーリー。
密室ともいえる状況の中での俳優たちの狂気の熱演。
そして、異常な出来事の背後に隠された少年イグナシオの秘密。
監督は「メキシコ・オブ・デス」(2014年)、「パラドクス」(2014年)の異才イサーク・エスバン。
主演のウリセスに「アモーレス・ペロス」(2002年)、「うるう年の秘め事」(2011年)のグスタフォ・サンチェス・パラ。
妊婦のイレーヌに「ザ・ウォーター・ウォー」(2010年)のカサンドラ・シアンゲロッティ。
ホラーであり、パニック映画であり、一風変わったコメディであり、さらにオカルト的要素も加味した一級の娯楽作品です。
2015年 メキシコ
脚本・監督イサーク・エスバン
音楽エディ・ラン
撮影イシ・サルファティ
〈キャスト〉
グスタフォ・サンチェス・パラ サンティアゴ・トレス カサンドラ・シアンゲロッティ
シッチェス・カタロニア国際映画祭作品賞/
バハ国際映画祭作品賞/モルビド映画祭作品賞/他6部門受賞
原題は類似性、類似的とでも訳すのでしょうか、それがこの映画の本質でもあると思うのですが、「ダークレイン」という邦題も地味ですが映画全体の雰囲気を表すのには適していると思います。
バスステーションに集まった男女が経験する不可思議な事象。
そこからのパニックを描いた本作は、最後の最後まで目を離すことのできない緊張感にあふれた映画で、文句なしに面白い、といっても言い過ぎではないと思います。
1968年10月2日。メキシコシティから遠く離れた深夜のバスステーション。
マルティン・アギラ(フェルナンド・ベセリル)はバスの券売係を30年間勤めた男。
その夜も、マルティンにとっては30年間の退屈な夜と同じものになるはずでしたが、異常なばかりに降り続く雨は、世界的な規模で災いを含む悪質な雨であることを電波状況の悪いラジオのニュースが伝えています。
ステーションの中にはウリセス(グスタフォ・サンチェス・パラ)が、妻の出産のために早くメキシコシティの病院へ駆けつけたいのに、なかなかやってこないバスを待ってイライラしています。
隅のほうには、白髪をお下げに垂らした老女のシャーマン(巫女)がベンチに腰掛けています。
そこへ、夫の暴力から逃れ、実家のあるメキシコシティまでバスで向かおうとする大きなお腹をした妊婦のイレーヌ(カサンドラ・シアンゲロッティ)が入ってきます。
しかし、異常に降り続く雨のためにバスがやって来ないと知ったイレーヌは、タクシーを呼ぼうとします。
4時間待ち続けてもやって来ないバスに業を煮やしたウリセスは、タクシーに相乗りして一緒にメキシコシティへ行かないかとイレーヌに持ち掛けます。
次にやって来たのは、医療器具をつけた8歳の息子イグナシオ(サンティアゴ・トレス)を連れた母親のゲルトルディス(カルメン・ベアト)。
一方では、バスステーションに住み込みで働いている若い女性ローザ(カトリーナ・サラス)の体に異変が生じ始めていました。
さらにマルティンにも異変が生じ、タクシーでバスステーションにやってきた医学生のアルバロ(ウンベルト・ブスト)はウイルスではないかと主張しますが、シャーマンの老女は悪魔の仕業であると言いだし、ウリセスが悪魔であると指差します。
自分はただの鉱山作業員だとウリセスは主張しますが、ローザの顔が変形し、長髪に髭をたくわえたウリセスの容貌そっくりに変わり、券売係のマルティンもウリセスの容貌になったことから、何かの化学実験の手先ではないかと医学生アルバロはウリセスを疑い出し、マルティンが銃を持ち出したことから、バスステーションの中はパニック状態に陥ります。
さらに、シャーマンの老女、妊婦のイレーヌまでもが濃い髭をたくわえたウリセスの顔へと変わってゆき、狂気と混乱が全員を支配していきます。
しかし、その様子を冷静に見つめていた人間がいました。
母親に連れられた少年、イグナシオです。
やがて、この異常な出来事の全貌がイグナシオの母親ゲルトルディスによって語られてゆくことになります。
舞台は1968年のメキシコ。
この年には世界各地で様々な紛争、事件が起こっています。
ベトナムでは「テト攻勢」により北ベトナム軍がアメリカ軍に攻撃を展開。アメリカの優位が崩れ、世界的な反戦世論が激化。
4月には公民権運動の活動家マーティン・ルーサー・キングの暗殺。
5月にはフランス・パリで学生による「5月革命」が勃発。それに触発された日本を始めとする世界数カ国でも反体制運動が拡大。
さらにJ・F・ケネディの実弟ロバート・F・ケネディ司法長官の暗殺。
ナイジェリアの内戦では数百万人が飢えのために死亡。
チェコスロバキアの民主化を抑えるためソ連軍がチェコへ侵入する「プラハの春」が勃発。
そして「ダークレイン」の時代設定である10月2日には、メキシコオリンピックを控えたメキシコシティで、民主化要求デモに警官隊が発砲。300人近くの学生が死亡する惨事が引き起こされています。
まさに「動乱の1968年」とも呼べる状況が世界を覆う時代を「ダークレイン」は背景にしています。
もっとも、そういった背景が映画で強調されることはありませんが、悪魔呼ばわりされるウリセスに対する疑惑として東西の冷戦構造が背景として持ち上がったりしていますし、異常に降り続く雨がもたらす世界各地の混乱が「動乱の1968年」を印象づける特徴として扱われています。
色彩を極度に排し、モノクロ映画と勘違いしそうなクラシックな怪奇性を帯びた映像。
たたみこむように展開する意外なストーリー。
密室ともいえる状況の中での俳優たちの狂気の熱演。
そして、異常な出来事の背後に隠された少年イグナシオの秘密。
監督は「メキシコ・オブ・デス」(2014年)、「パラドクス」(2014年)の異才イサーク・エスバン。
主演のウリセスに「アモーレス・ペロス」(2002年)、「うるう年の秘め事」(2011年)のグスタフォ・サンチェス・パラ。
妊婦のイレーヌに「ザ・ウォーター・ウォー」(2010年)のカサンドラ・シアンゲロッティ。
ホラーであり、パニック映画であり、一風変わったコメディであり、さらにオカルト的要素も加味した一級の娯楽作品です。
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