2019年11月06日
映画「触手」− 未知の領域は底知れぬ快楽か破滅か
「触手」(La region salvaje) 2016年
メキシコ/デンマーク/フランス/ドイツ/ノルウェー/スイス合作
監督アマト・エスカランテ
脚本ジブラン・ポルテーラ
アマト・エスカランテ
撮影マヌエル・アルベルト・クラロ
〈キャスト〉
ルース・ラモス シモーネ・プチオ ヘヘス・メサ
第73回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞
「触手」という邦題と、全裸の若い女性にからみつく何やら怪しげな生き物のDVDのパッケージから、かなりイヤラシイ系のホラー映画だと思って見るとアテが外れるかもしれませんが、人間の根源的な性の領域に踏み込んだ、とても見ごたえのある映画です。
人間にとっての究極の快楽はセックスがもたらす官能の歓びであろうと思います(麻薬関係は経験が無いので分かりません)。
ですがそれも個人差があって、セックスに淡白な人もいれば、尽きることのない肉欲に身を持ち崩す人もいます。
しかし、満たされない性欲は誰もが経験することであるし、それをどうやって満たされたものにするかは個々人の問題として悩ましいところです。
アレハンドラ(ルース・ラモス)は、夫アンヘル(ヘヘス・メサ)の一方的な性欲に黙って従っていますが、動物的で単調なアンヘルとの交わりに体は冷めていて、その後の自慰によって紛らわすことで満たされない肉体を持て余しています。
一方、アレハンドラの弟で看護師のファビアン(エデン・ヴィラヴィセンシオ)は、腰に傷を負った若い女性ヴェロニカ(シモーネ・ブチオ)と知り合い、二人の間には親密な友情が生まれていくのですが、ゲイであるファビアンは、姉の夫のアンヘルとも肉体関係を持っています。
バイセクシャルのアンヘルは、妻とその弟とも関係を持つという異様な状態を保っていたのですが、その関係はファビアンの拒絶によって終止符が打たれ、ファビアンに対するアンヘルの怒りが爆発することになります。
ヴェロニカとの友情を育(はぐく)み始めたファビアンは、ヴェロニカの知人で外界と隔絶されたような山小屋風の家に住み、ある奇妙な生物の研究をしている科学者ヴェガ(オスカー・エスカラント)と、その妻マルタ(ベルナルド・トルエーダ)を紹介されます。
別れ話を持ち出すファビアンの態度に腹を立てたアンヘルは、ファビアンが勤める病院の駐車場で激しく口論。
後にファビアンは全身に打撲を負い、性的暴行を受けて全裸で意識不明の状態で沼地から発見されます。
一命はとりとめますが、瀕死の弟を見たアレハンドラはショックを受け、やがて、ゲイの弟と夫との関係を知ったアレハンドラは、夫のアンヘルが弟に対して激しく罵(ののし)っているメールを発見。
ファビアン暴行事件の容疑はアンヘルに向かい、口論の目撃者もいたことからアンヘルは逮捕されてしまいます。
失意のアレハンドラは弟を介してヴェロニカと親しくなってゆき、快楽を与えてくれる謎の生物を知るようになります。
科学者ヴェガの小屋を訪れたアレハンドラは、謎の生物との交わりに今まで味わったことのなかった快楽を得て、その虜(とりこ)となっていくのですが、それは快楽を与える一方で、非常に危険な生き物であることを知ります。
弟のファビアンも小屋を訪れていたことを知ったアレハンドラは、ファビアンを暴行したのは夫のアンヘルではなく、その生き物だと確信し、助かる見込みのないファビアンの人工呼吸器を外し、夫の容疑を晴らした上で子どもたちを連れて町を去る決心をします。
しかしアンヘルは自分を陥(おとしい)れたアレハンドラを激しく憎悪。アレハンドラを暴行して拳銃で射殺しようとしますが、逆に自分の腿を撃ってしまいます。
重症のアンヘルを車に乗せ、謎の生物が住む小屋へとアンヘルを連れていくのですが、快楽を与えるはずのその生き物は、マルタに重症を負わせ、ヴェロニカを殺し、今や陰険でグロテスクな生き物へと変わっていました。
その部屋へ、アレハンドラは生き物への生贄(いけにえ)としてアンヘルを引きずりこみます。
◆◆◆◆
原題は「野生の領域」。
邦題の「触手」は謎の生物が持つグニャグニャとした触手のことですが、質の悪いホラー映画みたいな題名で、いかがなものか、という気もしますが、エロティックホラーとしての受けを狙ったのでしょうから、まあ、そんなものなのでしょう。
しかしこの映画は単にエロティックホラーだけのカテゴリーには収まりません。
ホラーとしての要素より、セックスの光と闇の部分、快楽と裏腹にある満たされない肉欲、同性(男と男)による性交、それがもたらす破滅を宇宙から飛来した謎の生き物によって暗喩しているようにみえます。
そして、この謎の生き物ですが、これは葛飾北斎の描いた「海女と蛸」を借り受けたものか、あるいはそれを題材とした新藤兼人監督の映画「北斎漫画」(1981年, 緒形拳 樋口可南子)にヒントを得て造形したものだと思われます。
メキシコの街並みもいいですね。
科学者ヴェガの住む山小屋風の家屋、美しい風景の描写など、撮影が秀逸でした。
R-18はもったいないような気もするけど、仕方ないかなあ。
メキシコ/デンマーク/フランス/ドイツ/ノルウェー/スイス合作
監督アマト・エスカランテ
脚本ジブラン・ポルテーラ
アマト・エスカランテ
撮影マヌエル・アルベルト・クラロ
〈キャスト〉
ルース・ラモス シモーネ・プチオ ヘヘス・メサ
第73回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞
「触手」という邦題と、全裸の若い女性にからみつく何やら怪しげな生き物のDVDのパッケージから、かなりイヤラシイ系のホラー映画だと思って見るとアテが外れるかもしれませんが、人間の根源的な性の領域に踏み込んだ、とても見ごたえのある映画です。
人間にとっての究極の快楽はセックスがもたらす官能の歓びであろうと思います(麻薬関係は経験が無いので分かりません)。
ですがそれも個人差があって、セックスに淡白な人もいれば、尽きることのない肉欲に身を持ち崩す人もいます。
しかし、満たされない性欲は誰もが経験することであるし、それをどうやって満たされたものにするかは個々人の問題として悩ましいところです。
アレハンドラ(ルース・ラモス)は、夫アンヘル(ヘヘス・メサ)の一方的な性欲に黙って従っていますが、動物的で単調なアンヘルとの交わりに体は冷めていて、その後の自慰によって紛らわすことで満たされない肉体を持て余しています。
一方、アレハンドラの弟で看護師のファビアン(エデン・ヴィラヴィセンシオ)は、腰に傷を負った若い女性ヴェロニカ(シモーネ・ブチオ)と知り合い、二人の間には親密な友情が生まれていくのですが、ゲイであるファビアンは、姉の夫のアンヘルとも肉体関係を持っています。
バイセクシャルのアンヘルは、妻とその弟とも関係を持つという異様な状態を保っていたのですが、その関係はファビアンの拒絶によって終止符が打たれ、ファビアンに対するアンヘルの怒りが爆発することになります。
ヴェロニカとの友情を育(はぐく)み始めたファビアンは、ヴェロニカの知人で外界と隔絶されたような山小屋風の家に住み、ある奇妙な生物の研究をしている科学者ヴェガ(オスカー・エスカラント)と、その妻マルタ(ベルナルド・トルエーダ)を紹介されます。
別れ話を持ち出すファビアンの態度に腹を立てたアンヘルは、ファビアンが勤める病院の駐車場で激しく口論。
後にファビアンは全身に打撲を負い、性的暴行を受けて全裸で意識不明の状態で沼地から発見されます。
一命はとりとめますが、瀕死の弟を見たアレハンドラはショックを受け、やがて、ゲイの弟と夫との関係を知ったアレハンドラは、夫のアンヘルが弟に対して激しく罵(ののし)っているメールを発見。
ファビアン暴行事件の容疑はアンヘルに向かい、口論の目撃者もいたことからアンヘルは逮捕されてしまいます。
失意のアレハンドラは弟を介してヴェロニカと親しくなってゆき、快楽を与えてくれる謎の生物を知るようになります。
科学者ヴェガの小屋を訪れたアレハンドラは、謎の生物との交わりに今まで味わったことのなかった快楽を得て、その虜(とりこ)となっていくのですが、それは快楽を与える一方で、非常に危険な生き物であることを知ります。
弟のファビアンも小屋を訪れていたことを知ったアレハンドラは、ファビアンを暴行したのは夫のアンヘルではなく、その生き物だと確信し、助かる見込みのないファビアンの人工呼吸器を外し、夫の容疑を晴らした上で子どもたちを連れて町を去る決心をします。
しかしアンヘルは自分を陥(おとしい)れたアレハンドラを激しく憎悪。アレハンドラを暴行して拳銃で射殺しようとしますが、逆に自分の腿を撃ってしまいます。
重症のアンヘルを車に乗せ、謎の生物が住む小屋へとアンヘルを連れていくのですが、快楽を与えるはずのその生き物は、マルタに重症を負わせ、ヴェロニカを殺し、今や陰険でグロテスクな生き物へと変わっていました。
その部屋へ、アレハンドラは生き物への生贄(いけにえ)としてアンヘルを引きずりこみます。
◆◆◆◆
原題は「野生の領域」。
邦題の「触手」は謎の生物が持つグニャグニャとした触手のことですが、質の悪いホラー映画みたいな題名で、いかがなものか、という気もしますが、エロティックホラーとしての受けを狙ったのでしょうから、まあ、そんなものなのでしょう。
しかしこの映画は単にエロティックホラーだけのカテゴリーには収まりません。
ホラーとしての要素より、セックスの光と闇の部分、快楽と裏腹にある満たされない肉欲、同性(男と男)による性交、それがもたらす破滅を宇宙から飛来した謎の生き物によって暗喩しているようにみえます。
そして、この謎の生き物ですが、これは葛飾北斎の描いた「海女と蛸」を借り受けたものか、あるいはそれを題材とした新藤兼人監督の映画「北斎漫画」(1981年, 緒形拳 樋口可南子)にヒントを得て造形したものだと思われます。
メキシコの街並みもいいですね。
科学者ヴェガの住む山小屋風の家屋、美しい風景の描写など、撮影が秀逸でした。
R-18はもったいないような気もするけど、仕方ないかなあ。
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