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2017年09月16日
お味噌汁
私の育った家のお味噌汁の具は、必ずお豆腐と油揚げでした。他の具材であったことは記憶にありません。父が偏食だったので、冷や奴があったとしてもお味噌汁は必ずお豆腐と油揚げに決まっていました。
いつの頃からか、母は「最高級の煮干し」で出汁を取るようになりました。その煮干は滅多なことでは手に入らない最高級品なので大切に扱う必要がありました。手で背ワタを取って水から煮出し、沸騰直前に削りたての鰹節を入れて出汁を取りました。栄養素がたくさん含まれているという理由で出汁は布巾では濾さずに煮干と鰹節だけを取り出して利用していました。味噌自体ももちろん「最高級品」で、それを象徴していることになっている大豆の破片がたくさん混じっていました。
母は手間暇かけて取った出汁と味噌で、豆腐と油揚げのお味噌汁を作りました。いつも大き目のお鍋で作っていました。お椀によそわれたお味噌汁には、キラキラした煮干の欠片がたくさん浮いていました。そして、お椀の底には大豆の破片が溜まっていました。煮干の欠片も大豆の破片もどちらも最高級品で栄養満点なので残さず食べるよう躾けられていました。
子ども達には残さず食べるように言いつけていた母ですが、自分だけは具材のお豆腐と油揚げだけを食べ、味噌汁の汁はほとんど残しました。そして食後に、その残り汁をまだたくさんのお味噌汁が残っているお鍋にあけるのです。そして父が大声で怒鳴るのです。「そんな汚いことをするな。残り汁はきちんと捨てろ」と。
翌日の夕食の時には、母は前日に作り、母の残り汁が入ったお味噌汁を温めて出しました。父は「味噌汁は温めないでくれ。温め直す味噌汁はまずい。冷たい方がよっぽどうまい」と常々言っていました。しかし母は「あら、温め直した方がずっとおいしいわ」といい平然と温め直しました。父は顔を真っ赤にして怒鳴り、母は「温め直した方がずっとおいしいのに」と不思議そうに首を傾げていました。
このやり取りは、私が小学生の頃から十数年前に父が亡くなるまで、判で押したように繰り返されました。@お味噌汁を作って食後に母が残り汁を返す日と、Aそのお味噌汁を温め直す日が、一日置きに繰り返されるのです。お味噌汁を作らないことがわかっている日には、父はあらかじめ「今晩の夕食には味噌汁は温め直さずに、冷たいまま出してくれ」と言っていましたが、母は「お味噌汁は温め直した方がおいしいから」と言って必ず温め直して出しました。つまり毎日毎日父はお味噌汁のことで母を怒鳴りつけていました。
友人の家のお味噌汁には煮干のキラキラも、大豆の破片もなく、舌触りのいいお味噌汁でした。後年、結婚したばかりの弟が、「うちの妻の作る味噌汁は、毎日具材が違うんだよ」と感慨深げに語っていたことも忘れられません。
いつの頃からか、母は「最高級の煮干し」で出汁を取るようになりました。その煮干は滅多なことでは手に入らない最高級品なので大切に扱う必要がありました。手で背ワタを取って水から煮出し、沸騰直前に削りたての鰹節を入れて出汁を取りました。栄養素がたくさん含まれているという理由で出汁は布巾では濾さずに煮干と鰹節だけを取り出して利用していました。味噌自体ももちろん「最高級品」で、それを象徴していることになっている大豆の破片がたくさん混じっていました。
母は手間暇かけて取った出汁と味噌で、豆腐と油揚げのお味噌汁を作りました。いつも大き目のお鍋で作っていました。お椀によそわれたお味噌汁には、キラキラした煮干の欠片がたくさん浮いていました。そして、お椀の底には大豆の破片が溜まっていました。煮干の欠片も大豆の破片もどちらも最高級品で栄養満点なので残さず食べるよう躾けられていました。
子ども達には残さず食べるように言いつけていた母ですが、自分だけは具材のお豆腐と油揚げだけを食べ、味噌汁の汁はほとんど残しました。そして食後に、その残り汁をまだたくさんのお味噌汁が残っているお鍋にあけるのです。そして父が大声で怒鳴るのです。「そんな汚いことをするな。残り汁はきちんと捨てろ」と。
翌日の夕食の時には、母は前日に作り、母の残り汁が入ったお味噌汁を温めて出しました。父は「味噌汁は温めないでくれ。温め直す味噌汁はまずい。冷たい方がよっぽどうまい」と常々言っていました。しかし母は「あら、温め直した方がずっとおいしいわ」といい平然と温め直しました。父は顔を真っ赤にして怒鳴り、母は「温め直した方がずっとおいしいのに」と不思議そうに首を傾げていました。
このやり取りは、私が小学生の頃から十数年前に父が亡くなるまで、判で押したように繰り返されました。@お味噌汁を作って食後に母が残り汁を返す日と、Aそのお味噌汁を温め直す日が、一日置きに繰り返されるのです。お味噌汁を作らないことがわかっている日には、父はあらかじめ「今晩の夕食には味噌汁は温め直さずに、冷たいまま出してくれ」と言っていましたが、母は「お味噌汁は温め直した方がおいしいから」と言って必ず温め直して出しました。つまり毎日毎日父はお味噌汁のことで母を怒鳴りつけていました。
友人の家のお味噌汁には煮干のキラキラも、大豆の破片もなく、舌触りのいいお味噌汁でした。後年、結婚したばかりの弟が、「うちの妻の作る味噌汁は、毎日具材が違うんだよ」と感慨深げに語っていたことも忘れられません。