借金生活２０００

今まで食べた物の中で一番おいしかった物ってなんですか？
退院する日に受付の時間を待ってる間に
喫茶店の入り口にあるメニューを時間潰しに見ていたら
小さな女の子にふと聞かれた
少し考え、カツカレーと答えた
本当はホームレス時代に飲んだ麦茶であったが・・・
そういえばあの時飲んだ麦茶は本当においしかった
病院を出てふらっとコンビニに寄り麦茶を買ってみた
たいしておいしくもなんともない
タバコと一緒に飲んでたのでなおさら味気ない
やっぱりコーヒーにしておけばよかった
全く同じ物を飲んでもこんなに感じ方が違うものなのである
贅沢病なのであろうか、単に喉の渇きが足りないだけなのだろうか
お金も同じ事が言えるのかもしれない
よく働いたお金と、楽して稼いだお金は価値が違うというが
なぜあれだけ苦労したのにこんなに傲慢になってしまったのか
昔、社会人になってすぐボロアパートに住んでいたがその時はなんとも思わなかった
しかし、レオパレスに慣れてしまった今
カビ臭い室内、見るからに不衛生な風呂と便所
考えるだけで嫌である、住むなんてとんでもない防護服を着なきゃムリである
考え方一つで人生は変わるが
一度贅沢を覚えた考え方を変えるのは至難の業である
ただ、その考え方を変えるチャンスは今である
それだけはわかっていた、ものすごく感じていた
初心に戻ろう、ダメだと思っている事はしなければいいのだ
パチンコ屋に入らなければいい、ボートピアに行かなければいい
月に決めた以上のお金は使わなければいい
簡単な事ではないが、難しい事は何もしなくてもいい
気持ちさえしっかりしていれば誰にでも１００％できる
しなければいいのだ自分次第で必ずできる
１日、１０日、１００日と時間が経つにつれその力が強くなる事はよくわかっていた
継続は力なり

働かないと生活はできない
ものすごく当たり前の事で誰でも知っている事である
今更ながら私はそんな当たり前の事を確信的に気付いたのである
骨折して入院していた私は病院の玄関を出て
近くにあった公園でタバコを吸いながらそんな事を真剣に考えていた
毎月必ず給料が振り込まれる日がなくてはいけないのだ
その為には働けばいいのだ
なぜ自分はこんな不安定な職を選び、毎日小銭程度の金で生活に四苦八苦しているのか
その異常さに改めて気付いた
ケガをしたおかげで来月は労働基準監督署というところから手当てが出る事となった
ケガをした事は不運であったが、生活環境を変えるきっかけとなったのは
私にとってむしろ幸運な出来事であった
給料はあまり気にせずに自分に向いてそうな仕事を探してみることにした
たくさん稼ぐ事よりも金銭感覚を見失わずに生活する
もう一回初心に戻りやってみよう
偶然にも手に入り、一瞬にして消え去った大金の残像は
やっと私の中から消えようとしていたのである

朝になり目が覚めたいつもとは違い目覚ましに叩き起こされるのではなく
自然とそろそろ起きようかと思いふと目が覚めた
運ばれてきた朝食を食べまたベットの上に横になる
あれだけ仕事に行きたくないと思っていたのに
何もしないで真っ白な部屋で昼飯を待ち晩飯を待つという生活は非常に退屈である
今までストレスと感じていたことは全て自分が作り出していた物なのかもしれない
考え方一つで人生は変わるというが
今その考え方が何か変わろうとしている
病院ではギャンブルに行きたいとはあまり思わなかった
家に居るとすぐに考えてしまう
もう使えるお金はないのに家賃を持って一か八かの勝負に出る
負けて家に帰るとまた考えてしまう
食費を持って一か八かの勝負に出る
負けに負けて翌日何の希望も無く職場へと向かう
病院での生活でその悪循環はリセットされようとしていた
あの日1日100万円負けてから私はずっと立ち直れずにいた
100万は200万になり500万になりそして1000万になるだろう
本気でそんな甘い考えでいたのである
それどころか今となっては10万円というお金を作る事もできない
あっという間にいとも簡単に大金を得た為に
毎日働いて少しずつ貯めるという事が気の遠くなるくらい面倒くさくなってしまったのである
20倍に5000円賭けて当たればいいんだろ
もし50000円賭けたら100万円だ
もし200倍に50000円賭けて当たったら一気に1000万円だ
そんなに簡単に当たるものではないのに
いつからか本気でいつかは大穴を当てて一気に捲くってやると
そんな事ばかり考えていた
大穴は当たる事なくもう半年以上貧乏生活を続けていた
たまに4、5万円当ててもすぐに無くなってしまう
私は完全にギャンブル依存症であった
しかし病院のベットの上に居るとなぜか冷静に自分を分析できた
また忙しい毎日に戻ったらダメな私に戻ってしまうのだろうか
なぜ私はすぐに誘惑に負けてしまうのだろう
晩飯が終わり10時になり部屋の電気が消える
しかし1日ベットの上に居るとなかなか寝れないのである
病院の夜は非常に寂しいいろいろな事を考える
毎日金の事ばかり考えていた私にはなおさら寂しく感じた
ただそのお陰で何かがわかり始めていた

警備員の仕事を嫌々続けながら気付けばもう11月になっていた
今日もふらふらと会社に着き送迎の車へと乗り込み長い1日が始まるのである
昨日の夜に半分食べて残しておいたジャムマーガリンのコッペパンを食べてとりあえずタバコでも吸おう
と思っていたその時後ろに乗っていたGさんがものすごい勢いで後ろから私に突っ込んできた
というよりそのままフロントガラスに突っ込んだ
ドンという大きな音がして目の前のフロントガラスが真っ白になった
一瞬何が起きたかわからなかったがどうやら事故にあったようだ
Gさんが顔から出血をしている大変である
とにかく外へ出ようと思ったがドアが開かない
私）Gさん大丈夫ですか
Gさん）救急車呼んでくれ腹が痛い
Aさん）今すぐ来るからなすぐ来てくれるからな！！
後ろの人は外へ出て救急車呼んでくれたらしい
Gさんは私に寄りかかっていて私は身動きがとれない
私はショックで心臓の鼓動が異常なくらい速くなっていた気がおかしくなりそうである
車の外から学生達が心配そうな目で私達を見ている
その目は私達を本当に心配していてなんか少し泣きそうになった
それと同時にやっと私は正気を取り戻した
とにかくGさんを運転席に座らそう
と思ったがGさんは痛がって動ける様子でもないし私も左手が痛くてやはりそのまま身動きがとれなかった
やっと救急車が到着しGさんと私を外へと出してくれた
ドアは以外に簡単に開いたやはり私は気が動転してたらしい
そのまま私もなぜか救急車に乗り病院へと運ばれた
私は左手を骨折し、Gさんは肋骨を骨折していた
ボルトを入れる手術をするため私も入院する事となった
その日の夜はよく眠れた
ギャンブルの事も仕事の事もすっかり忘れ
なぜか人間らしい心を取り戻していた不思議な気分であった

必ず勝つためにはどうすればいいのか
どんなに良さそうな台を選んでも鉄板級に硬そうなレースを選んでも
全くと言っていいほど勝てなかった
給料をほとんどギャンブルに使い、残ったわずかな金で生活する
私は完全にギャンブルに依存して自分の生活を見失っていた
ギャンブルをしている限り必ず勝つ事など絶対にない
必ず勝つ方法はただ1つ、仕事に出て給料を貰う
そしてギャンブルをしなければ絶対に負けない
しかしギャンブルで大金を使い負けに負けが続くとそういう訳にもいかないのである
何が何でも一発大金を取り戻さねば気が済まないのである
他人の生活を羨み、自分を呪い、ギャンブルを憎み、大金を失い、大切な物までも失う
とにかく今日、明日に大金を手に入れたい
そしてこんな惨めな生活を一気に変えてやりたい
と思うのだがそんな奇跡はなかなか起きない、いやきっと私にはもうそんな奇跡は起きない
そうわかっていながらもギャンブルを辞めることもできない
1ヶ月や2ヶ月で生活を立て直すことは難しい
しかし1年あれば十分生活を立て直す事は可能である
その1年後の勝利を信じて毎日嫌な思いをして仕事を乗り切ればいいのだ
ギャンブルで大金を得る事は人生の中でも最大の喜びである
しかし、それは金銭感覚を木端微塵に破壊するとても恐ろしいことでもある

今日は給料日であるしかし日当で貰っている私には関係がない
と思っていたら明細を渡され見てみると31630円と書いてあった
日給7000円で日払いで6000円引かれているため
税金とかなんやら引いたらまず残らないだろうと思っていたために予想外の収入であった
確かに一週間くらい2時間の残業があったがこんなに貰えるとは思わなかった
とりあえず吉野家で晩飯を食べることにした
3万円は今の私にとっては大金だ
今日から頑張って10万貯めてみるか
いや3万もあるんだパチスロで天井付近の台があったら狙ってみようか
牛丼を食べながら迷いに迷ったあげく天井間近の台があったら打とうという決断に至った
しかしなかなか天井付近の台なんか落ちていない
そこにジャグラーでBIG28回、REG29回、総回転数6000くらいの台が空いてるのを発見した
これならば間違いなく勝負になる
2千円でREGを引いたまずまずの出だしである
追加3千円でまたREGを引いたそろそろBIGがほしいところである
それから200くらいはまってまたREGさすがにイライラし始めてきた
気付けば2万円くらい使っていたもう後には引けない
残り5千円でまたGOGOランプが光ったもういいかげんにBIGだろ！
しかしまたREGであるこんな馬鹿なことがあるか
結局9回全てREGで終了
腹が立ってしょうがなかったパチンコ屋に心底腹が立った
こんな台で勝てないのならどうやって勝つんだ
家に帰りビールを飲んだがまだ怒りが収まらない
逆に怒りが爆発してテレビにグラスを投げつけてしまった
バリーン！一気に怒りが覚めた
片付けるのが大変である私は一体何をしているのだろう
しばらく割れたグラスと雑誌などに染みていくビールをじっと眺めていた
なんだかすごい悲しい気持ちになってきた
自分が全て悪いのはわかっているでもこの仕打ちはあまりに酷いじゃないか
あまりにも酷いじゃないか！

イライラする胃がムカムカする最近毎日こんな感じである
タバコもパチンコも競艇も心の底からやめたかった
しかしこんな最悪な状況だからこそタバコとギャンブルだけが心の支えでもある
3日くらい頑張って日当を貯めてみても結局ギャンブルに使ってしまう
私の心は渇ききっていた
それを潤せるのはギャンブルだけであった
現場は嫌なことだけではない、たまにはいい事もあるのだ
女性に頑張ってくださいと言われたり大嫌いな現場監督がなんとコーヒーを買ってきてくれたり
本当ならよし今日だけでも頑張るぞとならなければいけないのだが
今の私の心を潤すのは金だけであった
それ以外は何事も無意味にさえ感じてしまっていた
仕事が終わり完全に渇ききった状態で潤いを求めパチンコ屋に行く
そして今日も負け心は潤うどころか完全に砂漠になりつつある
こんな砂漠のような状態では何も育たない
毎日地道に努力し少しでも土壌を良くしなければ
たとえたまに大雨（大勝）が降ってもすぐさま元の状態に戻る
今の私にとって大事なのは勝ち負けではなく強い心であった
ギャンブル依存症になったらたとえ勝ってもまた必ずギャンブルに使ってしまう
砂漠に何回大雨が降ろうがザルのようにそれはまたどこかへ流れていく
毎日我慢し心に木を1本ずつ植えていく
気の遠くなるような作業だがもうそれ以外に方法がないのはわかっていた

競艇で全く勝てなくなり最近またパチスロをするようになった
とにかくまとまった金が欲しい
先月転売できそうな物をケータイ払いで限度額いっぱいまで買ったため
今月の請求書には40850円と書いてある
ケータイ代だけは早く支払ってしまいたい
約一週間我慢すれば払える金額なのに
金を持つと必ずギャンブルを優先してしまう、なぜ支払うべき物を後回しにしてしまうのか
貧弱な軍資金で勝負すると負ける予感はパチンコ屋に入った時から感じている
しかし今日こそは2箱3箱のメダルを出してまず電話代を払う
そして勝ち分の余った金で明日また勝負して一気に捲る
ようするに勝てばいいんだろそうすれば一瞬にして楽になれる
なぜそんな無茶な事を考えてしまうようになったのか
ギャンブルにハマると絶対不利な状況でも自分の勝ちを信じ金を突っ込んでしまうようになる
いやもう信じるしかないのである負けが続くともう後には引けないのである
頼むから最初の千円でかかってくれと祈るが
あっという間にメダルは台へと吸い込まれる
3千円、4千円などあっという間になくなりあとはヤケクソ
残り数枚になり、ああ今日も終わったと実感する
毎日働いた金はギャンブルに使い残った金でタバコを買い財布の中はほぼ空になる
次の日にはコーヒーすら買えない、昼飯は今日も菓子パンである
とにかくまとまった金が欲しい
そう思えば思うほど大金どころか毎日小銭程度の金しか残らないようになった
達成感も充実感も何もないそんな生活に心底嫌気がさしていた

今日も私はボートピアへと向かうだろう
最悪な状況へと迷い込むと自分の力ではもうどうにもならないのである
私は何のために働いているのか
私は何のために競艇で毎日大金をつぎ込むのか
自分でも無意味な毎日が泣きたいくらい嫌なのに
結局この繰り返しである
無気力な状態で仕事へと向かうそしてただ時間が経つのをひたすら我慢する
今日こそ一瞬で大金を手に入れ仕事を辞めてやる
そんな事でも考えていないと仕事をする気にもなれなかった
私の心を支えているのはタバコとギャンブルへの妄想だけである
ただそんな毎日はものすごく味気なくただ辛いだけである
いつから金にこんなに執着するようになったのだろう
もしこの世界にギャンブルというものがなかったら
私は明日には立ち直っているだろう
そんな事を考えても無意味である
1回楽して金を儲けてしまったら地道に働く事などアホらしくてしょうがないのである
こんな毎日は嫌だとわかっていながら地道に働く気にもなれなかった
私は一体何がしたいのだろう

毎日ギャンブルへ行って負けるその繰り返し
出口は全く見えなかった
なんとか変わろうといろんな事を考えてみる
私は今五体満足で健康である
もし、私が大きな病気をしていたら
働ける事もできないのだそう考えれば私は幸せである
もし、借金1000万円あったら
利息を払うだけでとても生活などできない
会社を立ち上げて失敗した人達は私よりもっともっと苦労をしている
私の心の中はギャンブル推進派と真面目に頑張る2つの者達が常に綱引きをしあっている
そして勝つのはギャンブル推進派百戦百勝である
そうわたしの心が弱いのである
心は弱い方へと流れ夢のようなばかばかしい事を考え始める
もし、明日20万円勝てば全ての事が一気に解決する
そうだこれだけ負け続けているんだ明日は流れがガラッと変わるかもしれない
前までやめていたタバコも今では1日1箱半吸うようになっていた
酒の量も前よりもだいぶ増えた
胃はムカムカするし、朝起きたらいつも頭痛がする
もうヤケクソなのである
1日に100万円負けたあの日からもう何もかもヤケクソなのである
一気に大穴を当てて一発捲くるしかない
結局考えた末いつもそうなってしまう
何か衝撃的な事でもない限りこの状況は変わりそうな気はしなかった