「演劇は総合芸術だというが、それは一つの知識しか持っていないスタッフ、キャストを10人集めることではない。一人の中に10の知識が詰まっている演劇人を10人集めるということだ。役者一人一人が演劇人としての素養をあふれるほど持っていなければ舞台に厚みが出てこない」(松本幸四郎「私の履歴書」日本経済新聞 平成23年12月31日付)
歌舞伎の舞台を拝見し思うことは、同じ演目であっても演じる役者によって、舞台の厚みが違うということです。
端的に言えば、坂田藤十郎丈、尾上菊五郎丈、松本幸四郎丈、片岡秀太郎丈の舞台には厚みがあると同時に花があります。
歌舞伎の面白さを堪能させてくれる舞台です。
ひと月の興行で何度か拝見してしまうほどです。
坂東玉三郎丈の舞台には、厚み、花があると同時に、緊張感があります。
ピンと張りつめた空気があります。
他の役者にはないものですね。
また、今年お亡くなりになった中村富十郎丈、中村芝翫丈の舞台も厚み、花、品がありました。
観ていてほっとするような感じを与えてくれます。
充実したものがありました。
松本幸四郎丈が言うように一つの知識しかない人間の寄せ集めではなく、10の知識を持っている人間の集合体がよい演劇を生み出します。
舞台を拝見すると一目瞭然です。
特に、主役だけでなく、脇役、端役の役者の方が充実している場合、その舞台は素晴らしく、主役が一段と引き立ちます。
そうでない場合、いまいちですね。
ましてや、主役の役者の芸がパッとしない場合、その舞台には何の価値もありません。
歌舞伎において、時折、そのような舞台があるので残念です。
花形歌舞伎で若手の歌舞伎役者の舞台も、厚みがあり花のある舞台を期待して拝見しています。
これからもいい舞台を拝見していきたいと思います。