とは言いつつ、このDVDでの隅田川は、約84分であり、どうしても上演時間が長すぎると感じるのですね。最初は、そのまま84分かけて観ましたが、いい能とはいえ、ややしんどいですね。
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能は信光の出た十六世紀前半を過ぎると、ほとんど新作は生まれなくなり、もっぱら芸の練磨伝承、芸統の保存という面に傾くようになった。江戸時代に入るとこの傾向は一層強く、式楽化されて荘重を旨とするようになったため、上演時間も当初の倍ぐらいに延びた。現在の能もその延長上にある。
河竹登志夫『演劇概論』東京大学出版会 203頁
上演時間を半分にしてもらえないかと思っているのですが、現在の能において、そのようなことは望むことはできません。
相変わらず、長ったらしい能を観なければならないのかと思っていたのですが、よくよく考えますとDVDであれば、倍速ができるわけで、倍速で観てみました。
倍速であっても冗長に感じるところはありますが、非常に観やすく、聴きやすくなります。
元々の能の上演時間が現在の半分程度であったというのがよく分かります。DVDであれば、こちらの都合で能を観ることができるわけで、現在の能の業界の都合など気にすることなどありません。
江戸時代からの伝統ではなく、室町時代からの伝統、すなわち世阿弥、観世元雅からの伝統を重んじるべきでしょうね。
隅田川は、観世元雅の作ですが、伊勢物語を見事に取り込みながら、雅な雰囲気を醸し出しています。
名にし負はば、いざ言問はん都鳥、我が思ふ人は、ありやなしやと。(『伊勢物語』九段)
(都という名を持っているのなら都の消息は知っているだろう。さあ尋ねたい都鳥よ、私の思う人は、元気でいるのかどうかと)
三宅晶子 『隅田川 (対訳でたのしむ)』 桧書店 14頁
在原業平の和歌をそのまま使っているのですが、隅田川という能の中で違和感なく組み込まれており、見事と言うほかありません。
子の亡霊を追いかける母の表情は、能面でありながら、情感豊かであり、能面の奥深さを感じます。角度によって表情が変わるといいますが、まさにその通りですね。
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