「すると、ある日、一人の梵論字が来て・・・・・・」
「梵論字と云うと虚無僧の事かい」
「はあい。あの尺八を吹く梵論字の事で御座んす。(後略)」
夏目漱石『草枕』新潮文庫 132頁
「梵論字」、「虚無僧」など、せいぜい時代劇で見かける程度であり、その時代劇ですら、最近ではあまり見かけなくなりました。
岩波国語辞典第八版で「梵論字」と「虚無僧」とが見出し語として存在するのか、確認してみました。
ぼろんじ【梵論字】
虚無僧。ぼろ。
こむそう【虚無僧】
普化宗の有髪の僧。深編笠をかぶり、尺八を吹きながら諸国をまわって托鉢する。薦僧。ぼろんじ。
ちゃんと見出し語で出ています。
「梵論字」を引くと「虚無僧」に繋がり、「虚無僧」では、「ぼろんじ」と示しており、「梵論字」に戻ります。双方が同じものを表わしていることが分かります。また、「尺八を吹きながら」とありますので、時代劇を思い出して「ああ、あれか」と分かるわけです。
「現代語といっても、明治の後半ぐらいからを念頭に置く」
との編集方針である岩波国語辞典ですから、明治後半である明治39年発表の『草枕』は、岩波国語辞典の現代語の枠内というわけですね。