現在、景気が上向きになりかけていますが、景気一つで人の人生はいかようにもなります。
「一寸先は闇。これが飲食店である。とりわけ飲み屋がそうだ」(宮本照夫『ヤクザな人びと』文星出版 227頁)
水商売は難しいと言われますが、難しいどころか闇の世界といってもいいかもしれません。
魑魅魍魎の世界ですね。
「この世界はまことにはかないのである。景気次第で店の一つや二つはすぐ吹っ飛ぶ。手形一つですぐ倒産する」(同書 228頁)
よく、景気が悪くなって商売がうまくいかないと嘆き、ぼやく人がいますが、水商売の世界では、嘆き、ぼやく前に吹っ飛んでしまっているのですね。
手形が落ちず倒産していなくなってしまうのですね。
ある意味、景気が悪いと文句を言えている業界の人の方がよっぽど恵まれているといえましょう。
まだ、生き延びているのですから。
「前途有望な青年に、おまえの人生をおれにくれ、おれと一緒にやっていこうなどと景気よく言う。そんな飲み屋のおやじがいたら、ほとんど詐欺である」(同書 228頁)
宮本氏の指摘は、極めて冷静ですね。
所詮、水商売は、変転極まりない世界ですよということがよく分かります。
宮本氏は、暴力団お断りで商売をし続けてきた人ですが、暴力団を以下のように分析しています。
「人はなぜ暴力団になるのでしょうか。私はよくそんなことを考えます。いろいろなヤクザを見てきて、ひょっとしたら私だって暴力団になっていたかもしれない、いや、みなさんだってヤクザにならなかったとはいえない、と思うからです。
一足飛びに結論を申しますが、「貧困」「差別」「虐待」「偏見」、この四つが暴力団という存在を生む下地だと私は思っています」(同書 262頁)
「貧困」「差別」「虐待」「偏見」の四つが原因のようです。
「貧困」を脱するために、どのような方法であれ金銭を得るという行動になるのでしょう。
確かに「貧困」は苦しい。
どうにかしたいともがくことになることは容易に理解できます。
ただし、安易に金銭を得るために犯罪をしているようでは、人を傷つけると共に自分自身をも傷つけることになります。
真っ当な生き方をすればよいと言いたいところですが、真っ当な生き方を困難にするのが、「差別」「偏見」なのでしょう。
所謂、普通の仕事に就きたくても「差別」「偏見」で仕事が思うようにいかない。
「虐待」により、人格に問題が生じている等々の理由で、真っ当な生き方から排除されているのが暴力団ともいえます。
真っ当な生き方とは、宮本氏が指摘するような生き方ですね。
「人情は自分と相手の絆を大切にするということ、義理は自分と社会、自分と世間の因果をいつも念頭に置くということですね」(同書 265頁)
義理人情とは、関係性を大事にするということでしょう。
仏法でいえば、縁ですね。縁を大事にしたいものです。