ピーター・ドラッカー『経営者の条件』第4章「強みを生かせ」に重要な言葉があります。まずは、原文で確認してみましょう。
The task of an executive is not to change human beings. Rather, as the Bible tells us in the parable of the Talents, the task is to multiply performance capacity of the whole by putting to use whatever strength, whatever health, whatever aspiration there is in individuals.
続いて翻訳を見てみましょう。
「エグゼクティブの任務は、人間を変えることではない。エグゼクティブの任務は、聖書がタラントのたとえでいっているように、個人のもつあらゆる強み、活力、意欲を動員することによって、全体の能力を増加させることでなければならない」(『経営者の条件』上田惇生訳 ダイヤモンド社 1995年)
昔の翻訳も見てみましょう。
「経営者の任務は、人間を変えることではない。むしろ、聖書が「マタイ伝」二十五章の有名な比喩で人間の天賦の才能浪費をわれわれに戒めてくれているように、われわれの任務は、個人のもっている強みや、健康や、希求を効果的に活用することによって全体の業績達成の能力を生かすことでなければならないのである」(『経営者の条件』野田一夫・川村欣也訳 ダイヤモンド社 1966年)
つい、人間は、他人を変えようとします。
また、変わってくれればよいと夢想します。
しかし、他人は変わらない。
まず、この大事な点を指摘しているところがドラッカーの慧眼といえます。
自分が変われば、相手が変わるということも言われますが、私の観察するところ、他人は変わりませんね。
自分が変われば、相手が変わるということは、以下のことのように思われます。
自分をAとして、相手をBとします。
自分Aが変わった場合、相手がCに代わるということでしょう。
Bが変わるのではなく、BがCに代わるということですね。
自分が変わるとくだらない人間から解放され、然るべき素晴らしい人間との付き合いがはじまるということであり、環境が変わるといってもいいかもしれません。
ともあれ、他人は変わらないわけですが、ドラッカーからすれば、別に変わらなくてよいのですね。
どのような人間であれ、強みがあるだろうとの前提のもと、その強みを生かすのがエグゼクティブの仕事と指摘しています。
ただ、強みがあるのだろうかと疑われる程のとんでもない部下を抱えたエグゼクティブの場合、ドラッカーの言うとおりに事がうまく運びません。
その場合は、自分が変わり、とんでもない部下と決別し、優秀な部下と仕事ができるようにすることでしょうね。
いずれにしても、自分自身を含め、他人の強みを生かすことをドラッカーは勧めています。
まずは、他人に対して、変われ変われと念じるのではなく、強みだけを頂くように工夫しなければなりませんね。
これがビジネスなのでしょう。