筆力の充実した絵画を見ると、こちらの生命力も充実します。
激しさ、狂おしさがあれば、より一層、命を揺さぶられます。
佐伯祐三(1898〜1928)の絵は、そのような絵です。
スピード感のあるタッチでありながら、よくよく見ると繊細であり、無駄なタッチがありません。
絵の実力の申し分ないことが窺われます。
佐伯祐三は、主にパリの風景を描いていますが、その中の人物はほとんど線としかいいようのない細さでありながら人物にしか見えず、人形のようでありながらそうでもなく生き生きした感さえ与えます。
不思議な感じですね。
パリの風景も単なる風景ではなく、パリに行ったことがない人間にもパリの風情を感じさせる力があります。
躍動感があるといえましょう。
色合いに関しては、重厚であり、圧倒的な存在感を醸し出しています。
明るめの色を使っている絵は鮮やかであり、華やかさが感じられます。
ただ、佐伯祐三の絵では暗めの色の絵が多く、陰鬱な感じを与えるようかと思いきや、そうでもなく、暗めの色でありながら、鮮やかさ、華やかさがどことなく感じられます。
鋭さがあるためかもしれません。
シャープで激しい筆遣いによる効果でしょうか。
特に、暗めでありながらも緑の色の鮮やかさには目を見張るものがあります。
なぜ、ここまで鮮やかな存在感のある緑が出るのだろうと思います。
緑が多く含まれていない絵であっても、ほんのちょっとの一部分に緑が使われていることがあります。
ちょっとなのですが、吸い込まれるような緑なのですね。
美術館において、佐伯祐三の絵を見ていますと、なかなか絵の前から立ち去ることができません。
磁力があるようです。
何度も何度も見返し、見続けるといった感じです。
1998年(平成10年)には、生誕100年記念の佐伯祐三展があり、全国から多くの作品が集められており圧巻でしたね。
ただ、頻繁に美術館に行くわけにもいきませんので、展覧会での図録や画集(『佐伯祐三』新潮日本美術文庫)で絵を見ますが、印刷物であっても佐伯の絵には人を引き付ける力があります。
佐伯祐三の絵の多くは、大阪市が所蔵していますが、全国の美術館にも点在しています。
いつも佐伯祐三の絵を展示しているというわけでもないでしょうが、各地を訪れる際、機会があれば見てみたいですね。
佐伯祐三の絵を見るというテーマで旅行するのもおもしろいかもしれません。