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2019年06月18日

「君にカノンを!」(第四話)

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2010年11月27日投稿。




※この話は最後まで続くかどうかわかりませんが続きものです
※第四話です、先に上げたものについては
 「君にカノンを!」タグに一覧ありますので順に読んで下さい
 後でこの記事ものタグ登録します
  →タグ登録しました(11/27)
※趣旨を理解した上で、読みたい方だけどうぞ











「だっそう!」


「かのんちゃん、どうしてっ!」
「みやこちゃん……、でも、僕……」
どうしてこんなことを……。
俺はかのんを見詰めながら思った。
俺の隣で雅子がかのんに説得の声を掛けているのも、どこか遠く感じる。
裏切られた。
それは怒りを伴うものだと思っていた。でも、それは違うと悟る。
怒りとかそういうんじゃない。ただ、悲しかった。
俺は、俺は……、
かのん、お前の声があるからバンドをしようと決意できたのに、それを、どうして……!
泣きそうだった。
「かのんちゃん、考え直して!もうっ、桜も何とか言いなさいよ!」
ハッとする。
雅子の声が近くで聞こえて。
あ、あぁ。
返事をするが、いざ言うとなると何を言えばいいか分からない。かのんを説得する言葉が見つからない。
どうして?
俺達、こんな近しい仲だったはずなのに、どうして何も言葉が出てこないんだちくしょう!
と、おもむろにかのんが口を開いた。
その声音は、どこか、暗い。
「ごめん、ごめんねさくらちゃん、」
そして今にも泣きそうだった。
「でも、もう耐えられないんだよ」
ズキンッ
その言葉に、胸が締め付けられる。
あぁ、俺達はいつの間に、
「こんなにすれ違ってしまったんだろうな……」
ぽつり、漏れた言葉。
もう、あの日々に戻れないなんて考えたくもなくて。でも……、


「いやそんなに言うならちゃんとしようよ!?」
ぐさりっ、かのんのもっともな意見が、俺と雅子の二人を深く抉ったのは、言うまでもない。


「脱走」


それはある昼下がりのこと。久しぶりのショッピングに心弾む調子の桜と雅子、対して何故かどんよりとしたかのんの組み合わせが、街をぶらついていた。
まぁ、買い物に対するテンションの格差は男女で違うところがあるので、そういうことにしておく。
「それにしてもかのんちゃん何か暗すぎない?もっと楽しもうよショッピング」
「いやだって買い物の趣旨おかしいよね!?」
雅子が声を掛けたのに即座に反応するかのん。
それを見て桜は溜め息を吐く。そして首を横に降りながら、雅子の肩をぽんぽんと叩く。
「雅子、あれだ。こいつはきっと俺とデートだと思ったのにお前がいるからちょっと不貞腐れてるだけなんだ。しょうのない男ですまんな」
ちょっ、どこをどう考えたらそんな思い上がった考えに至るのさくらちゃん!
いや確かにさくらちゃんとデートはしたかったけど!したかったけど!
かのんは心の中で即座にツッコミを入れた。が、口には出さない。
どうせ屁理屈には勝てない。そう、分かっているからだ。
はあぁ……、
かのんは盛大に溜め息を吐いた。それはもう、二人に自身の憂鬱を見せつけるかのように、だ。
「あ、見て見て桜、あのヘッドドレスめっちゃ可愛い!」
「おっ、新しい店じゃん!」
って見てないし!
がーん。
非情にも落ち込むかのんを尻目に、二人は新しい店のショーウィンドウに釘付けだ。
飾ってあるのは、羽根であしらわれたヘッドバンドタイプ数種。黒を基調にしているそれは、確かに可愛いと思う。それにゴスロリ愛好者の雅子にも似合うだろうとも思う。思うけど!
ちょっとは僕の憂鬱も考えてよ!
かのんは心の中で叫んだ。
それにこういうショッピングと知っていたら二人に服装合わせて来たのに。そういう気持ちもあった。
確かに、白基調のパンクな桜と黒基調のゴシックな雅子が連れ立って歩いている隣にいるカジュアルウェアのかのんは浮いている。すごく。
おかしい。普段着を着てるのは僕のはずなのに、どうして僕がっ。
泣きそうになりながらも、ここまでついてきて今更帰るとも言えないかのんは、とぼとぼとついて行った。
二人は既に、店の中、だ。
からんっ、
ドアを開けると上にぶら下がった金物アンティークが小さくなる。
店の雰囲気も全体的に落ち着いているし、うん、なかなかに良い店だ。うん、それは認めよう。
かのんが店の中を見回すと、二人はそれぞれ、目を輝かせるようにアクセサリーに魅入られていた。
特に、普段可愛いものよりカッコいいものばかり選んでつけている桜がそういうものたちをキラキラした瞳で見ているのは新鮮で、かのんは、少し、表情を和ませた。
さくらちゃんも可愛い恰好すればいいのに。
かのんは思う。
これは絶対、盲目とは別に、誰が見ても同じ結論に至ると思う。さくらちゃんは綺麗なんだから。
と、そんなことを心の中で思いながら見つめていると、不意に、桜が振り向いた。
瞬間、目が合って。
ドクンッ、鼓動が鳴った。
かのんは慌てて、言葉を発する。何に慌てたのかよく分からないところはあるが。
「綺麗な髪飾りだよね、さくらちゃん」
「だよな!」
かのんはホッとした。
自分の鼓動の高鳴りに相手が気付いてないみたいで。そして、とても嬉しそうに返事をくれた彼女に対して。
もう本当、さくらちゃんは可愛……、
「特にこれなんてお前絶対似合うって!」
って誰のアクセサリー選んでの君は!
「ちょっ、それさくらちゃんがつけるんじゃ、」
「何言ってんだよ。初ライブ(予定)の最後のアンコールの時にお前がつけるもん選んでんに決まってんだろ」
え?決まってるの?
え?決まってたの?知らなかった僕がおかし……、
ってそんなことあるかぁー!
「ちょっ、さくらちゃん!真面目に考えようよ!」
「?」
「僕、男だよ!」
「俺は至極真面目だが?」
ダメだこいつ!
かのんは助けを求めるように視線を動かす。と、雅子と目が合い、あぁ、助かった、なんて思ったのもつかの間、
「あ、そのヘッドドレスならこのピアスがぴったりだよね!」
ってみやこちゃんまで!?
がーん。
まぁ考えてみれば中学校からの友達同士である二人、どこか似通っていてもおかしくはない。おかしくはないだろう。
むしろこれまでの経験から学ぶべきだったのだ、かのんの方が。
こいつらはダメだ、と。
「よし、早速つけろかのん!」
「はい!?」
危険な気配を感じたかのんが逃げようと一歩後退ったのが早いか桜がかのんの胸ぐらを掴むが早いか。
にやりっ、桜の顔が嬉しそうに歪む。
そして次の瞬間、いとも簡単に引き寄せられたか弱いかのんは、驚きの速さでヘッドドレスを装着され、次気がつくとそこは鏡の前だった。
「きゃ〜!似合う似合う!」
隣で雅子が楽しそうに声を出して。
って明らかオモチャにしてるだけでしょ二人とも!
かのんは赤面した。
でもそれはただ単に鏡の中の自分の顔に対してではなくて、オモチャになっている状況に対する悔しさと、二人に対する怒りが含まれたものだった。
そしてそれを自覚した瞬間、かのんの中で何かが切れた。ぷっつん、と。
「もう、いいっ!二人とも、大っ嫌いだぁ!」
バッとヘッドドレスを取り、丁寧に元の位置に戻してから、かのんは駆け出した。店の外へ。そして、二人に干渉されない場所へ。
「おい、かのん!」
桜の声が後ろから追ってきても気にしない。
もう、知らない。
走った。
走って走って走って走って、そして、
「待たんかぁー!」
どかっ!
「痛っ!」
何かが頭に当たったのと同時に思いっきり地面へと近付いて……、
「これでもかっ!」
捕まった。


かのんは悟る。
あぁ、僕は一生、さくらちゃんから逃れられないのかもしれない。
と。


第四話「脱走」終わり






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