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2024年03月07日

その一杯のためにする(13)デトックス



ラジオから「手紙〜拝啓十五の君へ〜」が聴こえていた。
不意に、涙がながれた。

*****

男は涙を見せぬもの、という世代だ。
気持ちや感情を出さないよう教育を受け、
出すすわけにはいかない現場にどういうわけか恵まれた。
だだ漏れの部分もあったはずだが、ともあれ
それを目指す日々を何年も過ごし、涙など枯れた感覚だった。

心の病気になった。
こわれるところがあったことにおどろき、存外あわてた。

考えるに、認識のずっと以前からそうだったのだろう。
居合わせた方々、いてくれた方々には申し訳ないかぎりだ。

気づき、思いやり、感性といったものは、能力であって、
おそらく素質として、わたしには欠けていて、
こうなった遠因のひとつだ。

だが、能力には筋力の側面がある。ならば、生きる限り
その能力に近づくことをあきらめるべきではなかろう。

仕事もなくなった。気兼ねする必要は最低限になった。

何をどうしたかったか?
何かになりたかったか?
どう生きたかったか?

涙腺がゆるくなったのはおそらくトシのせいではない。
発出するタイミングを奪われたまま溜まったままだった、
気づけなかったなにものかが、
涙のかたちを借りているだけではないのか。

戦地で捕虜になったまま戦争が終わり、
収容所を放り出されたような感じだ。
そんな経験なかろうに。

*****

ラジオはいつしか「なごり雪」にかわっていた。
卒業の季節。

脳内自動変換で「なごり寿司」が流れ、わたしは吹いた。


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