東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水放出に関して、「有機結合型トリチウム」を根拠に、トリチウムの生体濃縮を主張する人々が存在する。
トリチウムの長期「大量」摂取などによる被曝の危険性は否定できないが、海洋放出はトリチウムを基準値以下に希釈したうえで30年程度にわたって実施されるため、トリチウムを海洋生物が大量に摂取するような状況にはならない。
人間はトリチウムを含め、自然界から日常的に被ばくしている。単にトリチウムのみへ焦点をあて、放射能の危険性を煽ることは、科学的な視点が欠落している。
SNS上で、「有機結合型トリチウム」を根拠に「トリチウムは生体濃縮される」といった主張を一部の人たちが熱心に発信しています。そのつど専門家や知見を有している方々が「間違っていますよ」と殴りかかっており、風評被害とのあくなき戦いが続いているのを実感しています。
「トリチウム水」と違い、「有機結合型トリチウム」という言葉は印象が強く、言葉だけ見ると「トリチウムが有機的に結合して離れないのかな」といったイメージになる方もおられると思いますが、こういったイメージだけで考えると現実と認識がずれてしまうため、注意が必要です。
イメージを根拠にすると、例えば「トリチウムは生体濃縮される」といった話が安易に扱われることにつながり、有機的な結合をするトリチウムを取り込めば取り込むほど体の中にたまっていき、「生体濃縮が起きる」といった話に筋が通っているように感じる人もいるのではないでしょうか。
しかし、ALPS処理水の海洋放出は科学的根拠に基づいて安全性が確認されており、トリチウムの生体濃縮も可能性が低いと科学的に示されています。(この点についてはのちほど解説します)
なお、科学を根本から否定する猛者もいるため、何を伝えても意味がない人が一定数いることに触れておきたく思います。
「トリチウムは生体濃縮されるからALPS処理水の海洋放出は危険である」と主張する人たちは、放射性物質への認識について根本的なところを知らなかったり、間違っていたりするのではないでしょうか。こういった主張をする人たちの中に、以下の記事を取り上げている人がいました。
◎「トリチウム」の生物への影響は? 東電対応の何が問題なのかピーチクパーチク指摘する
この記事では、トリチウムの長期「大量」摂取などによる被曝の危険性について書かれているのですが、ALPS処理水の海洋放出はトリチウムを基準値以下に希釈したうえで30年程度にわたって実施される予定であり、トリチウムを海洋生物が大量に摂取するような状況にはなりません。
また、そういった状況が万が一起きた場合に備えてモニタリングをしているため、長期間にわたって基準値を超えるALPS処理水が海洋放出されるような状況にはならないと思われます。
トリチウム問題で考えるべき「しきい線量」
基準値以下に希釈したALPS処理水の海洋放出によって、自然界でトリチウムの大量摂取が起きることは想定しづらく、ALPS処理水を要因としたトリチウム水や有機結合型トリチウムが人の体内に取り込まれ、被ばく線量が「しきい線量」を超えることはないと考えられます。
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image