2016年02月09日
パートタイマーの憂うつ
太郎は1年前に東証一部上場の会社を定年退職した後、地元の店舗でパートタイマーとして働きだした。
その店舗は男性社長と社長の奥さんと社長の両親と、他に数人のパートが働いていた。
太郎は少人数の家族的な職場が気に入っていたが、たまに憂鬱な気分になることがない訳でもなかった。
ある日の朝、
「そろそろ荷物を積み込んで出かけてほしい。妻が運転するので荷物の運搬を手伝ってほしい」
太郎は社長から配達を頼まれた。
『少し早いなー!』と思ったが、それまでの仕事を止めた。
『なーんだ、運転するんじゃないのか、荷物の運搬の手伝いだけか?』
『配達先の地理にも不案内だし、助手席に座っているだけで身体も休められるし、まっいいか!』
独り言を呟いた。
店の裏側にまわって荷物の積み込みの準備をしていると社長の奥さんがやって来た。
「まーっ!、随分とやる気満々だね!」
会社勤めのときの太郎が部下に対して使う言葉だった。
自分より一回り以上も年下の奥さんに言われて敏感に反応した。
『誰に向かって言ってるの?』
声帯を振動させない言葉が口の中を漂い憤怒となって鼻から排出された。
『今はここで働かせてもらっている所謂“使用人”だから我慢、ガマン、がまん!』
理性と慰めにも似た諦めの感情とが綯い交ぜになった言葉を、自らに言い聞かせた。
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