2012年03月15日
疎外感と虚無感と
「ただいまー。待った?」
通用口の引き戸が開いた。
外回りから帰ってきた秀さんの二言目は決まって「待った?」だった。
「待ちくたびれちゃったよー」
花子さんは反射的にいつものように大袈裟に叫んだ。
体の調子が悪く近々会社を辞めるらしい秀さんは、回収してきた箱を車から降ろして、「わりー、わりー」と笑いながら顔の汗を首に巻いたタオルで拭いた。
「秀さん、冗談だよ」
太郎がすかさずフォローする。
箱を降ろし終えると「後よろしくね」と外へ出て行ったが、太郎が3箱目を布で拭き終えたころに再び引き戸が開いた。
「花ちゃん、俺、今日で仕事終わりだから。お世話になったね」
秀さんは改まった顔をしていた。
「あら! 今日でおしまい?」
花子さんは初めて知ったような顔をした。
仕事でお世話になったこと、会社を辞めた後のことなどを花子さんと話していた秀さんに、太郎は言葉でも掛けようと思って、箱を片づけながら二人の会話の様子を窺っていた。
秀さんは話を終えると太郎を見向きもせずに外へ出て行った。
目の前の太郎が見えなかったのか、見えないことにしておこうと決めていたのか、太郎は口元まで出かけていた労いの言葉を飲み込んだ。
ー終ー
通用口の引き戸が開いた。
外回りから帰ってきた秀さんの二言目は決まって「待った?」だった。
「待ちくたびれちゃったよー」
花子さんは反射的にいつものように大袈裟に叫んだ。
体の調子が悪く近々会社を辞めるらしい秀さんは、回収してきた箱を車から降ろして、「わりー、わりー」と笑いながら顔の汗を首に巻いたタオルで拭いた。
「秀さん、冗談だよ」
太郎がすかさずフォローする。
箱を降ろし終えると「後よろしくね」と外へ出て行ったが、太郎が3箱目を布で拭き終えたころに再び引き戸が開いた。
「花ちゃん、俺、今日で仕事終わりだから。お世話になったね」
秀さんは改まった顔をしていた。
「あら! 今日でおしまい?」
花子さんは初めて知ったような顔をした。
仕事でお世話になったこと、会社を辞めた後のことなどを花子さんと話していた秀さんに、太郎は言葉でも掛けようと思って、箱を片づけながら二人の会話の様子を窺っていた。
秀さんは話を終えると太郎を見向きもせずに外へ出て行った。
目の前の太郎が見えなかったのか、見えないことにしておこうと決めていたのか、太郎は口元まで出かけていた労いの言葉を飲み込んだ。
ー終ー
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