b.さて、だらだらときつかった上り坂も9割がた終わって、峠を前に道が二手(フタテ)に分かれてます、右へ行くと下るばかりで「るり渓」へ、左へ行くとあと50m登って大阪府へ、ところで、るり渓ってあまり好きじゃないすんか、
a.上流の湖のあたりが作られ過ぎてる、それにバスが通れるような広い道ばかりなんで味がないんや、
b.たしかに、通天湖を中心にゴルフ場、温泉、府立公園、少年自然の家とかたまってる、でも、渓流自体は良いんじゃないすか、
a.でも、渓流へは自転車乗ったまま入れへんしなあ、
b.なるへそ、そんなわけで、るり渓はずしで篭坊(カゴボウ)行きになるわけか、
a.そのとおりでござる、篭坊エリアは初めてやけど、地図で見るかぎり田舎の素朴な雰囲気がする、
b.じゃあ、ラスト50m登って、大阪府へ入りやしょう、
a.ここが峠のてっぺんか、るり渓へ送り込まれるバスやクルマのせいか、登った標高のわりに無味乾燥で味気ねえなあ、
b.峠から一気に70m下って能勢(ノセ)街道へやってきました、ひと目で幹線道路と分かるクルマの量とスピード、大型トラックも多いなあ、
a.能勢街道って国道173号線のことか、ずっと静かな道ばかりやったし、なんか恐怖すらおぼえるな、
b.でも、この国道を行くしか、
a.「国道は 最短距離で 付き合おう」、ということで、この小道に入んで(=入るぞ)、
b.えっ、農道でオマケに逆向きですが、これでいいんすか、
a.だいじょうV、アリナミンV、なつかCMでござる、
b.おおっと、深い森を抜けて、えらい静かなエリアに入ってまいりました、つい先ほどのノイジーな(=騒々しい)国道は何だったんでせうか、
a.四方を森に囲まれたこの田んぼ、ここまで来たらアートやな、おまけに秋になったら食べられる、
b.アートといえば、このありふれた葉っぱまで、ステキに見えますねえ、
a.森の暗がりに、ここだけ日を浴びて光ってるなあ、ひと休みしようか、
b.でも、こんな孤独な場所でパンクしたら泣いちゃいますね、
a.大のオトナでも泣いちゃうなあ、交換用のチューブがこれまたパンクしてたり、チューブは無事でもインフレーター(=空気ポンプ)がスコスコに壊れてたり、
b.思っただけで、ぞっとしますねえ、
a.だから、いちばん起こりやすいトラブルであるパンクについては、2重3重に保険をかけておこう、
b.ところで、こっから篭坊(カゴボウ)温泉までは、この急な下り坂を降りるだけでは、
a.うむ、とうとう本日の目的地に近づいてきたなあ、この農道を下りきると小川に出るから、そのすぐ下流に温泉があるはず、
b.なるほど、すこし人里の気配がする小川に出てきました、道もなめらかでクルマも少ないし、最高ですね、
a.こんなところに篭坊(カゴボウ)温泉の成り立ちを伝える案内板が、
b.平家の落武者(オチムシャ)がここへ逃げ込み、この温泉を見つけて、いくさの傷をいやしたのか、
篭坊(カゴボウ)に 隠れて浸(ツ)かる 平氏かな
a.なんか良いなあ、隠れ里の雰囲気も残ってるし、これ見よがしな商売っ気もないし、
b.この小川もコンクリートで固めてないから、むかしの雰囲気、
a.ところで、この小川、どこへ流れてるんや、
b.ええと、この川は羽束川(ハツカガワ)と言いまして、いくつかの小川と共に神戸市民の水がめ、千苅(センガリ)ダムへ流れ込んでます、
a.そうか、この水、神戸市民が飲んでるんか、いつのまに兵庫県へ入ったんや、
b.篭坊(カゴボウ)温泉あたりから兵庫県です、
a.で、そのあと何川になるんや、
b.武庫川(ムコガワ)になります、新幹線の新神戸駅からつづく果てしないトンネルのすぐとなりを流れるアレ、
a.ああ、武庫川か、元々はアレがコレなんか、
b.そう、コレがアレになるんです、
この流れ アレになるんか 武庫川(ムコガワ)に
a.そんな流れにそって進んでると、源平(ゲンペイ)の時代を思わすような祠(ホコラ=神様のお家)が、
源平の ころからつづく 祠かな