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2019年05月04日
ドラッグに翻弄される脳B
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
ドラッグに翻弄される脳B
辞めたいと思ってもやめられない依存症を引き起こし、再発しやすいのは
なぜだろう
実は薬物は脳の報酬系という神経回路を変えてしまう
しかもその変化は乱用を止めた後でも長期にわたって続くことがわかってきた
E. J. ネスラー(テキサス大学)/R. C. マレンカ(スタンフォード大学)
脳の報酬系が薬物で活性化する
哺乳類の報酬回路はもっと複雑だ。
報酬回路は脳の幾つかの領域にわたって組み込まれている。
例えば食事やセックス、仲間とのやりとりなどの刺激に対してどう反応するかを指令する領域や、体験した出来事に対して感情を呼び起こす領域などだ。
具体的には、扁桃や海馬などだ。
扁桃はその経験が快いものか嫌なものか、繰り返すべきか避けるべきか、ということを評価し、経験とそれを想起させる手がかりとを関連付ける働きがある。
また、海馬にはいつどこで誰と経験したかという記憶が書き込んである。
そして大脳皮質の前頭葉は、これらすべての情報を統合して処理し、最終的にその人の行動を決定する。
VTA(腹側被蓋野)―側坐核経路は、報酬の調節器のように機能する。
他の脳のセンターに「その行為にどれだけ報いるべきか」を「告げる」のだ。
この経路がその行為は報酬を受けるべきだと見なしたら、生物はその行為をよりよく覚え、繰り返しするようになる。
脳の報酬回路についてわかっていることの多くは動物実験で得られたものだが、この10年で、ヒトでも同じ経路が報酬を調節していることがわかってきた。
それは正常な反応でも薬物による快感でも同じだった。
こうした研究を支えているのは、脳の画像診断技術の発達だ。
脳のニューロンの活動が高まると血流量が増す
機能的核磁気共鳴画像装置(fMRI)や陽電子放出断層撮影装置(PET)はこうした血流量の変化を測定する。
これらの装置によって、コカイン依存症患者がコカインを摂取した時の側坐核が観察された。
また、同じ患者が、誰かがコカインを吸っているビデオを見たり、白い粉の写真を見たりした時に脳で起きている反応も調べられている。
すると、実際に摂取している時もビデオや写真の時も側坐核は同様に反応し、扁桃や皮質の一部の領域も同様に活動が高まった。
賭け事を止められないギャンブル依存症患者にスロットマシンの映像を見せた時も、同じ領域が同様に活性化する。
VTA―側坐核経路は薬物以外の常習行動にも重要な役割を果たしているようだ。
薬物依存に関するキーワード
依存と中毒:薬物や化学物質などが原因で、体に悪影響が生じるのが「中毒」。
いわゆる“一気飲み”による急性アルコール中毒はこの典型だ。
依存は本人が止めたいと思っても止められなくなった状態をいう。
離脱症状・退薬症状・禁断症状:繰り返し薬物を使っていると“薬漬け”の状態に体が慣れてしまい、薬物が体内から無くなると、震えや悪寒、吐き気などが起きたり、うつ状態になったりする。
これを離脱症状とか、退薬症状と呼ぶ。
いわゆる「禁断症状」と同じだが、薬物を中断していなくても(量を減らしたり、ずっと同じ量を使い続けていたりすると)この症状に苦しめられることがある。
身体依存と精神依存:薬物が体内からなくなっていくときに、上の項の離脱症状が現れるのが身体依存。
これに対し、薬物が欲しくて、常時薬物のことしか考えられなくなったり、薬物を得るための行動(薬物探索行動)を脅迫的に繰り返す状態になったりすることを精神的依存という。
コカインのように身体依存はそれほどはっきりしないものもあるが、常習性のある薬物は全て精神依存を引き起こす。
精神毒性:本文ではほとんど触れていないが、薬物などの影響で仕事や家事、車の運転など日常的なことを行う能力が低下することがある。
これを精神的毒性と呼び、慢性と急性がある。
アルコールや覚せい剤には精神毒性があるが、同じ依存を引き起こす物質でもニコチンには精神毒性はないとされている。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
ドラッグに翻弄される脳B
辞めたいと思ってもやめられない依存症を引き起こし、再発しやすいのは
なぜだろう
実は薬物は脳の報酬系という神経回路を変えてしまう
しかもその変化は乱用を止めた後でも長期にわたって続くことがわかってきた
E. J. ネスラー(テキサス大学)/R. C. マレンカ(スタンフォード大学)
脳の報酬系が薬物で活性化する
哺乳類の報酬回路はもっと複雑だ。
報酬回路は脳の幾つかの領域にわたって組み込まれている。
例えば食事やセックス、仲間とのやりとりなどの刺激に対してどう反応するかを指令する領域や、体験した出来事に対して感情を呼び起こす領域などだ。
具体的には、扁桃や海馬などだ。
扁桃はその経験が快いものか嫌なものか、繰り返すべきか避けるべきか、ということを評価し、経験とそれを想起させる手がかりとを関連付ける働きがある。
また、海馬にはいつどこで誰と経験したかという記憶が書き込んである。
そして大脳皮質の前頭葉は、これらすべての情報を統合して処理し、最終的にその人の行動を決定する。
VTA(腹側被蓋野)―側坐核経路は、報酬の調節器のように機能する。
他の脳のセンターに「その行為にどれだけ報いるべきか」を「告げる」のだ。
この経路がその行為は報酬を受けるべきだと見なしたら、生物はその行為をよりよく覚え、繰り返しするようになる。
脳の報酬回路についてわかっていることの多くは動物実験で得られたものだが、この10年で、ヒトでも同じ経路が報酬を調節していることがわかってきた。
それは正常な反応でも薬物による快感でも同じだった。
こうした研究を支えているのは、脳の画像診断技術の発達だ。
脳のニューロンの活動が高まると血流量が増す
機能的核磁気共鳴画像装置(fMRI)や陽電子放出断層撮影装置(PET)はこうした血流量の変化を測定する。
これらの装置によって、コカイン依存症患者がコカインを摂取した時の側坐核が観察された。
また、同じ患者が、誰かがコカインを吸っているビデオを見たり、白い粉の写真を見たりした時に脳で起きている反応も調べられている。
すると、実際に摂取している時もビデオや写真の時も側坐核は同様に反応し、扁桃や皮質の一部の領域も同様に活動が高まった。
賭け事を止められないギャンブル依存症患者にスロットマシンの映像を見せた時も、同じ領域が同様に活性化する。
VTA―側坐核経路は薬物以外の常習行動にも重要な役割を果たしているようだ。
薬物依存に関するキーワード
依存と中毒:薬物や化学物質などが原因で、体に悪影響が生じるのが「中毒」。
いわゆる“一気飲み”による急性アルコール中毒はこの典型だ。
依存は本人が止めたいと思っても止められなくなった状態をいう。
離脱症状・退薬症状・禁断症状:繰り返し薬物を使っていると“薬漬け”の状態に体が慣れてしまい、薬物が体内から無くなると、震えや悪寒、吐き気などが起きたり、うつ状態になったりする。
これを離脱症状とか、退薬症状と呼ぶ。
いわゆる「禁断症状」と同じだが、薬物を中断していなくても(量を減らしたり、ずっと同じ量を使い続けていたりすると)この症状に苦しめられることがある。
身体依存と精神依存:薬物が体内からなくなっていくときに、上の項の離脱症状が現れるのが身体依存。
これに対し、薬物が欲しくて、常時薬物のことしか考えられなくなったり、薬物を得るための行動(薬物探索行動)を脅迫的に繰り返す状態になったりすることを精神的依存という。
コカインのように身体依存はそれほどはっきりしないものもあるが、常習性のある薬物は全て精神依存を引き起こす。
精神毒性:本文ではほとんど触れていないが、薬物などの影響で仕事や家事、車の運転など日常的なことを行う能力が低下することがある。
これを精神的毒性と呼び、慢性と急性がある。
アルコールや覚せい剤には精神毒性があるが、同じ依存を引き起こす物質でもニコチンには精神毒性はないとされている。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社