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2019年05月07日

ドラッグに翻弄される脳E

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ドラッグに翻弄される脳E

辞めたいと思ってもやめられない依存症を引き起こし、再発しやすいのは
なぜだろう
実は薬物は脳の報酬系という神経回路を変えてしまう
しかもその変化は乱用を止めた後でも長期にわたって続くことがわかってきた


E. J. ネスラー(テキサス大学)/R. C. マレンカ(スタンフォード大学)

なぜ再発しやすくなるのか

依存をもたらすメカニズムの中で、デルタFosB(ΔFosB)はCREB(サイクリックAMP応答配列結合タンパク質)とは全く異なる働きをしているようだ。
マウスやラットを使った研究によれば、薬物を慢性的に乱用すると側坐核などでΔFosB濃度が徐々に上昇していく。
その上、ΔFosBは転写因子としては例外的に安定なタンパク質なので、薬物を摂取してから何週間も何ヶ月もニューロン内での活性化した状態が続く。
この持続性のせいで、薬物摂取を止めた後も遺伝子発現パターンはずっと変化したままの状態となる。

側坐核でΔFosBが過剰にできるようにした遺伝子組み換えマウスでの研究から、ΔFosBが長期間作られていると薬物に対して超過敏になることがわかっている。
これらのマウスを一旦薬物から遠ざけ、後になってまた摂取可能にすると、再発しやすかったのだ。
これは、ΔFosBがヒトでも報酬回路の感受性を長期的に増加させている可能性があることを示す発見だった。
興味深いことにマウスでは、常軌を超えて回し車を回す”回し車依存症”や、砂糖を採り続ける”甘いもの依存症”のような非薬物系の反復報酬に対しても、ΔFosBが側坐核で合成される。
ΔFosBは広範な報酬刺激に対する脅迫的行動の発達に、より一般的に関与しているらしい。

最近の研究結果から、ΔFosBが正常レベルに戻った後でも感受性が持続するメカニズムについてヒントが得られた。
コカインなどの乱用薬物に慢性的に曝露される、シグナルを受け取る側坐核の樹状突起に棘(スパイン)と呼ばれる芽のようなものが生じ、そこで他のニューロンと連結するようになる。
ネズミでは、薬物摂取を止めても新しい棘が数ヶ月にわたってでき続ける。
これらの発見は、ΔFosBが余分な棘の生成に関わることを示唆している。
これらの結果から以下のようなことが推測できる。

まず、ΔFosBが活性化すると、ニューロンを結ぶ結合の数が増え、信号伝達が強化された状態が何年にもわたって続く。
そこに薬物に関連した情報が入ってくると、脳が過剰な反応を示すのではないだろうか。
依存症からの脱却が難しいのは、樹状突起がこのように変化してしまうためだろう。

参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
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タナカマツヘイ
総合診療科 医学博士 元外科学会専門医指導医、元消化器外科学会専門医指導医、元消化器外科化学療法認定医、元消化器内視鏡学会専門医、日本医師会産業医、病理学会剖検医
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