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2019年05月02日
ドラッグに翻弄される脳@
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
ドラッグに翻弄される脳@
辞めたいと思ってもやめられない依存症を引き起こし、再発しやすいのはなぜだろう
実は薬物は脳の報酬系という神経回路を変えてしまう
しかもその変化は乱用を止めた後でも長期にわたって続くことがわかってきた
E. J. ネスラー(テキサス大学)/R. C. マレンカ(スタンフォード大学)
注射針や白い粉。
多くの薬物常習者は、薬物そのものの映像や薬物を連想させる道具を見ただけで、薬がもたらす快楽を思い起こして身震いする。
そして、薬物注射は本当の快感をもたらしてくれる。
高揚感、澄み切った明るさ、幻覚、安心感、宇宙の中心にいるような感覚。
短時間のうちに、全てが心地よくなる。
ヘロインやコカイン、ウイスキー、覚せい剤―。
しかし、これらが繰り返し体内に入るとそれ以上の変化を引き起こす。
やがて以前の量では幸福感が得られなくなる。
それどころか、ただ普通の状態でいるために一服が必要となる。
さもなければ、抑うつ状態になり、肉体的に病んでしまうことさえある。
こうして、脅迫的な薬物常習者が生まれてしまう。
この段階で依存症に陥っており、薬物使用に対して抑制が利かなくなる。
薬物を使い始めた頃のスリルはとうになくなり、健康は蝕まれ、薬物を買うために金も失い、家族や友人との人間関係までもが壊れた後でさえ、患者は薬を求めて強い渇望感に悩まされる。
薬物がもたらす幸福感は全て、これらの化学物質が最終的に「脳の報酬系」を高める働きをするからだという事実が以前から知られていた。
脳の報酬系とは、神経細胞(ニューロン)が作る複雑な神経回路の1つで、食事やセックスなどをすると興奮する。
つまり、私たちが生き延びて遺伝子を子孫に伝えるのに不可欠な行動をすると、快感を覚えるように進化した回路だ。
少なくとも始めのうちは、この系を刺激することは私たちに快感をもたらし、そうした快楽をもたらしてくれる行動なら、どんな行動でも反復するよう私たちは駆り立てられる。
しかし、慢性的に薬物を使用すると、報酬系のニューロンの構造や機能に変化が生じ、その変化は最後の注射の後、数週間から数ヶ月、あるいは数年も持続してしまうことが最近の研究からわかってきた。
こうした順応の結果、生憎なことに、薬物を繰り返し乱用しても快楽が得にくくなり、渇望感がエスカレートしていく。
薬物常習者が家庭や職場でトラブルを起こしながら、破滅の道への悪循環に陥るのはこのためだ。
しかし、薬物が引き起こす脳での変化についての理解が深まり、乱用を止める良い方策が示されるようになってきた。
薬物の虜になった人たちにも、脳をもとに戻し、人生をやり直す道が開けてきそうだ。
様々な乱用薬物が共通の神経回路を介して最終的に常習をもたらす。
このことがわかってきたのは、50数年前、当時はミシガン大学にいた柳田知司(やなぎだ・ともじ)らが行った動物実験の成果による。
マウスやラット、サルといった実験動物も、ヒトが依存症に陥るのと同じ薬物を、自ら摂取するようになる。
実験では、あるレバーを動物が押すと、静脈につながったチューブから薬物が流れ込むようにしてある。
別のレバーを押すと生理食塩水、さらに別のレバーは餌が出るようになっている。
2〜3日もすると、実験動物はコカインやヘロイン、アンフェタミンなどの薬物だけを摂り始めるようになった。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
ドラッグに翻弄される脳@
辞めたいと思ってもやめられない依存症を引き起こし、再発しやすいのはなぜだろう
実は薬物は脳の報酬系という神経回路を変えてしまう
しかもその変化は乱用を止めた後でも長期にわたって続くことがわかってきた
E. J. ネスラー(テキサス大学)/R. C. マレンカ(スタンフォード大学)
注射針や白い粉。
多くの薬物常習者は、薬物そのものの映像や薬物を連想させる道具を見ただけで、薬がもたらす快楽を思い起こして身震いする。
そして、薬物注射は本当の快感をもたらしてくれる。
高揚感、澄み切った明るさ、幻覚、安心感、宇宙の中心にいるような感覚。
短時間のうちに、全てが心地よくなる。
ヘロインやコカイン、ウイスキー、覚せい剤―。
しかし、これらが繰り返し体内に入るとそれ以上の変化を引き起こす。
やがて以前の量では幸福感が得られなくなる。
それどころか、ただ普通の状態でいるために一服が必要となる。
さもなければ、抑うつ状態になり、肉体的に病んでしまうことさえある。
こうして、脅迫的な薬物常習者が生まれてしまう。
この段階で依存症に陥っており、薬物使用に対して抑制が利かなくなる。
薬物を使い始めた頃のスリルはとうになくなり、健康は蝕まれ、薬物を買うために金も失い、家族や友人との人間関係までもが壊れた後でさえ、患者は薬を求めて強い渇望感に悩まされる。
薬物がもたらす幸福感は全て、これらの化学物質が最終的に「脳の報酬系」を高める働きをするからだという事実が以前から知られていた。
脳の報酬系とは、神経細胞(ニューロン)が作る複雑な神経回路の1つで、食事やセックスなどをすると興奮する。
つまり、私たちが生き延びて遺伝子を子孫に伝えるのに不可欠な行動をすると、快感を覚えるように進化した回路だ。
少なくとも始めのうちは、この系を刺激することは私たちに快感をもたらし、そうした快楽をもたらしてくれる行動なら、どんな行動でも反復するよう私たちは駆り立てられる。
しかし、慢性的に薬物を使用すると、報酬系のニューロンの構造や機能に変化が生じ、その変化は最後の注射の後、数週間から数ヶ月、あるいは数年も持続してしまうことが最近の研究からわかってきた。
こうした順応の結果、生憎なことに、薬物を繰り返し乱用しても快楽が得にくくなり、渇望感がエスカレートしていく。
薬物常習者が家庭や職場でトラブルを起こしながら、破滅の道への悪循環に陥るのはこのためだ。
しかし、薬物が引き起こす脳での変化についての理解が深まり、乱用を止める良い方策が示されるようになってきた。
薬物の虜になった人たちにも、脳をもとに戻し、人生をやり直す道が開けてきそうだ。
様々な乱用薬物が共通の神経回路を介して最終的に常習をもたらす。
このことがわかってきたのは、50数年前、当時はミシガン大学にいた柳田知司(やなぎだ・ともじ)らが行った動物実験の成果による。
マウスやラット、サルといった実験動物も、ヒトが依存症に陥るのと同じ薬物を、自ら摂取するようになる。
実験では、あるレバーを動物が押すと、静脈につながったチューブから薬物が流れ込むようにしてある。
別のレバーを押すと生理食塩水、さらに別のレバーは餌が出るようになっている。
2〜3日もすると、実験動物はコカインやヘロイン、アンフェタミンなどの薬物だけを摂り始めるようになった。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社