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2019年05月03日

ドラッグに翻弄される脳A

最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。

ドラッグに翻弄される脳A

辞めたいと思ってもやめられない依存症を引き起こし、再発しやすいのは
なぜだろう
実は薬物は脳の報酬系という神経回路を変えてしまう
しかもその変化は乱用を止めた後でも長期にわたって続くことがわかってきた


E. J. ネスラー(テキサス大学)/R. C. マレンカ(スタンフォード大学)

動物も薬物依存症になる
ドーパミン神経系.jpg
それだけでなく、動物たちはついには薬物依存行動をとるようになる。
文字通り寝食を忘れて薬物を摂取するようになり、消耗したり栄養失調で死ぬまで続けたりする。
コカインなど常習性薬物の場合、動物たちは目覚めている限りずっとこれを求め続け、何百回に1回ようやく薬物が出るように設定してあってもレバーを押し続ける(この実験は諦めるまでの回数によって、欲求の強さを見る)。
そして依存症患者が薬物に関連した道具を見たり、以前に薬物を入手した場所に通りかかったりした時に経験する強い渇望感を実験動物も感じるようなのだ。
飼育箱をつなげておいて、どれにはるかを自分で選べるようにすると、実験動物たちはレバーを押せばいつも薬物が得られた箱を選ぶ。

薬物が得られないとわかると、動物たちは薬物摂取のための行動をすぐに止める。
しかし、快楽は忘れない。
数ヶ月間も薬物がない環境に置かれたラットでも、ちょっとコカインを与えたり、薬物を思い出させるような場所に置かれたりするとすぐにレバーを押し始める。側坐核MRI.jpg

また、例えば不意打ちで繰り返す電気ショックのような心理的ストレスが加わると、すぐに薬物依存に戻ってしまう。
実験動物は少量の薬物や薬物を思い出させる事物、そしてストレスなどが引き金となって薬物への強い渇望感を抱き、再発する。
これは、人間でも全く同じだ。

これらの動物実験によって、脳のどこの場所が乱用行動を引き起こすのかを特定でき、報酬回路の役割が明らかになってきた。
薬物を摂取すると、脳の報酬回路が活性化するが、その活性状態は食事やセックスといった快楽をもたらす他のどんな行動のときよりも強く、長く続く

報酬回路でカギを握っているのは、脳の辺縁系にあるドーパミンシステムだ。
これらは、脳の最深部に近い腹側被蓋野(VTA)に端を発するニューロン群で、前頭葉のすぐ下にある側坐核に向けて軸索を伸ばしている。側坐核と腹側被蓋野.jpg

VTAから側坐核へのドーパミンの流れは、薬物乱用に決定的な役割を果たしている。
実際、実験動物でこれらの領域を傷つけると、もはや薬物には興味を示さなくなるのだ。

報酬回路の起源は古い

体の構造がごく単純な線虫(C. elegans)にも原始的な報酬回路がある。
線虫では、8個のドーパミン系ニューロンのうちの4個を不活性化すると、餌である好物のバクテリアに見向きもせずに通り過ぎるようになる。

参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
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タナカマツヘイ
総合診療科 医学博士 元外科学会専門医指導医、元消化器外科学会専門医指導医、元消化器外科化学療法認定医、元消化器内視鏡学会専門医、日本医師会産業医、病理学会剖検医
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